心美たちや優たち以外にも、夢の中へとやってきた仲間たちがアンラの元へ辿り着く。
だがあの大きさのノイズをどうしたものかと考えあぐねていると
「……自分で自分を否定するのは簡単だが、自分を想ってくれる他人の気持ちを切り捨てたり否定するのは難しい、と俺は思う」
【カリスマの神格】を纏った竜一はそうアンラに言いながらゆっくりと近付いていく。
「それ以上、近付かないでよ!!!」
アンラは竜一へノイズで作り出した刃を放つ。
竜一はあえてその攻撃を受けつつ、ぴたりと足を止め、アンラを見据えた。
そして【【スタイル】プルート】の力でアンラの不安な気持ちを奪い、自分が肩代わりしたのだ。
「くっ……」
アンラの背後にあったノイズは形が一回りほど小さくなり、未だきちんとした形を成してはいない。
アンラの意識が自分へと向けられたことで竜一は【スイッチ:イカロス・ソア】で巨大な翼を形成して更に存在感を出し、より意識を引きつける。
『君の冒険に出かけよう。
間違えた過去、正しくなかった自分。
今の君の心を形作る何かを忘れることは、本当に正しいこと?
忘れかけたのは、忘れようと強いていた自分と本当は知っていた?』
竜一は【ホープレス】を展開し、荘厳なグランドピアノを演奏し、【神風のララバイ】の歌唱法を使って【とある君の物語】を歌い始めた。
「な、によ…なん、っなのよ!!」
竜一の歌う歌詞にまるで心当たりがあると言わんがばかりの反応をするアンラ。
八つ当たりをする子供のように傍にいた怪物に竜一を襲わせる。 だが……
「えっ!? なんで……」
竜一を襲った怪物は【ホープレス】の力であるノイズの突風に押し返された。
それだけではない。怪物はぐにゃり、とその形を歪ませるとただのノイズの塊へ戻った。
『理不尽に憤る心、恋する想い。
当たり前の気持ちを、間違った手段で歪めた昔の自分。
でもだからこそ、今度は正しくあろうとする自分の今の意思がある』
驚くアンラに向かって竜一は歌を歌い続ける。
『そんな今の君に戻って来てほしいと、君が大切だった人の声がする。
ほら、今の君を思う人の声と姿がそこにある。
君を想う人たちと歩む未来という冒険に出かけよう』
竜一は【スイッチ:天火明命の目覚め】で巨大な光球を自分の背後に昇らせる。
その明るさの眩さも然ることながら、竜一の歌が、歌詞が温かみを持ってアンラの頑なだった心を照らす。
「あ……え……」
アンラの中に戸惑いは残る。
それでもその瞳にはゆっくりと光が灯り始めていた。
「アンラが失敗や間違いから単に目を逸らそう、忘れようとしているだけの存在なら、俺は助力しようとは思わなかった。
だが、それを反省し、今は正しいことをしようとしているなら……俺は力を貸したいと思う。
そういう人間もいるってことさ」
そして竜一のその言葉にアンラの心も光が灯ろうとしていた。
「どうして……? わ、私は……」
葛藤するように声を震わせるアンラ。
怪物としての形を失ったものの、未だアンラの周りにはたくさんのノイズがある。
そこに【スイッチ:イカロス・ソア】で圧倒的な存在感を放ちながら、
死 雲人がゆっくりと浮かび上がった。
「今度はなに!?」
浮かび上がった雲人を見上げるアンラ。
雲人は先程のイカロス・ソアから変化するように【スイッチ:パラノイアノクターン】で背中に巨大な黒い翼の幻影を生み出し、静かに羽ばたかせる。
奏でられた静かな夜想曲はアンラを中心に聴いた者へ中毒性のある深い快感を覚えさせた。
その上で雲人は【【スタイル】プルート】でアンラの不安を肩代わりし、そして
「アンラ。俺のハーレムの女になれ」
と大胆な発言をした。
「……相変わらずね」
どこにいても自分の姿勢を貫いてくる雲人。
そんな雲人の姿勢自体には好感を持っているアンラ。
その表情はほんの僅か嬉しそうにすら見える。
アンラに雲人は【【スタイル】ヘルメス】を使って、感情の機微を見逃さないようにしつつ、今度は【イドーラの鳥籠】を使い、アンラと自分がいる狭い範囲内に“閉ざす力”を適用させた。
「何、受け入れようが断ろうが、未来へと一歩のために自分の王道を貫くのみだ」
アンラをハーレムに欲しいと思う雲人の気持ちはいつだって本気で本物だ。
だがその時は仮に今でなかったとしても、いずれその時が来るのだと雲人は信じていたし、その自信ももちろんあった。
(俺に失敗はない。どんな出来事だろうと俺を導くための王道だ)
物事にはきちんと機会というものがある。
それもまた雲人の信念のような考えだった。
「俺は絶対に成し遂げられる。最終的に全世界を変えられるとな」
堂々とした態度の雲人を見据えるアンラが聞く。
「私をこんなところに閉じ込めてどうするつもりかしら?」
「分かっているのだろう?」
二人が意味ありげに視線をぶつけ合う。
「まあ、なんとなくはね」
今までとは違う方向性。
どちらかと言えば自分を受け入れるというものではなく、挑発されているような……。
「でも……」
アンラの言葉と共に【イドーラの鳥籠】の力が切れる。
「簡単にその手に乗るとは思わないことね」
残念ながらアンラは雲人の挑発に乗ることはなかった。だが
「私のあるべき姿を思い出せそう」
そう呟き、再び開かれた世界とそこにいる特異者たちを見やりながら呟く。
「そのことだけは感謝するわ。……ハーレムには入らないけど」
雲人の堂々とした態度に自分の中の何かを肯定された気持ちになったアンラは安心感を覚えていた。
「ふん……俺は全世界でも最高の男だからこそだ」
世界を敵にまわしても女の為に戦う。そして、ハーレムも達成させる。そんな真っ直ぐな雲人の信念がアンラの心深くに一瞬でも寄り添ったのは事実だった。