竜人たちの美学8
誰もいなくなったステージに、
桐島 風花のスペシャルギターで奏でられるBGMと共に、オーロラの背景が出現。
剣堂の【星音】:書き綴る星々の記憶だ。
そこへステージを後にしたフレデリカの不穏な語りが入った。
「奪われた故郷。断たれし絆。
妖精達は希望の音色を胸に悠久の大地へと旅立つ。
その音色が世界に響き渡る日を信じて」
語りの中で、背景のオーロラにバルバロイを模した気味の悪い甲虫が描き足されていく。
バルバロイが増える程、剣堂と桐島によるグリムフォールでステージはほの暗い闇に包まれ、暗雲立ち込めた雰囲気になったところでオーロラに「バルバロイ」の文字が浮かんだ。
同時にサヤカの操縦する暗雲イドラ号がステージに姿を見せた。
真っ黒に塗られたそれはおどろおどろしく上昇し、ジェットホバリングにより滞空する。
タツノオトシゴを模したイドラ号の船主には、AAAツインテールを振るう剣堂が拒絶のシクレシィエンブレイスによる漆黒のドレスで君臨する。
周囲の影を取り込み、剣堂に集約するようドレスが編み上げられていく様は、まさに他者を侵食して成長するバルバロイの様だった。
観客へバルバロイの脅威を誇示したところで、
アナベル・アンダースのセンペリットURが登場した。
事前にクイックインスペクションⅡで整備したガレオンは武装を所持しない。大きな機体ではあるが、威圧感を感じさせないようこの機体を選択したのだ。
その船上に
人見 三美が立つ。
人見の担当はアークの水の旅路、ネプトゥーヌスをイメージした歌劇だ。
人見が一息吸い人魚の戯れでウォームアップすると、ガレオン上からシャボン玉が舞う。
シャボン玉に包まれたステージから、人見は【星詩】:宙舟の記憶・水を歌い始めた。
人魚の戯れで発生したシャボン玉が舞踊水泡の泡に巻き込まれ、ステージ上を埋め尽くす。
人見の歌と踊りに合わせて泡が舞い、マリンヴェールがマールスの熱を弾いて泡の中に虹が生まれる。
アークの旅路を知ってもらい、その旅路へ参加してもらいたい。その為に、私達のことを知ってもらう。
人見の想いはパフォーマンスに昇華され、ステージ上の泡がはらはらと観客の前へ舞い降りる。
その姿は水の大陸でのネプトゥーヌスとの出会いを起想させた。
次第に人見の歌声が小さくなる。【星詩】の効果が終了した。
人見はフェードアウトするように後方に下がると、入れ替わりに桐島が前へ出る。
紺影のマントを羽織りながらも、その隙間からオルディアンパレオがチラ見えする姿で飛び出た桐島は、【星詩】:初夏の涼風を展開する。
彼女が歌うのは空の浮遊大陸、ウーラノスの世界だ。
皮膚が灼けるような熱気に真っ向から立ち向かうような詩は、この灼熱の地では想像もできない感触や感覚を歌う。
吹き抜ける涼しい風、冷たい水の流れ、森の葉音、生き物の声。これらをアークなら魅せられると。
彼女の詩を受けて、剣堂――バルバロイと対峙するドラグナーの剣戟を演じる
草薙 大和と
草薙 コロナがステージ上へ躍り出た。
彼らの登場に、剣堂はイドラ号から飛び降り相対する。
AAAツインテールを床に打ち付ける剣堂に、大和がドラグナーガッツで騎士の精神を見せFインパクトで切り込んで行く。
「この大陸の人たちには手出しさせない!」
迫りくる拒絶のムチはローレライ・シールドで防ぎながら、アサルトスラッシュで間合いを詰めた居合切りを見舞う。
同時にコロナがルナ&ソルのソードストームで伸びるムチを弾き、ルミナスクリーブの一閃が光る。
しかしバルバロイも、ステージ上に立つ人が増えれば、増えた分だけの影を取り込み力を増大させていく。
背後のイドラ号は依然禍々しさを湛え、依然その高度を保っていた。
剣堂はステージ上の影を編み上げ、そのムチを騎士たちを後押しする桐島へ向ける。
飛び舞う大量の小さな氷柱を弾き飛ばし、桐島から発せられる麗らかな声を割くようにムチが飛んだ。
それをコロナが護国方陣のバリアで防ぐと、ムチは消失し再び影へ戻った。
衝撃に剣堂がたじろいだところで、大和の二閃とコロナの迅雷一閃が放たれた。
薄暗いステージに剣戟の閃光が走る。
その中心で剣堂は――倒れはしなかった。
剣堂は再びイドラ号の船主へ飛び上がり大和とコロナを見下ろす。しかしイドラ号はがたりとその高度を下げた。
「内に秘めたるその意志は想いを重ね、希望を紡ぐ」
フレデリカの語りと同時に大和とコロナがはける。
高度を落としたイドラ号が上下に揺れる中、次は地の浮遊大陸へステージは動く。
***
イドラ号の浮遊するステージに、突如石柱が出現する。その頂上にはアースクリエイトロッドを振るった
伏見 珠樹が居た。
伏見の周りにはサートゥルヌスの環のように、鉄と岩の礫が渦巻き五つの炎球が浮遊している。
伏見はそれらを使役するようにロッドをイドラ号へ差し向ける。渦巻く礫がイドラ号と剣堂に降り注ぎ、音を立てた。
しかし剣堂のAAAツインテールが弧を描くように打ち鳴らされ、礫は落ち、伏見に降りかかる。
伏見は石柱の上で膝をつき、力なくロッドを降ろす。
ステージは物々しいBGMと、ルルティーナのライティング指示により、伏見の敗北をより如実に映し出す。
しかし、再び伏見は立ち上がる。先のステージに引き続き、詩を歌う桐島の声が伏見に力を与える。
再びロッドを構え、剣堂に向かって振るえば、周囲に浮かんでいた炎球が上昇して飛び向かい、色鮮やかな花火となって弾けた。
目の前で輝く閃光に剣堂は顔を覆い、イドラ号が再び高度を下げる。
奏でられるBGMは徐々にフェードアウトし、それと共に伏見もステージを後にした。
***
一度消音されたBGMが、再び高らかに鳴り響く。
出番を終えた団員たちは、各所を巡り仲間を増やしてきたアークの旅路と同様に、その演奏へ加わり厚みを持たせる。
最後のステージテーマは「木」だ。
BGMに合わせて
ウィリアム・ヘルツハフトのタンペート・スリジェが紅城のフルールフェニックスG上から展開され、ステージに銀の霧と桜吹雪が舞った。
それによって観客の視線がイドラ号と隔絶され、一瞬ステージが見えなくなり、誰の姿も見えないまま【星詩】:風薫るシンフォニーと、花と水の円舞曲の歌声が聞こえてくる。
虹村 歌音とシャーロットの声を乗せたルルティーナのフルールリッターUR/LSが、銀霧と桜を舞いあげた旋風の春風の中現れると、アレクスがプレーンウッドスタッフをタクトのように捌き、リトフルワールドの大樹がステージにのび育つ。
中心にそびえる大樹の麓に、シャーロットの歌声と共に樹の根が張り巡らされ、花園が広がる。
ルルティーナの操縦するガレオンが、演者を乗せて大樹の周りを飛び回れば、虹村とシャーロットの声に紡がれる【星詩】が大樹を彩り森を作る。ライティング指示により的確なライトアップのされた森は、その魅力を十二分に伝えている。
吹き抜ける風が、踊る水泡が、照り付ける熱が跳ね返された虹が、花園から風に揺られて舞う花びらが、観客を歌劇の世界へ引き込んでいく。
旅路で出会った仲間たちが奏でるBGMも、ルルティーナによるリミックスアプローチにマッシュアップされ、一体感を伴ってクレッシェンドしていく。
音楽が盛り上がりを迎えれば、フルールヴェールの加護が大樹に虹を架けた。
「どお?
本物はもっともーっとおっきかったんだよ
んで、ここに住んでたエルフちゃんも今ではアークの一員」
顕現させた日輪の扇で虹を指示したシャーロットは、観客に語り掛ける。
そしてふわりと大樹に絡みつく草花を取り、簡単な花冠にすると、ルルティーナと共に観客席の少女の頭へそれを被せた。
「これボクからのプレゼント♪」
「長くは保ちませんけど、今からその花冠に魔法をかけて豪華にしちゃいます♪
るるなる、まじかる、くるくるる~♪」
ルルティーナが被せた花冠に花葬を施すと、少女の頭から零れんばかりの花が冠に咲いた。
「綺麗っしょ。
【星詩】でつくったものだから長くは持たないけど、一緒に来てくれたら、
これ以上にもっともーっと綺麗で素敵なのを見せてあげる」
そう言ってシャーロットとルルティーナは客席を離れ、フルールリッターに戻っていく。
麗らかな空気に包まれたステージ上で、イドラ号は完全に着陸しその力を失わせていた。
「束ねた光は奇跡の軌跡。さぁ! 今こそ反撃の時だ!」
フレデリカの力強い声が響く。咲き乱れる花々が吹き抜ける爽やかな春風に揺れて、演者を、観客を鼓舞しているようだった。
最後に歌劇団がステージに並ぶ。
団長を中心にして、タラスクス達に一礼をした。
タラスクスらはいつまでも鳴りやまない拍手で彼女らを讃え、新たな美学と種族の行く末を得たのだった。