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月魄供覧

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月魄供覧
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学術都市ブレンダム


 復興の進んだブレンダムでは、邑垣 舞花が、新設された図書館で調べ物をしていた。
 一度、ネオ・グランディレクタ共和国軍の隕石落としによって、太古からの貴重な文献はすべて失われてしまっている。だが、新たに書物を収容できる図書館ができたことにより、再びスフィア全土から貴重な書物が集められていた。
 邑垣舞花は、それら書物の中に、ダリオ・セルゴール議長の言っていた真に戦う敵のヒントがあるのではないのだろうかと考えていた。未だにその姿を掴むことができていないため、敵は自分たちの手の届かない場所にいるかもしれないのだ。例えば、隠された地下の遺構の中に、例えば、スフィアではないワラセアの月や小惑星の中に、例えば、隣接する小世界の中に……。
 そのきざはしでも、古い文献のどこかに記されているのではないかと期待している。
 とはいえ、最も古い文献でも、冥王大戦後の聖球暦(スフィア・イラ)からの物しかない。それも、ほぼすべてが写本か、後世に伝聞を纏め直したものだ。それ以前は、実質的に神話なのである。
 結局は、それすらも人類間の戦争で多くが失われている。つくづく、ブレンダムの消滅は歴史資料にとっては致命的であった。
 選定暦(オルタナティブ・イラ)以降は、ワラセアでも記録が始まったこともあり、情報量としては一気に膨れ上がるのだが、そのすべてが現在のブレンダムに集まってきているわけではないのが歯がゆいところだ。
 とはいえ、ブレンダムが智の都であることは、今も昔も変わらない。その質に、差がありはすれどもだ。
 もともと、冥王がオルクスという環境改造装置であることが分かってからも、誰がそれを作ったかまでは判明していない。キュベレーは管理者ということになっているが、はたして、それだけの存在なのだろうか。
 いや、テルスの人々にとって……。
 キュベレーは、スフィアを人の住めるようにした神である。
 キュベレーは、冥王を封印した神である。
 キュベレーは、大樹アクシス・ムンディに住まわれる。
 キュベレーは、スフィアのすべてを愛し、育まれる。
 キュベレーは……。

★    ★    ★

 図書館の別の部屋では、ノーン・スカイフラワーが、月についての文献を調べていた。
 スフィアに月はない。
 いや、空には歪な形の輝きが時折見えたりする。それが月と思っている者もいる。ワールドホライゾン出身の者であれば、単純に月かなと考えるだろう。輝くその月の下には、うっすらと光の柱が見える。
 アクシス・ムンディだ。
 この月は、衛星であると言えばそれに類するであろう。軌道エレベーターでもあるアクシスムンディのカウンターウエイトである小惑星だ。遠心力でアクシス・ムンディを支えている文字通りの要石でもある。
 大きさとしては各世界に存在する衛星である月よりもかなり小さいが、距離は近いため、まあ、それなりの大きさに見えてはいる。
 ノーン・スカイフラワーが調べていくと、過去の文献ではキュベレーの月と言われていたり、角張ったもっとちゃんとした形で見えていたこともあるようだった。本物の小惑星と比べたら、ずいぶんと誇張されているようではあったが。
 いずれにしても、風物詩のような風流な記録が残されているわけではなく、そういう物があったらしいという御伽噺の類いだった。
 そして、それらの本は、キュベレー教団が発行した物がほとんどであった。いや、この図書館に寄贈された本のほとんどは、キュベレー教団の発行した物だ。ブレンダムの蔵書が一度失われているため、それも致し方ないのかもしれない。現時点では、キュベレー教団が一番の歴史の観察者であることは否めようがない。
 実際はどうなのかなあと望遠付カメラを空にむけてみるノーン・スカイフラワーであったが、昼の明るさの中では、月は薄ぼんやりと見える程度しかなかった。ましてや、今現在そこで激戦が行われていることも分からない。

★    ★    ★

「鉱山は、順調に稼働しているようじゃな」
 トライアルバイクで山道を飛ばしてきたアッシュムーン・セラフが、ゴーグルを額に跳ね上げて鉱山を見渡した。
 一時期は瓦礫に埋まってしまっていた坑道も、直撃ではなかったために、掘り直すことによってかなり復旧してきている。もっとも、落盤を防ぐためには一から補強をする必要があり、言葉ほど簡単な作業ではなかったのだが。
 道路が整備されてきているので、人や物の流れもスムーズになりつつある。植林に必要な苗や食料などは、バルティカ公国から海路で運ばれてくる物資に頼るところが大きい。
 もともと0からの出発となったので、移住者は大々的に募集していたのだが、各都市からの避難民や、国都からの人流が予想以上に大きく、住居の建築は予想を上回り、やや無計画に都市が広がりつつもあった。この辺は、居住区の建設よりも、生活インフラの整備に注力しすぎたことによる計算違いだ。もっとも、グランディレクタ共和国軍の侵攻によって、ここまで人が移動を強いられるとは誰にも予想できなかったわけだが。
 街の中心部へ戻る道すがら、アッシュムーン・セラフはだんだんと無秩序になりかけている都市計画に、少し不安を覚えた。バランスを欠いては、どこかでひずみが噴出しかねない。そのあたりに関しては、住民による自治能力に期待するしかないだろう。

★    ★    ★

「ふむふむ。無事に街は発展しているようですに」
 港からブレンダムの中央へとむかう道にホライゾンバギーを走らせながら、コミュニ・セラフが満足そうに言った。
 バルティカ公国から運ばれてくる食料などは、人口の増えすぎたブレンダムにとっては重要な物であった。バルティカ公国も冥王やネオ・グランディレクタ共和国軍の隕石落としなどによって大きな被害を受けたはずであるが、温暖な気候もあり、マケドニア・キングダムから提供された新種の穀物などによって予想以上に復興が進んでいる。これらの植物は、ブレンダムへも運び込まれ、緑化に一役買っていた。
「勉強は進んでいるようですに」
 図書館のカフェに立ち寄ったコミュニ・セラフが、邑垣舞花とノーン・スカイフラワーに挨拶した。
「まあ、そこそこです」
 うーんと軽く額に手をやって、邑垣舞花が答えた。なかなか、知りたいことの資料は都合よく現れてはくれない。
「疲れたら、甘い物が一番だよ!」
 ノーン・スカイフラワーが運んできたケーキセットで、みんな甘い物の補給をする。
「うーん、さあて、もう一走りしますかに」
「私たちも調べ物に戻りましょう」
「うん」
 英気を養うと、それぞれは元の仕事に戻っていった。
 慰霊碑の場所に来ると、アッシュムーン・セラフがコミュニ・セラフを待っていた。二人で、酒と供物を捧げて、大地母神の祈りを捧げる。
「なんと敬虔な。素晴らしいことです」
 突然そう声をかけられて、コミュニ・セラフたちは振り返った。
 そこにいたのは、キュベレー教団の一団だ。司祭らしき者を中心に、護衛らしいキュベレーの使徒と、神官の娘たちが続く。
「この街には立派な神殿もあり、感服していたところです。教団としても、指導できる人員を増員して、聖女となるべき見習い神官たちの育成に尽力しようと決定したばかりなのですよ。そうそう、聞けば、慰霊碑があり、それに祈りを捧げる神官を探しておられるとか。それを聞いて、急ぎここを訪れた次第です」
 柔らかい声音で、司祭がコミュニ・セラフに告げた。そして、神官たちと共に、慰霊碑に大地母神の祈りを捧げる。
「そういえば、この場所には、キュベレー様の神像を建てる計画もあったとか。なんと素晴らしいことでしょう。おや、もしかして、あなた方が、神像の建立を願い出た方々なのでしょうか。ああ、キュベレー神に感謝を」
 そう言うと、司祭たちは、コミュニ・セラフたちにむかって両手を組み合わせて大地母神の祝福を与えた。
「うむ。だが、キュベレー教団は偶像崇拝はしていないと聞いたんじゃがのう」
 神像の件は一度却下されたことを思い出して、アッシュムーン・セラフが不思議そうに聞き返した。“宰相”ナティスから聞いた話と違ってきているではないか。
「いえいえ。信仰の形は、人それぞれでありますから。それに、キュベレー様は200年以上もお眠りになっておられたのです。もし、全く違うお姿の像を信仰の対象とすれば、それこそ不敬というもの。それに、確かラディア王家のエクセリア・ラディア陛下が、次代のキュベレーとなる誉れを賜っておられるはず。新たに女神像を建てるのであれば、継承後にエクセリア陛下の似姿にするのが間違いないでしょう」
 キュベレーの司祭は、そうコミュニ・セラフたちに説明をした。
「それでは、皆様に、キュベレー様の御加護がありますように。キュベレー様は、いつでも、あなた方を見守っていらっしゃいます」
 そう告げると、司祭たちはブレンダムのキュベレー神殿の方へと引き上げていった。


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