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≪セレクター編≫新たなる絶望

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≪セレクター編≫新たなる絶望
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・“セレクター”黒田 官兵衛の生き様 前


「バカな、決して折れねぇから“真正”なのに……。やってくれたな」
 簡易錬成の効果は消え、金になっていた刀身は元のへし切長谷部に戻っていた。
 官兵衛は折れた刃を拾い、斬れて血が流れるのにも関わらず、強く握りしめた。
「折れちゃったけど、また琵琶ロックスタイルに戻って続けるわけ?」
「亡霊兵を召喚するのも負担になる、外の戦力もほとんど消えかけてる。
 降参する気は……まぁ、ないわよねぇ」
 官兵衛が動揺しているのは明らかだった。
 さらなる揺さぶりをかけようとする直子とバルバラだったが、直子の顔にはもはや当初あった挑発的な笑みはない。
 自分たちへの逆恨みだけが、官兵衛がセレクターの一員として戦っている理由ではない。
 戦いを通し、それが感じられたからだ。
「……オレたちセレクターに仲間意識なんてものはねぇ。
 どいつもこいつもオレには理解できねぇヤツばかりだ。
 だがな、別にギスギスした関係ってわけでもねぇ」
 官兵衛のオーラの白い輝きが強さを増し、電光が走った。
 握っていたへし切長谷部の柄と刃がオーラと混ざり合い、官兵衛はそれを繋ぎ合わせることで復元した。
「アイツらと関わったから得られたもんがある。
 引くことも止まることもできねぇとこまで来ちまったら、あとは悔いや未練が残らねぇよう、やり切るだけだ」
 城の天井が消え、赤い月の光が差し込む。
 官兵衛が床に刀を突き立てると、八体の亡霊兵が顕現した。
「黒田八虎。今度はちゃんと全員いる。
 “全力程度”でてめぇらを止められると思ってたオレが甘かった。
 命を懸ける。
 月並みの言葉だが、オレの全生命力と魔力を賭け、全てをアバターの力に還元する。
 腹ァ、括ったぜ。オレはよ」
 官兵衛の顔から笑みが消え、真顔となった。
「今ここにいるのは千国の英傑、軍師黒田 官兵衛じゃねぇ。
 “セレクター”黒田 官兵衛だ」

「琵琶ロック野郎……なんて覚悟だ……」
「そうまでしてここを守りたいのでしょうか。……いえ、違いますね。あの顔は」
 本丸もまた、官兵衛の一部であると彼は言っていた。
 それが崩れているということは、今の官兵衛は今しがた言ったように、自身の生命力を全てアバターに注ぎ込んでいる。
 オーラの力が増大しているが、それが尽きれば官兵衛の命の灯が消えることとなる。
「……死に場所をここと決めたのなら、終わらせてやる」
 桐ケ谷 彩斗が魔剣フェアウェルを触媒に神聖武装『Reaper』を形成した。
 フェアウェルは彼自身の体力と魔力を蝕み続けるが、黒の元素の色の加護を得る事によってそれを回避している。
「まずは亡霊兵をどうにかしませんとね」
 エレナ・ステリアはパラレルオペレーションの演算力で神格装備のムシュマッヘ二挺を同時に操り、毒を帯びた水弾を亡霊兵へと放った。
 当初の三体だった時と違い、八体の中には弓を構えている者もいる。
 水弾を防ぐ個体がいる一方で、高速の矢で遠距離から攻撃する者にも対処している。
「速いですね……官兵衛本体のオーラの影響で、亡霊兵もここまで強化されますか」
 エヴァンジェリズムの瞬発力とルドラの護符で発生させた風のフィールドで直撃を避け、時にエナジーウィング+の急加速も使うことで反撃を切り抜けた。
「クイーン、ナデコ。砲撃用意!」
 エレナよりもさらに後方から、海塚 鳥がクイーン(超海/戦艦“QE”)とナデコ(超海/戦艦“大和”)の指揮を執る。
 熟達武姫官である鳥もまた、霊兵装の撫子砲と41cm連装砲による砲撃支援を行う。
 普通ならばこれだけの砲撃を屋内で放てば城ごと吹き飛ぶものだが、ここはアーモリーではなく、城もまたワールドデブリの持つ世界の残滓のエネルギーと官兵衛の術によって生み出されているもの。
 この本丸に限っていえば、官兵衛が健在である限りほとんど破壊できない事がこれまでの戦いで証明されている。
 ただの亡霊兵であればこの砲撃で数百単位をまとめて一掃できるが、三人による戦艦砲の攻撃にも関わらず、減ったのは二体。
 一騎当千の性能を持つことは疑いようがないが、官兵衛の力によってダメージを大きく減らされてもいるのだろう。
 撫子砲着弾時には衝撃波が発生するため、鳥とナデコの砲撃は亡霊兵の動きを止めるのに大いに貢献している。
 一方、影響範囲と威力、屋内であるが故に普段から連携している彩斗たち以外の味方とは息を合わせにくいため、まずは彩斗が官兵衛に接近する好機を作り出すのが優先だ。
「しかし妙ですね。アーモリーほど広範囲ならないとはいえ……大和砲の単純な威力からすれば、衝撃波はこの程度ではないはず」
 鳥は亡霊兵からの射撃を回避し、砲撃を止めんと近づいて来る個体は副砲である八連装ポンポン砲を掃射することで後退させた。
 場の違和感はエレナも感じていることだった。
 目に見える形でダメージを受けている様子はないが、彩斗を含む数名が何かに押されるようにして動きを鈍らせている。
「……ゴダムで官兵衛と戦った人たち、何かされているようですね。
 いえ、今この場で初めて戦った方で……直接刃を交えた方も、ですか」
 戦いが長引くにつれ、細工の対象となる特異者は増えるだろう。
 だがそれを打ち破り得る可能性を、彩斗は持っている。
 
 官兵衛のオーラによるアンチアバター攻撃や亡霊兵の攻撃を避け、時にカヴァーチャの防御で耐えながら、彩斗は官兵衛との間合いを詰めた。
(命を削っているとはいえ、これが強化なら……俺の『訣別』は刺さるはずだ)
 一撃を与えることができれば、触媒にしているフェアウェルの効果で、再強化を防ぐこともできるかもしれない。
 無論、相手は自らの命をすり減らして力に変えている。浸食や呪いを跳ね除ける可能性は十分にあり得るだろう。
 加えて、これまでの戦いで受けたアンチアバター攻撃による能力低下の影響もまた、解除されてしまう。
 彩斗が動くのがもう少し早く、へし切長谷部が折られる前であれば、ゴダム戦で得た特異者への有利を捨ててでもリセットを図り、仕切り直していただろう。
 もっともそれは、彩斗の神聖武装の性質を見抜けていればの話、だが。
 魔導騎士の神聖武装の性質を初見で見抜くのは不可能に近い。
 使い手が自らの口で明かさない限りは、状況から推測するほかないものである。
 今はもう躊躇う理由はない。
 刺されば自分たちに付けられた“印”もまとめて解除し、代償とした生命力分の強化もリセットできる。
「望む結末のために……」
 聖約により、彩斗はReaperを活性化し、その上でエターナルブレイブを発動する。
 自身の身体能力をほとんど限界まで高め、全速力で距離を詰める。
 それを合図に、エレナと鳥も動く。
 鳥はクイーンとナデコに指示し、残る六体の黒田八虎の亡霊兵を砲撃させる。
 自身はフルドレスを発動し、霊兵装のリミッターを解除した上で連突砲撃Ⅰを官兵衛に向けた。
 エレナは二挺のムシュマッヘの力を解放し、合せて十四発同時に巨大な蛇の姿へ変えた水弾を放つ。
 ここまでの規模となれば回避は現実的ではない。
 官兵衛はオーラを集束させ、これまでで最も強固なバリアを展開した。
「来いや、黒いの!!」
 片手でバリアを支えつつ、オーラ化したへし切長谷部を握り、官兵衛は彩斗を迎え撃たんとする。
 彩斗の魔力の流れに干渉し、その動きを止めようとするが加速していた彼の勢いは今更止まらない。
「貫き断て――Reaper!」
 彩斗はソニックエアを繰り出し、バリアごと官兵衛を斬り裂いた。
 訣別の性質が官兵衛のオーラを弱め、彼を起点としていた術もまた解除される。
 城の崩壊は進み、床が傾いた。
 だが……官兵衛はまだ膝をつかない。
「全部消しちまいやがって。だが、生きている限りオレは倒れねぇぜ?」
 浸食と呪いを跳ね除け、再びオーラを膨らませた。
 そうすることで寿命はさらに縮むにも関わらず。
 
 勢いのままに駆け抜けた彩斗に続き、飛鷹 シンは官兵衛との間合いに入った。
 これまで直子の側で彼女を守っていたが、直子はもはや官兵衛を煽ろうとはせず、じっと観察し、力の本質を探ろうとしている。
 命を懸けた程度で無双できるほど三千界は甘くない。
 ましてや覇王誕生を阻止し続けていた直子であれば、そういう必死な者を何人も見てきただろう。
 そんな彼女を圧倒するだけの気迫が、今の官兵衛にはある。
「凄ぇやつだよ、お前。反骨心一つでここまで強くなって、いざとなれば覚悟も決められるなんてよ」
「あぁ?」
「正直、憧れちまう。ただの逆恨みだけじゃここまでのことはできねぇ。
 他の連中はまだ分からねぇが、お前には確固たる芯と譲れないもん、ってのがある」
 根底にあるのは、英傑として何もできないまま終わってしまった後悔だろう。
 サヤとの出会いや直子への恨みは成し得なかったことを別の形で成すためのきっかけに過ぎない。
 少なくとも官兵衛は、サヤより先に特異者たちと出会っていたなら、別の形で関わる可能性があっただろう。
 それはもしもの話でしかない。既に官兵衛は後戻りのできないところまで踏み込んでしまっている。
 あとはもう、命尽きるまで突き進むしかない。
 英傑として主君を支えた末に、戦の中で散る。それが彼の真の願いなのだろう。
「こいよ、世界に対する反骨の英傑。誰も殺せない最弱の特異者が相手になるぜ」
「ハン、本当に弱ぇヤツがオレの前まで来れるかよ」
 シンはトライアルアーツでAAマグナムで牽制しつつ、AAガントレッドで官兵衛に殴りかかった。
 オーラのバリアとオーラへし切長谷部による受け流しでシンの攻撃をほぼ無力化し、官兵衛が乱れた呼吸と魔力を整えようとする。
「よく見とけよ、直子。
 お前に言われた世界に真剣に向き合ってないって言葉、刺さり続けてんだ。
 だから世界だけじゃねぇ、こうやって誰であろうと馬鹿真面目に向き合い続けるんだよ」
 ジ・イマジネーションによる強化されたアンチアバター能力を有するシンだが、命を燃やし続ける官兵衛相手では分が悪い。
 離れず喰らい付くシンに鬱陶しさを感じたのか、官兵衛が攻めに転じる。
 へし切長谷部による斬撃がシンを両断する。……が、それは残像だ。
 アバターブリンクで生み出したオーラによる残像が身代わりとなってダメージを防ぐ。
 シンはすぐにオーラに触れ、自分に戻すことで地球人化を防いだ。
 その間、ザ・ペイシェンスのエネルギーをアバターに還元。
 カウンターの一撃を官兵衛の顔面に食らわせた。
「っ!!」
 官兵衛の眼鏡が飛ばされ、その体も大きく後退した。


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