【創り育て進む4】
リアス式海岸となっており、海岸線は険しい断崖の入り江浸食で生じた砂礫が堆積が蓄積された場所などがあるオーツウォール海岸。
その砂浜の漁港にいるのは
西村 由梨だった。
「ここから食料はもちろんだけど、漁業や養殖――未来へと続く一歩が始まるのね」
この漁港はこの場所が今後発展するために作った場所で、文明として発展するために重要な“食”の部分を作った。
「ここは壊させないわ」
作って終わり――ではない。そこに現れたのは界霊。これを退けなければこの場所は破壊され、発展は夢のまた夢だ。
体力や魔力の消耗を最低限とし、シュラハトビューネを構えると近づかれる前に先制攻撃を行う。
この場所はすでに全体を把握しており、どのように戦えばよいのかが分かっている。そのため、可能な限り近づかれないような戦法を由梨は取っていた。
増援が来る可能性もあり武器でのマーキングをしておき、アゲインストに手伝ってもらい、正面にも立ちながら遠距離射撃を続ける。
しかし、相手もこちらの懐へと潜りこもうと一気に近づいてくるが――双剣モードに変形させ、クアッドリープの連撃で追い立てる。
「後は……」
時間をかけて1体撃破。これ以上来る可能性も考え警戒を続けるのだった。
丘陵地に水源。そして深い森に洞窟――豊かな資源に恵まれた慈愛丘陵ユートピアは様々な力もまた色濃く存在している。
「丁度良い場所はあるでしょうか」
「そうね――上手く出来るならその方が良いけれど」
「まあ、大丈夫だと思うわ。きっと良い場所が見付かる」
優・コーデュロイと
エイミー・シュタイアーマルク、
ルージュ・コーデュロイはこの場所に文明の礎を築くためにやってきた。
彼女達が作ろうとしているのは街だった。
集落があり、それを街道が繋ぐ。それぞれ集落には土地に合った者達が済む場所として存在するものにしたいと考えていた。
文明を築くために必要なものであるが、材料にも限界がある。そのため、中心地点を決めておき、そこからほどよくそれぞれの場所へと行けるようにしておきたかった。
「ここからは丘陵が見えるわね」
ルージュが遠くを眺めながらそう言う。
「少し離れた場所には水源がある森があったわ」
先の方を見に行っていたエイミーが合流。
「この辺りは比較的平らな土地のようですね。では、この辺りにしましょう」
3人は中心地を決めると作業を開始する。
森にはエルフが住みそうな集落。丘陵には中世西洋ファンタジーのような街。そして、こういった平野には農業などが出来る場所があるとよいだろうか。
「ちょっと、それじゃ土地が狭くなるわ。この程度にしておいた方が良いだろうし――ほら、その色じゃこの街に合わないわ!」
来る時には乗り気ではなさそうだったエイミーだったが――一番張り切っている様に見え、優とルージュは何だか微笑ましい気持ちになる。
広い場所になってしまうため、逆に複雑なことは出来ないが考えていた通りの場所には出来そうだった。
「界霊……!」
「やはり来ましたね」
「邪魔はさせないわ」
ここに文明の礎を築くためにやらなくてはいけないのは、界霊と戦い認めてもらうこと。そのために彼女達は戦うための準備もしてきたのだ。
エイミーはルージュと同調すると、ドレス鎧となり体の共有を行う。
「敵の数が多いですね」
集落や街と行ったものを作ったからなのか、多くの界霊の姿を確認する事が出来た。
彼女達がいる場所は比較的建物が少なく、街などには被害が出にくい場所である。しかし、激しい戦いが続けばせっかくここに創ったものが全て無になる可能性もあるだろう。
「行きましょう」
「ええ」
「さっさと終わらせるわよ」
エイミーとルージュは自身を加速させると一気に界霊までの距離を詰めていく。そして、一番近くにいる界霊の攻撃をその速度で掻い潜ってプライモーディアルで切りつけた。
しかし、正面から来る攻撃に対して回避をするのは難しくはない。界霊はそれを避けてエイミーとルージュに攻撃をしようとした瞬間だった。自身の体に傷が入り体が重くなる感覚に襲われた。
「避けられたと思いましたか?」
そこに現れたのは優。我執の哲学により敵の注意を向けられておらず、界霊は存在を認識していなかった。そのため、彼女の動きを察知する事が出来なかったのだ。
そして、優が行ったのはサダクビアの祈りによる過去改変。避けたと思った攻撃だったが、エイミーとルージュが間合いを詰めていたことによって軽傷ではあるがダメージを受けてしまったのだ。
しかも、その攻撃は思考削斬であり、当たれば能力低下をさせるもの。
「終わりよ!」
エイミーへとグロウスイッチをすると、一気に止めを刺した。
数が多くとも連携を崩さずに確実に倒していく3人。こうして彼女達が作った文明を守っていく。
「気持ちい風……」
草原の風を受けて歩いているのは
ミシェル・キサラギ。彼女はこの風麗らかの原に建設にやってきたのだ。
この草原を散策するために便利なログハウス調のコテージをイメージしている。
「その前に認めてもらわないとね」
建物を本格的に創る前で良かったとミシェルは思う。現れた界霊を倒さなければいけないからだ。
リ・アンユでの素早さ上昇により、界霊からの先制攻撃を避ける。そして、アコンカグアで牽制しながら近づきマナの刃を生み出すと、界霊を切り付ける。
界霊は強い。すぐに倒せないと分かっているので、デトネーションによる衝撃波を応用して距離を取ると、着地と同時に地面を思い切り蹴って身体を回転させた勢いから更に攻撃。
深手を負わせられなくとも徐々に体力を削っていく。そして、再び衝撃波によって距離を開けた時に、界霊は近づいてくる事を考えて腕を振り上げたが――。
「今度はこれよ」
素早くギアを銃へと変形させ、ギアのマナを集束させ変形させると一歩だけ下がった所から威力の上がった一撃を与える。
「――どうにかなったわね。でも……」
周囲を確認して界霊の増援が来るとも限らない。作業をしながら警戒をミシェルは続ける。
「お、この辺なんて良いんじゃないか」
界霊獣オネストと共に空から良い場所を探していたのは
行坂 貫だった。
この辺りはアルテラの力を受けており、少し離れた場所に川がある。そして、降り立った場所は平原なので建物を建てやすいだろう。
彼が作ろうとしているのはレストランだ。もちろん、この場所に合った見た目にしておき、キッチンはしっかりしたものを考えている。
「さてと……」
始めるのは建築ではなく――現れた界霊の対処。撃破をして認めてもらわなければレストランは出来ない。
ショコラティエ・オンステージで稲妻の様な衝撃的なアピールを界霊へと向けると、きちんとウインクを向ける。界霊が反応をしてくれるわけもないが――アイドルらしいことはしっかりとやる。
そして、界霊からの攻撃をオネストと共に空中から応戦して口を開けた瞬間に先程出来たチョコレートを投げ込む。衝撃的なアピールから出来たチョコレートは含んだ瞬間に痺れるような衝撃が走った。
空中戦からダメージを稼ぎつつ眠りも狙うが、流石に寝てしまうことはない。しかし、相手の動きが鈍ったように見えた瞬間機動力を生かして救済剣ギリーセイバーで接近し叩き斬る。
「一応警戒を続けておくか」
倒した界霊を見ながら呟くと建設を始めるのだった。
大和の影響を受けた草原を歩くひとりの僧。この場所に建物を建てようとしているのは
佐門 伽傳だった。
「宗教に偏ったものではなく……心身を休められる場所が良いだろう」
彼がここに作ろうとしているのは、休めるようなこの場所に合う和風の木造建築。そして、庵のような心安らぐ場所を考えていた。
大きくなくても良い。ここで心を落ち着かせて、一休みしてくれる人がいることを祈る。
広い場所ではなく、ある一定の広さにいくつもそういう場所を作る事で多くの人達が来られるような場所が良いかもしれないと考えていると――。
「これも試練」
現れた界霊を見て伽傳はそう呟く。
戦闘形態とも言える普門示現にて大柄な千手観音へと姿を変えると、六臂観音によって更に手数を増やし攻撃力を上昇。
剣の扱いに長けた彼の制裁剣ディカイオシュネの威力は直撃すれば強力だ。
攻撃を回避しながら一撃を与えるために立ち回る。上昇した速度で徐々に追い立て一閃。界霊を真っ二つに切り裂く。
消耗は激しいがその一撃は強力である。しかし、立て続けにもう1体来たようだ。まだカヴァーチャによる防御も残している。
隙を作って叩く。建築の再開に向けて界霊を撃破していくのだった。
昇竜川を歩いているのは
火屋守 壱星と
薬研 心乃の2人。
「壱星くんはどんなものを作りたいと考えているんですか?」
「んー……そうだなぁ」
壱星はそう言って空を仰ぐ。
「茶室かな」
「茶室?」
「そう。庭園のある茶室」
それを聞いて心乃は少し驚いた。以前の彼であればそういった考えになっていなかったからだったが――心乃は嬉しくなり笑顔になった。
「壱星くん……最近になって少し変わったね?」
「そうか?」
壱星自身はそう感じた事はなかったのだが、パートナーの心乃がそう言うのだからきっとそうなのだろう。そうだとしたらきっと良い方向に向かっていると壱星も思った。
しかし、作るためには目の前に現れた界霊を倒さなければいけない。
「こんな所で暴れられたら庭園もぐちゃぐちゃだからな!」
雷虎を呼び出すとニヤリと笑う。
「神州扶桑国では虎は神の化身。世界創造の験担ぎにはうってつけだろ!」
壱星は雷虎と左右に分かれて界霊を狙っていく。
「星丸くん、私たちも行きましょう」
忠犬獅郎星纏丸にまたがった心乃は防具による結界を展開させ、これから作ろうとしている場所を守るために後方へ。
壱星はアタッカーとして嵐龍の暴風で攻撃。そこに続けて雷虎が追い立てる。
「1体だけじゃないですよね。それなら――」
天詔琴を構えると壱星が囲まれないように現れた界霊の足止めをするために奏で始める。そして、その間に壱星は一織流参ノ型・火龍で炎を纏い距離を詰めていく。
すでに作り始めていた建物は心乃が守っていてくれるが――。
「やっぱりそうくるか、分かってたぜ!」
界霊はその建物を壊そうと壱星を無視して攻撃をしようとしているのを確認した。そして、それを見た壱星は再び炎を纏うと距離を詰める。
「食らえ!」
嵐龍の風を集束させて空気砲を放ち足止めを行う。
「壱星くん、今です!」
天鼓雷音を使って心乃が追撃を行うと、間合いを詰めた壱星が強い踏み込みから片手平突き繰り出した。防御力が高かろうが、貫くその威力は界霊の体に穴を開けた。
「よし、次!」
2人は認められるまで戦い続け、そして――壱星の考えた茶室を作り終えた。