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3000年前の遺産

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3000年前の遺産
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 巨竜に立ち向かう者たち・4
 
 【鶏肉騎士団】の柊 恭也は、カリバーンに搭載されたドラグーンソナーでタラスクスバルバロイの影を捕捉すると、
「奴の居場所を突き止めた。各自、浮遊大陸への対策は怠るなよ」
 そう言って自らも耐熱フィルムで機体を熱から守りながら、仲間に居場所を周知する。
 それを受けたライゼ エンブは、アイアンカイトを自身の操縦するエイヴォンMVに取り付けると、ファイアープルーフで自機と朝霧 垂のデュパンダルを覆うほどのフィルムを作り出す傍ら、仲間のドラグーンアーマーに強化整備を施していく。この整備が確実にドラグナーたちを守ってくれる保証はないが、ライゼはある種のお守りみたいなものだとして整備に当たっていた。
 同じようにキョウ・イアハートも、自身の機体であるシュワルベWRにアイアンカイトとファイアープルーフの装備をつけると、【使徒AI】メルセデスにアイアン・ボンドで仕上げを任せ、仲間の機体にメンテナンス・サップを用いた簡易点検を行っていた。
「じゃあ、まずは僕たちが行くよ。……シャングリラまでもう少しって所まできてるんだもん、頑張らなくちゃ」
 ライゼが恭也から伝えられた居場所に向け、自らも敵の位置を探ろうとするようにガレオンを走らせると、間もなく巨体が視界に姿を見せた。
 ガレオンのステージには、ルージュ・コーデュロイ紫月 幸人の姿があり、
「いや、デッカ!!? 大きすぎぃ!! おいくつですかぁ!?」
 と、幸人の頓狂な声が聞こえてくる。額からは汗が一筋伝っていて、それがファイアープルーフが遮断しきれなかった熱にもたらされたのではなく、想像以上の大きさを誇る敵への畏怖から滴るものであるのは明白だった。
「ロディニアで戦ったタラスクスも、バルバロイに寄生されてしまうのね。そしてより強靭になっているみたいね……けど、皆で力を合わせれば勝てる筈よ」
 しかし、ルージュからそんな言葉を聞かされれば、幸人に芽生えていた恐れは霧散する。ルージュはそんな幸人に小さく笑いかけると、自身に水の膜を張って用意を整えた。
 マーメイドたちから得た秘術によって熱から解放されると、ルージュは慈愛の輝星を手にして歌い始める。
「愛を込めて歌うわよ……レッツ・ゴーナウ!」
 カンナギ・ドレスで落ち着かせた心が語るのは、学生達の青春と恋愛模様。競泳を通してライバルたちと水中で駆け引きする様子が歌詞で紡がれると、そのせめぎ合いを象徴するように水の輪が生まれて敵にぶつかっていく。続いて何より大切に思う異性との出会いや触れ合いが歌われると、その交流に育まれた温かさが、春の空気のような爽やかさで仲間の精神をほぐしていく。そして最後に訪れるのは苦い挫折の場面だったが、試練にくじけてもやがては前に進んでいこうとする力強さが、聞く者の背中を押す【星詩】に変わった。
「俺も演奏始めますか。今日の曲は春夜恋! テンポ早めのアッパーアレンジでいくよー!」
 幸人もオーシャニックミラフォンを宙に広げると、【星音】を奏でだす。
 響くは少年少女の想いを応援する希望の曲、宣言通りにアップテンポで流れる旋律からは暖かな風がもたらされ、体をほぐすと同時に精神を落ち着けてくれる。
 しかし、ひとたび桜吹雪が風に舞えば、その花弁が艶やかな光を放ちながら敵に纏わりつき、恋する乙女のいじましい執着心の体現としてほのかな毒に変わるのだった。
 なお、その際にステージに石柱が生まれていたが、これを幸人はルージュとのセッションを邪魔する無粋な輩の魔の手を防ぐための要素として機能させながらも、曲が描く世界観においてはモブ扱いで済ませていた。
 二人の作り出す星楽がテリトリーを中和すると、タラスクスバルバロイの突進が迫ってくる。普段ならばそれを避けながら反撃を考えるところだったろうが、ライゼはこの戦いではひたすら生存し続けることを意識していた。
 よって、猛追する巨体の接近をすぐに感知すると、星楽の有効範囲を見極めながらも、大きな旋回で余裕を持った回避を取っていた。そのためにステージにも大きなうねりが押し寄せようとしていたが、事前に取り付けた柵があったことに加え、追加パーツである微赫細翼がステージに影響を出さないような動きを実現させていたので、星楽は保たれたままだった。
「よし、ライゼはその距離を維持し続けろ。……やるぞ、ライオネル!」
 恭也はそう指示を出すと、2挺のマギ・ダブルカリヴァを構える。50メートルもの体長を誇るタラスクスバルバロイを相手にするならば、手数を増やして絶え間なく攻撃していくのが得策と考えたからだ。
 1発撃つごとに因子の力を付与し、弾速を固めた弾丸で狙う先には翼。機動力を削ぐには最も優先すべきだとして、恭也は翼に穴をあけるつもりで何度も弾を撃ち込んでいく。
 そこへライオネル・バンダービルトも並び立ち、ツヴァイハンダー【S】からマギ・シャドウハックバスを構えていた。
(ベーダシュトロルガル……懐かしい名前だ。嫌な思い出が蘇るってもんよ)
 過去の一幕を思い返して口元を引きつらせるライオネルだったが、すぐに現実へと思考を切り替える。
「しかしでけぇなぁオイ。ちっとは加減してくれてもいいんだがな。……つっても聞いてくれるわけでもなし、例によって闘うのがサダメってやつさ」
 目前には巨大な敵、おまけに周りは火の塊が囲っているという状況ではあったが、ファイアープルーフで熱が軽減されているおかげで全く耐えられないということはない。
 あるいは、今までにもこうした過酷な環境下での戦いを制してきたのだろうか。歴戦の勇士のオーラというものをライオネルは纏っていて、そこから漲る自信もまた力になっているようだった。
 恭也からの攻撃は今も続いており、タラスクスバルバロイのスピードでも全てを避けることはできないでいる。【使徒AI】ヴァレットからオートボアサイトの照準補正を受けたライオネルは、黒い銃弾を撃っては移動し、敵との距離を優位に保ちながら次の一手につなげる機会を窺っていく。
 やがて、恭也の射撃が翼の先端を貫通した瞬間、ライオネルは因子の力を付与し強化した炸裂弾頭で目や鼻といった顔面部を狙い撃った。その弾丸はタラスクスバルバロイの鼻先に当たったと同時に爆発を起こし、顔全体に及ぶほどの余波を広げていく。
 その凄まじい衝撃にタラスクスバルバロイ体躯を揺るがすと、爛れた口から酸のブレスを吐き出した。
「ついに来たか……!」
 恭也は【使徒AI】敏腕サポーターに戦機同調を指示すると、飛躍的に研ぎ澄まされた感覚で酸が撒かれる範囲から退避する。
「ヴァレット、頼むぞ!」
 ライオネルも自らの感覚を活かした回避行動を取りながら、使徒AIにそれを支援させる。
「二人とも、柵に掴まって!」
 また、ブレスの影響が自分たちにも来そうな気配を察したライゼもそう叫ぶと、ジェット噴射の急加速で避けていた。
 結果、3機とも損傷を軽微に留めることができ、さらにはその攻防で注意を引き付けたことによって、仲間が接近できる隙を生み出すことにもつながっていた。
「次は俺らの出番だな!」
 キョウはステージに火の塊である浮遊大陸への対策を整えた優・コーデュロイミラ・ヴァンスエリオン・ネレイスを乗せ、ガレオンを発進させる。キョウもまた、ベーダシュトロルガルという名前にはあまり良くない思い出を抱えているようで、それ故に調査の重要性を認識するとともに、その妨げとなるバルバロイの排除は確実に果たさなければならないと考えていた。
 そのために自分がするべき仕事は、歌姫の【星詩】を仲間へ確実に届けることと定め、武器を持たずひたすら回避に専念する腹積もりだった。恭也やライオネルに注意を向けながらも不意に飛んでくる尻尾の薙ぎ払いを、うねるような旋回で逃れたキョウは、敵の攻撃範囲からいくらか遠いと思われる位置に待機する。
「よろしく頼むぜ」
 ステージの3人はそれを受けると持ち場につき、まずはエリオンが小さなシャボン玉を浮かべてウォーミングアップを図ると、小さな氷柱を放って牽制に出た。その間に、優が梅雨のち恋もようを歌い始める。
 その歌は春の終わりに始まった恋が、梅雨の雨を受けながら進展していく様子を描いたラブソング。サクラ・ヒメバオリから春を思わせる花びらが舞うと、桜月花から響く歌声がタラスクスバルバロイに毒のような効果を発揮し、その動きをわずかに鈍らせる。
 しかし、仲間にとっては麗らかな歌声は力となり、精神的な疲労を取り除いてくれた。
 そして花びらが去った後からは、恋する少女のように踊る優に導かれるように小さな泡が雨のように立ち上り、ネプティネス・サファイアの力を得て広範に及ぶ爆発を起こす。タラスクスバルバロイはそれを避けるように翼を広げるが、泡から起こる爆発はそれを阻むように繰り返され、さらに空中に生まれた小さな氷柱が、さながら恋に嘆き苦しむ心を刺すような鋭い雨となって降り注いだ。
 優もまた、過去に経験した戦いでベーダシュトロルガルをよく知る者らしく、それをバルバロイに乗っ取られればどれほどの脅威になるだろうと危惧していた。
 だからこそ最愛のパートナーであるルージュと一緒に騎士団の仲間へ、そして倒すべきタラスクスバルバロイにも慈愛の【星詩】を届け、この戦いへ速やかに終止符を打とうとしていた。
「さて、歌姫たちの【星詩】を拡大してやるだわさ」
 その近くで、自らが設置したチェーンサークルを掴んで衝撃に備えていたミラは、生命の芽生えで優の【星詩】を広げようとする。
 ミラがショルダーキーボードロッドを奏でると、歌い踊る優の後ろには実態を持たない大きな樹が現れ、同時に爽やかさを印象付ける草原がステージいっぱいに広がっていく。
 大樹に揺れる枝の隙間からは日の光がこぼれているが、この浮遊大陸の灼熱を反映してか、いつにない眩さを放っているようにも思える。しかし、それがいかにもこの大陸に浮かんだ生命の大地のような印象を与え、光が仲間に活力を与えていた。
 それからミラが【星音】による簡易のバリアを張り出すと、白森 涼姫松永 焔子が、タラスクスバルバロイの隙を窺うようにしながら徐々に接近を図っていく。
 それを、コールブランド・バロンを水の膜で覆ったスレイ・スプレイグが援護に出ようとする。
 ベーダシュトロルガルという名称に紐づく記憶は、ある兵器への脅威をも引き連れる。それを鮮明に脳裏へと描き出したスレイは、さらに想像を膨らませそうになったが、
「……いえ、今はよさなければ。彼等がアークに到達するような事があっては、調査どころではありませんからね」
 そう思い直して、立ち向かうべき相手を見つめる。何より、ここにはエーデルもいて、前線で戦いながら連隊の指揮を執っている。その指揮下にスレイはいなかったが、【鶏肉騎士団】が1体を受け持つことになれば、それこそが彼女への援護になるのだとスレイは思っていた。
 そして、騎士団の仲間への援護としては、コールブランド・バロンに備え付けられたスプレーマジックミサイルポッドを利用する。
 D因子の力を変換したマジックミサイルを、スプレーのように前面へと放出すれば、弾幕に身を潜めながら垂が前進した。
「アークへ向かって飛んでくる巨大なドラゴン……ちょっとやそっとじゃ止まりそうにないからな、先ずはその機動力を落とす事に専念させてもらうぜ」
 煙幕をかき消すかの勢いで向かって来る尻尾の薙ぎ払いを、デュパンダルの機動性と運動性を活かすような立体的な動きでやり過ごした垂は、次いで呼応式加速装置を使用して一気に詰め寄っていく。そしてタラスクスバルバロイと接触する直前にフレキシブル・バーニアの急加速を行うと、ジャッジメント・ハルバードですれ違いざまに斬りつけた。
 三又に別れた穂先の斧部分が狙いを定めていたのは翼だったが、狙いは思ったようには定まらず肩を切り裂く。しかし、その痛みに怯んだところへ恭也とライオネルの射撃が行われたため、二人が狙い続けていた翼へのダメージはさらに蓄積されていた。
 その間に切り返して敵に向かっていた垂は、今度は刺突の構えから槍の連撃に出る。小さな円を描くように突き出された穂先は肩や腕部を突き刺して表皮を抉っていく。
 それを退けようと体当たりが襲いかかろうとしたが、垂は【使徒AI】敏腕サポーターに戦機同調を使わせることで機体とのリンクを引き上げると、素早くその場を退いた。
 それを追わせないように諏訪部 楓のツヴァイハンダー【A】が立ち塞がると、攻撃範囲に踏み込まないようにしながらグランドスマッシャーで牽制を仕掛けていく。
「ファイアープルーフで温度対策もバッチリですから、私にお任せあれ。それと私の機体は速さが見劣りしますので、デュランダルに乗っている皆さんはお先に!」
 トランキライザーで精神の安定を保ちながら楓が牽制する間に、垂と入れ替わるように涼姫と焔子のデュランダルが飛び出した。
(しかしまた、随分と大物が来たものですね。ざっとドラグーンアーマーの6~7倍と要ったところでしょうか? そのうえその巨体に似合わぬほど俊敏と来ましたか。これは少しで対応を誤れば即死ぬかもしれませんね……)
 涼姫は視界の隅々までも満たす大物を前に、そんな思いを巡らしたが――しかし、それがどうしたと笑う。
「我ら鶏肉騎士団。今まで渡ってきた道中にて嬉々として大物に挑み、そして喰らってきた我らにこの程度の事で怯む道理無し。さあ、竜殺しと参りましょうか!!」
 ファイアープルーフで耐火性を得た上に、ミラからも水の膜で保護してもらっている。環境への備えを万全にした涼姫は、自らに注意を引き付けるように敵の進路上に立つと、その出方を伺うように目を凝らす。
 涼姫の視線を受け止めたタラスクスバルバロイは、自らもまた相手の隙を探るような視線を送ったが、すぐに先手を打つように爪を振り上げた。
 それを待っていた涼姫は、【使徒AI】敏腕サポーターに呼びかけて機体とのリンクを向上させるとムラマサブレードの切っ先を向ける。同時にデュランダルのフレキシブル・バーニアによる噴射と呼応式加速装置を合わせて急加速に出れば、ミラが領域内の時間の流れを瞬間的に遅滞させて援護する。
 そうして爪の攻撃を鮮やかに避けた涼姫は、
「全身全霊、この一刀で決める!!」
 その気合いとともに肉体の限界を超える力を引き出し、刀を振るった。単に身体性能を引き上げるだけでなく、剣を学んだ者としての技能でも潜在的な力を引き出した涼姫の斬撃は、首を断ち切るようにして上下からほぼ同時の閃きを見せる。
 しかしその狙いを読んだのか、斬撃が当たる直前でタラスクスバルバロイはのけ反るような動作をすると、胸部にダメージを受ける代わりに首への二閃を防いでしまった。
 また全ての力を振り絞った攻撃だったため、涼姫はそれ以上の追撃に出ることができず引き下がるしかなく、涼姫が抜けた穴を埋めるようにしてスレイが呼応式加速装置を使用した急接近を果たしていた。
 ここまでの戦いから、いくらか敵の動き方にも察しがつくようになっていたスレイは、爪の切り裂きを避けながら側面に回り込むとアイス・カンプガイストで攻撃する。
 斬りつけた腕には剣が帯びていた冷気が乗り移り、表面がみるみる凍り付いていく。
 それを援護しようと、ステージからはエリオンのアイシクルフォールが響き始める。
 ミラの奏でるキーボードの音に合わせ、軽快なPOP調で恋愛をテーマにした曲を口ずさむエリオンだったが、曲に対して歌詞は実に不穏なものだった。
 サクラ・ヒメバオリから舞う花びらも、穏やかさの裏にどこか冷え冷えとしたものを感じさせ、ツュプレッセ・ナハトから聞こえる声がじわりとした毒をもたらしていく。
 エリオンの歌う恋は、頑なな氷柱が恋の温かさを知る詩――知ってしまう詩であり、凍てつく氷柱が温もりに触れてしまえば、結末はひとつだけだった。
「アイシテルから堕ちるのだ」
 エリオンがそう呟いた瞬間、無数の氷柱が風に乗ってタラスクスバルバロイに襲いかかる。吹きつける冷風が危ない微睡みをもたらそうとするが、タラスクスバルバロイはそれに耐えながら氷柱の襲撃を逃れようとする。
 しかし、一度は避けたと思った氷柱たちは、すぐに方向を変えると再び襲いかかり、その体に次々突き刺さっていった。
 それに合わせてスレイも冷気を纏った剣を振るうと、動きにぎこちないものが生じだした。
 焔子はスレイとエリオンの連携が効いている内に、仲間の立ち位置と敵との距離を検めると、包囲に隙間を作らないように回り込んでいく。
(ベーダシュトロルガルにタラスクス――特にベーダシュトロルガルとは直接の交戦はなくとも、その猛威は忘れられない。名前が同じだけかもしれませんが……そんな偶然あり得ます?)
 かつてあったという戦いを思い返し、焔子の頬に汗が伝う。心に巣くった嫌な燻ぶり、焦燥感は、どれだけ機体を外の熱から守ったとしても決して遮断できるものではなかった。
 だが、それを少しでも解消する方法とその力を、焔子は持っている。
「そう、今はタラスクスバルバロイの撃墜が先決。打ち滅ぼすことでその魂を救いますわ!」
 呼応式加速装置で一気に加速した焔子は、仲間の援護を受けながら竜頭を目がけるように上昇する。そして死角に入った瞬間にフレキシブル・バーニアで急転換すると、スカッカムを頭部へ叩き込もうとした。
 一瞬の集中力で狙いを定めた斬撃だったが、タラスクスバルバロイもその殺気を感じ取ったか、高度を下げて回避されてしまう。しかし、当初の狙い通りではなくとも、斬撃は片翼を直撃して表面を凍りつかせていた。
 そこに追い打ちを仕掛けようと迫るのは、楓の機体。
「私たちなら、【鶏肉騎士団】なら必ず勝てます。絶対に勝てると信じていますよ……!」
 タラスクスバルバロイはなお戦う意思を見せつけているが、今やその翼や腕は凍てつき、顔面の一部は焼けただれている。奴をここまで追い込んだのが他でもない自分たちであるなら、勝てない道理なんてない。
 その信頼感が仲間に戦うための力を与えると、優とルージュの【星詩】もそれに呼応するように活力を取り戻させる。その状態から、まずは一撃。ある村でまことしやかに囁かれている「祟り」をその身に受けている楓ではあったが、仲間への信頼と非合法ながら精神を安定させる薬剤を服用している今なら、「祟り」の影響は最小限に抑えて攻撃性だけをものにできているようだ。
 振るった槌は小回りが利かず、大ざっぱに胴体へ降ろされたが、その単純さゆえに威力は強かった。鈍重な一撃を身に受けたタラスクスバルバロイは、押し負けて後方に押し戻される。
「これが鶏肉騎士団の信頼の力です! さぁ後輩ちゃん! この戦い終わらせますよ!」
 そして楓は【使徒AI】敏腕サポーターに呼びかけると、戦機同調を果たす。高速移動を可能にしたところから繰り出すのは、使徒AIによって考案された居合い斬り。因子の力で発生させた雷で身体強化しただけあって、非常に鋭い一撃であったが、楓の本命は居合い斬りではなかった。
「ブ……ブチ抜けぇええええええ! ツヴァイハンダァア!!!」
 戦機同調と居合い斬りで一気に距離を詰めた楓は、大地に向かって槌を振り下ろし衝撃波を放つ。それはタラスクスバルバロイの背中に直撃し、巨体が大きく揺さぶられた。
 そこへまた槌を振り下ろそうとすると、視界の端から尻尾が迫って楓を薙ぎ払う。その強い痛みが振りを悟らせると、それまで安定していた精神が突然の疑心暗鬼に染まっていく。
 このままでは誰が本当の敵かすらわからなくなりそうに思った楓は、首元をしきりに気にしながら後方へと離脱した。
 しかし、楓の戦いで頭上に迫ることのできた焔子は、その瞬間に機体の飛行能力を手放すと、落下する勢いを利用した斬撃をぶつける。呼応式加速装置にも勢いを得た斬撃は、首元を掠るようにしながら肩を斬りつけた。焔子はそこからすぐに飛行能力を回復させようとしたが、タラスクスバルバロイの牙が機体を噛み砕こうと迫っていた。
 焔子の窮地に反応した【使徒AI】アベルは、自律行動によって機体を外へ逃がす。そこ追い打ちするように酸のブレスが吐き出され、焔子とスレイ、そして歌姫たちを乗せるキョウのガレオンを襲おうとする。
 焔子はガレオンまで狙われていることに気づくと、頭部に向かって刃を叩きつけることで無理やりブレスの向きをずらそうとする。その隙をついてキョウは咄嗟に錐もみ飛行を敢行し、ステージから誰も振り落とすことなく逃げおおせることができた。
 だが、その無理が災いして、焔子の機体には損傷が出てしまう。スレイも呼応式加速装置を使って範囲から脱出しようとしていたが、間に合わないと悟って構えたローレライ・シールドを溶解させられていた。
 しかし、タラスクスバルバロイの方ももはや限界に差し掛かっていた。
「ライオネル!」
「おう!」
 恭也はライオネルとともに、翼を穿つような勢いで射撃を加えていく。タラスクスバルバロイはそこへ反撃するため近づこうとするが、幸人が旋風をぶつけて羽ばたきを遮り、再び戦機同調した焔子がその行く手を塞いだ。
「潔く、私たちに倒されなさい!」
 スカッカムに因子の力で水が纏ったかと思うと、たちどころに渦潮となって放たれる。
「我々は、ここで負けるわけにはいかないのですよ」
 タラスクスバルバロイが渦潮に気圧される内に、スレイも【使徒AI】敏腕サポーターの援護で機体とのリンクを強めると、頭部を狙って上下からの斬撃をぶつけた。そこに残りのマジックミサイルを全て叩き込むと、とうとう巨体は墜落した。
「どうにか勝利したことだし、後は恒例の記念品として角ゲットですかね……!」
 戦いが終わると、幸人が不意にそんなことを言うが、周りの反応は薄い。
「例えば加熱でダメならミンチにしてハンバーグとかならワンチャン寄生されずにいけるのでは! ……いや、考えただけですよぅ?」
 その様子に悪あがきした幸人だったが、最後は尻すぼみに終わった。しかし、そこに垂の援護が加わる。
「ん~、しかし勿体ないよなぁ……ドラゴンの素材って言えば、どの世界でも高性能な武器や防具が作れるじゃんか? バンデットの奴等が昆虫型バルバロイとドラグーンアーマーを融合させていたように、俺のアーマーもドラゴンの爪や鱗なんかを使って強化できないもんかな……いやそう言った強化自体は出来るだろうってのは分かってるんだ、大雑把に言えばアーマーの上に装甲を追加する様なもんだからな、勝手に融合するならむしろ手間が掛からなくて良いじゃねぇか」
 垂の発言は、何なら幸人の提案よりもよほど具体性に富んでおり、今すぐにでも実行に移されるのではと思うほどだったが、
「ところで、あれな。近接組は自分の機体は自分で洗えな。やり方は教えるから」
 キョウの発した一言に、戦いが終わってもやるべきことがあるのだと悟らされたため、計画はたちどころに流れるのだった。
 
 こうして、バルバロイに寄生された哀れなタラスクスたちとの戦いは、外法の者たちの勝利で幕を下ろした。
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