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月魄供覧

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マイリア・ラディア


 地下は、荒削りな岩肌がむき出しの空間であった。正に、緊急時の避難場所だ。
 湧き水や、備蓄された食料もあるようだ。だが、水はいいとしても、食料は誰が用意した物なのだろうか。レーヴェ・アバルトだろうか。
「ここは、私と、ゲルデが逃げ込んだ場所です」
 マイリア・ラディアが、予想外の人物の名を口にした。いや、特異者たちにとって予想外であっただけで、マイリア・ラディアにとっては、語られるべき名であった。
 そして、語られたのは、大聖堂の悲劇とされた事の真実だ。
 グラディウスが発掘されたのは、この島の遺跡からだ。それは、Gハイドが発見されるよりも遙かに昔の話である。それは、ラディア連合王国の人々にとっては、初めて見るキャヴァルリィの姿だった。
 キャヴァルリィは、キュベレー神の作りたもうた物だ。キャヴァルリィを動かすことができなかった当時の人々は、神殿を作って御神体のようにグラディウスを安置した。
 ガートルード・ラディアの長女、マイリア・ラディアが聖女の資質を持つと判明した時、グランディレクタ共和国のシュピール・アバルトから、ゲルデ・アバルトとの婚姻の申し出があった。
 周囲から見れば、完全な政略結婚であったが……。
「私としては、まんざらでもありませんでした。何より、好奇心と言いますか、似ていたのですね、二人とも」
 思い懐かしむように、マイリア・ラディアが語った。
 当時、二人の結婚をキュベレー教団が全力をあげて祝うという約束がされていた。マイリア・ラディアが、聖女であるからという理由だ。
 キュベレー神その人が降臨されるという話も、まことしやかに噂されていた。次代のキュベレーには、マイリア・ラディアこそがふさわしいとの声も湧き上がる。そのために、長らく沈黙していたアクシス・ムンディが動くと言うのだ。
 そして、ゲルデ・アバルトは、このチャンスを待っていたとマイリア・ラディアに打ち明けた。シュピール・アバルトの命を受け、グラディウスのセイクリッドシステムを利用して、動き出したアクシス・ムンディの同じシステムに干渉し、そして、その先にある物を調べるという使命を。
「それはもう、私も興味を抑えきれませんでした。キュベレー神の真実の一端に触れられるというのですから。ですが、それが、あの結果を招いたのです」
 ゲルデ・アバルトに協力を申し込んだマイリア・ラディアは、二人でグラディウスのセイクリッドシステムを利用して、アクシス・ムンディのセイクリッドシステムにハッキングをかけたのだった。
 アクシス・ムンディ内でのセイクリッドシステムの魔力の流れ、その発端と終端を調べようとしたゲルデ・アバルトだったが、アクセスしてすぐにハッキングが露呈してしまった。即座に接続を切ろうとしたゲルデ・アバルトだったが、セイクリッドシステムによって一気にマイリア・ラディアの魔力がアクシス・ムンディに吸い上げられ、身体が高質化して封印されてしまったのだ。かろうじて、ゲルデ・アバルトができる限りの魔力をグラディウスに留め、マイリア・ラディアの肉体の消滅だけは免れた。そうでなければ、すべての魔力を放出し、マルグリット・バルティカのように肉体と共に魂さえも消滅していたことだろう。
 だが、グラディウスから逃げ出す時に、封印されたマイリア・ラディアをおいてはいけないと躊躇したため、ゲルデ・アバルトはキュベレー教団の者に撃たれてしまった。その時、ゲルデを助けたいという一心から、グラディウスのセイクリッドシステムに残されたマイリア・ラディアの魔力が具現化し、後に女騎士の亡霊と呼ばれることになる現し身が誕生する。
 瀕死のゲルデ・アバルトを連れて逃げた女騎士の亡霊は、彼に指示されるままに、ここ、Gハイドの眠る遺跡に逃げ込んだのである。
 そこで、ゲルデ・アバルトが、Gハイドに搭載されたセイクリッドシステムのサブシステムに、女騎士の亡霊の存在をグラディウスから移動させた。このGハイドがグラディウスとペアの存在であるからこそできたことである。
 だが、なんとかマイリア・ラディアの存在の一部を守り切ったところが、ゲルデ・アバルトの限界だった。すでに記憶が曖昧で、この男が誰かも分からぬ女騎士の亡霊の手の中で、ゲルデ・アバルトは息を引き取ったのである。
「そして、彼はここに眠っています」
 洞窟の奥の方に、石を積み上げた墓のような物があった。記憶の戻ったマイリア・ラディアであれば、それがなんであるのかははっきりと分かる。
「キュベレー教団はそれを知っていたの? なら、なぜそれを隠していたのよ!?」
 砂原秋良が声を荒らげる。大聖堂の悲劇は、グランディレクタ共和国かラディア連合王国の開戦派が仕組んだ暗殺事件と伝えられていたからだ。
「本来の私が封印されてしまった後のことは、さすがに……」
 マイリア・ラディアが言葉を濁す。
「本当のことを話せば、怒りはキュベレー教団にむくからな。たとえ二人が禁忌を犯したとか理由をつけたとしても、人の感情は抑えきれないだろう。だから、二人の結婚式の前に、外部の何者かによって暗殺が行われたと発表したのだ。結果、グランディレクタ共和国とラディア連合王国は戦争を始めた」
 レーヴェ・アバルトが、代わりに話を続けた。
「戦争の間、キュベレー教団はだんまりだ。まるで、最初からそれを望んでいたかのようにな」
教団の中に、黒幕がいると?
 皆の考えたことを、砂原秋良が口にする。
「それが誰かは分からん。高位の司祭か、あるいは、教団自体を隠れ蓑にしている誰かか。だいたいにして、義姉上をずっと封印したままで保護していたこともおかしい。兄貴は殺されたんだぞ。普通ならば、封印された身体を破壊してもおかしくはない。あ、いや、他意はないんです、お許しを」
 言葉が過ぎたかと、レーヴェ・アバルトが居住まいを正してマイリア・ラディアに謝る。
「義弟なのでしょう? 遠慮は無用です」
 あっさりと、マイリア・ラディアが一笑に付した。
「おそらくは、次期キュベレーの器として、カードの一つとしてとっておきたかったのだろう。その誰かがな。傀儡としてキュベレー神を操れるのであれば、その権力は絶大だろう」
 それらを調べるため、レーヴェ・アバルトはシュピール・アバルトに命じられてキュベレー教団を内偵していたのだ。
 彼はMIAとなった時、墜落したエアロシップから、かつての部下たちに奇跡的に救出されていた。おそらくは、普通よりも頑強なその身体的特徴のおかげで助かったのだろう。
 そこで、レーヴェ・アバルトは、シュピール・アバルトからの命令を受け取ったのである。キュベレー教団を内偵し、しかる後に封印の解けたマイリア・ラディアを救出しろと。今更グランディレクタ共和国の命令に従わなければならない謂われはなかったが、敬愛する兄の伴侶となるはずの女性が気にならないと言えば嘘である。レーヴェ・アバルトは、そのまま自身が死んだことにして動き始めた。
 同様に、別の戦いで瀕死の重傷を負ったオペレーターを救うという目的で、アクシスムンディに赴き、軌道エレベーターでワラセアへ上げてもらうよう頼み込んでいる。ワラセアのケヴィン・ヤスハラを頼り、トランスヒューマン手術でそのオペレーターを救うためだ。
 戦いで傷つく神官たちを一人でも救いたいと願い出たレーヴェ・アバルトの真摯な態度に、キュベレー教団は彼をキュベレーの使徒の一人として迎え入れたのである。
 そして、時が来た。
「このままキュベレー教団に捕まれば、また同じように口封じされるだけだ。義姉上も無事ですむ保証はない」
「それ以前に、私は怒っておりますから。誰が、戻るものですか!」
 バンと大きい音を立てて、マイリア・ラディアが拳をもう片方の掌に叩きつけた。美しくおしとやかな風貌をしているが、その性格は、女騎士の亡霊であった時からも分かるように、妹のエクセリア・ラディアよりは、遙かに母親のガートルード・ラディア似と言うことだ。
「ここから逃げるんだったら、必要だろう。持ってけ」
 そう言って、グルー・レイスが探検隊バックパックをさし出した。中には食料などが詰まっているため、多少の足しにはなるだろう。
これも使ってください
 砂原秋良が、サカイヤチョコレートをさし出す。
「おお。そういうことであれば、これも持ってけ泥棒」
 二人に倣って、ルシェイメア・フローズンも、持っていた探検隊バックパックをレーヴェ・アバルトにさし出す。
「これからどこへいくんだ? アイアンボトム・サウンドのバナント・ベルに身を寄せるという手もあるが……」
「ああ。あんたたちだけじゃ、逃げるにも戦力が足りないだろう」
 ヤクモ・ミシバが、必要であれば手を貸すと提案する。砂原秋良の方を確認するように見ると、彼女もしっかりとうなずいていた。
「いや、ここで部下と合流を図る予定だったんだが、義姉上の開封が予定よりも早かったんでな。ああ、やっときたらしい」
 グルー・レイスの問いに答えていたレーヴェ・アバルトが、何かを感じたのか、不意にニヤリと笑った。
 レーヴェ・アバルトが予見したように、数人の一団が台座の入り口から下に降りてくる。
「やはり、ここにおられましたか」
 レーヴェ・アバルトにそう声をかけたのは、“翠の双星”の異名を持つローレンリラだ。途中でばったりと出くわしてしまった焔生セナリアとリィーツェ・アドラスティも一緒にいる。
「再起動は完了しております」
「いつでも脱出可能です」
 ローレンとリラが、敬礼をしながら報告する。以前、ラディア連合王国軍の捕虜となっていたはずだが、ベーダシュトロルガル要塞によって国都グローリアラディアが半壊した時に脱出し、それ以降は陰でレーヴェ・アバルトのために暗躍していたらしい。
「彼女はどうするんだ?」
 ヤクモ・ミシバが、サティンをさしてレーヴェ・アバルトに聞く。なんとも場違いな感じでそこにいたサティンが、いきなり話題にされてあたふたと慌てた。もとより、巻き込まれる形でここに連れてこられたわけであるが、マイリア・ラディアを崇拝する一心でこの数日を耐えてきていたのだ。
「おいていけるわけはありません。サティン、従聖女として私についてきてくれますか?」
「も、もちろんですとも!」
 マイリア・ラディアに言われて、サティンはキッとレーヴェ・アバルトの方を軽く睨んでからマイリア・ラディアの横に立った。
 まあ、乱暴に荷物扱いされたので警戒されるのは仕方ないとはいえ、レーヴェ・アバルトが困り顔をする。
「逃げるにしてモ、こんなにぞろぞろしてたら、無理ジャネ? どーする、アキラ」
 アリス・ドロワーズが、アキラ・セイルーンに訊ねた。
「よし、ここは、俺たちが囮になろう。任せてくれ!」
 なんだか、アキラ・セイルーンが安請け合いする。また何か悪いことを考えているなと、ルシェイメア・フローズンがチラリとアキラ・セイルーンを睨んだ。セレスティア・レインは、なぜ私がこんな目に遭うのかとわなわなしている。
 なんのことはない、遺跡の台座の下にこんな空間があるのなら、きっとお宝があるとアキラ・セイルーンは考えたのである。逃げおおせた後に、戻ってきて探索すれば、お宝独り占めである。
 まあ、実際には捕らぬ狸の皮算用で、戻ってきても非常用食料しか見つからなかったのだが、それはまた後日の話である。
「よし、追っ手も来ているようだ。急いで脱出するぞ」
 簡単に手はずを相談すると、レーヴェ・アバルトは隠れ家から大空洞へと飛び出していった。


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