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楽園の覇権争い

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楽園の覇権争い
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・ファーストクイーン・ゼノビアを追え1

 フェリシアたちが出発する少し前。
 自分の経験や能力を鑑みて、アーク内部へは向かえないと判断したナミ・オリュザは、サポートに徹することに決めていた。

「足手まといには、なりたくありません……」

 もちろん、本音を言えばリュイック・ラーセスミューナ・デュトワアクル・ネイらと行動を共にしたかった。
 だが自身の欲求を優先させて、彼ら彼女らを危険に晒すわけにはいかない。
 ゼノビアと接触する可能性がある以上、ただでさえ危険なのだ。
 余計な危険は増やせない。
 ナミのするべきことは何か。

「私に、できることを……!」

 リッケンバッカーに乗って移動するナミは、フェリシアの姿を探している。
 リュイックらの作戦を説明し、協力を要請するためだ。
 幸い、フェリシアたちが内部へ出発するより前に、見つけることに成功した。

「待ってください……!」
「あら? あなたは……」

 呼び止められたフェリシアが振り返る。
 フェリシアに、ナミは訴えかけた。

「分からないことだらけなんです。どうして今、ゼノビアが姿を現したのかも。内部への入口を知っていた理由も。アマゾナスの卵破壊作戦を知っていたことも。情報が漏れている可能性があります」
「私たちアークの人間の中に裏切者がいるかもしれない……。つまり、あなたはそう言いたいわけね」

 示した危惧を、フェリシアは聡明な女性らしく正確に理解した。

「これから向かう場所はアークの中でも、調査が進んでいなかった未踏破区域と聞いています。オペレーションAIを通じてファーストクイーン・ゼノビアの位置を把握できるとはいっても、道に迷う人たちが出ないとも限りません。目印となるものをつけていくのはどうでしょうか。例えば、口紅とか。トルバドールの皆さんなら、携帯していてもおかしくないはずです」
「確かに、化粧直しのために、私自身も携帯してはいるわね。とはいえ、裏切者がいるとは考えたくないけれど……」

 当然だが、可能性を示唆された以上、フェリシアは進言を切って捨てたりはしない。
 それが、どんなにフェリシアの心を痛めるものであっても。

「分かったわ。あなたの言うとおり、目印をつけながら進むことにする。もし誰かと逸れることがあれば、連絡しましょう。それでいいかしら?」
「ええ、構いません」

 十分な反応を引き出せたと判断し、ナミは頷く。
 フェリシアたちがアーク内部へ消えていくのを見送った。
 その背に、声がかけられる。

「お疲れ。上々の出来だな」

 リュイックを先頭に、ミューナやアクルたちが近付いてきている。

「あとは私たちに任せて、入口の監視がてら休んでちょうだい」
「ナミがここまで頑張ったんだ。今度は、オレたちが身体を張る番だね」
「……どうか、お気をつけて」

 先に入ったフェリシアたちのきっちり三十秒後にアーク内部に入っていくリュイック、ミューナ、アクルの三人の背を、ナミは見送る。

「それじゃ、不審な反応を見つけたら報告をお願いしますね」

 三人の姿が見えなくなると、ナミはリッケンバッカーに搭載されている【使徒AD】スパルタ教育係に、入口の監視を頼んだ。


* * *



 フルール歌劇団が、アーク内部に踏み込む。

『なあにこれぇ!?』

 素っ頓狂な声を上げたのは、【レリクス】I.Sに身を包んだ、フルール歌劇団団長のシャーロット・フルールだった。
 シャーロットの目の前には、豪快に破壊され、人ひとりが楽々通り抜けられるくらいの大穴を開けられた壁がある。
 飛び散った破片が周囲を汚しており、床は酷い有様だ。

『ゼノビアちゃんは、どうしてこんなことを!? ついに正気を失っちゃったの!?』

 【レリクス】I.Sに搭載されている【使徒AI】お局様も同じものを見て、表情を悲しみに染めている。
 【使徒AD】ダンスマスターはこの場にいない。
 指示されたとおり、領地の規模拡大のため、領民のもとへ向かっているのだ。
 医局の整備と果樹園の手入れもお願いしておいたので、今頃は元気に働いていることだろう。

「こりゃ完全に、目指すべき場所が分かっているやり方だな。見てみろよ」

 破壊された壁を調べていたアレクス・エメロードが立ち上がり、シャーロットに手で指し示す。
 壊れた壁の通路の向こう側、
 同じように続く通路の壁も、破壊されている。
 破壊された壁同士を繋げば、直線ができるだろう。
 闇雲に壊しているわけではなく、障害となるものを排除するという意思が見受けられる。
 真っ直ぐファーストクイーン・ゼノビアが進んでいる証だった。
 明確な意思があるということは、正気を失ったというのも少し違いそうだ。
 もっとも、これがファーストクイーンではなく、ゼノビア自身の意思に沿うものではないという意味でなら、間違っていないかもしれないが。

「今、アークの加護を失えば大変なことになるわ……。なんとしても、ここで止めないと」

 努めて冷静に振る舞うのは、フレデリカ・レヴィだ。
 【使徒AD】アラウンダーは騎士団の規模拡大のため入植地に向かっており、ここにはいない。
 フルール騎士団の参謀として、フレデリカは焦らず冷静な立ち振る舞いを心がけていた。
 責任ある立場の者が余裕を見せていれば、自然と皆落ち着くものだ。
 逆に、フレデリカたちが動揺していたら、それが全員に伝わってしまう。
 最悪、組織として崩壊してしまいかねない。
 組織行動の悩ましいところだ。

「困る人が、たくさん出てしまいますね……」
「あたしが思うに、そんなことになったらたぶん困る程度じゃ済まないんじゃないかなー? とか思ったりなんかして」
「バルバロイに寄生される犠牲者が出てしまいますわね、間違いなく。最悪の結果を考えれば、わたくしたち外法の者たちの中でさえ、その可能性はあります」
「どんどん事の規模が大きくなっていくね。最初は未知の世界に対するただの好奇心だったんだけどなぁ」

 思い思いの反応を取るのは、数多彩 茉由良デーヴィー・サムサラカラビンカ・ギーターベネディクティオ・アートマの四人。
 どこがずれた台詞を茉由良は口にし、それにデーヴィーがツッコミを入れている。
 カラビンカが真剣に未来を憂いている一方で、ベネディクティオは激動についていけていないようだ。
 リペアアームズに搭載されている【使徒AI】ロゼッタが、ベネディクティオを慰めていた。

『位置情報プリーズ!』

 シャーロットが求めれば、テスタロッサから共有されたファーストクイーン・ゼノビアの現在地を、お局様が知らせてくる。
 その反応は、シャーロットが予想していたよりも遥かに奥深くにあった。

『うそ、もうそんなに!?』

 驚きながらも、手早くシャーロットは位置情報をフルール歌劇団の面々に共有する。

「潜んでいるのは分かっていたが、まんまとそんなところにまで入りこまれるとはな。相変わらず、内部感知がザル過ぎるぜ」
「ゼノビアさんを止めるなら、同じ入り口からでは間に合うか分かりませんね……。どうすれば……」

 考えこんでいるのは、ルルティーナ・アウスレーゼ
 何か思いついたようで、乗りこんでいるリペアアームズ・FCのキーボードから何か入力を始めた。

「ロゼッタさん! 確か、アークの各地には、この入口みたいな場所がいくつかありましたよね!? ピックアップするので手伝ってください!」

 【使徒AI】ロゼッタの手を借りつつ、己の知識を総動員して、ルルティーナは別の侵入口を調べ上げた。
 敢えて破壊痕を辿らず、別の侵入口から進む作戦だ。
 もちろん、このまま破壊痕を辿っていけば、ファーストクイーン・ゼノビアを見失うことはないだろう。
 これ以上ないくらい痕跡が残っているのだ。見逃す方が難しい。
 でもそれでは、後を追っている状況は変わらない。
 先回りするためには、より早く、ファーストクイーン・ゼノビアが目指す場所に辿り着く必要があった。
 目的地に到着する前に割り込めればそれが一番だが、ファーストクイーン・ゼノビアが進む速度を考えると、それも難しい。
 道を作る際に多少鈍るとはいえ、その足取りは、決して遅いものではないのだ。

「こっちです! 急ぎましょう、お姉ちゃん!」
「うん、分かった! そういうことだから、皆ついてきて!」

 ルルティーナが駆け出し、皆に声をかけてからシャルロットが後を追いかける。
 当然だが、見出した入口は封鎖されていた。

「これで……!」

 ガン・ハンマーtype.Fwを振り抜いたルルティーナが、扉を叩き壊す。
 先回りする以上、明確なタイムリミットがある。
 時間との勝負だ。
 常に全力疾走を強いられるだろう。
 アレクスは発破をかけた。

「体力勝負になるぞ! 戦闘するだけの余力は残しておけよ!」
「さあ、いくわよ!」

 フレデリカが真っ先に突入した。


* * *



 名だたる実力者たちがアークの連絡を受けてゼノビアを追い、内部を進んでいる。
 その中には、ジーン・シアラーフランセス・ルシオの姿もあった。

「……俄然、興味が出てきたな。もちろん、クイーンへの対応を疎かにするつもりはないが」
「アークのシステムのこと?」

 伊達に、フランセスはジーンと行動を共にしていない。
 省かれた言葉の内容を正確に予測し、ジーンへ尋ねた。

「話によれば、アークの人間は加護によってバルバロイの寄生から逃れているらしい。俺たち外法の者も、加護の恩恵を受けているそうだ。だが、加護を受けている俺自身は、その加護が具体的にどういうものなのか、いまいち分からん」
「よく分からないけど、不思議バリアで守られているっていう気は、時々するよね。気のせいかもしれないけど」

 ジーンの返答を聞いて、分かるような分からないような、そんな曖昧な表情でフランセスは頷く。
 そもそもアークとはどういう存在なのか。
 古い移民船と推測できるが、加護を始めとした、バルバロイの襲来を予測していたとしか思えない機能があるのは何故なのか。
 もしもアークが人の手によって作られたものだとするなら、その者たちはバルバロイという存在を知っていて、襲撃を予期していたということになってしまう。

「そういえば誰だったか。バルバロイの目的について、言及していた者がいたな。その者によれば、バルバロイの目的はこの世界の改変……テラフォーミングならぬバルバロイフォーミングだそうだが」
「まだ、情報が足りなさそうだね。今は、アークの危機をなんとかしないと、だよ」
「……そうだな」

 見上げてくるフランセスへ頷き、ジーンは先を急ぐ。


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