■プロローグ
――“光の世界樹”セフィロト。
黒いイナゴに覆われたその樹の根元で、
女神
イナンナは眠るように目を閉じていた。
(『私がきっと、この国を災いから守る』
『強く、そして豊かな国にしてみせる』
そう誓ったのに、こんな)
イナンナが思い出していたのは、2500年前のこと。
自分がセフィロトと契約したときのことだった。
カナンの国家神となったイナンナは、来たる災厄に打ち勝つべく手を尽くしてきた。
だが、腹心であったネルガルの裏切り――
それも、志を同じくするがゆえの反乱は
常に前向きだったイナンナの心に、暗い影を落としていた。
「……アーデお姉様。
私は、どうすればよかったのかな」