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3000年前の遺産

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3000年前の遺産
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竜人たちの美学4


 信道が様々な世界を語る中、ニキティア・レリエーナはタラスクスの興味を惹くために持参したギアの調整をしていた。
 
「美学って程洒落たもんじゃないかもだけど、知識欲をくすぐるってーなら、一案はなくもない」
「ヒーリングケアにギアバリアで、治療機能や防御機構も持たせているのか。
 見た目はバズーカ、中身は防衛特化。確かに興味を惹くかもしれないな」

 ギアクリーナーをカスタマイズしたドッキリ☆バズーカに簡単なメンテナンスを行うニキティアを、アナライズで観察したクラン・イノセンテは、そのギアを見てふむ、と唸った。
 
 そこへ、何人かのタラスクスが声をかけてきた。
 
「それはアークの道具ですかな?」
「アークのものではないが、ここではない異世界の力さ」
「メンテナンスも終わったし、丁度いいね!
 お兄さんたち、ちょびーっと聴いてって欲しいなっ!」
 
 貴族の作法で礼節を欠くことなくタラスクスに応対したクランに、タラスクスはその場へ座り込みニキティア達の話を聞き始める。
 
「はい、という訳でお見せ致しますはコチラ!『ドッキリ☆バズーカ』ッ!」
「武器……か。我々の肉体とどちらが強いかな?」
「その程度の口径なら大した威力はないだろう」

 ニキティアがドッキリ☆バズーカを構えると、タラスクスたちは余裕のある表情を見せた。
 その豪奢な体肢にとって、銃火器類は大した脅威ではないのかもしれない。
 
 しかしニキティアはここからが本番と、一瞬でバズーカを掃除機に変形させた。
 
「本来はこっちでお掃除する用途なんだー」
「実際は、バズーカにもなる掃除機だが、全く異なる要素を一つの武器に落とし込んでいるんだ」
「バズーカや掃除機機能だけじゃないよ。バリアもできるし、治療だってできるんだ! それはこのギアを使って……」

 ニキティアが星導工学の知識を元に、カスタマイズされたギアやその仕組みについて説明していく。
 説明に熱が入っていくニキティアに捕捉を入れる様にクランもタラスクスへ説明していく。
 タラスクスの男性たちは初めて見るギアや、その複雑な構造に唸りながら、時には感嘆しながら二人の説明を真剣に聞いていた。
 
「今回はバリアや治療機能だけど、他の機能だって沢山付けられるんだ!
 ボクらが扱う外法の力っていうのは、こういう代物あるんだ。少しでも興味を持ってくれた幸いだよっ」
「ニキティアの言う通り、掃除機以外にもギアの種類や機能は幾らでもある。
 これらを作り出したのは人の想いやそれを紡いできた歴史だ。そしてそのギアを自分だけのものにカスタマイズする。そこにはその人の想いや、美学だってある筈だ」
 
 ニキティアからバズーカを渡されたタラスクスは、しげしげとそれを観察し、二人の言葉にうんうんと頷いた。
 
「……マールスの外には、そういった技術や込められた美学がある、そういう事だな」
「ああ。俺達が、楽園に向かう途中に貴方達と出会えたように」

 クランがタラクラスたちに頷く。
 タラクラスたちは、そんなことを言われたらついて行く他ない、とニキティアにギアを返し、二人に礼をする。
 
 タラスクス達と別れた二人は、彼らが移住へ前向きなことに安堵した。
 そしてニキティアは掃除機を再びバズーカ形態にして、他のタラスクスにも話をしに行こうとクランを引っ張る。

「興味を持ってもらえてよかったー!
 よーし、この調子でどんどんタラスクスを勧誘するぞー!」

 おー! と拳を挙げたニキティアにクランは苦笑しながらも、気を入れ直した。
 
(……バルバロイの能力や状態は、今後もどんどん変化していく筈だ。
 今は安全だとしても、今後もそうだって保証はない。お互いの為にも、一緒にシャングリラへ連れて行く方が良いだろうしな)
 
 既にタラスクスの身体に寄生したバルバロイの存在も気になるところだ。
 その悲劇を繰り返さないためにも、クランはニキティアと共に次のタラスクスの元へ向かったのだった。

***


 タラクラスはその高い身体能力により異種族よりも強い力を持っている。
 それ故に好戦性が廃され、争いを好まず、知と美学の探求をよしとする性格になったという。
 
 つまり、このマールスからアークへ移住してもらうためには武力ではなく、彼らを納得させられる知力や美学が求められる。
 
 では自分がタラスクスに提示できるものは何だろうか。納屋 タヱ子は考える。
 自分たち特異者の美学は人それぞれだけれど、自分の場合は2つある。
 
 ひとつはトルバトールとして“詩で楽しませる”こと
 もうひとつは、ヒロイックソングスの世界で会得した食皇のスタイルで“食で楽しませる”こと。
 
 それが私の提示できるものだと、居住区の入口付近でその2つが融合したライブを行うべく納屋は準備をしていた。
 
(曲を聴くにもお腹が減っていては楽しめませんし、お腹が減っていては曲を聴く余裕もないでしょう?
 なら一度に両方をね!)
 
 あらかた準備を整えると、納屋は人魚の戯れで喉のウォーミングアップをする。
 ぽこぽことシャボン玉が周囲に浮き、それに誘われて何人かのタラスクスが納屋の前へ集まってきた。
 
「初めまして。
 今からタラスクスの方々に食べていただきたい料理を作りますね」
 
 納屋は観客に一礼すると、火加減ワーニングの【星詩】を奏で始めた。
 すうっと息を吸うと、彼女の周りに光の刃と火の鳥が現れ、それらは彼女の周りをくるくると回り始める。
 火の粉と光の粒がはらはらと落ちながら彼女を取り囲み、納屋が詩を紡ぐと目の前に準備されたハニーミルフィーユカツサンドに向かって火の鳥が飛ぶ。
 
「わぁ……いい匂いがしてきたわ」

 観客の女性が大きく息を吸った。
 火の鳥によってカツサンドが温められ、香ばしい匂いが辺りに広がる。
 
 納屋は次に2本の光刃を操って、カツサンドを等分していく。
 サク、サク、と小気味いい音と共にカツサンドはカットされ、光の刃が軌跡を描いて消えた。
 
「さぁ、仕上げです!」

 納屋がラストフレーズを歌う。
 まかないレシピを応用して、最後にはちみつをカツサンドにかけていく。
 琥珀色の蜜がキラキラと輝いて、カツサンドの温度で温められたはちみつが香り立つ。
 
「これがダブルハニーミルフィーユカツサンドです。
 長甘口のスイーツ系主食サンドイッチ、どうぞ召し上がってください!」

 彼女の詩と共に調理が終わり、納屋は一つずつタラスクスに提供する。

「甘くておいしいわ。食べすぎちゃうそう」
「一口目は甘いのに、中のカツがしょっぱくて、不思議な感じね」

 カツサンドを口にしたタラスクスたちはそれぞれ感想を述べる、
 それを見ながら納屋は礼をして言葉を続けた。
 
「ネプトゥーヌスの人魚の方から教わった技術がなければ、カツサンドを温める微細な調節はできなかったと思います。
 そしてこの火の温もりがなければ、はちみつとサンドが絡むこともなかったでしょう。
 多様性が料理の幅を増やしてくれます。そしてその多様性は、この先の理想郷に皆でたどり着く為に必要だと思っています」
 
 納屋の言葉に、タラスクスたちは静かに耳を傾けている。
 
「料理は口に合いましたでしょうか。
 今、この時間を楽しんでいただけたら幸いです」
「美味しかったわ。もっと量があれば更に良かったけれどね。
 それとも、アークに行けば十分に食べさせてくれるということかしら?」
 
 一人の女性がにこりと笑って言う。
 その言葉に納屋もつられて笑い、もちろん、と答えたのだった。




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