◆『天地創造の書』の奥付を見るために(9)
「みなさん、新しい世界って本当に知らない世界ってだけじゃないと思うんです」
諏訪部 楓は【大注目】で自分に視線を集めて、アイドルたちと『天地創造の書』に語り掛けた。
「特異者とアイドル、アバターとスタイル。二つの可能性が重なって新たな可能性……クロスハーモニクスのような二つの可能性を合わせて新しい可能性を感じましょう」
そう言うと楓は美しい長剣【グランド・クロス】を持ってステージに駆け上がった。この【グランド・クロス】には予めディーヴァの
諏訪部 凛がユニゾンしている。
まず楓は【スイッチ:愛憎の檻】で光の帳を降ろし温かな光を降り注がせて、皆に自分のメッセージが伝わりやすいようにした。
そして【グランド・クロス】をマイクとして用い、【クロス・ワールド】を歌い始める。
この曲は神秘的で厳かな雰囲気だが、どこかテクノ感を感じるディスカディアとネヴァーランドを合わせたような曲調で、楓の言うクロスハーモニクスを表現するのにピッタリだった。
楓は【シンクロナイザー】と【ハーモニックレゾナンサー】のスタイルを帯び、凛とユニゾンして精神を共鳴しているので、本来の力の160%の力で強力なハルモニアを出力することができる。
その圧倒的な力を使って、楓は『世界が一つに溶け合う』という思いを込めて歌っていた。
次に楓は、凛の【白煉のジャッジメント】で【アポストル】の力を解放した。
空中に純白の光の十字架を複数出現させると、いくつもの十字架が眩い光を放って空中を旋回しつつ楓の声を反響させた。
それは【グランド・クロス】の効果をより強めたものになり、楓の『科学も魔法も一つに成れる』という思いが、聴く者の心に深く響くのだった。
ここで楓が凛の意向を汲んで、皆にどんな世界にしたいか聞いた。
【プチョヘンザ】で身振りや声での応答を求め、会場のテンションとハルモニアが上がるようにする。
一部のノリの良いアイドルが応答したので、凛は【ウェイクフレーズ】で一体感を盛り上げるのだった。
曲はクライマックスに向けて熱を帯びていく。
楓は【ゴッドチャイルド】のスタイルで3対の光の翼を広げて堂々とした態度で歌い、【ハーモニックレゾナンサー】の力でさらにハルモニアの出力を増大させて『新しい世界を創るのは私達だ』との思いを皆の心に直接届けていた。
最後は【U.オーバーシンクロナイズ】で皆に見せたい世界の光景を、僅かな時間の間だけ見せた。
それは、魔法も科学も発展し一つに融合し、その力で人を楽しませ、人を護り助け合う最高の世界――。
「一人一人の想いでは確かに世界を創造するなんて神様みたいなことは出来ないかもです。でも! アイドルは観客と高め合い心を通じ合えば不可能なんてないのです! 今私は会場のみんなと心の中に新しい世界を作り上げました!」
楓が溢れる想いを高らかに宣言すると、凛も【グランド・クロス】の中から想いを表明した。
『私たちの想いが世界に通じるかわかりませんが、今ある力を出し切って新しい世界の扉をこじ開けたいですね』
その時、二人が力を合わせた強い想いに反応したのか、ステージ前に浮かんでいる『天地創造の書』が、身じろぎするように揺らいだ。
『天地創造の書』にしつこく絡みついて残っていた光の鎖も、アイドルたちのライブのパワーを浴び続けて相当緩んでいる。
あと少しで奥付が見られるのだろうか……。