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3000年前の遺産

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3000年前の遺産
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竜人たちの美学7


 浮遊大陸アーク、フルール歌劇団駐屯地。
 
 紅城 暁斗は、団長から受け取った人員配置図を片手に、アークからマールスへ団員を移送するための準備を進めていた。
 
「ってこれ、愛菜さんの字だな……。
 作戦内容のまとめかた団長さん達の補佐まであの人、ホント凄いと思うよ……」
 
 配置図の筆跡を見て、それが団長直筆ではなく、剣堂 愛菜が団長から聞き取ったことをまとめたものだと、紅城は理解した。
 なにせ我らが団長は擬音の多い作戦説明で、何というかフィーリングや勢いで説明してくる。言わんとすることは分かるが、こうやって後々確認できるよう書面に落とし込むのは大変だろう、と紅城は思う。それ故に剣堂を尊敬する。
 
「と、アークまではこの組み合わせで、劇公演では配置が違って来るのか。注意しないとな」

 二枚目にあった人員配置図はマールスに到着後の劇公演時のものだったので、紅城は取り違えないよう注意しながら、マールスへ向かうべく団員たちを呼び集めたのだった。

***


 火の浮遊大陸マールス。この地に住まうタラスクスの移住を進めるため、フルール歌劇団も一役買うことにした。
 今回公演するのは、アークが辿ってきた旅路の星楽。歌劇団のパフォーマンスで彼らの知的好奇心をくすぐり、新天地への興味を興させる作戦だ。
 
 それに先立ち、数多彩 茉由良は仲間と共にタラスクスへ広報活動をしていた。いきなり歌劇を行うよりも、事前に予告しておいた方が相手にとっても都合がいいだろう。
 元々【使徒AI】ロゼッタによってタラスクスの居住区は割れていたし、幸いなことに他の騎士団の活動もあって、タラスクスはアークからの来訪者に友好的だった。
 数多彩は、これから仲間が公演することを一人一人、丁寧に伝えていく。
 
 同じく、カラビンカ・ギーターベネディクティオ・アートマも手分けしてタラスクスに声をかける。
 彼女らの保護者的立ち位置でデーヴィー・サムサラがフォローしながら後をついて行き、その集落に住むタラスクスたちのほとんどに声をかけることができた。
 
 それに加え、先触れしておいたお陰でタラスクス同士の中でも話が回ったらしく、数多彩たちが広報を終えて仲間の元――公演予定地に戻れば、声をかけた以上のタラスクスたちが集まっていた。
 
「皆さん、お集りいただき誠にありがとうございます。
 私、フレデリカ・レヴィと申します。どうぞお見知りおきを」

 会場――とは言っても、公演に問題のない広さのある開けた場所、つまり屋外ではあるが、フレデリカ・レヴィが集まったタラスクスに貴族の作法を持って挨拶する。
 今回の歌劇の脚本・演出はこのフレデリカだ。事前に作戦立案でタラスクスの興味を引きそうな脚本を作成し、劇中は幕間の語りを担当する。

***


 フレデリカがタラスクスに向けて公演の説明をしている裏で、ルティナ・エレクトラの指示により、役者たちの配置が進められていた。
 
「あれ~? あーちゃんから貰ったやつどこしまったな……。
 良く読んどいてって言われてたのに……」
 
 符ルーフフェニックスFの中で眉を下げるルティナは、箱やら何やらをガサゴソと漁りながら公演時の人員配置図を探していた。
 
「あ、ここに入れたんだった……!」

 何個目かの箱を放り投げたところで、胸元に手を突っ込み、折り畳まれた紙を引っ張り出した。
 肌身離さずいれば忘れないね! とここに入れたのをすっかり忘れていたようだ。
 
「えっと、何々……。なるほどなるほど。
 って、あーちゃん、団長ちゃんのあの説明でどうやってここまでの内容作ってるんだろ……?」

 理路整然と見やすく記載されたメモを見ながらルティナは苦笑いし、その紙を持って仲間の元へ戻った。
 ルティナは指示書きの通り、それぞれが乗るスタンドガレオンなどを説明し、公演準備を進めていった。
 
「あーちゃん、サヤちゃん、公演中ずっと出たままみたいだけど、だいじょぶ?
 特に、あーちゃんは、団長ちゃん達の補佐もしてるんだし無理はダメだよ?」
「そうだな。愛菜さんに、補佐役に倒れられると、団長達を止められなくなるしさ。
 それに今回も、大きな声が出せないのにバルバロイ役で大変だと思うけど無理しない程度に……な」

 サヤカ・ムーンアイルのスタンドガレオン前で待機していた二人に、ルティナと紅城が話しかけた。
 紅城は無意識ながら剣道の頭をぽんぽんと撫で、常日頃彼女へ感謝の念を持っているが故に、心配していることを伝える。
 サヤカと剣堂は二人からの言葉に頷きながらも、剣堂が言い返す。

「……ルルナも問題児の一人だ」
「ルルのやつが団長さんを止められたら……いや、一緒になって暴走するな、うん。」
「あ、あはは~……それには、返す言葉もないね~……。
 ルルちゃんも悪気は無いと思うんだよ? うん。
 ボクもだけどルルちゃんも、あーちゃんの事、好きだし、信頼もしてる」
 
 ルティナは頬を掻きながらルルティーナ・アウスレーゼのフォローをし、言葉を続けた。
 
「だからボクが思うに、団長ちゃんもルルちゃんも突っ走っちゃうのは、あーちゃんが後ろで見ててくれるからこそだと思うな♪」
 
 
 にぱっと笑ってぎゅっと剣道の手を握った。
 剣堂はややむずがった表情をしながらもルティナの手を払うことはせず、とにかく今日は頑張る、と呟いた。
 
***


「――っへくち!」
「なんでこんなあっついとこでくしゃみなんか出るんだ。
 ファイアプルーフは持ってんだろ? そんなはしたない恰好してるから……」
 
 風の噂にくしゃみをしたルルティーナを、アレクス・エメロードはチラ見して言う。
 ルルティーナはこの地の暑さに、ジャケットを脱いでインナーとパンツスタイルの涼しい格好になっていた。
 ファイアープルーフで耐熱しているが、それでもうだる暑さに耳がペタンとへなっている。
 
「アレクちゃん、えっちな目で見ないっ!
 ルルちゃんがこげこげになっちゃったら泣いちゃうよ~」
 
 アレクスの小言に、シャーロット・フルールが割って入ってぺちぺちと彼を叩く。
 
「これから知識と美を重んじる種族を相手するんだ。しゃきっとしやがれ。
 っていうか、シャロ。俺のどの辺がえっちな目でみてるように見えるんだ……」
 
 二人からの刺すような視線に、アレクスはため息をついて目線を伏せると、ルルティーナのガレオンに取り付けたガレオンピアノをポーンと叩く。調律に問題はないようだ。

(……シャロだったら見ちまうかもしんねぇが)

 ピアノの音色を確認しながら、アレクスはじゃれ合う二人に目線を移す。
 ルルティーナと共に溶けそうに眉を下げるシャーロットにそう思うが、それは胸の内に仕舞っておいた。

「そろそろ始まるぞ」

 ピアノに問題がないことを確認し、ステージの様子を覗いたアレクスが二人に言う。
 ステージには、恭しく頭を下げたフレデリカが公演開始の挨拶をしていた。

***

 
「公演に先立ち、団員より説明があったと思いますが、本日は皆さんにお伝えしたいことを歌劇にいたしました。
 まずは歌劇団団長より、挨拶いたします。どうぞ」
 
 メンバーの準備が完了したと連絡を受けたフレデリカは、頭を下げて一歩下がる。
 入れ替わりに団長のフルールが、アレクスのエスコートで舞台正面に立った。
 
「へろへろ~♪ はじめまして、タラスクスちゃん。
 ボクらは浮遊大陸アークに召喚された異世界人、げほーのものにしてアイドル。
 フルール歌劇団だよ」
 
 歌劇団を代表するシャーロットの明るい挨拶に、タラスクス達は拍手を送る。
 拍手が鳴りやんだタイミングで、シャーロットはこの地にバルバロイの危機が迫っていること、アークと共に新天地、楽園シャングリラを目指そうと語り掛ける。
 
「……うん。そんな事言われても、いきなりは信用できないよね。
 だから、ボクらのここまでの旅路を星楽を絡めた歌劇で表現しちゃう☆」

 タラスクス達の反応を待たず、シャーロットは続ける。いきなりの提案に賛同できないことぐらい、ここにいる全ての人は分かっていた。タラスクスの心情を慮って、シャーロットはパァッと笑顔を弾けさせて宣言した。
 
「それを楽しんでから判断して欲しいな。
 んじゃアレクちゃん、ミュージックスタートっ♪」
 
 パチンと指を鳴らせば、ピアノの音色が会場に流れる。
 ピアノの音は次第に複数の楽器やバックコーラスによって彩られ、歌劇の幕開けを告げた――。




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