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3000年前の遺産

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3000年前の遺産
リアクション
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 巨竜に立ち向かう者たち・1
 
 ほぼ火の塊と称される地で外法の者たちが戦うのは、人の姿を捨てた竜人。
 今は本来の姿である竜の形を取っているが、本来あり得ないほどの巨大化を果たした以上、それはもはやバルバロイであるとしか言えないものだった。
 
 【シュメッターリング騎士団】団長のルキナ・クレマティスは、マーメイドたちの秘術で自身とモリガン・M・ヘリオトープ【使徒AD】ダンスマスターが操縦するイージーガレオンのマルタに水の膜を付与しながら、今回の戦いについて考えを巡らせた。
(ドラゴンとは、また随分なものがお出ましですね。しかし、それで怯む我々ではありません。我が騎士団の戦力であれば、十分対抗しうる筈ですから)
 この騎士団としてくぐり抜けてきた戦いを思い出しながら、ルキナは作戦を整理する。
「今回は3つに分けた騎士団で、別々の方向から1体に向けて攻撃します。まずは一つの部隊を囮に見立て、残りの部隊が左右から攻撃する形を取りましょう。最初は私の率いる[アゲハ隊]が囮となります」
 いずれは囮以外に注意を向けられてしまう可能性はあるが、その時は他の部隊が囮役を代わる心構えはしてもらっている。
 ルキナは作戦を仲間に通達して終わると、マルタのステージに立って発進の準備を整えた。
 標的のタラスクスバルバロイの位置は既にローザリア・フォルクングが探っているようだ。程なくしてベータリア・フォルクングもツヴァイハンダー・エグザの有視界望遠機能でそれを確認し、詳細な位置が判明することとなった。
「シュメッターリング騎士団、出撃です!」
 ルキナはそう号令をかけると、[アゲハ隊]を率いてタラスクスバルバロイの正面へと突き進んだ。
 そのルキナの乗ったガレオンの前に立つ形で、ネーベル・ゼルトナーのコンチネンタル2Mが走っている。
「山賊退治に……竜退治……お次は何を退治するのかねぇ……」
 これまでの戦いをどこか懐かしんでいるような声色に、ステージ上の高橋 凛音が思い出に浸るにはまだ早いというような反応を示す。その凛音と御陵 長恭、そして自分自身にはドヴェルガーが作成した簡易耐熱フィルム発生装置による守りがあるからか、周りの灼熱も見た目ほどの脅威には感じられない。
 その装置の用意をしてきたことに加え、戦闘に先駆けてモリガンと長恭のドラグーンアーマーの整備と耐久性を向上させる改造を施してきたので、既に一仕事を終えたネーベルからはそんな感想が出てしまったのだろう。
 それを汲み取ってか、モリガンと長恭から整備への感謝を告げられると、
「やれる整備はした、後は任せる!」
 とネーベルは答えたのだが、相変わらずガレオンは先導する格好になっているから、これはネーベルなりの挨拶なのかもしれなかった。
 そうして進む先にタラスクスバルバロイを見つければ、向こうからも視線が向けられる。
「元に戻れぬなら、せめて花に包まれ送りましょうかの……」
 凛音は変わり果てた竜人を束の間憐れむと、安らぎの香りで集中力を高めていく。初めの囮部隊として芽生えつつあった緊張は、香りの効果で程よいものに変わり出した。
(竜人族も居るとは、本当にファンタジーじゃのぅ……とは言え、身体能力と酸のブレスに加え、火と風の親和性かの……厄介極まりないのぅ……。憑れた者には申し訳無いが、妾達、シュメッターリング騎士団で力を合わせて竜退治と洒落込むかの……)
 余計な気負いのなくなった心でそう思うと、紅千早の裾が凛と揺らめくように感じた。
「誇り高き竜族よ……安らかに……」
 その言葉を合図に奏でる音は、【戦楽】木花咲耶・改。
 生命誕生の歓びと祝福、麗らかな陽の光を背に大切なモノを護る事をイメージした【星音】が、ルキナを桜の花弁で取り囲む。また、桜を照らすように木漏れ日も溢れ出し、花弁の淡い優しさと相まって癒しの空間を生み出した。
「我、一途に人を……友を……想い人を……想い、麗らか陽の光と共に桜舞い散らせん」
 桜の花びらはただ優しいだけではなく、敵に触れれば有害となるらしい。その性質をもって、タラスクスバルバロイに触れた花弁が眩惑し混乱をもたらそうとするが、対象があまりに強大すぎるためか効果は得られなかった。
 しかし、凛音の行動はタラスクスバルバロイの目をさらに引いたらしく、まっすぐ向かってこようとしている。
 ルキナも凛音の【星音】に合わせるように、奔る閃光の行進曲を歌い出した。
 とある世界のとある国で、軍歌として使われていた楽曲を元に作成されたと言われる【星詩】が始まると、チハヤ・モンタントの鏡天冠が静かにきらめく。凛音のもたらす木漏れ日と花弁の明かりに照らされ、ルキナは穏やかに歌っていたが、それは力を蓄えていただけ。一番の盛り上がりに差し掛かった途端、歌は敵を討ち滅ぼそうと激しい曲へと変化した。
 その力強さは仲間の背中を押す風となり、身体に軽やかさを与える。半面、敵に対しては目のくらむような光になり、光唱器 ル・ソレイユが歌声に力を授けるが、タラスクスバルバロイのがそれに怯んだのはわずかな時だけだった。
 だが、その一瞬を狙ってモリガンと長恭が動き出す。
(ついには竜が相手でございますか。よろしい、お嬢様の道を阻むのならこのモリガン、竜殺しも成して見せましょう)
 敵の目が閉じている間にオルコス・Aを向かわせたモリガンは、暗闇を切り裂くように振るわれる爪から感じた殺気で回避に動くと、Sソードから地を裂く勢いで衝撃波を放つ。ブレスを封じる意味も込めて顎を狙った攻撃だったが、狙いは外れて肩を掠めた。
「ブルーメ嬢、今回索敵は貴公に一任する。頼むぞ……」
 長恭は自機に搭載された【使徒AI】ブルーメにそう告げると、一瞬の集中力で翼に向けて霧氷剣を当てようとする。しかし、視界を取り戻したタラスクスバルバロイが直前で回避したため、大きな傷とはならなかった。巨体に似つかわしくないとすら言える反応速度に、長恭は改めて思う。
(寄生するとは言って居たが、竜にまで取り憑くとはな……やり合う相手としては油断成らない……集中して取り掛かるとしよう……)
 二人の戦いを見ていたネーベルも、マギ・ロックカノンを構えて援護に出る。【使徒AI】女教師に照準の調整を委ねたネーベルは、一定の距離を保つよう意識しながら二人の隙間を縫うように砲撃を重ねていく。
 その連携攻撃は順調に思われたが、タラスクスバルバロイはそれまで振るっていた爪や尻尾の攻撃をふと緩める瞬間があった。その動きにただならない殺気を感じた長恭は、メビウスとネーベルに回避を促す。
 直後に襲いかかったのは、酸のブレス。
 長恭は使徒AIのサポートを受けて回避をし、モリガンもブレスの範囲を読むと、Sフリューゲルを用いた緊急回避で難を逃れた。ネーベルは二人より遠い場所にいたため、回避と同時に銃を構え反撃に出ようとしていたが、その目前に巨体が迫っていた。
 再び距離を取ろうと動くネーベルだったが、操縦するガレオンの性能ではとても逃げ切れない。ネーベルのガレオンは爪の攻撃を受けて地に落ち、ステージにいた凛音も巻き添えで墜落した。
「お嬢、ネーベル嬢!」
 長恭が通信機に向かって叫ぶと、弱々しくも二人から応答があった。だが、もうガレオンが戦場に復帰することはないだろう。
 一気に戦力を落とした[アゲハ隊]としては、残りの戦いを他の部隊に任せて態勢を整えたいところだったが、タラスクスバルバロイはそれを容認してくれそうな気配ではない。
 モリガンと長恭は【星詩】の効果を得ると同時に、ルキナを乗せたガレオンを守るような陣形を取る。
 この局面を切り抜けるには、モリガンの用意した切り札を使う以外にないと考えた長恭は、その隙を生み出すために軒轅とのリンクを強化し感覚を研ぎ澄ませていく。
「円環を持って大渦と成し……水行を以て火行を征す……荒れ狂い逆巻け、氷の渦よ……メイルシュトローム!!」
 構えた剣に水を纏わせた長恭は、その水流を渦潮として敵に放つ。水の流れが巨体にぶつかると、それに対抗するように巨体が立ち止まった。
 その渦をくぐり抜けて迫ったモリガンは、【使徒AI】敏腕サポーターに要請して自身も機体との同調を強化して集中力を増幅すると、上からの一撃と下からの一撃をほぼ同時に繰り出す斬撃を振るった。ヒノモト国発祥の奥義を以てしても、さすがにその身を両断するには至らなかったが、先ほどよりも大きなダメージを負ったことは明らか。
 この隙に[アゲハ隊]は離脱に出るが、タラスクスバルバロイがそれを追いかけようとする。そして、その餌食になったのはルキナの乗ったガレオンだった。
 イージーガレオンの速度は、手負いのタラスクスバルバロイにも敵わないため、追いつかれると同時に尻尾を叩きつけられる。その衝撃を受けながらも、ルキナはステージに立ち続けていたが、ガレオンの耐久力が限界を迎えてしまっては元も子もない。
「お嬢様!!」
 とうとう墜落するガレオンに、モリガンが駆け出す。長恭がその後を追わせないように雪結晶の盾を構えて牽制していると、[モンシロ隊]がその場に追い付いた。
 予想外の事態に出遅れた形となった[モンシロ隊]だったが、ひとまず長恭を逃がして凛音やネーベルの救出に向かわせる。
「サポートは頼みましたよ、センセ」
 鳳 翔子はメッツラーMSに搭載された【使徒AI】女教師に語りかけると、水の膜を自身とエスメラルダ・エステバンに張って環境への対策を取る。
「ちょっとしたおまじないですよ~」
 それからミューレリア・ラングウェイのデュランダル・メテオールに強化整備を施して、戦いへの備えも整えた。
 その間に、ウルズラ・バルシュミーデもミューレリアとリリア・リルバーンに水の膜を施していたので、後は戦いに集中するだけである。エスメラルダはロッドアタッチ・マクスウェル改に魔力を込め、銀の霧をいつでも発動できるようにすると、
「さあ、リリア様」
 リリアをステージの中心に送り出す。
「エスメラルダさん、よろしくお願いしますね!」
 翔子の操縦するガレオンのステージに立ったリリアは、仲間に贈る【星詩】、蒼海のラプソディを歌い始めた。
 歌がイメージするのは、どこまでも続く蒼い海。
 生命の源である海は穏やかに全てを受け止め、時に荒れ狂う波で敵を飲み込むだろう。そんな海への印象を、【星詩】が現実に昇華しようとする。
 ゆったりとしたステップに揺れるマリンヴェールからは無数の虹が生まれ、水で作られた鞭に力を与えて敵の翼や口を縛り付けようとするが、その巨体を長らく縫いとめるほどの力ではなかったようで、水鞭はすぐに破られてしまった。
 だが、【星詩】は仲間の背を押す風にもなっていて、加護を受けたミューレリアが攻撃を掻い潜って攻め込むためのチャンスを生み出す。
 エスメラルダもリリアの【星詩】に続け、セレソ ラプソーディアを奏でる。曲が始まると同時にピンクに輝く桜の花びらがリリアの周囲を舞い散り、さらにはラメのように細かく輝く霧も発生すると、波間に揺蕩う花吹雪という現実離れした美しさがステージを彩った。
 エスメラルダの奏でるヒノモトの古い音楽から着想を得たという曲は、その優しい旋律が、聞く者に桜の巨木の下で降り注ぐ桜吹雪を眺めながら日向ぼっこをしているときのような、穏やかでいながら活力があふれる感覚を呼び起こさせる。
 ただし、穏やかさを邪魔しようとする不届き者には厳しい一面を備えた曲でもあり、木漏れ日に似た光が仲間を癒す一方で、タラスクスバルバロイに対しては銀の霧が目くらましを、桜の花びらが混乱を呼び起こそうとする。
 だが、目くらましには一応の効果があったものの、混乱をもたらすことは叶わなかったようだ。
「二人がこれだけやってくれたんだ、私もやるぜ!」
 それでもミューレリアは明るく叫ぶと、アシストユニット2.0でドラグーンアーマーを加速させる。
(こんな巨大なヤツがアークに向かったら大変だ。ドラゴン相手でも関係無い。私達ならやれる! 目指せドラゴンスレイヤーだぜ!)
 いくらか気負う部分は見受けられたが、それを敏感に察したウルズラが後方からマギ・バズーカの援護を送る。タラスクスバルバロイを見据える瞳が狙うのは、驚異的な速度の象徴たる翼。
(私が追い込むうちに行くのよ!)
 リンクバングルが言葉にしなくても意思を伝えてくれたのか、ミューレリアはわき目も振らずに突き進んでいく。そこに爪の攻撃が襲いかかるが、ミューレリアは咄嗟の回避でそれを切り抜ける。
 その勢いで腕を掻い潜ってしまえば、巨体が災いして反応しきれないようだ。ミューレリアはレンスター流剣術の基礎を意識しながらアイス・カンプガイストを構えると、軌道の異なる連撃で翼を狙いにかかる。その連撃の一つは翼に命中するものの、残りは翼のすぐ下を通過したり、胴にぶつかってしまった。
「こっちでフォローするわ!」
「私もいますよ~」
 そこにすかさずウルズラと翔子が反応すると、それぞれに狙いを定めて翼を銃撃していく。
「ボクだってやれるですよ!」
 リリアも歌の店舗を激しいものに帰ると、空中に大量の小さな氷柱を生み出しぶつけようとする。隣のエスメラルダも、リリアの曲に合わせて花吹雪を舞わせると、仲間が死角から狙われないように指輪に込めていた銀霧の援護を送った。
 そのためか、タラスクスバルバロイは酸のブレスを吐くタイミングを逃したようで、爪や尻尾、牙の攻撃で応戦するだけになっている。
 しかし、それはやはり最前線のミューレリアをより狙っているため、ミューレリアはフレキシブル・バーニを利用した加速で敵を遠ざけようとする。ウルズラがそれを手助けしようとマギ・バズーカを撃つと、その注意がようやくミューレリアから離れた。
 同時にウルズラを狙う気配がしたので、微赫細翼を利用した際どい回避を行うとすぐさま反撃に出ようとする。だが、元々の機体性能が低いために、反撃するより早く敵の接近を許してしまった。その爪がもたらした切り裂きに、ガレオンは制御を失い地に落ちる。
 その時、【シュメッターリング騎士団】の最後の部隊である[セセリ隊]が合流して注意を引こうとするが、[モンシロ隊]への注目がなかなか離れてくれない。
 ウルズラへの追撃を恐れた翔子は、レーザービーム状の攻撃を放つことでウルズラへの注意を背けることには成功したが、今度は自分の機体が狙われてしまい、一撃を受けてエスメラルダとリリアとともに脱落した。
 残ったミューレリアは、どうにか[セセリ隊]との合流を狙ってドラグーンアーマーを走らせるも、単純な速度ではタラスクスバルバロイの方が上手である。
 逃げきれず受けそうになった一撃を、【使徒AI】メルセデスの自立行動によって辛うじて回避できたところで、ようやく仲間との合流となった。
 佐門 伽傳が烈風のカプリチオを奏でると、メビウス・アウラニイスの立つステージに花園が広がっていく。小さくとも懸命に咲き誇る花々は仲間に戦意の高揚をもたらすとともに、舞い散る花弁がわずかにタラスクスバルバロイの気を逸らせた。
 その隙にミューレリアが後ろに下がると、すかさず伽傳は上に向かって噴き上がる風の力で敵を殴りつける。
「今までの浮遊大陸でもそうであったように、既にバルバロイに寄生されているということであれば……いっそ打ち倒してやることこそ救いだろう」
 手加減のない攻撃は伽傳なりの慈悲や優しさであり、なおかつタラスクスバルバロイがアークに近づいてしまえば、その巨体から来る攻撃でアークが損傷しかねないことから、速やかに決客させたいという意思の表れでもあった。
 火の塊でできているような大陸への備えとしては、水の膜の用意がある。それを自身が乗っているグッドリッチBCの所有者でもあるマイキー・ウォーリーにも施しているので、互いに戦いへの用意は万端である。
「元々のドラゴンの姿になっているとはいえ、タラスクスは知的な種族であるそうだから、巨大なうえに知恵も高いと思って臨むか」
 伽傳がそのようにマイキーに話しかけると、
「ポウッ! 待たせたね、ボクは愛のガレオン乗り、キャプテン・マイキーさ! 今回は、出撃前にはみんなのドラグーンアーマーも『クイックインスペクションⅡ』でしっかりみておいたよ! トラストミー!! 塗ったよぉー! ローションたっぷり塗ったよぉ! これで、アーマーの性能は当社比で数倍にアップした!」
 ものすごいハイテンションな言葉が返ってきた。要は、マイキーもまた事前に仲間の機体の簡易点検を行っており、その時にメンテナンス・サップで機動性の向上を図ったということらしい。
 また、自身のガレオンには微赫細翼を取り付けているようで、ステージ部分が半透明のカプセル状になっている機体の特性上、伽傳を落下させる恐れはなかったが、よりアクロバティックに動いても機体の安定が保たれるということもマイキーは付け加える。
「ついてこれるか? 兄弟! 生まれた日は違うけど死す時は一緒さ!」
 当たり前のように兄弟と呼ばれた伽傳は、応とだけ返事した。
「フフフフ、バルバロイが宿主を退化……ある意味進化させてしまうのは脅威でもあるが興味深くもある。だがここまでデカいと逆に狩り甲斐があるのだよ」
 ガレオンの隣に、猫帝 招来のシュワルベWRが並び立つ。自身と同乗するメビウスに耐熱フィルム、[セセリ隊]の仲間であるローザリアとベータリアのドラグーンアーマーに強化整備を施し終えた招来は、その言葉の通りに興味深そうな視線をタラスクスバルバロイに向けていた。
「はーい、お待たせー☆ みんなのアイドル、メビウスのライブの時間だよ♪ 今日はこっちに向かって来る、特別ゲストのドラゴンさんには、師匠の回避に合わせてシャボン玉で歓迎しちゃうからね☆ 後からじわじわと私の【星詩】の感動(毒)が響いてくるかもしれないけど、いいよね!」
 と、今度はメビウスの明るい声が聞こえてくる。師匠と呼ぶ招来に信頼を寄せる内容を盛り込んだマイクパフォーマンスのようだが、最後の辺りで何やら聞き捨てならない言葉があったのは――きっと気のせいだ。
 それからメビウスは、先生と呼んでいる【使徒AD】ダンスマスターとアシスタンスヘッドフォンで伴奏を共有すると、ミヅチ☆スクランブルを歌い出した。
「――泡と共に孵りし水蛇は、相手を縛り上げ、再び泡と消える」
 囁くような予告がもたらされると、メビウスの歌と踊りを介して大量の細かい泡が蠢く。その泡から細い水流が生まれたかと思うと、タラスクスバルバロイに蛇のように絡みついた。タラスクスバルバロイが振りほどこうと体をよじれば、水の蛇はすぐに引きちぎれてしまったが、その頃にはもう泡が辿り着いていて小さな爆発が次々と起こった。
「行きますよ、ベータリア!」
「援護します、ローザリア」
 水の膜で自身とベータリアを保護したローザリアは、メビウスの【星詩】で怯んだ敵に突き進む。3つに散開していた部隊は既になく、接近戦で挑む自分こそが最も狙われやすい立ち回りである。その意識が嫌な緊張を呼びそうになったが、伽傳の【星音】が戦意を高揚してくれたおかげで気後れすることはなかった。
 側面や背後からの攻撃を考えたローザリアは、【使徒AI】ブルーメに回り込みやすい位置のアドバイスを受けながらカリバーンを走らせる。タラスクスバルバロイもその狙いに気づいたか、ローザリアを捉えようとするかのように腕を伸ばすが、そこまで近い距離だと持ち前のスピードが生かせないようで狙いが外れる。
 ベータリアもその援護に出ようと、翼の付け根を狙ってマギ・ダブルカリヴァを構える。【使徒AI】ヴァレットの照準サポートに加え、自身でも発揮した瞬間的な集中力が狙いを的中させ、因子の力を与えられた弾丸が翼を深く穿った。
 ベータリアの射撃を受けた敵は大きくふらつき、ついにローザリアがその背面に回った。
「地に落ちなさいっ」
 構えたオートクレールから、大地を割るかのごとき強打が叩きつけられる。背中を切り裂いた斬撃は重力負荷を与え、タラスクスバルバロイの勢いを押しとどめる。
「我も続こう」
 招来もその隙に追撃しようと、マギ・ガレオンライフルで翼を撃ち抜こうとする。因子の力で貫通力が向上した弾丸だったが、さすがにその体を貫通させるまでには至らない。それでも、続けて同じ個所を狙われたことでタラスクスバルバロイの消耗は増大しており、招来に反撃しようとした尻尾はかわされ、逆に攻撃の隙をつかれて狙い撃ちされた。
 マイキーもまた、その体を絡めとろうとスパイダーランチャーを放つ。狙いすましたワイヤーは片方の翼に絡んだが、タラスクスバルバロイの強引な羽ばたきで振りほどかれてしまった。
 そしてそれが引き金となったかのように、タラスクスバルバロイが胸を逸らした。それをブレスの予兆と考えたローザリアは、仲間に回避を呼びかけると同時に自らもその場を離脱する。
 その判断が功を奏したか、完全には避け切れなかったものの、酸のブレスの直撃自体は免れた。招来とベータリアもまた回避に成功したようで、特に招来は【使徒AI】メルセデスの処理能力を使用してコントロールしたバリアーも展開していたため、回避しきれなかった酸はバリアーが受け止めたようだ。
 だが、マイキーのガレオンはブレスを避けきることができなかった。ローザリアの指示で回避行動に走ったものの、機体の性能が低くて対応できなかったのだ。早くも表面が崩れるように溶けだすガレオンだったが、マイキーと伽傳はまだ無事らしい。
「二撃目が来るぞ」
 伽傳は仲間に注意を促すと、ロッドアタッチ・マクスウェルで下から噴き上げる強い風を起こす。強風はタラスクスバルバロイの口を一時的に塞ぐ形となり、マイキーもその間にガレオンのエネルギーを集めて撃ちだそうとしたのだが、もはや機体は限界だった。攻撃は不発に終わり、マイキーと伽傳を乗せたガレオンはコントロールを失って地面に墜落してしまった。
 招来は思わずその姿を追いそうになったが、ステージのメビウスがバルバロイにとっては毒のように感じるシャボン玉をぶつけて対抗するのを見て思いとどまる。
 それでもとうとう次のブレスが放たれてしまったが、攻撃を逸らされていたことと最初のブレスから間を置かなかったことで威力が出なかったのか、さほどの脅威ではなかった。明らかに疲弊した様子の敵を前に、1機のドラグーンアーマーが突っ込んでいく。
「今のうちに落とすぞ!」
 後方でいくらか体力を回復していたミューレリアは、タラスクスバルバロイの正面に立つと強力な一撃を胴に叩き込む。まるでその身を木端微塵にしようとする勢いの攻撃を受け、タラスクスバルバロイが怯んだように後退りした。
「我が専属AIメルセデスよ、ここまで来たら出し惜しみは無しだ! 『フルバースト』なのだよ!」
 招来もそう叫ぶと、マギ・ガレオンライフルから残りの弾丸を全て撃ち放つ。その弾丸が翼や腕、足下などを狙い撃つ傍らで、ベータリアも眼球に向けて狙撃すると、タラスクスバルバロイの視界が封じられた。
 そこにローザリアが再び大地に向けた衝撃波を放てば、タラスクスバルバロイもついに大地に伏した。
 それはしかし、あまりにも犠牲の多い勝利だった。
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