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≪セレクター編≫新たなる絶望

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≪セレクター編≫新たなる絶望
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・この世界を守るため

 クロノス・リシリアは情勢を見据えつつ、疑問を声にしていた。
「フラウスと一緒に居るのは誰? 新しいセレクター? でも、あの二人と似ても似つかないけどウェンディが彼らの魔力を感じ取っているみたいだから間違いないはずだけれどどういうこと? ……新入りとは言え、相手はセレクターだから油断はできない、絶対にWHを護るんだ!」
「お二人とも、お久しぶりです。色々と思うところもあるとは思いますが、今は目的のために力を合わせませんか?」
 グリムとウェンディに協力を仰いでいたのはルキナ・クレマティスである。
 ここに来るまでにも一度提案してみたのだが、グレムリンを目の当たりにするまでは決意も揺らいだのだろう。
 だがこうして対峙してみればそのような逡巡は意味がないのだと分かったはず。
 首肯した二人に、ルキナは結構、と指を鳴らす。
「戦闘開始です。皆さん、よろしくお願いします」
「オーバーザレインボー」の虹を生み出し、後衛であるフレデリカ・レヴィルイーザ・レイシュタインを守護する。
「“グレムリン”なのに機械類で武装していない異形の怪物なのね。と言うことは機械類以外にも干渉できる能力なのかも? だとしたら何かを操作したり、外部から力を借りる行為は危ないかもしれないわね」
「グレムリンを名乗っている以上、伝承とそう乖離した能力ではないはずです。まずは能力の正体を見破らなければ何も始まりません。能力が分かればグレムリンから二人を引き剥がす方法だって見つかるかもしれないじゃないですか」
 ルキナは「ファンタジア+」を展開し、「双玉の杖【スタッフオブオズ】」と「果てなき物語」によって世界を塗り替えていた。
 直後には、周囲の空間は遮蔽物のない青空と草原に変容している。
「グレムリンとやらがどのような存在なのかは存じませんが、お嬢様が倒すと仰るのであれば、私はそのために力を尽くすのみでございます」
 モリガン・M・ヘリオトープは「ハヴァマール」で味方を鼓舞し、「ディスラプション」による高速移動で間合いを詰めてみせる。
「参ります」
「守護者の聖鎧【グリトニルの黄金鎧】」で飛翔し、「蒼穹の標【スカイゲイザー】」と「黄昏の証【スカイゲイザー】」の二刀を「デュアルソード」の太刀筋を活かしてグレムリンを切断せんと刃が閃く。
 数多の攻勢が煌めき、超至近距離の刃はグレムリンの体勢を崩すことが本懐だ。
「愚者の片眼鏡【正直者の眼鏡】」でその攻勢を見守っていた愚者 行進ははぁと嘆息をつく。
「いやはや、パーターとペーターは新しい命として再誕した感じなのかな? 主人公適性の高い二人に会えないのは辛いが、まずはこの世に生まれ落ちた新しい命に祝福を。そんでもって、僕も脇役として、全身全霊で足掻かせて貰おうじゃないか! さぁ! 愚者の行進を始めよう! 無様に愉快に滑稽に! たとえ手足が折れようと愚者の行進は止まらない!」
「愚者の鳥籠【ザ・フール】」を大鋏に、「愚者の境目【ザ・フール】」を愚者のカードに変化させ、グレムリンの注意を引く。
「さぁ、どれだけ踊ってもらえるかな! 脇役として、主役級の化け物と戦うと言うのは光栄でしかない!」
 迫る攻撃を「バックスライド」と「スロウアデプト」で投擲と回避しつつ、「行動予測」を怠らない。
「グッドスーサイド」を織り交ぜて、大鋏で切り裂き、愚者のタロットを投擲して、突き刺さったそれを掴んで双剣に変化させる。
「愚者の偽笑【愚者の偽笑】」を心がけて、愉快な笑みで読めない歩調を崩さない。
 それはきっと、敵を苛立たせるのには充分であろう。
「神狩りの外套」と「ルドラの護符」を身に着け、「咎竜タルア=ラル【グランブルムヴァイス】」に騎乗したのは十文字 宵一だ。
 ルキナの作り出したフィールドにて、「神狩りの剣」を提げて、グレムリンの攻撃を「離環」で受け流す。
「召喚獣:フェンリル」を呼び出し、前衛にて行動したのはリイム・クローバーであった。
「風の鎧」を展開し、速度を向上させる。風圧で纏った「AAコート」が翻っていた。
「ユグドラ・ワンド【AAワンド】」を掲げ、魔力弾を拡散させて放出する。
 前衛にて、クロノスは「ザ・ペイシェンス」を纏い、「アズールセイバー」の太刀筋を閃かせる。
 グレムリンの爪と激しく打ち合い、火花が散っていた。
 その模様を眺めていたのはシャーロット・フルールであった。
「ボクは特異者じゃなくてアイドルだから、別に借り物じゃないけどね? この力もアバターじゃなくてスタイルだっ☆ ウェンディちゃん、ごめんね。前回、ルキナちゃんに協力してぐしゃちゃんやクロノスちゃんと一緒にパーターちゃんとペーターの足止めを買って出た身ではあるけれど、まさか二人がウェンディちゃんが死んじゃったと勘違いするほどボコボコにする気はなかったんだよ。元々、何で二人が、ボクが大好きなうそちゃんが見つけたワンダーウォーカーになってるか興味があっただけだったんだよ……たぶん、あの子に食べられちゃったんだよね? 魔力を感じるってことは……」
 アレクス・エメロードはその言葉に補足する。
「ボコって吐き出させるとか、何をやっても無駄かもしんねぇが、やっちまったことの責任は取るさ。ウェンディ。元々、殺す気まではなかったからあの時は俺もシャロも、グシャだって足止め役を買って出たんだからな。お前らの恨み自体は理解できなくもなかったのもある。悪いのは、それを利用しやがるクソ野郎共だ」
 アレクスはグレムリンを顎でしゃくり、敵意を見せつける。
「グレムリンっつたか? てめぇは何が憎いんだ? ウェンディなら生きてる。死んじゃいねぇ。傷つけたこと自体が許せねぇか? もう何が憎かったのかも分からないか? 借り物の力で偉そうにしている奴らが腹立たしい、そうかそうか。あいにく、俺らは正確にはシンギュラルじゃねぇ、アイドルだ! 覚えときな。これからシャロの放つ、コネクトはシャロ自身の力だよ。次元が違うから通じねぇかもしんねぇけどな。今のホライゾンには地球以外が出身の奴らも多いんだぜ」
「助けられるかは分かんない。もうとっくに手遅れなのかもしれない。でも、絆を断ち切ってしまった身としては全力でやってみる! ボクはウェンディちゃんとパーターちゃん、ペーターちゃんの絆をもう一度繋ぎたい。アレクちゃん、力を貸して」
「応よ! 任せな、シャロ」
「ユニゾンどらいぶっ!」
「プリマ・ヴェスティート」を翻し、「レジェンドスターズオーラ」を纏っていた。
 そのオーラは「オールフォアワン」によって共有され、フレデリカ、宵一、行進、ルキナへと伝達する。
「アデプトマイクver.3.0」を携え、「《神狼》ユキちゃん【融和の白狼】」と共に「アバタークロッシング」から「プレイトゥギャザー」へと組み合わせることでミュージカルの如き歌声が響き渡る。
 味方には精神耐性を、相手には幻惑の歌を。
 それはウェンディとの思い出の日々を再現してみせる。
「彼女はここに居るよ! パーターちゃん、ペーターちゃん、生きているのなら返事して!」
「オルガノレウム・イミテーション」と「オルガナイズハーモニー」が相乗し、グレムリンの中に居るはずの二人の自我を呼び起こさんと共調する。
 しかし、グレムリンは咆哮してその音叉を引き剥がそうとしていた。
 フレデリカは「スペルプリズム」の宝石を散らばらせ、ルイーザと共に「豊穣の白輝杖」で光攻撃魔法強化と「リンクバングル」での連携を意識する。
「【連携】剣の舞踏会」の光の剣を編み出し、敵の様子見を行っていた。
「これがたとえ奪われても、まだこちらには結界術があります……」
 弾かれ合ったクロノスはウェンディへと声を振る。
「ここまで耐え凌ぐとはね。ウェンディ、それにグリムも。ここ最近確認されたエラダムについて知っているかな? かみさまが作った身体が絶望感に襲われ、中身の心が“自分を捨ててでも苦しみから逃れたい”と心から願ってしまったことで孵化し、完全体となるんだけれど何故二人が消えたのにあの別人みたいな子から彼らの魔力を感じるのか? 恐らく、あの子の器は二人のどちらかだと思う。多分、ギャラルホルンが欲しかったのは強い意志を持つ作り物の身体、つまりあの子たちのことさ。完全体になって存在が変質してしまったから、もう元の彼らは帰って来ない可能性がある。ボクはみんなほど優しい言葉をかけてはあげられない。ウェンディ、それを知った上で、どうしたいのかは君の意志に任せるよ」
「私の……意志……」
「彼に絶望を与えてしまったのはボクたちだ。そこは君に謝っても許されない。けどセレクターとして、WHと敵対するのなら彼と戦うだけだよ」
「私……は……」
 グレムリンの攻勢に「フェイトブレイク」によって生み出された爆発で目晦ましを行い、状況を仕切り直ししてからグレムリンへと切っ先を向けて「ザ・ペイシェンス」の機能を発現させる。
 解放されたエネルギーを逆巻かせつつ、グレムリン相手に声を放っていた。
「来い!」
 踏み出した歩調には「インエスケイパブル」の加護があった。
 世界を味方に付ける一撃は、空間を歪ませたかのように一瞬で敵の懐に肉薄する。
 振るい上げたのは重力そのもののような一閃。
 今しがた声を上げたのは相手と目線を合わせるため。
 グレムリンは脚部に重力がかかったかのように動きを鈍らせる。
 その隙を逃さず、打ち下ろした一撃が重く突き刺さり、続けざまに「クインタプルスラッシュ」を叩き込んでいた。
 高速の五連撃が畳み掛けられ、グレムリンの躯体を吹き飛ばす。
 グレムリンがダメージを受けた一瞬を見出し、モリガンは「ドローミ」を投げつけていた。
「そこでございます」
 拘束されたグレムリンに対し、モリガンは契機を感じ取る。
 ルキナは「スーパーノヴァ」を集約させていた。
「白茨の腕輪【茨の腕輪】」と「ファンタジア+」で高まった魔力と、「ヴェアリアスカラー」による強化を騒擾させ、「ネバーランズ・ベレー」による即時発射能力を備え、グレムリンを見据える。
「ここで決めます!」
「皆様、今でございます!」
 リイムは後衛との連携を密にして攻撃を編み出そうとする。
 それは「クライオクラズム」――暗黒の凍気は白い霧として現れ、相手へと断続的なダメージを与える術である。
 リイム、フレデリカ、ルイーザによる凍結術がグレムリンの動きを封殺する。
 二重、三重と合わせられた凍結の息吹がグレムリンを留めている間にリイムはウェンディへと言葉を投げていた。
「ねぇ、ウェンディさん。もし、パーターさんやペーターさんを救える可能性があるなら、魂が凍っている間しかないんじゃないかしら? 私に“英雄の威容”を感じるものがあったのならあなたの力でハッピーエンドを勝ち取ってみせなさい! 敵だった私たちの力を借りようと思うほど、あの二人が大事なんでしょう?」
「魂が消えかけているって言うんなら……!」
 講じたのは「スイッチ:バルドルの慈愛」によって魂を封じ込め、直後に「OL.トレイルブレイズ」の炎が凍て付いたグレムリンを爆破していた。
 それでもまだ、グレムリンは健在――ならば、と「【連携】コントラクターレイ」がフレデリカ、ルイーザがタイミングを合わせて放つ。
 光芒が煌めき、染み入る光の魔法がグレムリンを圧倒する。
 その光の最中に宵一は剣を掲げていた。
 構築するのは「ラグナロクブレイク」――まさに神殺しの刃が屹立し、グレムリンの腹腔へと突き込まれていた。
 斬り付けると共に精神力を貪る力が行使され、一閃の後に宵一は言いやる。
「貪り喰らうは咎人の宿命さ」
 グレムリンは唸り声を上げ、致命的な一撃を前に凶暴性を引き出そうとしている。
 それを観察していた苺炎・クロイツは「アバター分析」で大まかな特徴を捉え、「霊醒」にて行動を先読みする。
「フューチャーヴィジョン」によってグレムリンの次の行動を予見し、「フギンムニンの宝眼」を用いて思考力を高める。
「……N界霊を食べていたと言う情報もあるわ。N界霊は私たちに呼応して現れる存在、それを食べることにより、私たちの情報や力を得ている……のかもしれないけれど、それだと私たちを獲物とするのと少し違うと思う。考えるだけじゃ埒があかない。結局は直接見なきゃ分からないか」
 ゴルデン マリーは「リープシューズ」によって空中を駆け抜けつつ、「AAトランスボウ」を連射する。
「支援砲火」は仲間に手を出させないための火力だ。
「天賦:頭脳明晰」を駆使してグレムリンの表情を仔細に観察する。
「笑えばきっと嬉しい、黙るならきっと……真剣。さて、本当は何が得意なのですかにゃ? ボクの射撃は、仲間の攻撃は、グレムリンにちゃんと効いておりますのかにゃ?」
「ウェンディ殿によればパーターとペーターの魔力を異形の怪物から感じるそうだな。ワンダーランドのアバターが原型であるなら、セレクターらによって反転した夜の姿、といったところか」
 呟いた佐門 伽傳は「【依代装備:黒蓮乃戈】」にシャブダ・ボーディを憑依させ、「【レイス】羅刹鬼眼王」によって無数の腕を顕現し、「【ジョブ】双剣聖」の技術を用い、「鬼面金剛杵」を分割していた。
 シャブダは「ジ・エクシード」のユニークアバター特攻と、「制裁剣ディカイオシュネ」による対界霊装備を既に構築していた。
「オールフォアワン」でオーラを味方と共有し、ダメージ分散を図る。
 伽傳は「リープシューズ」を用いての多面的なグレムリンの動向への観察を注ぎつつ、「【テク】ダイレクトニューロリンク」による思考加速で相手の動きの先を読んでいた。
 N界霊が流れ行く中で、グレムリンへの道を阻む個体を「制裁剣ディカイオシュネ」で両断し、直上からグレムリンへと仕掛けていた。
 携えた武装でグレムリンの攻撃と交錯する。
 雷撃が迸り、互いに火花が散っていた。
 グレムリンの攻撃が「ザ・ペイシェンス」に打ちつけられる。
 攻撃を受けつつ、伽傳は武装を奔らせる。
 複数の武器による連撃がグレムリンを削っていた。
「グレムリン、と言ったな。地球の伝承の、機械に不具合を起こさせる妖精がモチーフだろうか。出し惜しみはなしだ」
 共有したオーラによる連携攻撃――それは苺炎やゴルデンと攻撃の契機を一体化させる。
「ザ・ペイシェンス」の能力を解放させ、グレムリンの放った拳を先読みして回避する。
「電光石火」による加速度も手伝い、「レイヤーオブアバターズ」のオーラが一際輝く。
 オーラを追い風とした高速の打突――それは「金剛砕破」の一撃となってグレムリンの躯体へと食い込む。
 グレムリンが振り仰いだ先より爆炎の術式たる「オメガフレア」の矢を番えたゴルデンの一撃が視界を灼熱に落とし込んでいた。
「ジ・エクシード」を装着した苺炎は「フォーチュンテンペスト」で運命の糸を手繰り寄せ、最初からそう想定されていたかのように、拳はグレムリンの頭蓋へと叩き込まれていた。
 吹き飛ばされたグレムリンを「永劫の探求」で分析するのはクロウ・クルーナッハである。
「知恵と技術は弱者にとって最大の武器、か。だがそれは誰にとっても同じだろうよ……知恵と技術は連綿と人が積み重ねてきたモノだからな。それを奪う、というのは気になるな。もし奪ったものを溜め込んでいるのなら、ぜひとも吐き出してもらいたいものだ」
「ラプラスの魔瞳環」の弾き出したグレムリンの状態は追い込まれてはいるが、それでも未だに健在と言う恐るべき代物である。
「バイオコンピュータ」で能力を底上げし、「無窮の探訪」で対応する。
「完全に同化しているのかも気にかかるな、確かパーターとペーターとか言う。未知の相手ならばこそ、試せることは全てやっておくべきだろう」
 グレムリンは漂うN界霊を引っ掴み、そのまま牙を突き立てる。
 その模様に土方 伊織は当惑していた。
「はわわ、ヴォーパルさんへの負担軽減のためにも侵入者さんにはお帰りになって貰いたいところなのですけれど……N界霊さんは食べ物じゃないと思うのですぅ」
 グリムの傍でこれまでの戦いにおいてつけ入るすきを模索していた伊織は「ピーシュチャラ」を構え、「マークスマンズドクトリン」の技術で螺旋の魔法ビームを照射する。
「【僚機】メガリス×3」が浮き上がり、牽制の意味合いを持ってグレムリンへと照準を絞っていく。
 グレムリンの眼差しが向いたのを、「界霊獣アゲンスト」が壁となって屹立する。
「N界霊食べちゃう相手なので……食べられないようになのですよ~」
 サー ベディヴィエールは「ケルベロス【ケルベロス】」に騎乗し、「アザルトバンカー【アザルトバンカー】」を構えていた。
 グレムリンの巨躯が跳ね、爪が軋ろうとするが、その攻撃を潜り抜けて「サイコデュレーション」による認識加速を行い、同時に「サイコアクチュエータ」による肉体加速を伴わせる。
 一気にその腹腔を見据え、重い一撃を食い込ませていた。
「此度の相手はウェンディ様と何やらご因縁がある様子。ご無理をなさらぬように出来得る限りご協力していきたいところです。……しかし、N界霊を食しますか……」
 グレムリンは咆哮し、その瞬間には「チクタクアーマー」で浮遊したユファラス・ディア・ラナフィーネを視野に入れていた。
「行こう、トゥーナ。オレたちの力を見せてやろう」
「スペルビア【GC:ヘルブレイズ】」の黒炎の射線を延ばし、グレムリンの視野をまず奪おうとするが、グレムリンは機械特攻を持つ。
 操られた「【ギアストーン・ネビュラ】」に期待していた回避率と命中率が僅かに下がり、グレムリンの拳が眼前に迫る。
 だがそれは――計算ずくの応戦だ。
 トゥーナ・イステルはその模様を観察し、「アンカーショット」を用いての移動でデブリの陰を利用しつつ、纏った「隔絶の危服」は残像を編み出しながらグレムリンを翻弄する。
「さぁ、グレムリン。ボクと遊ぼうよ。本当の君を見せておくれ?」
「夜凱鳥」を生み出し、闇の翼が翻ってグレムリンへと殺到する。
「偉端の加速」による発動速度の向上で隙を減らし、グレムリンの注意を背負っていた。
 グレムリンの払った爪へと残像を引いてかわしつつ、「【栄具】冷笑の首飾」と「【栄具】殊勝の言霊」で「【原典】賢王の刃無槍」を基点として原点回帰を行う。
 周囲に纏い付かせた冷気と強い香り、そして音がグレムリンの方向感覚を狂わせる。
「ピンチこそチャンス。これは戦いの鉄則だよ。それに……グレムリン……君の元に向かう直前にとっておきを使っておいた。ほら、よそ見したら狼が影から牙を突き出すよ?」
 それは闇の偉能力を用いた異端者の召喚術である、「深淵の遣い」だ。
 影に溶け込んだ狼の牙がグレムリンの足を奪い、その闇の牙が突き立てられる。
「これがボクの切り札だよ。そして、よそ見は駄目だって今言ったところじゃないか」
 ユファラスが「ゼロディスタンス」で重力制御、操作を応用した瞬間移動を用いる。
「空間圧縮による肉薄……掴ませてもらった」
「偉能複写」で闇の翼が翻り、一斉に奇襲をかける。
 その翼が直後には「【聖装】天啓術式」によって、光の翼に切り替わっていた。
 神聖なる闇に変換された翼を操り、ユファラスは声にする。
「一つの世界の力だけが特異者じゃない。さぁ、複数の世界の合わせ技を喰らえ」
 グレムリンに突き刺さった翼の一撃は彼の者の姿勢を崩し、特異者たちに光明を見出させる。
「見極めた活路を駆け抜け……このまま穿ちます。明鏡止水……!」
 小太郎の「明鏡止水」の一撃がグレムリンへと深く食い込み、その巨躯を吹き飛ばす。
 その先で待っていたのは優であった。
「制裁剣ディカイオシュネ」に武装を持ち替え、「吟風弄月」の抜刀術がグレムリンの隙だらけの肉体を寸断する。
 それは急所を的確に狙い澄まし、蓮花の眼が見出した「ブロウクンポイント」――無力化の箇所――それを見据えた先の刃が煌めいていた。
 グレムリンが元の少年の形状にまで還元される。
 その身体へと、シャーロットは「コネクトオールマイティ」で呼びかけていた。
「帰ってきて、パーターちゃん、ペーターちゃん。ウェンディちゃんもほら、手を伸ばそう。彼らを一つの命として迎えよう!」
 その刹那――獄炎がグレムリンを焼き尽くす。
 想定外の事態に誰もが驚愕していたが、その極致魔法を手繰る存在だけは、落ち着き払っていた。
「及第点にも届きませんね。サヤには悪いですが、テストは失格です」
 焼け落ちていくグレムリンに、ビーシャ・ウォルコットは赤のフラウスを見据えていた。
「……味方なんじゃないんですか」
「味方? セレクターは仲良しグループではありませんよ。彼は我々の領域に達していなかった。ただそれだけです」


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