夢の中へ
レッスンルームでのパフォーマンスやライブを経て、いつしか眠っていた特異者たち。
最初こそ、うとうとと微睡むような感じだったが徐々に意識は深い眠りへと、そして目指していたアンラ・マンユの夢の中へと到達する。
「ここがアンラの悪夢か」
いち早くアンラの夢の中へ到達したことに気付いた
青井 竜一が周囲を見渡しながら呟く。
そこは真っ暗な空と硬い荒野のような地面が広がっているばかりだった。
目印となるようなものは特になく、奥の方に扉が見えるものの、そこへ向かっても距離が縮まることはなかった。
眠ってもこんな場所にいる夢では頭や体を休めるどころか余計に疲れてしまうばかりだろう。
誰が見たってこんなの悪夢に変わりはない。
こんな場所でアンラは3週間もの間、悪夢に抗い、戦い続けてきたのだと思うと呟く言葉さえ出てこなかった。
(アンラの過去の自分を単に否定するのは違うと思う)
ホライゾンから来てフェスタのアイドルの一人になった経験から竜一はそう感じていた。
(過去の自分の単なる否定は、過去を踏まえて正しくあろうとしている今の自分の否定という連鎖でしかないよ。……否定すべきは『間違った手段』を取ったこと自体なんだ)
特異者としての戦いの中、『失敗も間違いも犯す一人の人間でしかなかった』と直面したことが何度もあったからこそ、竜一はアンラがそんな連鎖に囚われているなら助け出したいと強く思っていた。
「何としてもアンラさんを悪夢からお助けして差し上げたいです」
そんな
空花 凛菜の熱意の篭った瞳と言葉に
「凛菜さんは是が非でもアンラ・マンユさんを助け出したいのですね。
了解しました。凛菜さんが全力を尽くせるように……私も凛菜さんのサポートに力を尽くしましょう」
と
邑垣 舞花が頷く。
「例え『悪夢』の中であっても、凛菜さんの“願い”と“思い”が鳴り響くようお手伝いに励もうと思います」
舞花の言葉に凛菜はとても力強い気持ちになる。
そんな二人もアンラの夢の中へと到着していた。
「こんなところにアンラさんが……」
【メイクピース】に身を包んだ凛菜もまた言葉を失う。
「早くアンラさんを見つけましょう」
シックな【Grace】を着用した舞花がそう促すと凛菜はこくりと頷いて、舞花と共にアンラを探し始めた。
(マルベルの言う事はもっともだ、正直マナシジャは更生しないだろうと思う)
【ゆうにゃ!】の
アーヴェント・S・エルデノヴァはマルベル・クロルが言っていた言葉を思い返していた。
(それでも自分は彼女を救った、決して誰かに流されたのではなく、その先の責任を負う覚悟を決めたうえでだ)
夢の中へと意識が落ちていく感覚を感じながら、アーヴェントの思考は止まらなかった。
(だから危険視される事も受け入れた上で、今後、信頼を得られる様に励んでいこう。それが聖歌庁に示せる、自分の誠実さだ)
助けた後に出てきた問題もないわけではない。
だが助けると決めた決断に後悔はない。
(……まあ、危険視されても仕方ないがな、だがそれも覚悟のうえでゆーしゃは選んだ)
思考の世界だからだろうか。
同じく【ゆうにゃ!】の
アウロラ・メタモルフォーゼスの思考がまるでそう喋っているかのように伝わってきた。
(誰かを救うにせよ倒すにせよ、その行動の先を受け入れるであれば我として問題ない。力を貸したこと、後悔などせぬぞ)
アウロラの言葉がアーヴェントの背を押す。
(アンラの力になりたいんだ。特別な理由なんて、何もない。アンラは私の大事な友達、だから。だから苦しんでいるなら助けたいんだ)
シンプルな理由と共に【ゆうにゃ!】の
御空 藤の声が、思考が、聞こえてくる。
アンラを助けたい。
それは夢の中へと向かった全員が思い、願ったことだろう。
そして夢の中へと向かう為に手助けをしてくれたたくさんの仲間たちの気持ちもきっと同じだろう。
アーヴェントが大切に思っている人も深い眠りへと誘ってくれた仲間の一人だ。
そんな仲間たちの思いも胸に、そして自分たちの気持ちの方向性を決意すれば、今度は意識が浮上していく。
体をゆっくりと起こし、軽く頭を振る。
いつの間にか荒野に横たわっていた三人は顔を見合せ、ここがアンラの夢の世界であることに気付く。
「さあ、アンラを……友達を助けにいこう!」
アーヴェントの言葉と共に三人はアンラを探すべく走り出した。