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月魄供覧

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月魄供覧
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田園都市サクスン


 サクスン近郊には、未だにアディス・ウィスパーの残骸が横たわっていた。解体撤去には、カーテナに乗った聖女見習い小隊を率いた、“鉄の百舌鳥(くろがねのもず)”ビルセン子爵があたっていた。浄化はすでに終わっており、機能停止している現在では自己修復もほとんど機能していない。完全に解体して二度と使えないようにするなら今の内であろう。
 “白き道標”納屋 タヱ子馬飼 依子と共に、撤去作業を手伝っていた。ファルカタのパワーを使って、大きな瓦礫を運んで整理していく。
 運ばれた先では、馬飼依子のMECトレッカーが、ハイパーカッターで適当な大きさに分解していった。念のために聖女見習い小隊が浄化をしているので、マーキュリー製の金属などが混じっていても、安全な資材にすることができる。
 分割された物は、馬飼依子がチェックしていくが、記録装置のような物は見つからない。
 多くは、外部装甲や触手の破片などであるが、たまに、内部機構のような物の残骸も運ばれてくる。
「変な模様だな」
 細かい規則的な模様が刻まれた破片をいくつも目撃して、馬飼依子がつぶやいた。まるで、壊れた魔方陣の一部のようだ。テルスでは、魔力のエネルギーの入出力によく魔方陣が浮かび上がったりする。あるいは、魔極起門のように固定された魔方陣も存在している。これは、それに類する物の破片なのだろうか。
これは、コックピットの一部か?
 運んできた瓦礫の中に、コンソールのような部品を見つけ、何かガンデッサの残滓のような物でも残ってはいないかと、納屋タヱ子は仄かな期待をいだいた。
 これまでガンデッサが冥王の手先としてやってきたことは、到底許されざるものも多い。だが、少なくとも、猫喫茶を開いてからは、目立ったことはしていない。力の多くを失ったということもあるのだろうが、一部には改心したのではないかという見方もあった。
 いずれにしても、脅威ではあるのだが脅威とはなりにくい。であるのならば、完全に脅威でなくすればいいのだ。
 そう思い、仲間にならないかと誘いをかけてみた納屋タヱ子ではあったが、その試みは失敗に終わっている。
 だいたい、ラディア連合王国に与したところでガンデッサにうまみはない。
 仮に納屋タヱ子が便宜を払ってくれたところで、彼女はトップではないからだ。約束など空手形だ。結局は、ラディア連合王国のトップにいいようにこき使われるだけである。
 納屋タヱ子としては、そんな方法でしかガンデッサへさしのべる手がなかったことが、今でも痛恨の極みである。
 ダメ元で、納屋タヱ子は、サイコメトリーで破片を調べてみた。
 明確なイメージや言葉が聞こえてくるわけではない。なんとなく、そうなのではないのかという、納屋タヱ子の願望をも交えたような想像が強く刺激されるだけだ。もともとサクスンの人々の意識を吸い上げていたらしいアディス・ウィスパーでは、他のノイズが多くて、サイコメトリーが正しく働いているのかどうかは判別がつかない。事実と妄想、真実と期待の境目は曖昧なままだ。
 ――ガンデッサとしては、長年、そう、嫌になるほどの年月、冥王の支配下におかれていたのだ。
 他人の支配下にあるということがどういうことか。
 自由がない。
 それが、冥王システムを離反したたった一つの理由だ。拒否権のない出張とか、やってられるかってんだ。
 ネオ・グランディレクタ共和国軍でキャサリン・ベンクマンの下についていたのは、まあまあ自由だったからに他ならない。ちょこーっと理不尽な命令に従っていれば、ナターシャや部下にあてがわれたトランスヒューマンの少女たちを愛でていられたのだ。うん、愛でることはとても大切だ。
 一応、ギブ・アンド・テイクは成り立っていたのだ。まあ、キャサリン・ベンクマンとウルフバルトには絶対勝てそうにないということもあったのだが。無理だろ。理不尽だよな。
 なので、猫と美少女たちを愛でつつ、最高の自由な隠居生活になると思われたところで、シュピール・アバルトの登場だ。猫をなでさせろ!
 全く、運がない。
 アディス・ウィスパーも、Gハイドも、どーでもいい物だ。あんな物に、猫はじゃれつかない。
 やはり、従う者ではなく、従える者だ。それが店長!
なんなんです、これって……
 唐突な囁きにも似た弱々しい心象に、納屋タヱ子が頭をかかえた。なんだか、所々、思考が壊れている。
 そう、いずれにしても、ガンデッサという存在は、砕け散ってしまったのだろう。

★    ★    ★

 直接被害は少ないものの、その後のナイトホークの進路に近かったため、サクソンの住民たちは、目覚めてすぐに国都グローリア・ラディアや学術都市ブレンダムへと取る物もとりあえず避難している。
 現在では帰還民が増えてきているとはいえ、避難時の混乱は多くのペットたちを放置する結果ともなっていた。だが、復興の優先順位から、それらペットのほとんどは放置されたままだ。飼い主が探して保護されればいいが、最悪飼い主が亡くなって、野良化してしまう者も多い。
 災害の被災地などの記録からそれを予見した永見 玲央は、率先して猫の保護活動に尽力していた。以前、ガンデッサの猫喫茶のメイドを勧誘したこともある猫の肉球プニプニ教信徒としては、当然の活動だ。
 永見玲央の指示で迷宮の番人がソーコルSでヘリ輸送してきた工兵隊によって、サクスンには臨時の猫預かり所が作られていた。併設して、犬など、他の動物を一時的に集める場所も作られている。ペットを探す飼い主や、身寄りのないペットを保護したい人々が、そこで保護されたペットたちと対面するのである。
 周辺では、星川 潤也たちが猫たちを保護するために走り回っていた。
 アディス・ウィスパー撃破後に、ナターシャが、この場所にやってきているらしいという話を小耳に挟んだからだ。ガンデッサがらみなのかとも思われたが、主にやっていることはいき場をなくした猫たちの保護であるらしい。
「ガンデッサの代わりに、俺も猫の保護を手伝うよ。とりあえず、この辺りから探してみよう」
 運良くナターシャと合流できた星川潤也は、協力して猫の保護に努めていた。
 ガンデッサは敵としては冷酷な強敵であったが、自身の障害とならない物に対しては意外と寛容であった。いや、無関心だったというのが本音だろう。その反動からか、関心を持った物に対しては執着する。オモチャにすると言うよりは、猫っ可愛がりに近い。
 それだからであろうか、ガンデッサを憎みきれない特異者も少なくはなかった。
 けれども、そう思った矢先に、ガンデッサはアディス・ウィスパーと共に消滅してしまったのだ。
「あの抜け目のないガンデッサが、シュピール首相の思惑通りに使い潰されるとはね……」
 アリーチェ・ビブリオテカリオが、ため息をつく。最期は、あっけないものだった。
 だが、本当に消滅したのだろうか。あのラグランジュ要塞戦の激戦の中でさえ、まんまと脱出してみせたガンデッサだ。最期の時も、何かやらかしている可能性は0ではない。
 実際、アディス・ウィスパーは、最後に地上にむかってエネルギービームを発射している。それ自体は、直下にあったレセプターに撃ち込まれたものであった。そこから地下のエネルギー伝導管を通じてグレータードラゴンの遺跡にあった冥王の遺産である気象管理システムを起動させている。そのシステムでさらに増幅したエネルギーを、シーカーへと伝送するシークエンスだったわけだ。だが、その暇があったのであれば、他にも何かできていたのではないだろうか。
「そう思わないか?」
 その思いだけは拭えない星川潤也であった。
「べ、別にガンデッサがちょっといい奴だったなんて、全然思ってないんだからねっ!」
 アリーチェ・ビブリオテカリオがそう言って走り出す。
「ガンデッサの遺品になるような物があれば、弔ってあげたいけど……何か遺品になるような物って、この辺りに残ってないかしら。ねえ、あれ邪魔だからどかしちゃって」
 アディス・ウィスパーの残骸を指さして、アリーチェ・ビブリオテカリオが、同行させた四機のサイフォスキャノンに命じた。周囲を索敵宝珠改で全方位索敵をしてもみるが、近くで動き回っているのはラディア連合王国軍のMECやエアロシップだけだ。盗賊などの不明の存在が近くにいないことはありがたい。余計な警戒に手間をとられず、作業に集中できるというものだ。
 星川潤也のFFMEMk-Ⅰが瓦礫を移動させると、その側から黒い影が飛び出した。何かを銜えて、ちょろちょろと動き回る。
「おーい、こっちにも猫がいるぞー」
 星川潤也が声をあげた。
「おっと、元気のいい奴だ」
 正面に回り込んだナターシャが、黒猫を抱きしめるようにして捕まえる。身動きのとれなくなった黒猫は、思いっきりナターシャの胸に顔をこすりつけて堪能していた。
「にゃにゃにゃにゃー」
 思わず、ナターシャが黒猫の耳を引っ張って大人しくさせる。鳴いた拍子に、ナターシャの胸の谷間に、何かが落ちた。何かの破片のようだが、ガラス板のような結晶体の破片ということしか分からない。おそらくは、黒猫が銜えていた物だろう。
「危ないわねー。口とか怪我してないかしら?」
 アリーチェ・ビブリオテカリオが大地母神への祈りを捧げると、なぜか黒猫がナターシャの胸の所でのたうった。
「うっ、こいつ……」
「あまりいじめちゃダメだよ」
「いや、なぜか、こう、叩きたい衝動に……」
 アリーチェ・ビブリオテカリオに言われて、ナターシャが渋々デコピンしかけた手を止める。悪戯な黒猫は、命拾いしたようだ。
「とにかく、保護した猫たちをいったん集めよう」
 星川潤也が、見つけた猫たちが入ったバスケットを両手にかかえて言った。その言葉で、ナターシャたちも、いったんサクスンの街へと戻る。
「こっちに、預かり所がありますよー」
 ナターシャたちを見かけた永見玲央が手招きをした。
 それに気づいて、黒猫をだきかかえたナターシャがやってくる。
「ガンデッサは、残念でしたね」
 猫喫茶で多少の面識もできかけていた永見玲央が、ナターシャに言った。
「あれは、自業自得のようなものだ」
 そう決めつけて、ナターシャが黒猫の顔をむにむにと左右に引っ張る。なぜか、この黒猫をいじめたくなるナターシャなのだった。

★    ★    ★

 “手馴れた艦長”ロイド・ベンサムのコンバットアビエーション級ヴァンキッシュは、サクスンにあるバレンシュテット城塞跡の広大な範囲内にある石切場上空に停泊していた。
 グレータードラゴンが復活した時にバレンシュテット城塞は崩壊しており、その敷地内にあった石切場も落盤などを起こして採掘は難しい状態になっている。
 城塞のあった地下には、首を切り落とされたグレータードラゴンが、聖女たちによって封印されていた。
 一度は冥王六欲天の一人である第一天に狙われたことがあったが、強固な封印は未だ健在だ。冥王が倒れたこともあり、今のところグレータードラゴンが復活する兆しは一切観測されていない。仮に復活するとしても、現在のエアロシップやMECの性能であれば、グレータードラゴンに後れをとることもないだろう。いざとなれば、デバインワクチンなども活用できそうだ。
 さらに、もともとグレータードラゴンが発掘されたとされる遺跡からは、アディス・ウィスパーによって再起動させられた気象管理システムが発見されている。こちらは、システムの起動によって何かを動かしたらしいが、調査に来た傭兵部隊と仮面のトルーパーと名乗っていたセルバンテスとの間の戦いで設備が破壊され、遺跡は完全に崩落してしまっていた。そのため、この遺跡に何が埋まっていたのかは、正確には判明していない。
 遺跡の最深部と思われる場所には、冥王由来の設備が存在していたため、グレータードラゴンはその警備のために存在していたのではないかという推測もできる。キャヴァルリィが発掘されたことからも、太古には激しい戦いも行われたとの推測もある場所だ。浅い階層はサクスン伯によって採掘し尽くされたとしても、深層に関しては情報も少ない。
 それゆえに、この遺跡には、まだ隠されている物があるとロイド・ベンサムはあたりをつけたのだ。
 ローレンス・ゴドウィンと工兵隊とダメコン班を地上に降ろすと、ロイド・ベンサムは報告を待った。
 ローレンス・ゴドウィンが、わずかに残っている城壁部分を中心に、小隊と共に調査して回る。
「やれやれ。本当にこんな所に遺跡の入り口があるのかねえ。無駄骨を折ることにならなければいいんだけどねぇ」
 ローレンス・ゴドウィンが、ぼやいた。
 遺跡自体は埋まってしまったが、仮にさらなる深部が存在しているとすれば、城郭辺りから秘密の通路のような物が残っているかもしれない。だが、確証があるわけではない。すべては、ロイド・ベンサムの勘による憶測だ。確率は、かなり低いと言わざるを得ない。
 実際、遺跡への侵入に使えそうな旧来の入り口は全くなかった。ここを新たに発掘するには、一からの開発、坑道から作り直さなければ不可能のようだ。
 はっきり言って、グレータードラゴンの封印の側で発掘作業を行うというのは、いつ不慮の事態が発生するか分からない危険な行為であった。遺跡は、丁寧に埋められたのではなく、爆発によって埋まったのだ。いつ二次崩落が起きても不思議ではない不安定な状態だ。
 さすがに、ロイド・ベンサムたちだけの力では、新たな発掘を行うことは不可能であった。もしやるのであれば、かなり大規模な部隊を派遣して、時間をかける必要がある。通常の遺跡を探索するのとは、状況が違いすぎるのだ。
 それでもと、工作隊がいくつか試掘をしてみる。分かったことは、グレータードラゴンの遺跡の最深部から、遠方へとのびるケーブルのような物が地中に埋まっていたということだけであった。残念ながら、施設の爆発によってケーブルは地中で切断されており、どこへ繋がっていたのかは現時点では分からない。
 その先には何かがありそうだが、いかんせん、大規模な地質調査でもしない限りは、どうしようもない。想像でいいのであれば、アディス・ウィスパーが利用したレセプターであろうか。
 それでもまだ他に手がかりはないかと、ロイド・ベンサムたちはあてどなく掘り続けるのであった。

★    ★    ★

 一方、“そつのないトルーパー”デュオ・フォーリーのヘビークルーザー級改パンター2は、一時期マグニフィセント・アバルトが最前線基地として駐留していた地点へと調査にむかっていた。
 デュオ・フォーリーが明らかにしたいのは、グランディレクタ共和国軍の補給線の存在だ。
 スフィアへと降下した当初のグランディレクタ共和国軍のエアロシップの数と、実際にスフィア上でのいくつかの戦いにおけるエアロシップの数が一致しないのだ。
 さらには、マグニフィセント・アバルトがナイトホークへと変化した前後でも、残存艦艇の数が不自然に変化している。
 現時点で分かっていることは、太古のドレッドノート級一番艦であるマグニフィセント・アバルトは、高性能の艦内工場を有していたらしいと言うことだ。だが、何もない所からエアロシップを作れはしないだろう。それには、膨大な資材と時間が必要となるはずであった。デュオ・フォーリーの知る知識だけでは、それは難しいと考える。
 だとすれば、なんらかしらのワラセアからスフィアへの補給路が存在しているはずだ。つまり、こちらが気づかない内に、別働隊が降下していたということになる。もしそうだとすれば、防衛網に致命的な穴があるということになる。それをマケドニア・キングダムが利用すれば、国都への奇襲を受ける可能性もあった。
 いずれにしても、シュピール・アバルトがどうやって戦力を補充していたのかは解明しなくてはならないと、デュオ・フォーリーはかつてのグランディレクタ共和国軍の駐留地に降り立った。
 パンター2の管理はアシスタントコマンダーに任せ、工兵隊と共に地上へと降りる。ヒルデ・フォーリーと彼の率いるスパイダーリッター小隊も一緒だ。
 さすがに、あの巨体だ。マグニフィセント・アバルト、あるいはナイトホークがいた場所は、手荒く整地したかのように平地となっていた。
 駐屯していただけあって、残留物も少なくはない。とはいえ、放棄していった物であるので、グランディレクタ共和国軍にとってはゴミなのだろうが。
 ヒルデ・フォーリーがホライゾンカムレコーダーで記録を取りつつ、残されているコンテナなどを調べていく。どうやら、複数の方向から、ここへ物資を運び込んだことは間違いはない。地上には、ホバーによってなぎ倒された植物の跡が発見できたし、無限軌道やタイヤの跡も見受けられる。
 だが、廃棄されているコンテナなどは、出荷元となる特徴がはっきりとは分からない。何もないのではなく、ありすぎるのだ。
 基本はワラセアで使用されている物だが、ある物はラディア連合王国で多く使用されている物であり、ある物は手作りの粗悪な物だし、明らかにバルティカ公国製の物もある。それぞれのコンテナには、出荷元を示すかのような殴り書きのマークが記されていたが、いかにも乱暴なマーキングで、組織だったものとは少し言い難い。
 マグニフィセント・アバルトがここで補給を受けたことは間違いはないが、結局その相手は不明だ。強いて言えば、何者かがスフィア中から資材を持ってきたとしか言いようがない。
「問題は、運んできたのがエアロシップその物なのか、そのパーツなのか、あるいは単純に鉱石などなのかだな」
 どれの可能性もあると、デュオ・フォーリーが考え込んだ。
 結局、マグニフィセント・アバルト自体を調べなければ正解は分からないだろう。


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