アンラの話を聞いた
白波 桃葉は
(これは私と圭の技の出番な予感……! 心穏やかにするには最適よね)
とすぐにパートナーたちに話を持ちかけ、参加を決めた。
「私たちは皆を信じて、より良い状態で送り出しましょう」
アンラを絶対に助けられるように。
悪夢が素敵な夢に変わるように。
そう願い、桃葉はパートナーたちに声をかける。
パートナーたちも桃葉のその気持ちを理解しているため、それぞれが頷いて同意を示す。
「夢の中へ向かう皆を応援する……ルミ!」
桃葉はそう言って自分の姿を【【スタイル】ルミマル】で丸っこくて小さな愛らしい姿へと変えた。
桃葉と共にやってきた
藤崎 圭はパフォーマンスを行う前に【ゼロプラス】を使い、芸器である【ターヘル・アナトミア】にカリスマを宿す。
(グランスタも聖歌庁も裏で何考えてるかは知らないけど、一旦そこは置いといてアンラを助けることが優先でいいよね。腹の探り合いはアンラの事が解決してからって事で)
色々と気になることはあるものの、まずはアンラを助けようと圭は抜かりなく準備を終える。
「悪夢に勝てるようになるべく深い眠りになるように?
えっと、それじゃあ……【星屑POWER】をいつもよりスローテンポで歌ってみるのはどうかしら」
桃葉からの話を聞いて参加を決めた
麦倉 音羽は事前にそう提案していた。
「ゆっくりの方がリラックスして聴けると思うし」
その案に桃葉たちが頷く。
「陸斗、演奏はお願いね」
音羽から話を振られた
陸斗・ハーヴェルは
「ふむ、今回は仲間のアイドルに向けてのライブか。
よし、任せろ。ぐっすり安眠できるようなライブにするぜ」
と二つ返事で了承する。
しかし、ふと気になったことが一つ。
「ううむ、夢って深く眠ると見ないものでは……??」
一般的に睡眠には浅い睡眠であるレム睡眠と深い睡眠であるノンレム睡眠があると言われており、レム睡眠の時に夢を見るとも言われていた。
とは言え、最近ではノンレム睡眠でも夢を見ることがあるとも言われており、今回のように誰かの夢の中へ向かうと言うこと自体が特殊であるためか
「ま、よく分かんねーけど深く眠れるようにしろと言われてるんだし、何も考えずにとりあえずそうすればいいよな!」
と陸斗はさほど深く気にせず、自分のやるべきことに集中しようと気持ちを切り替えた。
自分たちの出番になり、桃葉と圭はアイコンタクトを取り合った後、【エターナルプラネット】でレッスンルームの天井を夜空へと変えた。
星々が浮かび上がるその下で同じように美しい星々が描かれた陸斗の【プラネットギター】がスローテンポで曲を奏で始める。
陸斗の衣装である【フーデッド・シャドウ】も相まって落ち着いた雰囲気の中、観客たちは穏やかで優しい気分になっていた。
足元に桃葉や陸斗、圭の持ってきた【はるひつじくん】たちが並ぶ。
「さぁ、ゆきみ。あなたの出番よ」
音羽の言葉に応じるように【≪星獣≫フルートバード】のゆきみが【≪星獣≫ノチウダッシュ】で夜空を駆ける。
シマエナガにも似たゆきみが夜空を駆けるとその残像が長く尾を引き、キラキラと輝く星が連なった天の川のように見えた。
『あの煌めきを目指してた過去の私
変わりたい自分
目指す世界へ
そう、アナタと一緒に』
【【スタイル】ミューズ】を装備した音羽の歌声が夜空に響く。
【神格のカリスマ】の効果もあり、観客は音羽を魅入るように見つめている。
『何も出来ないと落ち込まないでよ
頼る事は弱さじゃないの
1人より2人、2人より3人
きっと掴める無限のPOWER
信じる事は簡単じゃなく
戸惑いはあるけれど
アナタと交わした大切な約束だから』
音羽の歌に合わせ、いつしか
ローズベリル・ハープが【U.チェイスブルーミング】で出した幻の花が揺れる。
後ろの方では桃葉が【ぷかぷかの輪】で歌いながら静かに浮いていた。
揺れている花にふわもこな羊、そして桃葉の姿は観客を和ませるにはばっちりだろう。
そんな桃葉に圭が再びアイコンタクトを送る。
その合図に桃葉は【月に跳ぶ兎】を使い、大きな満月の幻影を浮かび上がらせる。
圭は効果を継続させるために【エターナルプラネット】を使い続けている。
『あの輝きに魅せられて今の私
叶えたい願い
進む未来を
ねぇ、アナタと一緒に』
満月の幻影が輝く中、音羽は歌い続ける。
『違う人間同士だとしても
チカラ合わせて乗り越えてこう
1人より2人、2人より3人
きっと広がる無限のPOWER
護る事は難しくても
此処には残っているよ
アナタと過ごした大切な絆の欠片』
陸斗の【プラネットギター】に描かれた星々が煌めく。
その煌めきを感じながら陸斗は皆が安心して眠れるようにと願いを込めながら演奏を続ける。
『あの煌めきを目指してた過去の私
この煌めきを手にする未来の私
変わりたい自分
目指す世界へ
ほら、アナタと一緒に…』
音羽の【スリープウィスパー】で最後のフレーズが歌い上げられる。
暗い夜空の中で包み込むような大きな満月に見守られ、その下には揺らめく花々と羊たち。
耳に心地よく、安心して眠れるようにと願う優しい歌声が観客を一人、また一人と夢へ誘っていく。
パフォーマンスを終えつつ、桃葉は戻ってきたアンラにおかえりなさいと言えますように、と願うのだった。