・三千界に干渉する獣
『来たな、ホライゾンの特異者たち。“借り物”の力で俺を止められるかな?』
紫月 幸人はグレムリンの攻勢を見据えて言葉を発する。
「まぁ派手にやってるなぁ。何だろ、あれ、獣人? それと殴りたくなる顔をしてる胡散臭い人も居るな。ま、暴れてるしとりあえず声かけて大人しくしてくれるならそれで良し。襲ってくるなら迎撃するってことでいいでしょ。はいはい、こんにちわ。そこのお二人さん、ちょっと人の家の近くで騒がしくするのやめてくれますぅー? こちとら愛しのマイレディからの贈り物のお手入れタイムなんですよ。迷惑してるんで大人しく帰ってくれない?」
『なら力づくで追い出してみろよ。それとも挨拶せずに踏み込んだから怒ってるのか? 俺はグレムリン。セレクターのグレムリンだ』
「まぁ俺は銃器メインだから、あんたとはやり合わないよ。あっちの魔法使いメインかね」
高橋 凛音は「レイヤーオブアバターズ」を纏い、「僧正法衣」を翻す。
「本格的にちょっかいを掛けて来たのぅ……。さて、やれる限りの全力でお迎え致すとしましょうかの……」
「霊醒」の霊力関知と「情況予測」を併用して、前衛を務める者たちを見据える。
辿り着いた
草薙 大和はハッとして叫んでいた。
「あれは……赤のフラウス! コロナの故郷ステイティオを襲い、エスタ島にも界霊をけしかけた張本人だ。今度はヴォ―パルの首飾りにも手を出してきたというわけか。これ以上、奴に破壊活動を続けさせはしない。必ずこの場から撃退してみせる」
「赤のフラウス……わたしの故郷やエスタ島を襲った魔法使いです! ヴォ―パルさんの首飾りにまで手を出すだなんて……いい加減にするのですよ! もう本気で怒ったです! 全力で打ちのめして、この場所から叩き出すです!」
草薙 コロナは怒りを湛え、フラウスを睨み据える。
「そっちのほうから打って出て来るとはな」
信道 正義はフラウスを認め、武装を携える。
「あの状況から戻ってくる辺りはさすがにセレクターの一員か。アルテラでは仕損じたが、今度は逃がさない。この場で確実に仕留めさせてもらう。世界を救うため、願いを叶えるため、ワールドホライゾンを守るため……。戦う理由は山ほどあるが、今日の戦いはもう一つ追加だ。グリムのヤツと、やっと肩を並べて一緒に戦える」
正義はグリムへと目線をくれていた。
「約束したからな、お前と一緒に戦いたいって。共に三千界救うために、真の意味で力を合わせたいと。あの時の言葉を口で言うだけにするつもりはない。それを証明してみせるさ」
「ああ、まずはあの変なヤツを弱らせないとな。パーターとペーター、あいつから感じるんだろ?」
星川 潤也はウェンディを一瞥し、「ジ・イマジネーション」を付与させた「AAトランスボウ」を速射する。
弓矢はグレムリンの表層へと命中するも、ダメージはない。
だが、ただ闇雲に放ったわけではないのは「マハトマの約束」の加護によって証明済みだ。
『加重の力か』
「体力を奪うマハトマの約束を纏わせた矢なら、分かりやすく傷つけられない代わりに動きにくくはなってもらうぞ。ウェンディ……辛いかもしれないけれど、きっとパーターとペーターはグレムリンの腹の中だ。でも、諦めずに語り掛けろ。お前の声がパーターとペーターに届くように……俺たちが全力で助ける!」
その声に導かれたように
アリーチェ・ビブリオテカリオもウェンディの傍らへと歩み出る。
「パーターとペーターの心を取り戻そうなんて、みんな、つくづくお人好しよね。でも……まぁ嫌いじゃないわ。ほら、あたしも手伝ってあげるから。ウェンディ、あんたも諦めずに頑張りなさい。あんたの大切な仲間なんでしょ、パーターとペーターって」
アリーチェは「スーパーアダプトワンド」を掲げ、「【ジョブ】ショートシフター」を用いてグレムリンの背後に回り込む。
小規模な茨のフィールドは「【ES】ローズガーデン」であり、さらに腕から出現させた黒い鞭は「【ES】リバティーウィップ」――グレムリンを束縛する。
双方を可能にするのは「アートミングル」の効力だ。二重の拘束スキルが発現してグレムリンの動きを阻害していた。
「茨と鞭の拘束、受けてみなさい!」
『こんなもので、留められ続けるとでも……』
「まぁ、長くは拘束できないだろうけれど、これでみんなが仕掛けるためのチャンスを作るわ。拘束が解ける前に頼んだわよ、みんな!」
「レイグランドワーク」にてウェンディと事前に打ち合わせていた
邑垣 舞花はその視線を振り向ける。
――構わないか、という意思表示。
ウェンディは強く頷き、舞花は
ノーン・スカイフラワーへと声を張る。
「ノーン様! 手はず通りに!」
「了解だよ! わたしも頑張ってウェンディちゃんのお手伝いをするよ!」
番えたのは「インドラの矢」で強化された「アカシックスピア」だ。
グレムリンが力任せに攻撃しようとするのを留めたのは
DDM- 23である。
「【ジョブ】ロイヤルガード」を駆使し、「聖竜の盾」と「竜眼の宝盾」の二つで、その膂力を防ぎ切る。
「畏マリマシタ。皆様ヲオ護リシマス」
DDM- 23の守りが通用している時間を無駄にするわけにはいかない。
「アカシックスピア」がグレムリンを射抜く――これで「過去の最も嫌悪する記憶」が呼び起こされたはずであったが――。
グレムリンは咆哮を上げ、有り余るパワーで振りほどこうとする。
「効いてない?」
「いいえ! 反応はあるはず……それでも拒むということは……既に自我は……?」
舞花の推測に対し、グレムリンはその力の制御も効かない様子で爪を軋らせる。
DDM- 23が翼を宿し、その攻撃を防いでいた。
「ウェンディさんは……パーターやペーターさんに何を伝えたいですか?」
「空即是色」の極致に至った
小山田 小太郎の問いかけにウェンディは言葉を濁していた。
「私は……どうしても知りたい……。まだパーターとペーターに、希望があるのなら……」
「よろしい……ではこれから己が成すのはアバタークロッシング……伝心の刃による力を底上げし、想い響かせる近接戦闘です」
グレムリンの拳が迫るのを、小太郎は読み切り、その軌道を予見して回避しつつ、「色即是空」の力を活かして、「金剛力」によって筋力を膨れ上がらせる。
それは研ぎ澄まされた肉体の発露。
「不屈の指輪」で威力を底上げした拳がグレムリンを激震していた。
それはただ単に打撃攻撃なだけではない。
「伝心の刃」によってウェンディの想いを乗せ、彼女の――パーターとペーターへの想いそのものが拳の威力となって伝導しているはずだ。
「グレムリン、確か小太郎君の世界で伝わる機械に悪戯をする妖精、だったかしら? そのままの存在ではないかもしれないけれど……伊達や酔狂でそう名乗っているわけでもないでしょう。その能力、その人物像……しっかりと見極めましょう。その先に私たちの、そしてウェンディさんの望む未来を掴む手掛かりがあるかもしれないもの」
八葉 蓮花は
八代 優と視線を合わせる。
「……拳に想いを。……そして、この音色に祈りを込めて」
蓮花は優の持つ「【依代装備:聖麗笛】」へと憑依し、「クールアシスト」でグレムリンの動向を見据える。
優は眠りを誘引する音色を響かせていた。
グレムリンが攻勢に入ろうとするが、「写身」で自身の分身を生み出して翻弄する。
爪がその身を裂こうとするのを「電光石火」の防御結界が生み出され、音色を止めさせない。
小太郎の拳の連撃は続くが、グレムリンが一体何を考え、そして何を思って自分たちの前に立ちはだかるのか、その命題が見えないままであった。
しかし抵抗だけはある。
それは思い出してはいけない禁忌か、あるいは答えがそこにあるのかは分からない。
だがしゃにむに手を伸ばしていい理由にはなるはずだ。