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楽園の覇権争い

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楽園の覇権争い
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・ファーストクイーン・ゼノビアを追え2

 ディマジオに乗り、行坂 貫はアーク内部を疾走していた。
 ファーストクイーン・ゼノビアの反応は、ディマジオに搭されている【使徒AI】大物歌手が常に監視し、追跡している。
 反応の動きは、どこまでも直線的だった。
 完全に、内部の地理を無視した動きだ。
 まるで、順路こそ知らないものの、目的地の位置そのものは分かっているとでもいうように、迷いがない。
 実際にアーク内部では断続的に轟音と地響きが鳴り続けており、それがファーストクイーン・ゼノビアの手によるものであることは、想像に難くなかった。
 これは単なる破壊活動ではなかった。
 目的地へ至るために、ファーストクイーン・ゼノビアはそれが壁であろうと扉であろうと、障害物となるものを全て破壊しながら進んでいるのだ。
 ファーストクイーン・ゼノビアを追いかける貫は、破壊されたそれらを、何度も見かけていた。

「目印としては、これ以上にないくらいなんだが……」

 以前のゼノビアの言動を知る貫としては、あまりにも今回のゼノビアのこの動きは違和感が強い。
 取っている手段が、乱暴すぎる。
 別人が化けているのだろうか。
 それとも、自我を喪失させてしまったのか?
 はたまた敢えてそう振る舞っている理由があるのか?
 疑問は尽きない。
 アークを狙っているのは、バルバロイだけではない。
 他勢力の介入があって、ファーストクイーン・ゼノビアに化けていることは、充分に考えられる。
 偽物だと考えれば、手段が乱暴でもまあ納得はできる。

「もしそうなら、話は簡単だし、迷うことも何もないんだが……」

 どうしても、懸念が残る。
 最後に会ったゼノビアは、寄生しているファーストクイーンに自我を侵食されている様子があった。
 今まで耐えて抑えていたそれが、ついに行動に影響を及ぼすまでに噴出してきている……そう考えても、辻褄が合う。
 合ってしまう。
 もう手遅れ……いや、そうは考えたくはない。
 まだ、間に合うはずだ。

「絶対に助ける……止めてくれって、言われたんだ」

 自我を喪失している、あるいはそうなりかけている可能性が真実だと仮定して、その原因はなにもファーストクイーンに侵食されていることばかりではない。
 ゼノビアはロディニアの人間だ。
 元々はギルティアス教国の信徒で、当時ギルティアス教国とミュータントは裏で密約を交わしてお互いが不可侵状態でいたから、襲われることはないはずだったのに、ゼノビアはオルグキングの実験体にされていた。
 山本大國とオルグキングが取引していた事実もある。
 ゼノビアの身に、まだ明らかになっている危険性が秘められていて、それを自覚しているゼノビアが、己の死を願っている可能性もあった。
 殺してでも私を止めて欲しい。
 過去に発せられたゼノビアの言葉に、そんな意図があったのなら。

「だとしても、頷けるわけがない……!」

 貫は、ゼノビアの望みを叶えてやれない。
 救うと、誓ったのだ。


* * *



 走り続ける。

「デリカちゃん、次はどっち!?」
「こっちよ! ついてきて!」

 道案内役のフレデリカに指示を仰ぎつつ、シャーロットはフルール歌劇団を率いて進む。
 その進軍速度はかなりの速さで、ファーストクイーン・ゼノビアを追跡しているリベリカやジェニーらを追いこすことにも成功していた。
 すぐに合流しようかと思ったが、リベリカやジェニーは破壊痕を辿っていたので諦めた。
 どうせ、このままでも目的地で合流することになる。
 今は時間が惜しい。
 問題は、ファーストクイーン・ゼノビアが目指す場所の詳細が、何もわからないことだった。
 とにかく、何でもいいから情報が欲しい。
 そう思ったフレデリカは、フェリシアに通信を繋ぐ。
 何かを知っているとするなら、王族である彼女だろう。

「アークの加護についての伝承や古い唄について知らないかしら。ファーストクイーン・ゼノビアがどこに向かっているのか、知りたいの。何でもいいから、手がかりになりそうな情報があったら教えてちょうだい!」
『……そうね。今さら、話さないわけにもいかないわ。伝承や古い歌についてではないけれど、心当たりはある』

 語られたのは、カラドボルグ専用のオペレーションAI・テスタロッサがアークから聞いた「私が危ない」という謎の連絡から、フェリシアが導き出した推論だった。
 曰く。
 もしもアークの連絡が助けを呼ぶものであるのなら、おそらくファーストクイーン・ゼノビアの目的地には、アークにとってその存在の根幹となるような何かがあるのではないか。
 そしてその推測が事実だとするならば、アークの存在と加護、それらの消滅と破壊は、それぞれが密接に関わり、イコールで結ばれるということでもある。
 ファーストクイーン・ゼノビアが道に迷う素振りを見せないことからも、加護を消すという目的以外でも、バルバロイにとって価値のある、重要な何かがあるのは事実なのかもしれない。

「どうすれば、そこに辿りつけるの?」
『私も確信しているわけじゃないわ。けれど、テスタロッサの反応や、ファーストクイーン・ゼノビアが言っていたことを考えると、使徒がそこへ導いてくれるはず。使徒の反応を辿れば、先回りできるかもしれないわ』

 フレデリカは、シャーロットと顔を見合わせた。

「らしいわ。どうする?」
『やってみよう。試す価値はあるよ』

 どの道、迷っている暇はない。
 向かうのだ。
 使徒たちの指し示す先へ。
 こういう時、迅雷 敦也の敏捷さが役に立つ。

「急ぐんだろ!? 先に行くぜ!」
「うん、頼んだよ!」

 白雷を抱えた敦也が、シャーロットを飛び越して空を駆けていく。
 剣堂 愛菜もリッケンバッカーの速度を上げた。

「乗ってください!」

 追いかけてくる桐島 風花のもとへ、子機を向かわせ、拾い上げる。
 愛菜と風花が、敦也の後を追う。
 道に迷うことはない。
 フルール歌劇団の使徒たちが、それぞれの主を通じて三人へ目的地へ至る道を示してくれるのだから。


* * *



 到着したそこは、異様な場所だった。
 最奥に据えられているのは巨大なカプセルで、中は液体で満たされており、そこから様々なチューブやパイプが壁まで伸びて、どこかへ繋がっている。
 カプセルの内部を見れば、液体の向こうになにかの輪郭が窺えた。
 まるで、海藻のように扇状に広がるもの。
 よく見れば、それが髪の毛であることが分かるだろう。
 そして、顔があるであろう位置には、詳細こそぼやけて分からないものの、白い肌のようなものが見える。
 全体を見れば、四肢や胴体があることも見て取れる。
 女性の裸体のようなもの。
 それが、カプセルの中で静かに浮かんでいる。

「こいつは……」
「どうやら、先を越されたようですね」

 無機質な声が響く。
 ファーストクイーン・ゼノビアが部屋に入ってきたのだ。
 シャーロットたちもすぐ近くまで来ている。
 反転した敦也たちの正面、ファーストクイーン・ゼノビアを挟んだ向こう側。
 より遠くには、追いかけてきているのだろう、リベリカやジェニーの姿も、小さく見える。

『小手調べよ!』

 味方が揃うまでの時間稼ぎを行うのは、風花の役目。
 手数重視で無数に作り出した氷柱を乱射して牽制しつつ。風花の【レリクス】アメノオハバリが二振りのエンオウ【Rs】を手にファーストクイーン・ゼノビアへ襲いかかった。
 二刀による圧倒的な手数で以て、斬撃を乱打する。
 舞いを思わせるその流麗な太刀筋は、目にも止まらぬ回転連続斬りとなって、ファーストクイーン・ゼノビアに見切りを許さない。

「私には、避けられません。……ですが」

 ファーストクイーン・ゼノビアの手足がバルバロイの体組織で覆われる。
 明らかに人間が出せる速度と力を超えた超反応を見せて、風花の二刀連斬を、ファーストクイーン・ゼノビアは全て弾き返した。

『なっ!?』

 風花が目を見張る。
 驚いたのは、攻撃を防がれたからではない。
 ファーストクイーン・ゼノビアの動きが、どこか変だったからだ。
 能動的にファーストクイーン・ゼノビアが攻撃を防いだというより、その意思よりも早く、勝手に身体が危険を察知して反応したような、そんな違和感のある動き。
 実際、ファーストクイーン・ゼノビアの視線の動きは完全に風花の動きを追えておらず、能動的に彼女が動いたのならば、絶対に防御や回避が間に合わないタイミングでの超反応だった。

「援護します! 使ってください!」
『ありがとう! 助かるわ!』

 愛菜がリッケンバッカーの子機を風花の足元に滑り込ませ、足場として利用させて機動力を支える。


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