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3000年前の遺産

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3000年前の遺産
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 巨竜に立ち向かう者たち・2
 
 【ライトニング騎士団】の団長である桐ヶ谷 遥はエーデル独立08連隊のエーデルや他の騎士団の団長に連絡を取ると、それぞれがどの敵を相手取る予定なのか聞き出し、その情報を元に自分たちが担当する敵を定めていた。
「シャングリラは目前、ここで無理して被害がでたら意味がない。わたしたちの騎士団はもちろん、エーデルや他の騎士団も含めてね」
 故に、どれかに戦力が集中しすぎることも、誰も狙わない相手が出るのも避けたかったのだ。
 情報共有ができたところで作戦の通達を――と思ったのだが、タラスクスバルバロイが強大すぎるため、それらしい作戦が作れなかった。
 よって今回は変則的に、戦いの中で情報を集めながら敵の弱体化を促すこととなった。【使徒AI】敏腕サポーターに情報収集のサポートを任せながら、遥は弱体化を導くための策を練る。
「……騎士団のエース機を駆るジェノを筆頭にした防衛戦術を取りましょうか。ジェノが注意を引き付け、その隙を皆で突くことで全体の被害を抑える流れで戦うわよ」
「ああ、心得た」
 作戦の要と言える役どころを一任されたジェノ・サリスは、それを聞いても気負いも気後れもなく、ただ冷静に了解した。
 ジェノの戦いを支える歌姫は、シオン・ツバキレベッカ・ベーレンドルフのエイヴォンMVのステージに立つシオンは、絶賛うだっていた。
「あーつーいー……対策してるといっても熱すぎるよ!」
 実際のところ、シオンや同じくガレオンに乗り込んでいるアルフレッド・エイガー、そして遥には、レベッカから耐熱フィルムを付与されているので、浮遊大陸がもたらす熱の影響はほとんどない。しかし、見渡す限りの灼熱空間がどうしても暑さを想起させるらしく、それでシオンはぐったりしていたのだが、
「……でも、こんなときだからこそしっかり歌わないとね!」
 すぐに気持ちを改めると、前線に向かう決意を口にした。そんなシオンをしり目に、レベッカはジェノのデュランダルに水の膜を張り巡らせていたが、その近くで何やら声が聞こえる。
「熱いわぁ…めっちゃ熱いわぁ……何なの他の奴等が纏ってるフィルムつうか膜? 何アレ、ズルくね? 俺の分って支給されねーの? 自前だと? ……はぁ?」
 好き勝手にわめいている声は、壬生 春虎のもの。レベッカがまさにその対策をしている場面を目ざとく見つけた春虎は、何か言いたそうにレベッカを注視する。
 近くで仲間のドラグーンアーマーの点検や、メンテナンス・サップ、ファイアープルーフによる環境への対策を施していたビーシャ・ウォルコットエーリッヒ・アーカムハイトもその様子に気づいていたが、面倒な予感がしたのか気づかない振りに徹することにした。
 一方で視線を注がれたレベッカは、気づかない振りをするわけにもいかないので、大儀そうに春虎を見やる。
「……何? 壬生の機体も熱対策がないだと? 仕方ない一緒に施してやるとしよう」
 そして呆れ交じりに飛び入り客を受け入れたレベッカに、春虎は、
「いや~お手数おかけしまっす」
 と調子の良い言葉をかけていた。その間、春香とジェノは全く取り合うことなく戦いに考えを巡らせ、アルフレッドは『黙ってればイケメン』と称される立ち姿でただ見ただ守っていたという。
 始まる前から賑やかなことであったが、ともかくこれで用意はできた。
「では、行くぞ」
「頼んだわ」
 ジェノは遥と簡潔にやり取りすると、最前線へと走り出す。その後ろに遥が追従し、同じく後方に控えるレベッカのガレオンからは、シオンの歌う恵みの雨音が聞こえる。
 それはヒノモト地方に伝わるトルバドールの特別な歌で、またの名を祝詞とも言われるらしい。祝詞を紡ぐ声が空に昇ると、柔らかな雫が空から降り注いでいく。雨音はシオンの歌声と交わって心を落ち着け、雨粒は仲間に触れると心地よい清涼感で治癒力の増加を促していた。
 シオンの【星詩】は仲間に加護を与えるものに特化していたが、その歌声はテリトリーの中和に繋がる。それを感じ取ったのか、タラスクスバルバロイが徐々に近づこうとしていた。
「酸のブレスに巨体の突撃、どれをとっても当たったらやべぇよな。なら、当たらないように支援するのがオレの仕事だ」
 アルフレッドはそう言うと、白銀の花園を発動する。シオンの足元からは花園が広がり、銀色の霧と白い煙が拡散すると、雨に溶け込んで視界を白銀に染めていく。
 それでいて花弁は鮮やかさを失わず、仲間の闘志を掻き立てていた。
 アルフレッドの【星音】で体当たりを逸らされたタラスクスバルバロイは、すぐに体を切り返して詰め寄ろうとしたが、それより早くジェノがマギ・ダブルカリヴァを向けていた。
 因子の力で弾速が向上した射撃が脇腹を貫くと、その痛みに巨体の動きが瞬間的に止まる。そこへデュランダルに搭載されたフレキシブル・バーニアで一気に近づいたジェノは、武器をアイス・カンプガイストに切り替えて体表を斬りつけた。冷気を纏った刀身が切り裂いた箇所がみるみる凍り付いていくが、巨体故にその範囲は微々たるもの。
 しかし、続けざまの攻撃は、ジェノを倒すべき標的と定めるに十分だったようで、タラスクスバルバロイはいよいよ集中攻撃しにかかる。
 狙った通りの流れを掴んだジェノは、シオンのもたらす雨に体を冷やしながら、再び銃を握りしめていた。
 その様子をガレオンから見つめていたレベッカは、タラスクスバルバロイの弱点を見極めようと目を凝らしていた。そしてその弱点となるのは、驚異的なスピードの源である翼、あるいは顔や頭部だろうと推理する。
「被害を抑えるには、事前の整備だけでは十分とは言えん。敵の弱点を見極めて速く倒してこそ、味方の被害を抑えられる……よく言うだろう? 攻撃こそ最大の防御だとな」
「ええ、その通りね。……聞こえたかしら、ジェノ?」
 レベッカの情報提供を受けつつ、自らも戦機同調による研ぎ澄まされた感覚で戦いを注視していた遥も同じ答えにたどり着いたようで、ジェノに翼を狙うよう指示を送る。
 それに了解を告げたジェノは、アルフレッドの霧や煙がわずかでも視界を塞いだ隙を縫い、まずは翼に向けて狙撃をしていく。同時にレベッカもタラスクスバルバロイの背後に回り込むと、ジェノが傷をつけた箇所を狙うようにマギ・ガレオンライフルを撃った。
「……頃合いね」
 遥はそう呟くと、もう一度戦機同調を行う。さらに呼応式加速装置を使い、ジェノに注意が向いている隙を縫ってライトニングカリバーンを一気に接近させると、グラヴィティ・ソードを振り上げた。
 その刀身に纏う龍の爪のごときオーラが向かうのは、タラスクスバルバロイの翼。ミニッツストレングスで限定的にドラグーンアーマーの機能を向上させた遥は、思い切り剣を振り下ろした。
 ジェノに注意が吹いていたために反応が遅れたタラスクスバルバロイは、片翼に受けた強い衝撃に大きく暴れ出す。
 その余波は遥だけでなくジェノにも向かい、二人は機体に多少のダメージを受けながらも致命傷は免れた。また、やや後方にいたレベッカたちにもそれは及んでいたが、アルフレッドが前方に向けて大きな盾を生成していたため衝撃を防げたようだ。
「こういう時のためのチェーンサークル、というものだな」
 ステージの真ん中で姿勢を保っているシオンを見ながら、アルフレッドは呟いた。
「今が仕掛け時よ!」
 ミニッツストレングスの反動で急激に性能を落としたライトニングカリバーンを後方に下げながら、遥は攻撃開始を仲間に伝える。
「では、行きますか~」
 ビーシャは遥の合図に反応すると、シュワルベWRを発進させる。その視線はタラスクスバルバロイを捉えつつも、やはり自分たちを取り巻く火の塊にも向いているようだ。
(今まで以上に環境が悪いですね……見るからに相手も強敵ですし、整備士としての仕事も頑張らなければ。それにしても寄生生物とはいえこんなにも多くの環境、種族に対応してしまえるバルバロイ……何か天敵でもいないのでしょうかね)
 ビーシャがそう思っていると、護衛として並走しているヒュッツ・スヴェンステンの声が聞こえた。
「竜……そうか、竜か…………因果なものだ……知性ある時に相見えたかったところだが……」
 これまでのジェノたちの戦いを見ていたから、タラスクスバルバロイには既に元の心や知性がないのは理解している。それ故に残念な思いを抱えながらも、ヒュッツはここで倒されければとも思っていた。
「これ以上、アークに寄らせるわけにはいかないよ!」
 安藤 ツバメはそんなヒュッツを、そして仲間を鼓舞するように声を張り上げる。
「そうですね。タラスクスバルバロイを近づけない為に、とにかく攻め続けましょう」
 ビーシャのガレオンに乗っているマリア・ストライフが、それに応じてステージに立ち上がった。
「私達のいる所がアークまでの最終防衛ラインですわね。止めにかかりましょう」
 ドルミーレ・アルボルもそれに頷くと、ファイアープルーフで自身やツバメ、マリアを保護した。マリアはそれに礼を告げると、ブルーマイクを手に呼吸を整えていく。同時に小さなシャボン玉が、マリアのパフォーマンスを導くように宙へ浮かび上がると、敵の前で弾けて痛みを与えた。
「燃え盛る星に降りる為、足を止めさていただきます!」
 固い決意を告げて歌うのは、蒼の夜想曲。
 夜を思わせる静かな歌声が優雅に広がると、マリアの周りに水の輪が生まれ、敵へと放たれる。そして、それ追うように細かな泡も飛んでいくと、敵に触れては小さな爆発を起こしていった。
 海の色をしたマイクを通して向かった攻撃は、泡のように小さな爆発だとしても侮れない威力を持っていた。
 タラスクスバルバロイはその攻撃でビーシャのガレオンに注意を向けようとしたが、そこにドルミーレの創星の白霧が展開する。
 周囲を白い煙が包みだしたかと思うとマリアや近くのツバメの姿を隠してしまう。タラスクスバルバロイは、しかし構わず腕を振るおうとしたが、そこに小型の隕石が降り注いで阻害されてしまった。
 その隙をついて、またもジェノが狙撃していく。
 そしてビーシャは戦闘の余波を、電気で造られた球状のバリアとホバリングで防ぎいなしながら、【使徒AI】アベルのサポートを得て各機の損傷具合を目視で確認する。ずっと最前線で戦うジェノの機体も気がかりだったが、まずは遥の機体の具合をみようと、ツバメに声をかけて移動していく。ツバメはそれを受けると、ドルミーレに拡大された【星詩】が及び、自身の攻撃が届く範囲を見極めて位置を変えた。
 そうした動きを敵に勘付かれそうになったが、使徒AIによるスパイダーランチャーで咄嗟の足止めをしたビーシャは、後をヒュッツに任せて遥のドラグーンアーマーに応急処置を始めた。
 ビーシャのガレオンの前に立ち塞がるように動いたヒュッツは、フォトンシューターから光の矢を放って牽制を仕掛ける。矢には因子の力が付与された影響で威力が増しており、その軌道は敵の目を射抜こうとしたが、わずかに狙いは逸れてしまった。
 しかし、ヒュッツが攻撃した隙にツバメが側面に回ろうとしており、呼応式加速装置で火力を向上させた接近戦を狙っていた。
 狙い通りの間合いを手にしたツバメは、アイス・カンプガイストを因子の力で強化し斬りつける。刀身がもたらす冷気が表面を凍りつかせていくが、斬りつけた箇所が狭かったためにその動きが鈍る気配はない。
「デカいのに、早すぎだってぇの!」
 敵の顔が自分に向きそうなことに気づいたツバメは、【使徒AI】アルテのサポートで急上昇すると、一瞬のうちに背後に回って再び斬りつける。
 ヒュッツも【使徒AI】アルテの支援を受けて再び攻撃のタイミングを図っていたのだが、側面から尻尾の一撃が飛んできた。ヒュッツは咄嗟にローレライ・シールドを構えて防御に出たが、ツヴァイハンダーのパフォーマンスが著しく低下した。そこへ逆側から再び尻尾の一撃が飛んでくると、ヒュッツの機体は地に落ちてしまった。
 護衛がいなくなったことで、ビーシャの機体は無防備になる。そこに敵が迫ろうとするのをツバメがとどめようとしていると、エーリッヒのグッドイヤーが迫ってくる。
 そのステージには、シレーネ・アーカムハイト辻風 風巻の姿も見える。エーリッヒがファイアープルーフで耐性を付与しているものの、見た目から来る熱量にシレーネは顔をしかめてしまう。
「えー、なに? こんなにあっついとか聞いてないんだけど? それにドラゴンめっちゃ近づいてきてるとかやばたにえんじゃん、しかもバルバロイだし。そうは言いつつお出迎えする勤勉なアーシなのでしたまる」
 シレーネはそう言いつつも、シオンはジェノの支援で手いっぱい、そしてビーシャが応急修理からまだ戻ってこられない以上、自分たちが仲間の支えになるべき時だと自覚している。
「アークは既に降下を始めているのだろう……。仕方あるまい、状況が変わらんのであれば、それに即した最善を図らねばな」
 シレーネの師匠であるエーリッヒもそれに頷くと、さらに敵の近くに寄ろうとする。
 ブリジット・シャッテンはエーリッヒのガレオンに追従する形を取りながら、クールに呟いた。
「酸のブレス、関係ないわね。どちらにしろ当たったら落ちる紙装甲、やる事は変わらないわ」
 風巻はそれに困ったような笑い声をあげると、
「50メートル級が4体……なるほど、これは骨が折れそうだ。僕としてはやる事は変わらないが、希望の方舟を絶やさぬよう最善を尽くすとしようか」
 シレーネに視線を送った。
「うん、はじめよっか、しまきー」
 シレーネはステージでステップを踏み始めると、そのテンポに合わせた呼吸を意識していく。その動きでサクラ・ヒメバオリからサクラの花びらが舞い始めると、ブルームド・カンタービレに歌声を吹き込んだ。
 歌声が紡ぐのは、風纏う騎士の英雄譚。澄み切った歌声が、力強く、それでいて爽やかな風を呼び起こすと仲間を包み込んだ。
「星の大海。探索の宙(そら)。楽園を目指す皆に聞かせよう。君達の旅路は希望に満ちていると。……明日見る者等よ、進むといい」
 風巻もそれに合わせ、明日拓く希望の方舟を展開する。
 杖の示す先に生まれたのは、暖かな風に包まれた桜吹雪の舞う、幻想的な花園。シレーネの呼んだ風とはまた違った風が起こると、その暖かさで仲間の心身をほぐしていく。桜の花園は仲間の戦意を高揚させ、相反するように思えた二つの力は、仲間に良い緊張感を生むこととなった。
 そして、シレーネの風と風巻の花弁が一時的にタラスクスバルバロイの動きを鈍らせると、エーリッヒがマギ・ショットガンで表皮の脆くなった箇所を穿つ。反撃に爪が振るわれたが、星楽の力で動きを阻害されていたこともあり、エーリッヒは急旋回しながらもそれをやり過ごすことができた。
 春虎とブリジットもその間に詰め寄っていき、春虎が腹部に潜り込む傍らで、ブリジットは一撃離脱がしやすいような立ち回りを意識して斬りかかろうとしていた。
 ダブルスライサーに合言葉を唱えて魔法を発動したブリジットは、同時にソードアシストユニットで戦闘力の向上も図る。そして一瞬の集中力でエーリッヒが傷を深くした箇所を斬りつけると、その勢いを利用して連撃を放った。
 タラスクスバルバロイそれに反撃を返そうとするが、ブリギットはすかさず【使徒AI】アルテの支援で急上昇、そのまま背後に回り込むような態勢になると、春虎と同時に斬撃を見舞った。
 異なる部位にダメージを与えられたタラスクスバルバロイは反撃しようとしたが、どちらへの狙いも甘かったために痛打を浴びせることができないでいる。
「目的地のシャングリラまであとちょっとなんだろ。楽観的に言うならもう一山越えればいいって感じか? ここでアークに被害を及ぼしたり、無理させるわけにはいかーねぜ。その為の騎士団、ここで踏ん張らないで何の為の騎士団――只の旅のお供じゃねーんだよ」
 春虎は威勢良く言い放つと、さらに斬り込んでいこうとする。
 しかし、それを阻むように酸のブレスが騎士たちに襲いかかった。
 風巻はその予感に対し、領域内の時間の流れを瞬間的に遅くして逃げる時間を作ったが、その効果はわずかでしかなかった。エーリッヒはその一瞬の間に回避に出たのだが、ブレスの影響を完全に避けることはできず、ガレオンにはその場での修復が不可能なほどの損傷を受けてしまう。その間にも酸はみるみるガレオンを蝕んでいくと、瞬く間に行動不能に陥れた。
 春虎は咄嗟の回避を、呼応式加速装置を使用することで果たしたが、その代わりに敵からは離れてしまっている。そしてブリジットは殺気に気づいて回避していたが、エーリッヒの脱落によりファイアープルーフの効果は失われている。
「ここまで来て、逃げるわけにはいかないわ」
 しかし、まだ戦意は衰えていないようで、二刀のサーベルを構え直した。
 そこに、ビーシャのガレオンと、遥のドラグーンアーマーが合流を果たす。
「待たせたわね、皆」
 遥がタラスクスバルバロイに剣を構えれば、向こうもそれに気づいたか眼光を鋭くさせた。
「悪いが、もうしばらく俺に付き合ってもらおう」
 それを遮るように正面へ飛び出したジェノは、銃撃を翼に撃ち機動力の低下をもくろむとともに、再び自身に敵視を集中させようとする。
 それに続いてドルミーレが白煙を撒いて仲間の姿を視認しづらくさせると、
「青の星に生まれた私は 燕に導かれ 未来へ行く」
 マリアが水の輪を飛ばして牽制を仕掛けた。ツバメはドルミーレが発生させた煙を利用した分身を作ると、その分身に攻撃させて接近を企む。
 そこに周囲を薙ぎ払うような尻尾の攻撃が飛んできたが、ツバメは呼応式加速装置による回避で凌いでみせた。
 また、春虎も再び腹部に潜り込もうと動き出す。その援護にブリジットがサーベルを投擲し気を逸らせたが、灼熱への耐性が失われた状態ではここまでが限界だった。しかし、その行動は確かに注意を逸らす一手となっており、春虎はその間にムラマサブレードに水を纏わせ渦潮を放つと、その勢いを使った急加速で迫る。
 そこに爪が襲いかかろうとするが、春虎は刀身を敵の指先に滑らせ受け流し、狙い通りに腹部へ回り込んだ。
 そしてツバメと一瞬の通信を済ませると、【使徒AI】敏腕サポーターの協力でドラグーンアーマーとのリンクを強化した状態から刀を振るう。
「これでどうだ!」
「この一撃で、切り開いてみせるわ!」
 春虎が上と下、異なる後方からの斬撃をほぼ同時に振るった瞬間、ツバメも翼を斬り落とそうとする勢いで剣戟を叩きこんだ。
 二人の攻撃で腹と翼に深い傷を受けながらも、タラスクスバルバロイはまだ堕ちない。だが、ほとんど力が残されていないのは明白である。
「……メルセデス、今だ」
 ジェノは機体に搭載させた【使徒AI】メルセデスに指示を出すと、ミニッツストレングスで稼働性能を向上させる。その間ジェノは武器を剣に持ち替え急接近を果たした。そして呼応式加速装置で火力を引き出すと、刀身が纏った龍の爪を模したオーラで押し潰していく。
 それに対抗しようとタラスクスバルバロイは腕を伸ばしたが、その頭上から遥とツバメが抑え込むように斬りつける。
 そして最後に下から春虎の作った渦潮が放たれると、逃げ場を塞がれ集中砲火を浴びたタラスクスバルバロイは、とうとう力尽きたのだった。
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