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月魄供覧

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防衛都市サートゥルヌス


「これが、プロメテウス砲ですか」
 カインズ侯爵が調達した旗艦用シールドクルーザー級改のブリッジから前方を見下ろして、ガートルード・ラディアが言った。
 エネルギー源として利用されたガートルード・ラディアであれば、プロメテウス砲の姿形などよく知っていそうものであったが、あの時はベーダシュトロルガル要塞の内部に収納されていたため、むき出しのプロメテウス砲の全容を見るのはこれが初めてであったのだ。
 ほぼドレッドノート級の全長を有するプロメテウス砲は、サートゥルヌスの大地に横たわっていた。
 アディス・カウンターとの戦いの時は空中に浮いていたが、現在は非稼働状態であるため、着地している。プロメテウス砲自体が魔力ドライブ炉による推進器を有しており、巨大なエアロシップに準じる機動力を有しているのだ。
 ガートルード・ラディアたちがブリッジの窓から外を見ていると、護衛についていた“堅牢な翔馬乙女”乙町 空が、乗っているピュアホワイトを窓近くに寄せて、鞍の後ろ側とプロメテウス砲を指し示した。
「先行いたしますか?」
「当然」
 訊ねるカインズ侯爵に、ガートルード・ラディアが悪戯っぽく即答した。
 すぐに甲板に降りたガートルード・ラディアは、乙町空のアーマードペガサスに相乗りした。カインズ侯爵も、エアロシップの艦長に着陸するように指示すると、乙町空の率いるペガサスリッターに乗せてもらって随行した。
「後方に、搬入口があります」
 以前のプロメテウス砲奪還戦の時の情報を思い出して、乙町空が素早くペガサスリッター小隊をプロメテウス砲に降下させた。
「激しい戦いがあったと聞きますが、予想以上に壊れていないわね。修理はしたの?」
 内部通路を進みながら、ガートルード・ラディアが訊ねた。前後を乙町空の部下が固め、カインズ侯爵と乙町空がガートルード・ラディアの横を歩いている。
「どんな攻撃を受けても、エンシェントスチールで造られている場所は、ほぼ傷がつきませんでした」
 つくづく恐ろしいと、乙町空が答える。もともとが、ハイパーメガフォースキャノンの威力を遙かに凌ぐエネルギー流を照射するための筒だ。それは、現在の火力では、破壊するのが不可能に近いということになる。
「右へ」
 通路の分岐では、ガートルード・ラディアが先行のペガサスリッターに短く命じる。
「どこへむかわれているのですか?」
 道を探すそぶりも見せずに進んでいくガートルード・ラディアに、乙町空が訊ねた。以前ベーダシュトロルガル要塞に囚われた時に、ガートルード・ラディアは内部構造を把握したのだろうか。
「いえ、なんとなくですよ」
 そう答えるガートルード・ラディアによって導かれた場所は、プロメテウス砲の制御室と思われている場所であった。正に、セイクリッドシステムの端末があり、ガートルード・ラディアが聖女の力を抜き取られて、封印された場所に他ならない。アディス・カウンターを排除した後に、ガートルード・ラディアはここから救い出されて、エクセリア・ラディアの私室にずっと据えおかれていたのだ。
不用意にお触りにならぬ方が……
 コンソールに指をのばすガートルード・ラディアを、慌てて乙町空が止めた。うっかり機器が作動して、再びガートルード・ラディアが封印でもされれば一大事だ。
「大丈夫」
 そう答えると、ガートルード・ラディアがコンソールに片手を押し当てた。パネルに明かりが灯り、セイクリッドシステムが起動する。
「やはり、一度使用したためか、私の存在は登録されているようですね。だからといって、再びこれの餌になる気はありません」
 きっぱりと、ガートルード・ラディアが言う。
「かといって、全く使い物にならないとも思えないのだけれど」
 手に入れたオモチャの有効的な使い道はないだろうかと、ガートルード・ラディアが少しおどけてみせる。いや、こんな物を再び発射するような事態にはなってほしくないものなのだが。あるいは、エンシェントスチールを加工して再利用するにも、その方法が分からない。
「しかし、このプロメテウス砲のセイクリッドシステムから聖女の力がフィードバックされて私の封印が解けたと思ったのですが、どうも違うようですね」
「それに関しては、ナイトホークの撃破が関係しているのではないのでしょうか」
 実際に、ナイトホークと戦った乙町空が、当時の状況を説明した。実際には、乙町空たちはフォートレス級との戦闘を繰り広げたのだが、艦船相手で部下たちが負傷し、作戦途中で後退している。そのおかげで、以降の戦況を観察できたのだ。
 後日の確認ではあるが、ナイトホークの魔力ドライブ炉が破壊された少し後に、ガートルード・ラディアの封印が解けている。さらに後に判明することだが、“ラディアの華”マイリア・ラディアの封印が解けたのもほぼ同時刻だ。これらには、因果関係があると思って間違いはなさそうだった。
「ガートルード様の封印を解く目的でシュピール首相が魔力ドライブ炉に魔力を溜めていたとも考えられるのですが。また、シュピール首相は、ウォークスに、すべては想定内だと話したそうです」
 顔見知りの、“いつでも本気”弥久 ウォークスから聞いた話を、乙町空はガートルード・ラディアに告げた。はたして、それが何を意味するのかは、乙町空には分からない。ガートルード・ラディアの復活が想定内、あるいは目的の一つであったのか、はたまた、ナイトホークが撃破されることも、想定内であったのか。さすがに、自身が討たれることは想定していたとは考えにくいが。
「そう、シュピールらしいわね。あの人は口下手だし、うかつに真意を表に出さないから。だから、ナティスに頼ったりもしたのだけれど。秘密なんて物は、うっかり口に出してしまったら、一番聞かれたくない相手に真っ先に伝わるものだといつも口に出してぼやいていたわ」
 その昔、ガートルード・ラディアとシュピール・アバルトとの間にどれだけのやりとりが交わされたのかを知るのは当人たちのみだ。その結晶とも言うべきキャサリン・ベンクマンもすでにこの世にはない。
 昔を懐かしむかのようにクスリと笑うと、ガートルード・ラディアはそっと目を伏せた。


バルティカ公国


 剣持 真琴は、ブレンダムから戻る船に乗せてもらい、バルティカ公国を訪れていた。
 来る船があれば帰る船もあるわけで、開港と共に定期便のような物が自然と発生している。
 インゼラオ列島への隕石落としで地形が変わり、バルティカ半島沖でのアディス・ピラーによる海水汚染が発生し、ケイナン島沖にあった冥王のメガフロートなど、海路には大きな変更や制約が発生している。
 汚染地域を避けてバルティカ公国領内へ辿り着いた剣持真琴は、ホライゾンバギーに乗って第一公都バルティシオから第二公都シディールへと行商を行っていった。シディールには魔極起門もあるはずだが、現在は、一時的に停止状態にあるらしい。マケドニア・キングダムとキュベレー神殿との戦いに、一般流通が巻き込まれないようにとの配慮からのようだ。
 同行する料理人部隊と共に、先々で調理した軽食を販売しつつ、剣持真琴たちは進んでいった。
 一時期は冥王軍に占領され、大きな被害を受けたバルティカ公国だったが、剣持真琴の目にはそうには見えなかった。
 サフル大陸よりも温暖な気候もあって、植物の成長も早そうだ。料理を作るための食材の入手も、困難ということはなかった。度重なる戦禍で人口は減少しているが、比例して生産力も低下している。人々が生活していけるかは、このバランスによることになるが、バルティカ公国は比較的上手くやっていると言えるだろう。
 だいたい、シディール奪回戦の時には、この一帯は魔障波に汚染されて、対魔障波防護装置がなければ活動も厳しかったはずだ。奪還戦後は、汚染の影響か密林の一部が枯死して問題にもなった。
 なのに、今は汚染の欠片もない。いったい、どのようにして魔障波を浄化したのだろうか。まあ、地道な努力のたまものだと言えそうだが、それにしてはアディス・ピラーの汚染は解決されてはいないようだ。
 人々に話を聞いても、今はまだ復興に手一杯という感じだ。ダリオ・セルゴール議長が示唆していた真に戦うべき敵に関しても、市井の人々はマルグリット・バルティカ王女を失う理由となった冥王に対しては強い怒りを感じていても、それ以外の敵に対しては曖昧な言葉しか返っては来なかった。グランディレクタ共和国に関しても、隕石落としを行ったネオ・グランディレクタ共和国軍とは別の組織だという広報活動が浸透している。ワラセアと恒常的な貿易を行いたいらしいダリオ・セルゴール議長としては、グランディレクタ共和国もワラセアの一勢力でしかないのかもしれないが、詳細は不明だ。
 しかし、この市井の人々とダリオ・セルゴール議長の、敵に対する熱量の差はなんなのだろうか。本来であれば、一丸となって敵と相対するべきだと剣持真琴は思うのだが……。
 ワラセア産の植物などは、その生育に魔力の影響が少ないため、戦争によって荒廃した土地の植林に大きく貢献している。もともと、魔力の少ないワラセアの各諸島(ベンセルム)で植物を育てるために開発された物らしいが、いつどのように品種改良が行われたのかは調べないと分からないそうだ。ただ、意外と起源は古いらしい。
 同様の植物は、積極的にサフル大陸へも輸出されているため、砂漠の緑化などにも効果を発するだろう。
 剣持真琴としては、正しくバルティカ公国の状況を把握し、サフル大陸との経済圏の状況や、次に起こるかもしれない大きな戦いに対する備えの共有化などの情報を入手したいところであった。


アディス・ピラー跡


「冥王のメガフロートが移動してきていたのか……」
 アディス・ピラー跡地の確認にやってきていた“信ずる者”佐門 伽傳は、様変わりしている現地に困惑を隠せなかった。
 佐門伽傳は、かつて浄化に携わった者として個人携行用対魔障波防護装置を装備したチンクエディアを持参し、海洋の浄化作業の手伝いを申し出ていた。異名持ちの佐門伽傳のことを聞き及んでもいたダニー・カリヴァン提督は、快く調査用のエアロシップに同乗させてくれたのだが、状況はあまりよろしくないようだ。
 かつてアディス・ピラーの排出する汚染物質によって形成された小島は、大規模な浄化作業によってほぼ無害化されてはいる。だが、冥王のメガフロートがここへ移動し、現在では両者が接続して、大きな島を形成していた。
 そのせいかは不明だが、再び汚染が広がりつつあるのだ。さらに厄介なことに、魔障波が発生し、新たな島の上空を被ってしまっている。
「念のため個人携行用対魔障波防護装置も用意しましたが、必要でしたかな?」
 佐門伽傳が、ダニー・カリヴァン提督に訊ねた。そもそも、アディス・ピラー戦の時には、魔障波は発生していなかったはずだ。冥王戦の時もしかり。
 現在アディス・ビラー跡地において魔障波が観測されたのは、冥王の汚染によって無作為に発生したものなのか、あるいは何者かの意図的なものであるかは調べる必要があった。
 だが、そもそも魔障波については、佐門伽傳も理解し切れているかというと自信がない。冥王の汚染についてもである。
「それに関しては、アモン元帥の研究機関によって、分析が進んでいる」
 ダニー・カリヴァン提督が、説明をしてくれる。
 ジェスロイ・アモン元帥は、第二公都シディールの奪還後、精力的に魔極起門の研究を行っていた。冥王の遺産とも呼べる装置を放置することもできなかったし、魔獣起門や第七式魔閃砲との関係から、魔極起門がジェネレーターの一種であることまでは判明していたからだ。
 同時に、魔障波の調査も行われていた。地上付近では濃度が薄くなり、また、時間帯によって濃度が変化するなど、なんらか法則性が見受けられたからだ。
 結果、シディール周囲では冥王軍が設置した魔障波発生装置が見つかったのだ。第一公都バルティシオの周辺ではこのような装置は発見されなかったため、当然のように、魔障波発生装置と魔極起門の関係性が疑われた。
 冥王のメガフロートや、アディス・ビラーにおいて魔障波が観測されなかったのも、当時は魔障波発生装置が稼働していなかったからだと推測される。
 魔障波発生装置の分析には、ワラセアのケヴィン・ヤスハラや、ラディア連合王国の兵器研究部門からの協力もあり、魔力攪乱幕と対魔障波防護装置の開発が後日実現している。
 魔障波の特性としては、MECやエアロシップなどの魔力炉の出力を下げ、魔力砲などのエネルギーを拡散させてしまうというものがある。
 いや、魔力エネルギーはそのまま拡散消滅すると思われていたのだが、実際には魔障波を構成する粒子に吸収されていたらしい。吸収量が飽和状態に達すると、魔障波の構成粒子は別の状態に変化し、それ以上の吸収を停止する。そのため、地上近くの魔障波は、スフィア自体の魔力を吸収して効果濃度が落ちていたのである。また、ワラセアや高空などで、魔障波の粒子自体が拡散してしまえば、その効果も無視できるほど小さくなる。
 密林の一部が枯死したのは、魔障波発生装置の撤去が遅れたため、植物が魔力不足に陥ったことによる。
「アディス・ウィスパーにも効果があったのは、それに近い性質を持っていたからなのか?」
 佐門伽傳が考え込む。対魔障波防護装置はアディス・ウィスパーにも有効であったからだ。
 あれは魔障波よりも強力で、魔力炉ではなく直接人間の魔力に干渉してきていた。それによって、魔力を吸収され、一時的に人間を昏睡状態へと誘ったのだ。そして、その吸い上げられた魔力は、いくつかの冥王の遺産に転送されている。
「サフル大陸に出現した冥王の遺産については聞き及んでいる。おそらくは、魔極起門と似た性質の物だろう」
 つまりは、アディス・ウィスパーと似て、魔極起門も魔障波の吸収した魔力を集約し、魔獣起門など、別の冥王の遺産へと魔力転送していたということなのだろうか。アディス・ウィスパーと魔極起門には、同等の物が装備されていたのかもしれない。
 ジェスロイ・アモン元帥はこのことを応用して、魔極起門を魔法の大筒に変わるワラセアへの大容量輸送システムへと改造した。魔極起門から直接エネルギー波を放出し、それをエアロシップに接続したバリアオーブを展開したシャトルで受け、SSTOとして大気圏離脱の推進力としたのである。使用後のシャトルは、回収されて再利用される。
 だが、現時点では、マケドニア・キングダムの動きを見て、魔極起門は凍結されていた。
「我々は、新たな魔極起門が、この地に設置されたのではないかと考えている」
 ダニー・カリヴァン提督が言い切った。状況は、それを物語りつつあった。
「しかし、オルクスは停止しているはず」
 佐門伽傳が、疑問をていする。今になって、誰がそれを利用すると言うのだろう。利害関係が分からない。
「前方、魔獣とおぼしき対象を発見!」
 そこへ、ダニー・カリヴァン提督の部下が報告を入れる。
「やはりな。魔閃砲はないと信じたいが、魔獣起門ぐらいはありそうだ。――全艦に告ぐ、現時点の作戦は威力偵察である。砲撃を与えつつ、情報を収集しろ」
 ダニー・カリヴァン提督は、麾下の艦隊に命令を発した。


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