クリエイティブRPG

月魄供覧

リアクション公開中!

 152

月魄供覧
リアクション
First Prev  4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14  Next Last

アイアンボトム・サウンド


 海原 香のライトクルーザー級改は、アイアンボトム・サウンド外縁の小惑星の陰に身を潜めていた。
 アイアンボトム・サウンドは小惑星が広く分布する難所であり、大型艦は大きく行動に制限を受けるからだ。
 すでにアクシス・ムンディへむかった艦隊は出港した後であり、今から追いかけたとしても間にあわないだろう。であれば、手薄となった拠点が敵の奇襲を受けないようにと、哨戒に就いたのだ。
 サフルウォーカーが、試製索敵メガリスを飛ばして哨戒を行う。
「それにしても、よく、これだけの基地が敵に見つからなかったものだ」
 海原香が少し感心する。未だに、この拠点が直接攻撃を受けたという記録はない。
 とはいえ、すぐ近くまでワラセアパイレーツに攻め込まれたこともある。その当時のワラセアパイレーツを演じていたのは、キャサリン・ベンクマンの命令を受けたネオ・グランディレクタ共和国軍だ。
 キャサリン・ベンクマンやガンデッサまでも直々に出むいてきたこともあるため、実際には、彼らには正確な位置はばれていたのかもしれない。
 だが、その両者もいない今、部下の生き残りの一部しか、その情報は知らないだろう。いずれにしても、絶対などということはあり得ない。ラディア連合王国と交易のあるバルティカ公国、オペレーターの交流のあるキュベレー教団、どこから情報が漏れても不思議ではない。警戒するに越したことはないのだ。

★    ★    ★

 その頃、“蜂蜜色の輔翼者”八上 ひかりは、アイアンボトム・サウンドにあるバナント・ベルの拠点に来ていた。
 海原香のライトクルーザー級改が小惑星帯直前で哨戒についたため、そこから、ワラセアペガサスに乗って移動している。
 この拠点建設に関しては、八上ひかりも初期の頃から尽力してきたつもりだ。
 プリテンダーのように解散することもなく、バナント・ベルの組織が維持されてきて、この拠点も現役であることには感慨深いものもある。
 基地のシステムとしては、現行で十分なのだろうかとチェックしつつ、八上ひかりは内部を見て回った。
 メインは、エアロシップのドックであり、駐留・補給・修理が行える。MECも同様である。規模としては、いざとなれば周囲の小惑星を臨時の係留場所に使えるため、隠蔽を考えなければ相当数が滞在することが可能だ。
 施設内設備も、日常生活に支障ない物が揃えられている。その点は、どんな世界のどんな場所でも、貪欲に生活環境は最優先して整えようとする特異者たちの性格が色濃く反映されているとも言えた。
 逆に、砲台などの自衛設備は貧弱であることは否めない。もともと、ここを橋頭堡としてどこかを攻める、あるいは最終防衛拠点とするような場所ではないからだ。戦力を隠すには最適ではあるが、戦略的重要性は低い。もっとも、小惑星を資源として見るのであれば、また違った重要性も浮かび上がっては来るが。
「いずれにしても、マケドニア・キングダムに対する備えとしては、この拠点は重要よね」
 いざというときに支障がないようにと、八上ひかりは細かく施設を点検していった。

★    ★    ★

 アイアンボトム・サウンドにあるサクセサーの遺跡では、“堅守なる中継者”明菫 綺朔が追加調査を行っていた。
 ウィリアム・フォスターのライトクルーザー級改ガルガリン二式で接近し、遺跡のある小惑星には“穽陥の指し手”レナード・アンカーのリトルメックが調査に入っている。明菫綺朔も多数の工兵隊を連れて調査に赴きたいところではあるが、遺跡内は空気がないため、ワラセアパックが必要となる。そのため、気密性能のあるリトルメックに乗るレナード・アンカーに任せるしかなかった。
 レナード・アンカーからは、遺跡内の映像が次々に送られてくる。
「やっぱり、ほとんどの探索は終了しているようね」
「ああ。結構なアタリの遺跡だったからな」
 残念そうな明菫綺朔の言葉に、ウィリアム・フォスターがうなずく。
 この遺跡からは、以前、マクアフティルやチャクラム、マドファジェズルまでもが発見されている。ほとんどの状態が良好であり、ワラセアパイレーツたちの保管庫ではないかと疑われたほどだ。実際、トラップなどもしかけられていて、セキュリティもかけられていた。
 発掘もする必要もなく、調査は急ピッチで行われたため、内部にあった遺物は、すでにそのほとんどが回収されている。それでも、迷路状の内部に隠し部屋のような物はないかと期待した明菫綺朔たちであったのだが、それの機体はあっさりと裏切られた形だ。
「仕方ない、今回は空振りだったかな」
 こんなこともあるさと、ウィリアム・フォスターが明菫綺朔を慰める。
 それにしても、サクセサーの遺跡と呼ばれているこの遺跡は、スフィアにある物と比べるとかなり異質だ。
 スフィアの遺跡は、そのほとんどが先の冥王大戦の戦場にあった物だった。そのため、遺跡自体に戦いの跡が多く見られ、施設も土に埋もれていたりして完全ではない。何よりも、長年発見されなかったのは、ほとんどが地下深い場所にあったからだ。まれに、後世の発掘が行われたらしい跡があり、その場合は坑道が残されていることもある。だが、それ以外は道なき土の中だ。
 それに比べて、ワラセアの遺跡は小惑星の中にある。当然、ワラセアで土に埋もれるということはあり得ないため、施設はほとんどそのままの形で残っていた。また、スフィアのような大規模な戦闘が内部で行われたという記録もない。戦闘によって擱坐したキャヴァルリィが、放置されて残っていたという可能性は低いわけだ。
 まるで、設備だけ残して、サクセサーたちがどこかへ姿を消してしまったかのようだ。そういえば、なぜサクセサーたちがいなくなってしまったのかは、正確には分かってはいない。
『かなり遺跡の状態がいいから、他にも近くに似たような遺跡があるんじゃないのか?』
 過去の戦闘による破壊の跡がほぼないことから、レナード・アンカーが明菫綺朔たちに告げた。
『調べる価値はありそうね』
 レナード・アンカーの意見を入れて、明菫綺朔は周囲の小惑星の探索を始めていった。
 その結果、サクセサーの遺跡が、付近の小惑星を含めた遺跡群であったことが判明する。小躍りした明菫綺朔であったが、周辺の遺跡から発見された物は、キャヴァルリィに使用するための金属塊のような物だけであった。単なる資材であろうか。
 もともと発見されていた遺跡も、スフィアでも発見されているマクアフティルが数機あった以外には、武器などが残されていただけである。
 そう、あたかも不要品を残していった、あるいは、泥棒に対するブービートラップとしてわざと残しておいたという感じだ。肝心の、遺跡の主であるはずのサクセサーたちは、まるでどこかに引っ越してしまったかのように綺麗に姿を消してしまっていたのだった。


First Prev  4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14  Next Last