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ワンダーランド

名も無き少女の物語 後編

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名も無き少女の物語 後編
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■2-1-2.Dance you shall


 特異者たちの度重なる衝突で赤い靴の少女がなんとか押し止められている一方で、ウシワカを相手に繰り広げられている戦いは、非常に厳しいものになっていた。

「貴方の『自由』は『不自由』が形を変えただけ。貴方を『不自由』にしてるのは貴方自身の心であると理解しなさい!」

 そう声を上げながらウシワカに斬りかかるのは松永 焔子。パレードクリスタルによって無数の焔子を作り出した彼女は怒涛のごとく攻め立てるが、

「……どうかな。ボクは、キミみたいに考えを押し付ける方が不自由に感じるんだけど……」

 ウシワカは、赤い靴の少女とは対極的な、風のように軽やかな動きで焔子を翻弄する。

 ――スポットライトのノリが悪いですわね……!

 彼女の展開する“活躍の場”は注目が集まれば集まるほどに力を発揮する。しかしパレードクリスタルの幻影によって、注目がばらけてしまっているのが問題だ。

 だが二の矢はすでに番えている。ウシワカの放つ斬撃を、斬撃に特化した耐性を持つ鎧で受け止めた彼女は、そのまま道を“創り”出して駆け抜ける。

「……へえ」

「貴方を縛る心の『不自由』を……断つ!」

 ウシワカの意志をマインドキャッチによって読み取った彼女は、その防御をすり抜けるようにして魔剣を叩きつける。一撃で片がつくとは到底思ってはいないが、それでも一撃を入れることには成功していた。

「あいたた……衝撃を逃がすっていうのも、言うは易し……って感じだよね」

 特異者に対する認識を改めた彼はその速度をより高め、容易くは近づかないようフットワークを変えていく。捉えづらくなった彼を止められる者は、余計に増えていくこととなるだろう。

 ヒット&アウェイ。相手を撹乱することに長けたウシワカは核を破壊しにいく者たちにとって脅威でしかない。だが彼に食らいつこうとすることそのものが容易いものではないのだ。

「おいおい。お前たちエラダムはオレたちと楽しく遊んでくれるんじゃないのか?」

 そこで言葉による撹乱を選択したのはユファラス・ディア・ラナフィーネだった。

「ボクが楽しければそれでいいと思うんだけど……」

「でもそれは自由に戦ってるって言えるのか? どうにも塩試合に感じてしまうのはオレだけか?」

 ユファラスはただウシワカに向かって話しかけ続けた。意味があるかすら分からない単なる対話。時に煽り、時に褒め、時にあえて黙りこくる。ウシワカのペースを乱すためにまくしたてたユファラスは、彼の意識を向けることに成功し――。

「なら、真面目にやってみようか」

 ほんの一呼吸。ユファラスが息を継いだ瞬間、ウシワカはすでに一閃を終えていた。あまりの早業、断ち切られたことにすら気づかないような一撃。

 いや、

「――――?」

 ウシワカは確かに首を断ち切った。彼はその感触を“知って”いたはずだった。しかしどうしたことか、目の前からはその姿がかき消えている。

「気のせいだった。……なんてね」

 これまでの全てを布石にした奇襲。意識を乱され感覚も狂い、そして死角からの一撃。全てを賭したナイフによる刺突――ウシワカはそれに見事反応してみせたが、半歩、ユファラスが勝っていた。

「うわ、すごいな……それ」

 初めてウシワカは心からの笑みを漏らした。己の予想を超えた攻撃に思わず心が浮き立ったのだろうか。

 ――ウシワカはただの少年じゃありませんにゃ。武術の心得がある玄人でしたか。

 それをさだめのト書きから読み取ったのはゴルデン マリー。そう、ウシワカはただの音楽好きの少年ではない。おそらくは修練を積み、戦うことだけを強制されてきた一生だったに違いない。

「うんうん、それじゃあもっともっと楽しく戦わないとね!」

 そんなマリーの報告を受けた苺炎・クロイツは華やかに笑った。他の特異者たちはみな赤い靴の少女に集中している。今彼を止められるのは焔子やユファラス、そして彼女だけだった。

「人は少ない。逆を言えば多少周りを巻き込んでも文句は言われませんにゃ。ご武運を、苺炎にゃん!」

 マリーは手を振りながら一面の花畑を展開する。大きな力があるわけではない、しかし見るものをリラックスさせるだけの美しさがそこにある。

 花々から感じ取れる大地の恵みは苺炎に一層の活力を与えてくれる。咲き誇る黄金色のエノコログサは、まさに今のこの状況を良く表していた。

「遊びと愛嬌、ってね!」

「うん、よくわからないけど……花は、いいよね」

 苺炎は実のところ運命の筋書きに抗えているとは言い難い。ワンダーウォーカーでもワンダーテラーでもない彼女は、いち早く役割に囚われてしまう。それでも、だからこそ、楽しく笑ってウシワカへと突撃していくのだ。

「さあ遊びましょう!」

「そうだね。できるだけ、楽しく」

 それはまさにはた迷惑な攻防だった。苺炎の戦闘スタイルはあくまでウシワカや赤い靴の少女の攻撃を利用し、同士討ちを狙うもの。あわよくばそのまま核へと攻撃を加えさせようというものだった。

 いくら苺炎が精神を塗り固めるよう力を集めたとしても限界はある。大なり小なり新たな被害は生まれ得る。

 ――カエルの王様の王女様が、王に嫌々と従ったように。抗えないなら、憎き筋書きにも添いましょう。

 だからこそこれは彼女なりの誓い。

 ――運命に沿うても、意思は捨てない。カエルを壁に叩きつけ、最後に笑うのは私なんだから。

 その運命を乗りこなし、ウシワカたちを遊びへと巻き込み時間を稼いでみせるという彼女の意志がそこにあった。

「運命というのはただ抗うだけのものじゃない。乗りこなし、掴んでこそ!」

「同感だね。せっかくだし、ボクももうちょっと遊んでみるよ!」

 苺炎の戦い方はウシワカに合わせるそれではない。彼の動きを予測し、誘導し、その上で相手の運命そのものを食らいつくさんと手を尽くす。いわば運命すら振り回す自己中心的な戦いだった。

 それが可能なのは、苺炎を信じ、時に弓を放って援護してくれる彼――マリーのお陰でもあった。

「とはいえちょっと暴れすぎですにゃ。これでは核に近づくのも大変になってしまいますし……」

 マリーは思案げにオルゴールを取り出した。調べを聞く者を運命から解き放つという担い手たちのオルゴールだ。

「あははっ! どう? 少し面倒になってきた?」

「これくらいなら全然だよ。もっと速度を上げてみようか?」

「いいよ! お互い自由に楽しくやるんだから!」

「……ダメですにゃ。全然聞いてませんにゃ」

 オルゴールが万全の力を発揮するためにはごく至近距離で聞かせる必要がある。楽しく遊ぶことを優先し跳ね回っている苺炎にその調べを聞かせるには、少々距離が離れすぎていた。

 制御不能の苺炎は一層その戦いを苛烈にさせていく。しかしながらウシワカが完全に苺炎を振り切らずにいるために、核への直接的な援護が抑え込まれているというのも事実であった。

 一刻も早く核を破壊し黎明の世界を終わらせなければならない。別働隊となる仲間たちのためにも、更なる一手が必要だった。

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