・奪還戦線
バルバロイの先遣隊が今、ベーダシュトロルガルに取り付き、調査の手を走らせようとしていた。
(コントロールルームを掌握します。私を護るように、遣いたちよ)
スカラーの言葉に傅くように、インファント型がぼうと突っ立つ。ギロチン型が先行し、ロングカノン型が支援の状態に入る。ベーダシュトロルガルの長大な全長を見据えて、スカラーは憮然とする。
(この浮遊大陸、私たちの物とすれば戦力図は覆る。皆の者、心して向かいなさい。先ほど、敵が視界の中に入った。彼奴らも大方、このお宝を狙っているに違いない。しかし、私らが手にするのだ。ドラグナー共には過ぎたる玩具よ)
スカラーはゆっくりと歩み出そうとして、殺気の波に視線を振り向ける。
「さて。たまには一人も悪くないわよね♪ ちょっと行って来るってだけじゃね。やるからには最上の成果を」
ヒルデガルド・ガードナーはスカラーへと真っ直ぐに仕掛けるべく「アイス・カンプガイスト」を掲げて飛びかかる。
それをスカラーは手を払って先行するギロチン型に任せていた。
「一番槍は橋頭保。武力だけではね」
耐熱の装備を携え、カルマートより【星詩】の加護を引き受ける。
「歌姫を守るは騎士の誉れってね。深呼吸しろ。周囲を見ろ。そして……近づく敵を見よ!」
「フォトンシューター」で狙いを定め、ロックオンしてみせたギロチン型へと攻撃を見舞う。
擬態を得意とするギロチン型に
羽村 空は身に携えた危機回避能力を駆使し、水の輪を拡散させて敵の気勢を削いでから治癒を拡散させ、そして「恵みの雨」へと【星詩】を紡いでいた。
「何でアークがベーダシュトロルガルとランデブーしようとしているのか分からないけれど、バルバロイに掌握されるわけにもいかないしね。……それにしても、ここ熱いな~。ハーブティ飲んで、っと……」
ティータイムを挟みつつも、空は巨大な浮遊大陸たるベーダシュトロルガルを見据える。
「よーし、この後も頑張るぞ~! ……にしても、ベーダシュトロルガルに何が在るんだろう?」
ダークロイド・ラビリンスはスタンドガレオン「コンチネンタル2M」に搭乗し、
エドルーガ・アステリアと
スノウダスト・ラビリンスと共にインファント型へと対峙する。
「既に耐熱加工済みだ。墜ちろ、バルバロイ」
狂気的な笑みを浮かべてライフルを一射し、インファント型の無効化を狙うが、敵は手にした鈍器で弾き返し、こちらを標的に睨む。
スタンドガレオンを横ロールさせつつ、ロングカノン型の砲撃を回避したダークロイドはエドルーガへと声を飛ばす。
「エド博士、【星詩】の補助を。スノウは【星音】で敵の妨害を頼みたい。思ったよりも相手は厄介だ。インファントが五体に、ロングカノン型で長距離は固められ、近づけばギロチン型の容赦のない攻撃が飛ぶ。気勢だけは落とすなよ」
「ダークロ、任されました。【星音】を奏でる前にガーディアン・シールドで……」
盾を構築し、【星音】「ミラージュ・カオス」の旋律が濃霧と瓦礫を生み出し、敵味方の区別なく、相手の注意を削ぎ、視界を奪う。
しかしこの【星音】の真骨頂は、その瓦礫で味方の姿を隠すこと。
接近せしめた
九曜 すばるはガーディアン・シールドを展開し、ロングカノン型のすかさず放射された迎撃の火線を遮っていた。
降り立つなり、ギロチン型の襲撃が見舞われるのを、杖の護身術と「ラピッドクローク」でかわしつつ、敵の攻撃を回転しつつ最小限の攻撃面積に留める。
「……火力には自信がないし、探索に優れているとも言えない。それでも、調査する味方を守ることで、少しでも力になれば……」
卯月 神夜の「ツヴァイハンダー【A】」が二刀を携えてインファント型へと斬りかかる。
その片方は光学迷彩を施された「カメレオンブレード」だ。片手で「ストライキングソード」を振るいつつ、不可視の太刀を払って敵にこちらの射程を読ませない。
連携する
マリン・ムーンリースは「ツヴァイハンダー」に搭乗し、ボウガンと槍による中距離戦でサポートすることで神夜をさらに前へと進ませようとする。
「みんなをやらせない! 私が守り抜きます!」
マリンの決意に乗せて、エドルーガの【星詩】が乱舞していた。「樹氷の災い・歪」の発動により、突如として空を覆う無数の氷柱と地を這う樹根は自然界の脅威として、バルバロイたちに襲いかかる。
「ブルームド・カンタービレ」を奏でながら、その【星詩】で敵の行動を阻害しようとしたが――。
(ほう、幻術に似たものですか。ならば……)
パチン、とスカラーが指を鳴らすと、混迷の中に陥りつつあったバルバロイたちが落ち着きを取り戻し、神夜の斬り込んだ「瞬間加速斬り」の刃へと近接武装で打ち合う。
「……【星詩】の効力を弱めた? そんなことが……」
(嘗めてもらっては困りますね、者共よ。惑わせてその隙を突いて近接戦闘で一網打尽にする――通常ならば有効打に至るだろうが、私を誰と心得る?)
神夜は「ルーン斬りグレート」と共に斬撃を鎌鼬として敵へと放つ。
その斬撃をスカラーが指示して避けさせる。
(受けるな、特別な加護が付いている。受ければ大爆発でしょう?)
インファント型が身をかわし様に鈍器で殴りつけてくるのを神夜は回避しつつ、舌打ちを滲ませていた。
「接近戦が通用しない?」
戸惑った神夜にヒルデガルドは叱責を飛ばす。
「慌てるな! 奇襲は一時的な陽動に過ぎない。次の行動を予測せよ! 全員が常に次に備えろ! 策士は策ありて目立つ! 我はアルガス騎工団、一番槍! この身は皆の盾に! さぁ、かかって来い!」
観察眼を切らさずに、ヒルデガルドは本懐たるスカラーの隙を狙うが、インファント型はすかさず射程に入ってきてなかなか攻撃に至らない。
「雲散霧消」で致命打は防ぐが、それでもこちらからの圧倒も足りなかった。
(奇策も、冷徹も、全て戦いのための策だとも。だが、今の攻撃には迷いが見える。討つには値しません。さて……歩を進めましょうか。我らもここで足止めを食らっていては、コントロールルームに辿り着けませんので)
「させない!」
藤原 経衡が剣を携え、バルバロイの軍勢を抑えようと攻撃を見舞う。
「……情報こそ、この先の未来を照らす灯である。私にそれを為す頭脳はない。だがしかし、灯を支える杖の役割は果たそう。全体へ貢献するために……!」
ギロチン型の攻撃網が迫るが、それを回避し様に斬撃を浴びせ込む。
三連斬撃がギロチン型を一体捉え、射程から逃れようとするのを「ルーン斬りグレート」が打ち据えていた。
火炎が跳ね、経衡が悲鳴を上げる。
「アツゥイ! ……だが、バルバロイ共よ。自分の後ろへ攻撃することは叶わぬと思え!」
(吼えているようで威勢は結構。だが見掛け倒しでないことだけは証明していただきたいもの)
「――止められるとも。駆け出しアシスタント! ドラグーンレーダーからの情報をこちらに!」
青井 竜一の声に導かれ
【使徒AI】駆け出しアシスタントは状況把握をもたらす。
『私の持つ戦局把握を使ってもらいます。そして私のスキル、竜一さんに託します』
「任されたぞ! ……そして襲いかかってくるギロチン型のバルバロイ! お前らの動きも!」
空中戦で奇襲を仕掛けてくるギロチン型の軌道を読んで回避し、「紫陽花の盾」と「インパクトソード」で攻防を一体とする。
『竜一さん。ギロチン型が前方に数体』
「了解だ! 俺に殺気を向けているのがハッキリ分かるぞ!」
ギロチン型の殺意の籠った一閃を避けて位置情報を把握し、攻撃の際の隙を講じる。
「今度はこちらから行かせてもらうぞ! バルバロイ!」
ギロチン型の背後を取り、雷の力を内包した一撃を浴びせ込む。稲光の居合斬りはギロチン型の肉体へと深く食い込んでいた。
そのまま振り抜き、ギロチン型を両断する。
「このショーテルは良い機体だが、この先どこまで使えるかな……」
懸念を浮かべつつも、ギロチン型を一体下した高揚感に顔を上げた竜一へとスカラーは冷徹に言い放つ。
(刃の遣いを一体やったところで、戦局に影響はありません。ここにいつまでも縫い止められるのも旨味はなし……。遣い共よ。道を拓きなさい)
その言葉に応じるかのようにインファント型が一斉に壁面を叩き、道を通じさせていた。
「……侵入を許したか……!」
(表層で止めるつもりだったのならば無駄な努力です。我が方の戦力は潰えていない。そちらはどうか? どこまで損耗した?)
ロングカノン型が一斉に狙いをつける。
それを察知してダークロイドは声を張り上げていた。
「エド博士! スノウ! しっかり掴まっていろ!」
「ダークロイド! まさか……!」
息を呑んだ神夜に対し、ダークロイドは【星詩】を絶やさずに特殊な歩法で過負荷に耐え凌ぐ。それはスノウダストも同じであった。
「ダークロ、【星音】でタイミングをずらします。少しでも敵に勘付かれないよう……」
ギロチン型がおっとり刀で奔ったが、その時にはダークロイドたちは「マギ・ファイアクラッカー」の超加速で前線を離脱していた。
(逃げるほうが賢い。だが……まだ何かありますね。追おうと思うな、遣い共)
踏み出そうとしたギロチン型を捉えたのは銃撃であった。
(こちらを誘い出しての狙撃……反応、そこですか)
スカラーが手を払い、ロングカノン型に砲撃を掃射させる。
その先に居たのは
永見 玲央であった。
「……まずいですね。ヴァレット、敵に見つかりました。回避運動を頼みます」
『了解いたしました。全てのスキルを使用して回避運動をサポートいたします』
【使徒AI】ヴァレットの補助を受けて「ツヴァイハンダー・エリート」に搭乗していた玲央は携えていたライフルを標的から剥がさぬようにして続いての射撃を見舞う。
ギロチン型も二度も三度もかかるほどの馬鹿ではない。
玲央の銃撃を掻い潜りつつ、相手は既に落ち着きを取り戻している。
(追撃に向かえば格好の的になっていました。だが動かぬと言うわけもない。貴様らの講じた策を一つ、一つ、啄んでいくのは何もつまらないわけではないのですから」