◆『天地創造の書』の奥付を見るために(2)
「罪なき民が世界もろとも消え去る……それを見過ごす事はできません」
正義感の強い
小山田 小太郎は憤っていた。
『天地創造の書』の奥付を見るために必要なものが、楽しくて夢や希望にあふれたライブということなら、取るべき行動は決まっている。
幻想演武のメンバーが自由に己の幻想(ユメ)を描き、小太郎がそれを手伝い昇華する事でライブを成功へ導くまでだ。
「皆さんだけの夢を描く……その過程はきっと、貴方の世界を彩ります」
小太郎は三人に向かって信念を伝えた。
堀田 小十郎は小太郎の思いを十分に理解していた。
「その想い、我らも共に抱えよう」
「まぁやる事は変わらねぇさ……いつも通り、俺達の幻想(ユメ)を形にするだけってね!」
ポジティブな
睡蓮寺 陽介は手足の関節をほぐす準備運動している。
その横で
睡蓮寺 小夜は胸元で手を組んで、祈るようなポーズをとっていた。
「アゴンへの道を、皆で拓きます……皆とならきっと、世界だって創れるから……!」
ライブが始まる前に小太郎は【グリッターリフレクション】を使用して、【【スタイル】聖】の光背を背負った自らの姿の幻影を複数映し出した。この幻影たちに皆を見守らせることで幻想演武のライブを支えるのだ。
次に小太郎は【無風境地】を発動し、静かで澄んだ無風景な空間を生み出した。その澄んだ精神を【専心の錫杖】でホール全体に波及させ、ライブに集中しやすい環境を作る。
そして【専心の錫杖】の力は【君臨のスター・グノーシス】の効果を幻想演武のメンバー全員に広げて、小太郎のプロデューサーとしての事前準備は完璧に整った。
*
ライブは小十郎の演武から始まった。
「剣戟を以て武を紡ぎ、調を以て演奏を奏でる……演奏演武、新たな武の在り方にて己が世界(ライブ)を形にしよう」
積み重ねた【武術経験】で、【大殺陣回し】によるドラマティックな殺陣を見せる。
そして【【スタイル】剣奏者】から楽団(アンサンブル)を発現させ、【天津奏で舞い】で音や光を周囲に広げた。
この光を小太郎から借りた【君臨のスター・グノーシス】の力で剣のように操り、独自の剣戟を披露した。
「やはり演武は一人より二人……鷹人、君の剣をまた貸してくれないか?」
「頼まれるまでもねえよ」
ライブを見守っていた
渋蔵鷹人は快く引き受けて、剣を手にステージに駆け上がった。
小十郎は大太刀【花光風月】を静かに構え、鷹人を演武に誘う。
それに応じた鷹人がすぐさま剣を合わせ、信頼感で結ばれた二人は鮮やかな剣戟を行った。
【神威ミズヤレハナ】から発せられる銀色のオーラが二人を囲み、地面や機材のそこここに美しい花を咲かせて、二人の剣舞を一層彩るのだった。
*
次にステージに立ったのは陽介。
「道化楽団が指揮して描く情熱的な音色と絵画を以て、俺の幻想(ユメ)を熱く世界に描いてやるぜ!」
陽介は【フュアロータクト】を【サイトスワップ】でアクロバティックにトスして、ブーメランのように手元へ戻ってくる技を見せながら、【フュアロータクト】から巻き起こる炎を使い、【オーバードローイング】で虚空に炎の鳳凰を描いていった。
その間に【【スタイル】道化楽団】で出現させたアンサンブルが演奏を始め、【パッションハーモニー】で踊るような炎が現れた。
陽介は大道芸で皆に驚きと感動を与えようと懸命に炎を操っていた。
大道芸人にも道化にもレスポンスしてくれる客が必要なのは、今日のような状況下でも同じだ。そこで陽介はステージ上から
夕崎ゲーテに呼びかけた。
「お互い相方が楽しそうにしてるんだ……その間に道化がサプライズ、お一つどうだいゲーテ?」
「お互い妬けちゃうけど仕方がない。君のサプライズ、見せてもらおうかな」
自信たっぷりな笑顔で頷いた陽介は、【天道符】で辺りの影を操って集めて炎を際立たせてから、先程描いた鳳凰をゲーテの式神みたいに躍動させてみせた。
ラストは【スイッチ:煌めきを統べる者】でゲーテや他の人々の反応を煌めきに変えて、様々な色の光球を会場中に飛び回らせたのだった。
*
最後に登場したのは歌姫、小夜だ。
「想いを込めて歌えば、きっと届くから……わたしも、わたしの想いをウタに乗せます……」
【≪星獣≫ピッコロフェニックス】で不死鳥のような姿になったフルートバードの【歌鳥・奏】と共に、【夜想曲】を歌う。
【セレナータ】のスタイルは奏とのアンサンブルを通して想いを届けやすくし、温かな光を放つ一番星を空に浮かべて癒しと励ましを届けた。
マイク代わりの長剣【グランド・クロス】は光のオーラをまとって小夜の歌声を響かせる。その澄んだ歌声は、【クレッシェンド】によって次第に透明感が増していくのだった。
「司馬さん、ライムさん、一緒に歌ってくれませんか……?」
小十郎や陽介と同じようにギャラリーに向かって小夜が声を掛けると、
司馬八咫子は快く、
「ああ、私たちでよければ力を貸そう」
と言ってさっとステージに上がっていった。
それを見た
アルカ・ライムが慌てて、
「や、やっちゃんがそう言うなら……!」
八咫子の後を追った。
八咫子とアルカは小夜を挟んだ両側に立ち、小夜の歌に合わせて美しいハーモニーを作る。
いつかこの二人と一緒にステージで歌いたいと願っていた小夜の夢が、思いがけず叶った瞬間だった。
小夜は八咫子とアルカの共演に力を得て、【#うちで歌おう】により大勢の人の心に「一緒に歌おう」と呼び掛けた。
「きっと……その方が楽しいよ……?」
大勢で歌う楽しさが少しでも伝わるライブになるよう、小夜は心を込めて歌声を響かせるのだった。