・戦いへの螺旋
ファニスが率先してバルバロイを引き付けるのを援護するのは
羽村 空である。
「エルフたちを連れ去られるわけには色んな意味でいけない。何とか守らないと! ……にしても、幼体を産み付けられたのにそれを利用して囮になるなんて勇気あるなー。私も頑張ろう!」
雷の光球と火の鳥を構築し、バルバロイへとぶつけていく。
それで注意が逸れれば上々。一瞬でも相手の動きを鈍らせる。
そのためには出し惜しみはしていられない。
雷を纏った火の鳥を呼び寄せ、それらを一斉にバルバロイの鼻先へと命中させる。
「火と雷で熱くて痺れるよ~♪」
噴煙を引き裂いて咆哮するバルバロイへと正確無比な狙撃が突き刺さっていた。
リュイック・ラーセスはバルバロイの眼を狙い、的確にその戦力を潰していく。
「標的をクリア。このまま他のメンバーが動きを鈍らせた個体から各個撃破していく。……バルバロイの排除が自分たち“外法の者”がこの世界に呼ばれた理由なら、エルフたちを助けるのも当然のこと。寄生された恐れのある人を助けるのも当然だし、万一アーク内に広がっていた場合、相当な混乱が予想できるから何としても宝玉を手に入れさせたい」
しかし、と懸念もある。
「何故、シャングリラへの到着を優先していたように見えるゼピュロスが前に出てきたのだろう。何か焦っているようにも見える。問題があるなら話せばいいはずだ。少し注視しておく必要がありそうだな」
リュイックはユッピルの枝葉を遮蔽物として利用しつつ、前線より少し下がった位置から狙撃を行っていた。狙うのはツインカノン型だ。
一時として同じ場所には留まらず、狙撃場所を入れ替えていく。
突出したスライサー型へと
ミューナ・デュトワが星詩を紡ぎ、麻痺と歪曲、そして昏倒が瞬時に襲いかかる。
隙の生じたバルバロイへと攻防を浴びせるのは
アクル・ネイであった。
「騎士でもなく、外法の者でもなく、普通の人たちに寄生が及んでいるかもしれないなら、真っ先に解決しなきゃ。それが私たちの役目」
「パラライズ・サンダー」を紡ぎ上げ、雷の威容とまどろみがバルバロイへと襲いかかる。
銃撃がよろけたその頭蓋に突き刺さり、爆発の光と音叉が戦場に木霊する。
【使徒AI】駆け出しアシスタントの補助により、アクルは的確に次なる標的へと奔る。「ドラグーンレーダー」の効力で周囲のバルバロイを索敵していた。
「相手が進化しようが、やることは同じだよな。要はこいつらバルバロイをやればいいんだろ?」
「事はそう簡単でもないかもしれない。目的のものが手に入ったと思った時、スキが出やすいからな。まさかとは思うものの、どうにもゼピュロスの行動が引っかかる。万が一にも備えたい」
接近したバルバロイを「サイコブレード」で斬りつけながら、ミューナは
【使徒AD】スパルタ教育係に移動をフォローしてもらいつつ同意する。
「最後の一回分は残しておけって……。私もゼピュロスには不信感はあるけれど……」
次々と戦火が舞う中で、ツインカノン型を見据えるのは
ヒュッツ・スヴェンステンだ。
「さて……大物狩りだな……」
盾を構えながら迫り来るツインカノン型を睥睨するヒュッツは敵の動きを見ていた。
「スライサー型の対応班が居るとは言え……敵が来ないとも限らない。後は全体を見て……戦局把握で狙う相手を決めるとしよう……」
『総員、聞こえる? 敵の数はかなり多い。リーシュ騎士団が危険な囮役を買って出てくれているなら協力しないとね』
桐ヶ谷 遥はそう通信網に吹き込んでから、ファニスとの直通通信に入る。無論、通信する際には「貴族の作法」を忘れない。
「ファニス団長。我々はリーシュ騎士団に全面的なバックアップを敷こうと考えています。行動そのものは単純。囮役に対して、引き寄せられてくるバルバロイと直接対峙して分担して戦闘を行うことよ。囮としてうまく引き寄せられるほどバルバロイと戦う危険が伴う。その負担を少しでも軽くできたらと、ね」
『……応援感謝する。目下のところ目標は――』
「そうね。バルバロイの駆逐! 行きましょう!」
「カリバーン」に搭乗した遥は迫るスライサー型へと粉塵を巻き上げながら接近していく。並び立つのは
壬生 春虎であった。
「この群れを囮役のリーシュ騎士団とやる気出してるとこ悪いが、マンスター騎士団だけで対処するのは難しいと思うぜ。うちの騎士団も数って点では心許ないが、ここに揃った複数の騎士団が連携して当たることで打破してやる。アルテ。ドラグーンレーダーを」
『承知しました。春虎様。面倒でも顔に出さないことです』
「……バレていたか」
『バレバレです。敵の数は多い、少しの緊張の乱れが命取りでしょう』
「肝に銘じておくよ。アシスト頼むぜ!」
『お任せを。最善手を講じます』
【使徒AI】アルテが春虎の動きをアシストし、近接の距離へと踏み込んだ春虎は二刀流の剣でスライサー型を引き裂く。
狭い地形を利用しながら、ツインカノン型の砲撃をやり過ごし、重力負荷をかけた剣――「グラヴィティ・ソード」を下段より薙ぎ払う。
「逃がしはしない! ショットガントラストで面攻撃だ。加速して斬る!」
剣圧を与えられたバルバロイが動きを止めたのを見過ごさず、春虎は即座に追撃に入っていた。
二刀流が迸り、スライサー型を引き裂いていく。
「スライサー型は歌姫グループAが引き付けるわ。エルフのためだもの、少しでも数を減らす!」
【使徒AI】ヴァレットが命中補正と緊急回避をかけさせて、遥のサポートを的確に行う。
枝葉の絡み合う狭い戦闘区域で躍り上がったのは
レベッカ・ベーレンドルフの操る「エイヴォンMV」である。そこには
アルフレッド・エイガーと
シオン・ツバキが同乗していた。
「うわー……この数相手にしないといけないんだ? 結構大変……? って泣き言言っている暇はないよね。一匹でも多く退治できるように頑張ろうね! みんな! 念流の歩法があれば大丈夫! どんな状況でも元気に歌うよ!」
そう言うなりシオンは星詩「恵みの雨音」を発動する。すると暗雲が生まれ、雨がぽつりぽつりと降り出していた。
これは加護の雨だ。
味方を雨の降る範囲内では治癒することに専念できる。
身につけた青色のドレスを払い、シオンは「ブルームド・カンタービレ」を用いて星詩の補強を試みる。
「これなら今まで以上にみんなを支援できるよね! あとはー……とにかくずっと歌い続けるのが大事! 少しでも長く星詩を唄い続けて一体でも多くのバルバロイを退治できるよう、みんなを支えるよ!」
そう叫びつつ、シオンはMP回復のオファレルハーブティーを愛飲するのも忘れない。
「この人数でこれだけの相手をするのだ。損傷なしとはいかないだろう。だからこそ、修理役が大事となるな。桐ケ谷、こちらはいつでも向かえる。適時修理を行うので危なくなったら通達を頼む」
レベッカは「蛇歩旋回」で回避に専念しつつ、「クイックインスペクション」で現状把握を欠かさない。
「さて、メインボーカルが頑張ってんだ。俺も張り切るかねぇ。囮役の騎士団と共闘するってことは敵がわんさか来るよな。なら、かく乱が大事になるな」
星音「白銀煙の花園」が発動され、シオンのステージを盛り立て、効果を増大させていく。
「バルバロイのかく乱にもなる。これから多少ガレオンが狙われても直撃は避けやすいだろう? あとはレベッカの操縦テクニック次第なのでお任せってな」
「……肝心なことは人任せだな。だが、任された」
「にしたって、チェーンサークルで落ちないように対策しているとは言え、これは……」
濁した先をアルフレッドは返す。
「いつもダサいダサい言うなって! ちょっとは気にしてるんだぞ? まぁ、それでもメインボーカルを引き立てるためには致し方ない。しっかりとガレオンに掴まって星音を切らさないように支援していくぜってな。そもそも落ちちゃ話にならねぇ」
スライサー型が肉薄する先で、不意に枝の合間に構築されていた蜘蛛の巣状の罠に取り押さえられていた。
フィーリアス・ロードアルゼリアの先んじていた罠が功を奏し、目論み通りバルバロイの進行速度に乱れが出る。それもただの罠ではない。
「インヴィジブルエネミー」と「トリックトラップ」、それにスパイダーランチャーで固めた枝の間に蜘蛛の糸を張り巡らせた逸品だ。
「敵の数、ざっと百ってところでしょうか? 数が多過ぎて一気に来られると対処しきれないけれど。遥。こっちでバルバロイが罠にかかって渋滞を起こしている。一斉掃討のチャンスですね」
『了解。そっちの地形までは手が回らないから、歌姫グループBに任せるわ』