・黒田八虎とへし切長谷部 中
「あれがアルがゴダムで戦った黒田の官兵衛さん、なんだね」
「ああ。だが、こうやってまた対峙して分かった事がある。
官兵衛の言葉は虚勢じゃない。今が、本当に奴が一切の制限なしに力を発揮できる状態なんだ」
アルヤァーガ・アベリアはじっと官兵衛を睨んだ。
亡霊兵を二体失い、残りは一体。おそらく黒田八虎の筆頭、利高の亡霊兵だろう。
「てめぇのツラ、よく覚えてるぜ。オレにコイツを抜かせたんだからな」
刀から放たれたオーラの塊が亡霊兵に命中する。
魔力が増大し、放たれるプレッシャーはもはや亡霊兵のそれではなく、もう一人英傑が増えたと錯覚を覚えるほどであった。
姿が変わったわけではない。それでもたかが亡霊兵と侮っていい相手でないのは確実だろう。
「簡単には近づかせてくれないみたいだね」
大剣状態にしたWエビルブレイカーを構え、
テスラ・プレンティスが官兵衛達を見据えた。
「亡霊兵は僕が引き受ける」
アルヤァーガとテスラにそう言い、利高の亡霊兵に接近したのは
四柱 狭間だった。
厳密には狭間ではなく、彼から分離したアバターのオーラ。アバターオートノマスによるアウターコアのイメージだ。
だが、持つ能力は狭間本体と同等であり、代わりにオーラを半自律させている本体は基礎能力が半減する。
狭間のオーラは虚ろに広がるもので肉体を構築し、一見すると狭間と変わらない姿となっている。
そして本体は核の状態でオーラの内部にいる。
虚に広がるものはアウターコアの能力であると同時に、アバターの特性を表す異称でもある。
「ユニークアバター持ちがこうも次々と来るとはな。オレもそんだけ高く買われてるってことか。
いや、オレじゃなくてサヤとペイルライダーが……ってところだろうな。
オレと違って、アイツらは正真正銘の化物だからよ」
狭間はテスラとアルヤァーガが駆け出すのを確認すると、ソードアシストユニットで太刀筋を最適化させた上で、外神の狂剣の狂剣を振るった。
意思を持たぬ亡霊兵が刃に触れた場合も「嫌な記憶」で動きは乱れるのか。
あるいはオーラで干渉していることから、官兵衛までフィードバックされるのか。
見ている分にはどちらとも取れないが、刃の長さが絶え間なく変化する剣の性質から、利高は下手に狭間の分身に向かって踏み込むことができない。
(倒せば黒田八虎が全て消えることになる。
外の戦いの影響から本来の八体召喚ができない程度には消耗しているみたいだが……)
倒してしまえば再召喚できない可能性がある。
仮に再召喚できるとしても、特異者と戦いながらではほんの一瞬であれ、隙を見せる事になる。
ルドラの護符で官兵衛の計略による遠距離攻撃は緩和できているが、狭間を亡霊兵に相手させつつも意識から逸らさずにいるあたり、不意打ちは容易ではない。
亡霊兵もまた官兵衛同様に守りが硬くなかなか有効打を与えられていないものの、徐々に官兵衛側に寄っていく。
外神の狂剣のリーチが最も伸びた状態であれば、官兵衛にも届き得る状態になったところで、狭間は瘴気を集約し、剣を振り下ろすようにして邪宗門・改を放った。
ザ・ペイシェンスでダメージを減衰しつつ溜めていたエネルギーをアバターに還元した上で。
亡霊兵は回避。官兵衛はオーラで暗黒の一撃を防ぎ、撒き散らされる毒素を吹き払う。
床に穴は開かない。実際には確かに破壊されたが、一瞬で塞がっていた。
「オレが立っている限り、この本丸は壊せねぇよ。だが、てめぇの狙い通りにならなくて、むしろ命拾いしたかもな。
……この城もまた、オレの一部みてぇなもんだからよ」
明言はしていないが、狭間の狙いはおそらく看破されていた。
仮に目論見通りにいった場合、狭間本体は虚ろに広がるもので城を取り込んで自らの肉体としていたが……吸収した物の特性を継ぐ以上、官兵衛のオーラごと取り込むことになる。
アバターのオーラ操作に関しては官兵衛の方が上だ。
狭間は肉体を自分の意思で動かせなくなり、核を破壊されていたことだろう。
命拾いした形にはなるが、こうなると攻撃の手札は剣と邪宗門・改のみ。
せめてこの亡霊兵だけは倒そうと、剣を向ける。
亡霊兵が横から来た攻撃に反応し、ガードした。
「こいつに反応するとはな。取り巻きの最後だけあって、そう簡単には消えてくんねぇか」
ライオネル・バンダービルトは駆け抜けながら飛翔し、亡霊兵に向き直って重力槍の穂先を向ける。
重力槍はスパイラルの高速回転機能に加え、試製AAアタッチメントが組み込まれアンチアバターを有している。
高い貫徹力は官兵衛のオーラによるバリアにも十分通用し得るもので、力の延長にある亡霊兵を消耗させるのにも効果的だ。
ウェイティングによる加重効果によって威力も底上げされており、まともに受け止めれば一回でかなりの魔力が削られるだろう。
あの亡霊兵はガードしつつ受け流した。
「これで最弱気取りとはな。俺から見りゃ、きっちりバケモンだ。前に一緒にいた九鬼の女と同じでな」
他の特異者が繰り出した一度きりの切り札にも対処し、涼しい顔して立っている。
数では特異者に分があり、その半数以上がユニークアバター持ちやアバターを限界まで鍛えた者だ。
それと実質一人で渡り合っているのだから、弱いアピールなど自虐にしてもまるで説得力がない。
再び亡霊兵に接近するが、今度は官兵衛からのより強い干渉もあり、槍の受け流しからのカウンターが来る。
ライオネルは回避するが、刃は身体に浅いながらも傷をつけた。
だが、その数秒後亡霊兵が爆発でよろめく。
ライオネルが体内に仕込んでいたケミカルボムによるものだ。
そこに狭間が追撃を仕掛ける。
「じゃ、お次は」
重力槍を砲形態に変形させ、砲口を官兵衛に向けた。
そちらではテスラが斬り込み、アルヤァーガが神聖機装【FdlL=D】による炎弾の射撃で援護している。
アルヤァーガよりさらに離れた位置からの砲撃で二人を支援するが、砲撃自体が有効打になることは期待していない。
鬱陶しく纏わりつき、出来る限り消耗させて他の特異者に繋ぐ。
それが当初からのライオネルの狙いだ。
(!! 前の戦いのことは聞いてたが、対策しといて正解だったな)
へし切長谷部による直接攻撃を含め、官兵衛はアバターのオーラを利用して攻撃してくる。
魔法、エネルギー攻撃であるため、アンチパルサーでダメージは大幅に軽減する事ができていた。
損傷率が上がった時には奥の手を使う必要があるが、この分ならもうしばらく邪魔できるだろう。
ソードアシストユニットによる最適化、ソードドミネーターによる剣との一体化。
加えてアンチアバター能力を持つ大剣。
テスラのことも、グラディアートルというアバターも官兵衛にとっては初見のはずだが、官兵衛は大剣の重い斬撃を顔色を変えることなくへし切長谷部で捌いていく。
(アルのアバターの波長は覚えた、って言ってたみたいだけど、今回のアルのアバターはゴダムの時とは違う。 だけど……)
アバターに加え、特異者の持つ魔力の流れとか、特有の色相なんかを解析されてたとしたら。
それはテスラだけでなく、当のアルヤァーガも懸念していることだ。
前回はマフィア、今回はピースメーカーでアバターは変えているが、攻撃タイミングはすべて読めているかのように、アルヤァーガの方には視線を向けることなく対処している。
DuSにより神聖機装は二つに複製され、アナライズとクイックセットによるギアの効率化があるにも関わらず、である。
「アバターを変えようと、変わらねぇそいつの力の本質ってもんがある。
その程度の小細工じゃオレには届かねぇよ」
計略とオーラによる迎撃をテスラはボルテックスフローで乱すことで切り抜け、アルヤァーガはザ・ペイシェンスで軽減しつつ、エネルギーを溜める。
その間、ライオネルが再び重力槍を槍形態に戻し、官兵衛へと突っ込んだ。
官兵衛の前にバリアが張られ、雷と化したオーラを帯びた斬撃がライオネルに浴びせられる。
アンチパルサーによる防御が間に合わず、ダメージを受けるが、
「もう一度だ」
フライバックでダメージを受ける前の状態に戻り、喰らい付く。
これを機と見て、アルヤァーガはフォースドリリースを発動。
ザ・ペイシェンスのエネルギーも解放し、全ての力を賭して焔槍を両手に形成した。
テスラもアバタークロッシングによる完全変異で身体能力を強化する。
本来であれば強制変異の上での第二段階であるため、身体に掛かる負荷は非常に大きい。
だが、官兵衛の守りを突破できる可能性があるのは今だ。
これで倒しきれずとも、全力の一撃で少しでも官兵衛の力を削ることができれば。
「俺の否を以て、お前達の是を否だと否定する!」
「この剣で、斬り伏せさせてもらうよ!」
アルヤァーガと息を合わせ、テスラは官兵衛の放つ計略――軍師の術を強引に掻い潜りながら、
「わたしはこの手を離さない――影操流渦――!」
影と自身の剣による斬撃が十字を描き、官兵衛に迫る。
「言っただろ、覚えた……ってなァ!」
へし切長谷部の刃をテスラのスーパーパワーにぶつけ、アルヤァーガの放った炎は突如消え、彼を含む数名に跳ね返っていった。
だが、官兵衛も無傷ではない。
パワーではテスラが勝ったために、刃ごと弾かれ、炎によって鎧の一部が溶けていた。