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ワンダーランド

名も無き少女の物語 後編

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名も無き少女の物語 後編
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■3-1-1.名無しの世界

 特異者たちが核を破壊した時点から時は遡る。古城内へと突入した特異者は二つのグループに分かれて行動していた。一方は核を破壊するものたち、そして残る一方は核が破壊されるまでデミを足止めし、その後に撃破を狙うグループだ。

「いやあ、洒落にならねえな! ただの追いかけっこがこんなに恐ろしいもんだとは!」

 恐怖が一周回って笑いへと変わっていたのはアキラ・セイルーン。デミを追いかけっこへと誘ったはいいものの、彼女から放たれる力の波は触れれば即死と言わんばかり、その上ぽこぽこと生まれるエラダムの兵隊たちはじわじわとアキラを取り囲もうと迫ってくるわけだ。

「あははは! ぴょんぴょん逃げておっかしいの!」

 せめてもの救いは、完全に彼女が遊び気分なことだ。アキラから遊びに“追いかけっこ”に誘ったからだろう、デミもエラダムも、アキラを本気で殺すための一手は打ってこないというわけだ。

「アキラ! あっちあっち! 右手の方からスーッと抜けていくヨ!」

「オッケーアリっちゃん! お前のカンだけが頼りだぜっ」

 アキラの頭にしがみつきながら指示を飛ばすのはアリス・ドロワーズ。小人のような体格の彼女は、アキラの頭の上から彼の第二の目となり周囲へと気を払っている。

 幸せのアホウドリを自称するアキラ。彼はあくまでも能天気な態度を崩さず楽しげにあたりを駆け回――もとい転げ回る。子供の注意を惹くように、大げさに、にぎやかに。

「かーっ! デミさんお嬢さん! よろしければお歳をお尋ねしてもおよろしくって!?」

「歳? 歳……」

「なに聞ーてるのヨ……」

 しらっとした視線のアリスがぺちぺちとその頭を叩くものの、アキラはめげずに言葉を続ける。

「いやァわたーしゃ幸せのアホウドリ! 合 体 すればしゃーわせになれるという ウ ワ サ なのですよ!」

 その文脈で年齢を聞くのはいかにもあんまりなアレ。合体(頭の上に乗っているだけ)しているアリスからすればため息をつくしかない言葉だったが、

「そういうの、よくわかんない。ずっと居た気もするし、ぱっと出てきた気もするの」

「時間って感覚が無いのかもしれないワネ。元々は神様の一部だったんでショ?」

「なるほどー! つまり、これからなんでも知っていけばいいんだってどぅわー!?」

 ふざけた話をしていると、アキラはとうとうエラダムの強烈なパンチをもらってしまう。元々彼は自衛の手段に乏しかった、この苛烈な戦場で最後まで無傷で居られることの方が難しいもの。

「立てるんでショ?」

「ああ、諦めない! すぐに挫けたら、幸せだって逃げちまわーね!」

「あははは! 時間はいっぱいあるからね、もっともっとおっかけっこだ!」

「もちろんさー!」

 血が流れても笑顔は崩さない。お気楽幸せなアホウドリとして彼はその矜持を崩すつもりはなかった。特性のドリンクを飲み干しながら、彼はこれからも続く命がけの追いかけっこを覚悟する。

 ――そうは言ってモ、あの子の相手までしてたらすぐにやられちゃうヨ!

 出来ることならば戦い続けたいアリスだが、それ以上にアキラに倒れてほしくはない。せめて一瞬でも少女の意識を逸らし、もう少し安全な位置へと動きたかった。

 そんなアリスの意を汲んだかあるいは偶然か。さんぜんねこのフェアリーが矢の如く少女へ向けて飛び出していた。

「サインください! ファンです! スズニャァァァッッ!!」

 古井戸 綱七。これまでも幾度となく少女へと手を伸ばそうとし続けた特異者だ。この戦いにおいては足手まといでしかない彼ではあったが、それでも少女のために何かをせずにはいられなかった。

「え? ファン? サイン?」

 少女もまた見知った顔に意識を向ける。遊ぶ提案よりも先に第一声を発した綱七は、そのお陰でまず最初の死を回避する。

 少女の気を引けたことを確認した綱七は、後は全ての力を振り絞る。風の結界を張り、煙幕で身を隠し、振り下ろされるエラダムの拳を受け止めいなす。たった十数メートルの距離を縮めるために綱七は三度死に瀕した。

 それでもなおかろうじて命を繋いだ綱七は、必死の思いで少女へとスケッチブックを差し出す。

「先生の作品のファンです! ぜひ先生のペンネームを教えてください!」

「ぺんねーむ……」

 彼女は答えない。デミウルゴスの力でしかない彼女に、本来の名前など存在しないから。それを理解していた綱七は更に言葉をつなげる、

「先生、自分のペンネームは無いんですか? 作品を発表するなら、やっぱり考えたほうがいいですよ!」

「わたしの、ペンネーム……」

 綱七の言葉は彼女に正しく届いたようであった。スケッチブックを受け取り微動だにすらしなかったが、彼女はそれに心を砕いていたのだった。

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