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忘れじの夢、彼方のアゴン 前編

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忘れじの夢、彼方のアゴン 前編
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 ◆『天地創造の書』の奥付を見るために(7)

 こんな世界を創ってみたいという想いを表現するライブ、と聞いた時、行坂 貫は閃いた。
 『料理は一皿の上に世界を創造するもの』。
 ここは料理人アイドルとして腕の見せ所だ。真蛇も誘って料理ライブをしよう。

 *

「真蛇、料理ライブするから手伝ってくれ」
「なぜ私が君と共演しなきゃならないんだ」
 迷惑そうな口ぶりで言外に断っている真蛇に、貫は真面目に答える。
「なんでって、お前とやるライブは個人的に楽しいんでな」
「私は料理などできないよ」
「バレンタインにチョコ作れる程度には料理出来るだろ? 今回はそんなに難しい調理もないしパフォーマンスや演出手伝ってくれてもいいからさ」
 頼むよ、と貫に拝まれた真蛇は渋々頷いた。なんだかんだ言っても真蛇は貫を突き放すことができないのだ。


 貫は長剣【グランド・クロス】を振って、【活け造りの極意】で野菜や海藻類を華麗にカットしていった。
 その手捌きは鮮やかで、野菜と海藻が貫と戯れている間に美しい形に変身していく魔法のようだ。

 貫と食材が躍る周りに真蛇が光の雨を降らせる演出をしたので、野菜の切り口がキラキラ輝いて一層瑞々しく美味しそうに見える。

 美しくカットされた食材たちは【盛り付けテクニック】によって、ガラスの器に盛りつけられていった。
 貫は盛り付けながら【優し国の歌物語】で歌い【グランド・クロス】に歌声を響かせている。
 背景に【流水円舞】で水流の演出を加えてパフォーマンスとして魅せつつ一皿に世界を表現するのだ。

 あっという間に【テラリウムサラダ】が完成した。
 野菜と海藻類を緑の大地や木々に見立て、ジュレ状のドレッシングは水辺を表し、ガラスの器に盛り付けることでテラリウムの世界を表現している。


「真蛇、食ってみて」
「毎度毎度、もしかして私が祟らぬよう供え物でもしているつもりかい?」
 真蛇は皮肉を言いつつ、差し出された【テラリウムサラダ】を素直に食べ始めた。
 貫の料理のクオリティが高いことは、真蛇も認めているのだ。
「供え物! その発想はなかった」
 貫は面白そうに笑って、真蛇が食べる様子を眺めている。
「……どうだ?」
「まあ、いつも通りだね」
 つまりいつも通り出来ばえも味も良いという意味なのだが、ストレートに言わないところが真蛇らしい。
 しかしそれで何も問題はない。
「そうか、よかったよ」
 貫も真蛇語が正確に理解できたのだから。


 ***


 神様の力になってあげたい狩屋 恋歌甘味 愛歌は、姉妹で力を合わせてライブをすることにした。

 まずは愛歌が【ライブ・ライティング】で巨大な白紙の本を出現させて、語りを始める。

「いろいろな種族が仲良く平和に暮らす世界。そこでは仲の良さをパフォーマンスでアピールする文化が流行っていました」

 すると愛歌が語った内容の絵が、するすると本に描かれていった。
 人や動物や獣人や妖精等が、笑顔で生活していたり、きれいな衣装を着て踊ったり歌ったりしている場面だ。

 絵が描かれていく間に恋歌が【キラキラオーラ】で明るい世界を演出し、【プリースト】スタイルの歌唱力で優しいメロディーの歌を歌い始めた。
 皆が笑顔でいられる世界を思って歌う恋歌の神聖な歌声は、【エモーショナルプレイ】で直接皆の感情に響くのだった。

 本の絵が完全に仕上がったら、愛歌のパフォーマンス開始だ。
 愛歌は、黄から赤にグラデーションがかかった【華舞浴衣】を魅せるように、優雅なステップを踏みながら【スウィート・レイ・アルバ】を奏でた。
 赤やピンクのレーザー光の弦に触れるたび、夢の世界を表すような音色が鳴り響く。

 演奏しながらフルートバードの【≪星獣≫ベルカント】を召喚した。
 【≪星獣≫ベルカント】を【≪星獣≫ピッコロフェニックス】で赤い不死鳥のような姿に変えると、そのウタには癒しの力が宿り、たいそう得意げに歌ってくれた。

 曲がサビに入った時、愛歌は【ブルームミュージック】で炎のような赤い花弁を周りに舞わせたので、自身の衣装の赤と【≪星獣≫ベルカント】の赤が、赤い花びらによって一層華やかに彩られた。


 愛歌のパートが終わると、今度は恋歌の番だ。

 恋歌は、旗型の大きな指揮器【リボンフラッグ】から【ガンダルヴァ】のスタイルでマーチングバンドのアンサンブルを発現させて、幼生神獣の【ティラミス】と共に歌い踊る。

 そこに【U.チェイスブルーミング】で生じた様々な植物も加わり、皆で仲良く歌ったり踊ったりして楽しんでいる様子をアピールして、恋歌は種族の壁を越えて友好関係を築ける世界観を表現するのだった。

 そんな恋歌を優しい眼差しで見遣る愛歌は、妹のパフォーマンスがより魅力的になるように演出しようと、【ハルモニウム】で出現させた光の粒を操り、妖精の絵を描いて恋歌の踊りの仲間に加えた。
 光の妖精は動物や植物の上を飛び回り、まるで仲良しの輪を繋いでいくかのように見えた。

 また、【ストーリーテラー】のスタイルで散らした丸いふわふわも、ライブのファンタジー感をより高めているのだった。

 最後は皆で【りょーせーるいの合唱】。
 輪唱で歌うことで文字通り仲良しの『輪』が出来上がり、楽しい雰囲気の中で美人姉妹のライブは終了した。

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