・参謀VS参謀1
「ベーダシュトロルガルを掌握されれば痛手だ。それに……スカラーと呼ばれる参謀か。同じ参謀として、オレは超えたい……! ベイグラント騎士団の皆、オレの我儘に付き合ってくれ」
ユファラス・ディア・ラナフィーネはベーダシュトロルガル内部に至るなり、そう口火を切っていた。
「コニッリア」に同乗する
天津 恭司がそれに首肯する。
「我らがベイグラント騎士団参謀のユファラス・ディア・ラナフィーネことユファラスさんが相手の参謀を叩きたいとおっしゃられたのです。為ればこそ、僕たちが為すべきことは一つ。そう、参謀を含むバルバロイ先遣隊を殲滅するのみ! そうでなくともバルバロイとは不倶戴天の敵……必ず倒さなきゃ……!」
操縦を担当していた
アーラ・フィオリーニは繊細な動きで回廊を進みつつ、「アイアンカイト」を展開していた。
「ユファ、ちゃんと掴まって落ちないように。敵は隠れ潜んでこちらを奇襲する……インヴィジブルエネミーで応戦する」
「敵はギロチン型とロングカノン型……それに参謀の護衛にインファント型が数体……決して楽な編成ではないことが、このベーダシュトロルガルの重要性を物語っている気がする……。殺気感知で敵を察知する。こっちが後れを取るわけにはいかないからな」
付近の地形把握に努めているのは
十文字 宵一である。
「バウンティ・ナーガ」に搭乗し、ベーダシュトロルガルの情報収集を担当する。
「コントロールできる何からの施設があるはずだ。これだけの巨大な浮遊大陸……それを掌握される前にバルバロイ先遣隊は駆逐する」
彼のバックアップに入る
リイム・クローバーは繊細な動きを「ブラスイーグル」にさせながらギロチン型の奇襲に備えていた。
「ベーダシュトロルガルってテルスで機動要塞? の名称だったので何か関連性がありそうですし、グラーフさんの故郷でしたから……」
そう言って
土方 伊織は
【使徒AD】マーチングバンドの操るスタンドガレオン上の
グラーフ・シュペーを気にかける。彼女は僅かに目を伏せて浮遊大陸を見据えるのであった。
「そう、ですわね。アレがテルスとの関連性があるのでしたら……元従聖女として大地母神キュベレー様の御代わりに、祈りを捧げ鎮魂を唄わせていただきたいですわ」
「なるほど、確かにテルスの機動要塞ベーダシュトルガルとそっくりだ。まさかプロメテウス砲まで付いていたりしないよな……?」
そう呟いた
星川 潤也は「シャムシール」に搭乗し、
【使徒AD】ミレイの操るスタンドガレオンに乗った
アリーチェ・ビブリオテカリオに意見を仰ぐ。
「どうだかね。いずれにしたって、スカラーだかスカラベだか知らないけれど、虫のくせに参謀気取りって言うんだから生意気よね。会敵前にウォームアップを行うわ。人魚の戯れで」
紡いだ【星詩】はシャボン玉を形成し、一団に漂わせる。
パチンと弾けて各々の力となっていった。
「ベーダシュトロルガルの調査、ということですが、バルバロイ先遣隊の相手をする騎士団も居たほうがいいでしょうからね。参謀のユファラスさんも妙にやる気になっていますしね。……それはそうと、ですね、テルスの決戦で行った機動要塞と同名ですね……」
沈んだ様子の
砂原 秋良の論調に
デューン・ブレーカーは視線を振り向ける。
「ベーダシュトロルガル、ですか。……テルスには私は参戦していないので詳しくは知りませんが、秋良さんは決戦でそこに行ったんですよね? その時のとどう違うのかとかが少しは分かるかもですね。私は私でトルバトールとしてやれることをやっていきますよ。この星の詩を、どこまでも響かせてみせます!」
「ほう、別世界でも同じ名前の機動要塞に行ったことがあるのか。それと同じものなのか、それとも違うものなのか……何か共通点があるのかも見ていくのもいいのかもしれんな」
ゲオルグ・グレイマンは神妙に考え込むが、秋良はそれを制する。
「いえ、考え過ぎたって仕方ありません。……同じものかは分かりませんが一応気にしておきますか。さて、物語を望む結末に進めるために、頑張るとしましょうか。私たちはゲオルグのファイアプルーフのお陰で火への対策は問題なしのはずです。殺気感知を行って敵の奇襲を防ぎましょう」
「そうだな。さぁ俺たちのステージを見せてやろう」
「微赫細翼」を追加装備したスタンドガレオン「エイヴォンMV」は繊細な動きさえも可能にする。
「……皆さま! こちらの方向から殺気を感知しましたわ」
アーラのスタンドガレオンを護衛する
ミーラル・フォータムの言葉に一同に緊張が走る。
「皆……オレたちベイグラント騎士団はバルバロイの先遣隊の撃破が目標。ただ敵の数は多い。だから、参謀のスカラー、その護衛のインファント型を中心に狙っていく。ギロチン型やロングカノン型が妨害をしてくるのは間違いないからある程度対処しつつ、戦うことになると思う。奇襲を仕掛けてくるギロチン型に各々、留意しつつ会敵次第、交戦……いいな?」
ユファラスの確認の声音に全員が首肯してから、敵の待ち構える回廊へと一路向かっていく。
その瞬間、物陰よりギロチン型の奇襲第一波が飛んでいた。
「【星詩】による防衛の構築を! まずは私からでお願いします!」
秋良が「ショルダーキーボードロッド」を翳して奏で、「ウィズダム・クロック」で空間の時の流れを変移させる。
ギロチン型の動きが瞬間的とは言え遅延し、その隙をアーラがギロチン型へと攻撃を仕掛けていく。
予め仕掛けておいた「インヴィジブルエネミー」とワイヤーガンの組み合わせでギロチン型を罠にはめ、その気勢を削いでいた。
第一波はけん制を受けて僅かに奇襲としての質を低くする。
その機を逃さず、アーラは罠にかかった相手から「エネルギーカノン」で迎撃していく。
秋良の【星音】に合わせるのはデューンであった。「歌姫の呼吸法」と「サクラノヒメバオリ」を振袖で舞い、大きな二枚一対の翼で存在感を演出する。
その輝く羽ばたきに奇襲を浴びせようとしていたギロチン型が後れを取っていた。
秋良の【星音】の展開が完了したのを見るに、デューンは【星詩】「大空想詩」を紡ぎ出す。
風を起こし、光の刃を空間に生成して宙に浮かべていく。それらは光の刃による攻防一体の構えだ。まさしく全てを内包する大空の瞬きそのもの。
「皆さん、準備が整いました。治癒も望めるはずです。想いを負けないように……」
敵、第二波のギロチン型の奇襲を、ゲオルグはステージに徹しつつ
【使徒AI】女教師の補助を引き受けて「マギ・ロックオン・カノン」で撃墜していく。
「悪いな。ステージの良し悪しは俺にかかっている。そう簡単にやらせはしないさ」
『ゲオルグ。レンズで集めた情報の中に気になるものが。モニターに出します』
ゲオルグはポップアップに表示された敵の配置図に、これは、と声を詰まらせる。
「相手は俺たちの速度を少しでも弱めさせて、その隙にベーダシュトロルガルを掌握する算段か。参謀! この状況、どう見る?」
「急ぐべきだろう。これだけのギロチン型を配備するということは、敵もまだコントロールルームまでの直通を得られていない可能性が高い。充分に追いつけるはずだ」
「――了解だ。ひとまず雑魚は蹴散らしていく」
宵一の斬撃が風の居合斬りを帯びてギロチン型を両断していく。
そのバックアップを行うリイムは
【使徒AI】グランドウィッチの支援を受け、「白桃扇カノン」のレンズを収束、命中精度を高めて次々と奥に位置する敵の後方支援のロングカノン型を打ちのめしていく。
「敵の砲撃網はお任せください。皆さんは敵の奇襲を抜けて、敵参謀へと……!」
「助かる、リイムさん。スカラー撃破に向けて、少しでも前に進まなければいけない」
ユファラスを中心軸に据え、潤也が回廊を駆け抜ける。閉所に有効な「シャムシール」は壁や天井を蹴って跳び回りながら、ギロチン型やロングカノン型を瞬いた勢いの「二閃」で斬り払っていく。
すかさずロングカノン型の砲撃が咲くが、
【使徒AI】敏腕サポーターの補助を引き受けた潤也は「戦機同調」で砲撃の隙間を縫い、緊急回避を行いながら敵陣に迫っていた。
「その距離なら、俺は届く!」
「瞬間加速斬り」の斬撃が舞い、ロングカノン型を蹴散らしていく。
「何にしても、これをバルバロイに渡すわけにはいかない。いくぞ、みんな!」
スタンドガレオンの上でアリーチェは【星詩】「ホープウィンド」を紡ぎ出していた。
それは戦場に吹く希望の風――敵の動きが封じ込められ、味方へと風の加護が与えられる。
「やれやれ……、飛んで火に入る夏の虫って言うのは、まさにこのことね」
言葉の一つ一つには「毒舌マシンガン」の性能が宿り、バルバロイの軍勢を弱らせていく。
その隙を突いて伊織が銃撃網を引き絞り、前に進む味方の援護を行う。
ロングカノン型の砲撃が返っては来るが、それを
【使徒AI】敏腕サポーターの補助に頼りつつも、緊急回避で反撃はしっかりと避けていく。
「伊織さん。そのまま射撃を絶やさないでください。……そろそろ、視えてきました、ね」
グラーフの「フューチャービジョン」が予見した未来――それはバルバロイ先遣隊の背中そのものであった。
「バルバロイ先遣隊……! あれが参謀のスカラーか!」
宵一の声が弾け、スカラーがこちらへと振り返る。
(……遣いたちよ。どうやら無策にも追いついてきた連中が居た様子。迎撃せよ。私も加護を施す)
インファント型が前に出るなり、スカラーが手を手繰ると小さな氷柱が無数に形成され、拡散放射することでこちらの攻撃網をけん制していく。
「ガーディアン・シールドを展開する! 皆は気兼ねなくインファント型を叩いてくれ! アーラと恭司さんは護ってみせる……!」
ユファラスが巨大な盾を形成し、一団をけん制攻撃から保護しつつ、隙を講じていく。
「敵を遅くします! その機を逃さずに攻撃を!」
秋良の「ウィズダム・クロック」の旋律がインファント型の速度を落とし、次いで恭司の【星詩】が響き渡る。
「行きますよ! 光樹一体!」
奏でられる曲目は「光樹一体」――木の根を生み出して敵を束縛する【星詩】だ。インファント型へと即座に絡みついたそれらを操り、携えた「向日葵」を握り締めて戦局に拡張させていく。
ユファラスの火柱がインファント型の武器の薙ぎ払いを阻害し、その好機を狙って壁や天井を跳ねて飛び降りて来た潤也と宵一が剣筋を跳ね上がらせる。
「そこだ!」
「獲ったぞ!」
二人の声と太刀筋が共鳴してインファント型二体を叩き斬る。腕を両断された二体が呻く間に二の太刀が閃き、その首を落としていた。
(遣いを二体潰しましたか。ですが、その程度では)
スカラーが水の鞭を操り、インファント型の合間を縫って前線に抜け出た二人をけん制する。
飛び退って直撃は防いでから、宵一と潤也は視線を合わせていた。
「……インファント型は残り三体……」
「そいつ自身を壁にしての、後ろからの支援攻撃か。随分と迂遠な手を打つようだな」
水の鞭が奔り、それは今しがた首を落としたインファント型の頭部を引っ掴んでいた。
何をするのかと窺っていれば、スカラーは直後に血飛沫の舞う頭部を投擲する。
「……何を!」
「いや……駄目だ、潤也さん! そこの距離は相手の距離になる!」
ユファラスの咄嗟の言葉に反応した潤也は血飛沫そのものを氷結化させ、いくつもの氷柱の針をこちらへと一直線に放射してきたスカラーの手腕に瞠目する。
「……死体すら利用するか……」
(遣いが減ったのならば、その死骸は有効活用する。三体でも充分でしょう。この遣いたちが朽ちる前に、敵の主戦力は落ちる。その機を狙ってコントロールルームを掌握すれば、私たちの勝利。別に敵を殲滅する必要性はない。この盤上の駒、最後に立っていればそれでいい)
「……気に入らない。あのスカラーのやり方」
そう声にしたアーラにユファラスは同意する。
「ああ……。捨て駒としてしか見ていないあのやり口……。千条を預かる参謀として……風上にも置けないのはよく分かった。ならばこそ、より一層、だ。オレにだって……意地があるのさ……。皆、スカラーをオレは許せない。バルバロイとこっちの都合も、価値観も違うだろうが、それでも、だ。奴は仲間を道具としてしか見ていない。なら、ここで朽ちるはオレたちに非ず!」