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ワンダーランド

名も無き少女の物語 後編

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名も無き少女の物語 後編
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■2-2.吹き抜ける風

 古城の広間、その奥に鎮座する核は未だに無傷、負傷は蓄積しているもののまだまだ健在の赤い靴の少女に、かろうじてその動きを抑制することの出来ているウシワカ。

「私たちが攻撃につなげるしかないわね」

 そう呟いたのはルキナ・クレマティス

「ええ。強引にでも道を開かなくては」

 応じるようにモリガン・M・ヘリオトープが二挺の猟銃を掲げる。そして彼女たち二人の後ろには特異者たちが控え、核への攻撃のタイミングを窺っていた。

「あら、あなたたちもわたくしの相手をしてくださるのかしら?」

 ルキナたちの視線は赤い靴の少女へ向けられている。ウシワカに対する手札を二人は持ち合わせていないが、だからこそ、二人は全霊を込めて赤い靴の少女へと対峙するつもりであった。

「ええ。仲間たちの刃は必ずあなたの守るものへと食い込むことでしょう」

「お手隙であれば我々にお付き合いいただければと存じます」

 柔らかくも鋭い宣戦布告。それに応じるように少女も軽くステップを踏み始めた。

「さあ……不可視の獣よ、踊る脚へと食らいつけ!」

 先制攻撃を仕掛けたのはルキナ側。術者以外には影すらみえないその獣が少女の下へと駆けていく。

「あら。その獣の弱点は知っていてよ!」

 対する少女はくるりと身体を回旋させる。無限とも思えるような高速回転、そこから繰り出される蹴りは地を這う獣にとって隙がないも同然だ。

 だが決してルキナは一人で仕掛けているわけではない。

「Shall we dance ?」

 モリガンが猟銃、ブランシュとノワールを撃ち放ち近接する。銃弾の対処、不可視の獣への警戒、それらを同時に行わなければいけない赤い靴の少女は明確に手数が減ることになる、

 しかし一人ではないのは赤い靴の少女も同じ。広間を飛び回り時折斬撃を振り落とす援護、それに一瞬でも目を奪われれば少女の鮮やかな飛び蹴りが放たれる。

「言っているでしょう? リードするのはわたくしです」

「そうは……させません! 破ぁっ!」

 少女の蹴りに併せてモリガンは銃弾と共に闘気を放つ。ぶつかり合う衝撃は空気をびりびりと痺れさせ、少女に隙を作り出す。

「! しまった!」

 不可視の獣が食らいつき、同時、それを狙いすましたルキナの断罪の雷霆が迸った。

「そろそろ決着と参りましょう」

「消えなさい。黎明の世界と共に……!」

 畳み掛けるように二人は全ての力を振り絞る。プリンセスタイムによるラッシュを仕掛け、赤い靴の少女を押し込むモリガン。彼女が逃れようとしても、因果の終束による不可避の魔弾が突き刺さる。

「やる、じゃないの……!」

 だがそれだけでは終わらない。完全な受け手へと回った瞬間を狙い、ルキナが魔力を解き放つ。スーパーノヴァ、莫大な熱量を孕むその一閃が赤い靴の身体を包んだのだった。

 激しい閃光が少女を貫き、とうとうその動きを止める。核を狙うならばこの瞬間こそが狙い目だろう。

「お願い、優さん!」

「ええ。ここから先は……私たちの役目です!」

「そうよ。大丈夫……私達の夢を阻めるヤツなんて、居ないんだから!」

 ルキナたちとチームを組んだ優・コーデュロイルージュ・コーデュロイ。二人は赤い靴の少女が完全に停止した機会を見計らって核へと飛び込んでいく。

 優は拳銃を引き抜くと上空へ乱射、飛び回るウシワカへの牽制を放ちながら走り込む。それでもなお飛来する刃から彼女を守るように波濤が立ち上がった。

「優さん、守りは任せて!」

「アデルさん!」

「私たちががんばって掴み取ってきた結末を、バッドエンドで締めくくりたくなんてないから……!」

 アデルの叫びに答えるよう、優とルージュは視線を合わせた。まるであらゆる色を混ぜ合わせたかのような混沌――極彩色の核を見据えた。

「私たちの未来を閉ざす世界――破壊させていただきます!」

 優の持つセンスオブブリーズの先端に魔力が渦巻く。ルキナやアデルたちの想いを込めて、全霊の一撃を解き放つ。

「スーパーノヴァ!」

 激しい光が核にぶつかり一層の光を放つ。城内は激しく明滅を繰り返し、光と闇が踊るように魔力が弾けていく。

「イエスタデイワンスモア……!」

 一度で破壊など出来るはずもない。それを理解していた彼女はなおも力を注ぎ込む。莫大な魔力はまるで時空を歪ませるかのように収縮を見せている。

「それでも壊れないというのなら……こちらも想いをぶつけるだけよ!」

 その弾ける魔力をかわすように一直線に道が伸びている。ルージュの敷いた想像の世界が道となり、彼女の進撃を助けていた。

 これまで得てきた全てを味方につけるようにして、一歩一歩を踏みしめるように道を駆けていくルージュ。そんな彼女を傷つけ・止めるようなものはなにもない。

 スーパーノヴァの光が途切れるその瞬間、ルージュの身体が煌めいた。戦うためのドレスに身を包んだ彼女は、その身を翻して剣を担ぐ。

「はぁあああっ!」

 愛する者のために振るわれる力、それは感情無き力には欠けている要素だ。ルージュ・コーデュロイという少女はその愛の体現者として、万感の想いと共に刃を叩きつけた。

 その刃は確かに核へと食い込む。しかしそれは逆に、核が抑え込んでいた力が吹き出していくことにもつながった。

「!」

「ルージュさん!」

 膨れ上がる力に吹き飛ばされるルージュたち。吐き出された莫大な魔力は上空で滞留し、再び核を守ろうと脈動する。

「あと……あともう少し!」

 アデルの叫び。今、不安定な核へ攻撃を加えることができればトドメの一撃になるはず。特異者たちもエラダムたちも当然それは理解できている。

「止めますわよ、ウシワカ!」

「そうだね。……流石に遊んでる場合じゃなさそうだ」

 これが最後の正念場。一切の遊び無く特異者たちを制圧するために二人のエラダムは核の前へと立ちふさがる。

 放たれる斬撃と蹴撃。それらを受け止めた一浜 華那他は外套を翻しながら叫ぶ。

「華那他はウシワカの方をなんとかするから……!」

 その声に応えたのは影の如く静かな男。

「…………」

 風間 瑛心は何の武器も持たずに赤い靴の少女へと飛び込んだ。

「武器が無いなんて……随分と舐めた真似を!」

 無策というわけではない。彼は女子供を傷つけないという信条を掲げていたし、何より、武器を持って相対していれば周囲を巻き込んで戦うという筋書きの罠にかかってしまうと感じていたからだ。

「わたくしの踵に、素手で耐えるおつもり!?」

 盾を容易く踏み砕かれながらも瑛心は怯まない。痛みを気にせず疲れもしない、まるで機械の如き無機質さで少女へと迫る。

「こ、の……!」

 そして、彼は焦れて雑な蹴りを繰り出した瞬間をこそ狙っていた。腹へと突き刺さる踵、それをあえて無視して身体を押し込み、彼女の身体を捉える。

「痛みを……感じませんの!?」

「……………………」

 捨て身の戦い。それでも繋げられるものがあることを彼は知っている。華那他がウシワカと剣を打ち合わせているのを横目に、彼はそのまま少女へと絡みつき拘束する。

 この瞬間に死力を尽くす。そうすれば仲間たちが目的を果たしてくれるということは彼にも容易く理解できることであった。

「あれ……もう。参ったな、ボク一人じゃこの数を相手しきれないっていうのに」

「それなら……諦めたらどう!?」

「こっちの台詞だよ、それは!」

 華那他の身体は一瞬で多くの傷が刻まれていた。少女とウシワカの初撃を防いだこともあるし、元々受け身主体が今の彼女のスタイルだ。

「本当にあなたたちはそれで自由なの!?」

「さあね! だけど、彼女に拾われるまでボクは本当の不自由だったさ!」

 ウシワカとの戦いも会話も全ては平行線だ。決して分かり合うこともできないし、打ち倒すこともできない。それでも、

「おにいちゃんたちの望む世界は……こんなのじゃないから!」

 黎明の世界によって不自由が生まれる人々のため。何よりも譲れない一線のため。彼女は不可能を可能にするための刃を振るう。

「ああ……そうだ。この世界に、黎明なんてわけのわからない存在は必要ない」

 おにいちゃん――一浜 希は気だるげに呟いた。いくらナイフやフォークを投げつけても破壊できない核を見て、鬱陶しげにため息をつく。

「物語はハッピーエンドでなくちゃな。デミとかいう一人だけが笑う“かもしれない”エンドなんて……まっぴらだ」

 華那他の身体を超えて、風の刃が希の身体を切り裂かんと迫る。それを鏡の力で打ち払った彼は、手に持っていた杖を放り投げた。

 レッドダンス・マカブル。敵を倒すという呪いの染み付いた杖は人の姿へと変わると、その呪いに突き動かされるように核へと飛び込んでいく。

「おら、さっさと壊れな?」

 運命の筋書きに囚われぬ駒が核へと飛び込むのを確認した彼は、そのまま魔力を収束させる。巻き起こる魔力の渦は、これまで幾度もこの城内を焼いた閃光だ。

「こ、の……離してくださいまし!」

「ああ、これはダメだ……これ以上は!」

 二人のエラダムの言葉を無視し、希はその全ての力を解き放った。混沌たる極彩を食い破り白熱の光が吹き荒れる。核を維持していた魔力の奔流が吹き抜け、特異者もエラダムも関係なく壁や床へと押し付ける。

 眩い光が視界を埋め尽くしながらも、彼らはその中で鳴り響く鐘楼の音を聞くのだった。

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