【4】ルミダチソウと遊び相手
セイタカルミダチソウが繁殖しているという話を聞き、国引きで作られた土地に来た特異者達はそれぞれのやり方で対処に当たっていた。
新たな生物として歓迎し、その生態を調査しているのは
苺炎・クロイツだ。
「ちょっと失礼、どんな草か調べさせてね」
苺炎は袖局でルミダチソウの茎を切り、内部の構造を確認する。見た所ただの植物の茎であるようだ。だが全体が光り輝いている上に大きくなったり小さくなったり、果てには頭部分を地面に植えるとすぐに伸びてくる等、生態としてはルミマルに近い。ずっとにこにこしているのでプラントフィーリングでその感情を窺ってみると、喜の感情以外伝わってこない。見かけ通りの楽観的な性格のようだ。
切り口を舐めてみると、強い苦みを感じた。念のためイクテュスの清涙を口に含んで解毒しておく。
まだ育ち切っていないススキをエバーグリーンで成長させ、出来上がった穂をくるっと丸めて冠を作る。それをルミダチソウの頭に被せてあげると、とても嬉しそうにしていた。
「いいなールミ~!」
「かわいいルミ~っくしゅん!」
他のルミダチソウ達がうらやましそうにしていたので、同じような冠や襟巻を作って乗せていく。ふと思い立ってエバーグリーンでルミダチソウを操り、花粉の放出を抑えられないか試してみたが、純粋な植物ではない為だろうか、効果は現れなかった。
だが楽しそうにしているからか、放出量は少なくなっている。それでも自分達の花粉でくしゃみをしているルミダチソウ達に、苺炎は聖水をかけてあげる。ルミダチソウ達はお水だーと無邪気に喜んでいた。
このまま相手をしていれば、もしかしたら共存できる存在になるのかもしれない。苺炎はもう暫くルミダチソウと遊ぶことにする。
「ふぁっ、クシュン!」
くしゃみをしつつも、ルミダチソウに近寄り話しかけようとしているのは
長月 由鶴だ。
「本当にルミマルにそっくりなんだね。お友達なのかな?」
ルミルミ言いながら身体を揺らすルミダチソウ達に、由鶴は声をかける。
「あのね! 僕、ルミダチソウさんたちと遊びたいな、って思うんだ。だから、ちょっとの間だけ、花粉を止めてもらってもいいかな? このままじゃクシャミが止まらなくて、遊べないよ」
「そう言われても、花粉は勝手に飛んじゃうルミ~っくしゅん!」
どうやらルミダチソウ自身に花粉を止める事は出来ないようだ。やはり、楽しませて転化させるしかないだろう。
「ねえ、歌は好き? 僕もレクスもね、歌うのが好きだよ。僕のは人に聞かせられる程じゃないかもしれないけど……。一緒に歌うのはどうかな? まずは僕が歌ってみるね」
由鶴はくしゃみを我慢しつつ、発声練習と共にサムノーツでカラフルな音符のエフェクトを発生させ、楽しい雰囲気を作る。そうして、童謡のような雰囲気の春の唄を歌い始めた。歌に合わせて花びらを舞わせたり、小さな虹をかけて見た目でもルミダチソウ達を楽しませる。
「どうかな? 僕の歌、気に入って貰えたかなあ? そうだといいな。ねえ、今度は一緒に踊ってみようよ」
今度は楽しい雰囲気の唄を歌い、ホップタンバリンをリズムに合わせて叩く。頭の上で寛いでいた≪星獣≫レクスがやれやれといった様子で歌に加わった。
「ルミ~♪ ルミ~♪」
タンバリンのリズムに合わせ、ルミダチソウ達は楽しそうに体を揺らしている。目に痛い程発光していた身体が、少しずつ落ち着いた明るさになっていく。花粉の放出量も減り、由鶴もルミダチソウ達もくしゃみの回数が減ってきた。そのまま花粉の放出が収まるまで、由鶴は歌を歌い続ける。
セイタカルミダチソウの生態は少し不思議な面がある。歌ったり踊ったりするだけでなく、叩かれたり吹っ飛ばされても楽しく感じるようだ。
「さぁ! マッスルを燃やして打つべし!! 打つべし!!!」
紫月 幸人は服を脱ぎ棄て、光り輝く肉体をこれでもかと見せつけていた。
虹輝なる至高の野菜を食べ、温まった身体を柔軟に動かし、猫子水蝶拳でルミダチソウを打つ。とにかく打つ。
「セイッ! セイッ!!」
笑顔で繰り出される拳を受けたルミダチソウは、時に衝撃で仰け反り、時に吹き飛ばされて「ルミ~!」と叫んでくるくると回りながらどこかへ飛んでいく。中にはびよよよんと気の抜けた音を立てて高速で左右に跳ね返り続けている個体もいた。
「さぁ! 他の生物達も共に舞いましょう! 本能を解放するのです!」
幸人は近くの動物たちにそう声をかけるが、素っ裸で光り輝くその異様な風体と、殴られながらも楽しそうに笑っているルミダチソウ達に本能的に恐怖心を抱いたのか、皆逃げて行ってしまった。
「残念! ならば我々だけで遊ぶとしましょう! さあ打つべし、打つべし!!!」
ともに汗を流し、親友となりましょうと、そう叫びながら幸人はルミダチソウに拳を打ち込み続ける。
客人神の浜辺で、
松永 焔子は失楽炭刃を構えていた。
「燃えるように情熱的な歌唱と剣舞をご照覧あれ、ですわ!」
霊盾・祝融の炎を失楽炭刃に宿す。刀身が赤熱化し、さらに身に纏っている憤怒の黒炎が混ざり合い、刃が業火に包まれた。
『ある意味ラブストーリーかも』を歌いながら、歌唱戦闘でルミダチソウ達を楽しませつつ、斬りかかる。
まずは猩烈で周囲のルミダチソウを纏めて薙ぎ払う。負の霊力を祓う浄化の炎で、ルミダチソウが放出している負のエネルギーを含んだ花粉を焼き尽くす狙いだ。
花粉とルミダチソウを同時に焼却するために、周囲の空間ごと焼き尽くす勢いで大振りに素早く武器を振り回し続ける。大きく体力を消耗するが、決して笑顔は崩さない。アイドルとしてライブをしている時の様に、楽し気に歌って踊りながら刃を振るう。
【神格】カヴァーチャが発する黄金のオーラにより、焔子は花粉で不調になる事は無い。全力でルミダチソウ達を楽しませ、焼き払っていく。
炎に包まれるルミダチソウは楽しそうに笑って身を揺らしていたが、やがて眩く輝いたかと思うと細かな光の粒となって空気中に散らばっていった。
「今はこの地に貴方達を受け入れる力がない事を申し訳なく思います。せめてこの地と1つとなり、新たな生命の礎となってくださいませ」
未だ残っているルミダチソウらへ向かい、焔子は失楽炭刃を振りかぶる。
アデリーヌ・ライアーは花粉対策としてキャヴァルリィに乗り、オリハルコニウムハンマーでルミダチソウの対処に当たっている。
ハンマーで叩くたびにルミダチソウから花粉が飛び散るが、気密の完璧なコクピット内に居れば何の問題もない。
ハンマーを振り回しながら、時々大地母神の浄化で周囲に散らばった花粉の浄化を図る。そうして再びハンマーを構え、足元のルミダチソウ達が満足するまで叩きまくって相手をする。
ルミダチソウ達が満足して消え去ると、周囲を見回してここに住む生物を探す。と、風に乗って何やら毛玉のようなものが流されてきてキャヴァルリィにぶつかった。
「あ、見つけたのですよ」
ルミダチソウの駆除はあくまでついでであり、アデリーヌの本来の目的はこちらだ。風に流されて移動するもふもふは、テルスより運んできた生命の種子から生まれた存在だ。この近くにもふもふが生息している事は知っていたので、ルミダチソウが転化したエネルギーをこの子らに与え、より成長させるのがここへ来た目的である。
風に乗って一匹、また一匹とキャヴァルリィにぶつかって止まる。移動して再び風に乗りなおす事は可能だろうが、止まったもふもふ達はキャヴァルリィにくっついたまま動く様子はない。大地母神の着衣を纏うキャヴァルリィに、何か親近感のようなものを覚えたのかもしれない。
もふもふ達が自分から離れていくまで、アデリーヌはそのままキャヴァルリィを停止させておくことにする。
「さやかに流れる~昇竜川ぁヨォ~」
昇竜川に来た
ダヴィデ・ダウナーは昇竜川ルミダチ節を口ずさみつつ、ルミダチソウの間を歩いていた。
歌いながら手近なルミダチソウの頭を掴んで引っこ抜くと、サブミッションホールドで首っぽい部分を極める。折ると光るのはルミマルと同じなようで、サブミッションホールドを受けたルミダチソウらはそれまでよりも強く光り輝いていた。
周囲には影を実体化させて作り出したダヴィデの分身達が。最大数である十体を召喚しているので個々の戦闘力は非常に弱くなっているが、ルミダチソウの首を折るだけなら問題は無い。
「この民謡にはな、他の生物と友達になるための教えが込もってるんだ」
そう言って、首を極めながらルミダチソウ達に民謡を歌い聞かせる。
疲れてきたら一匹の頭を取って近くに準備しておいた鍋の所まで持って行く。小型チョコレートファウンテンやドドメブランを使って作った闇鍋にルミダチソウの頭を断面を下にして投入し、出汁を取る。しばらく煮込んだら味見をし、
「苦っ!」
あまりの苦さに本気でむせた。
鍋に入れていたルミダチソウ(頭のみ)を手に持って、ダヴィデは歩き出す。川の近くに庭園の予定地があるので、そこへ持って行って植える予定だ。妙ちくりんな顔が付いているが身体は立派な植物だ。きっと馴染む事だろう。
「そこの外来種さん方、少しこちらを向いて頂けませんか?」
砂原 秋良はぺちぺちと剣でセイタカルミダチソウ達を叩く。場所は不可思議渓谷。名前の通り、不可思議な自然で形成されている渓谷だ。
「何か用ルミ~?」
首を傾げるルミダチソウからは動きに合わせて花粉が噴出している。天衣無縫の境地により秋良には特に影響はないものの、周囲の生物にとっては害である。暫く話し相手にでもなろうかと思っていたが、これはなるべく早く終わらせた方が良さそうだ。
「一緒に遊びませんか、というお誘いです。行きますよ!」
返事は待たず、秋良は夢想天剣を手に天津奏で舞いを行う。自然体でありながら華やかで美しく、そして雅な舞だ。その身に炎の巨人カグツチを纏い、周囲に火の粉を散らしながら力強い舞踏でルミダチソウ達を魅せる。
婆娑羅らしく、歌って踊って観客を楽しませる秋良。火の粉に触れて沸き立つルミダチソウ達を眺めながら、彼女は願う。この場所がいつまでも笑顔が溢れる素敵な地であり続けますように、と。
(その為なら、これくらいお安い御用です)
眩い未来を信じ、秋良は舞い続ける。ルミダチソウ達をエネルギーへと転化させ、ここに住む生物達を育てられたなら、きっとそうなる筈だから。
歌って、踊って、戦って(?)。
楽しく遊んで満足したセイタカルミダチソウは、やがて光の粒となって消滅し大地に溶け込んでいく。
その日のうちに、セイタカルミダチソウは全て姿を消していた。
良質なエネルギーへと変質した彼らは、この土地の生物たちをより強く、逞しく成長させてくれることだろう。