空の大陸とエルフの宝玉5―フルール歌劇団―
エルフの保護と宝玉の捜索に乗り出した
フルール歌劇団は、カレンとは別の見張り役エルフと共に木の内部へ侵入した。
エルフが言うには、木の内部は見張りたちの休憩所を兼ねており、それぞれメインに使用している場所があるのだそうだ。
その為、巨大な木の内部構造を全ては把握していないものの、自身がメインに使用しているエリアであれば、多少の案内はできるのだという。全ての道を暗記しているわけでもないらしいので、だいたいこちらの方、という程度ではあったが。
「でも確か、最後は一本道で繋がっていたと思います。宝玉の場所が変わってなければ……ですが。
その部屋も行ったことがあるのは一度だけですし……ごめんなさい」
エルフは申し訳なさそうに言う。
では、鍵のヒントになることはないか、と
弥久 風花が尋ねる。
「木の浮遊大陸ユッピテルの騎士の魂って呼ばれるものは何?
鍵の謎を解くのに必要だと思うのだけれど」
「うーん、そうですね……エルフの長なら知っているかもしれませんが、私にはよく分からなくって」
またしてもエルフは申し訳なさそうに眉を下げた。
私であれば、剣とか主君、家名、名誉などに魂を預けるイメージがあるけれど……と弥久は思案するが、今はとにかく第一の鍵の道を見つけようと先を急いだ。
先へ進んで行く歌劇団の面々の中で、
フレデリカ・レヴィは用意したマークングペグとマッピングセットで通った道をチェックし、迷わないよう注意する。
ペグはあまり離れると探知できなくなるため要所で使うことにし、分かる範囲で簡易的な地図を描いていく。
一行は周りを警戒しながら進んで行くが、今のところバルバロイやゴーレムといった敵襲の気配は察知していない。
「ちょっと 気になっていたの ですけれど、バルバロイって、すくなくとも 2しゅるい いるの ですよね」
「赤と青だっけ? 確か、そういう話よね?」
「そう言えば、そんな話もありましたわね。でも、それがどうしましたの?」
数多彩 茉由良が
ベネディクティオ・アートマや
カラビンカ・ギーターに問いかける。
数多彩はうーんと、と小首を傾げながら続けた。
「いえ、きせい せいぶつと はんめいした ことも ふくめて、どういう くぶん なのかな? と。
ウイルスとか、いんし レベルの モノなら、ようたいを うえつける いみって……ですし?」
やや渋い顔をしながらこめかみに指を当てて考えてみる。帯同する
【使徒AI】ロゼッタも似たような顔で考えているようだ。
その疑問にカラビンカが相槌を打つ。
「生物を作り替える様なモノと、あくまでも生物として、乗っ取るモノと2つのフェーズがあるのかも知れませんわね?」
そこへ
デーヴィー・サムサラが割って入った。
「それで? なんで、こう……探索に行こうって時に、まゆらはそういう事を気にしている訳?」
「いろいろと からめても ありました。
けれど……バルバロイって、ちのうは じゅうぶん あると おもうの ですよ?」
「あ~、今回の行動が理解不能って事よね?
樹と同化したエルフの人達を攫っていって、削っているんだっけ?」
「”虫下し”の秘薬があって、寄生出来なかったから……別の方法を模索しているって、可能性もございますけれど……」
四人はバルバロイの動きについて考察する。
思い返せば、人体に幼体を産み付けるものもあれば、人体そのものがバルバロイに変貌してしまった件もあった。
現在に至ってはドラグーンアーマー型のバルバロイも発生している。
数多彩はそれらを指折り数えながら、今回の件もこの木――島自体に何か施されていてもおかしくないと考えた。
「そうよね。今回、探索に行くのが樹の中なんだから……。
空の大陸の時の様な、樹へのアプローチがされている可能性も在るよね」
「直接、変貌した寄生生物では入ってこれないけれど……。
何かしらの手をうって来ている可能性を考慮していましたのね」
「そこは、確かに気を付けているに越した事はないわね」
「はい、そういう こと なのですよ」
「直接、樹には触れない様にして……靴なり、手袋なり、間に挟むのね?
樹の刺等で怪我をした場合は……『ハイヒーリング』、お願いね?」
デーヴィーの言葉に数多彩はまかせてください、と頷いた。
***
エルフの案内の元、しばらく歩いていくと二股の道の前へ出た。
片方はそのまま通行可能となっており、もう片方は攻撃も弾く不透明な膜のようなものが張ってあった。
「私達エルフであればこちらの道も通れるのですが、皆さんは難しいですよね。
少し遠回りですが、右側の道に……」
エルフは膜のない道を案内するが、フルール歌劇団団長の
シャーロット・フルールが前へ出ると、エルフを制止する。
「だーいじょうぶ! これって多分第一の鍵だよね?
団員の皆がこんなにいるし、なんとかなるなる!……よね?」
シャーロットの潤んだ瞳に、苦笑いした
草薙 大和と
虹村 歌音が前へ出て並んだ。
「こういう頭を使うの、ちょっと苦手だけどきっと大丈夫だよ。ね、大和くん!」
「いや、考えがあって出てきたんじゃないのか?」
虹村の言葉に大和の肩がずるっと落ちるが、咳ばらいをして気を取り直す。
「まぁ『青い円環』は、十中八九トルバドールの『水輪』のことだろう」
「うんうん! ボクもそう思うよ!」
「さっすが大和くん! わたしの出番だねっ♪」
跳ねる様にしてもう一歩前に出た虹村は、瞳を閉じて星素:水輪を発動する。
周囲に浮いた水の輪が膜に触れると、シャボン玉のように膜が弾けた。
「やったぁ! 大正解!……ってわわっ、シャロちゃん!?」
「あれ~かのんちゃんが正解だったか~。月って青っぽくみえることあるじゃん?
だからボクも弧月輪をてーじしてみたよっ。それ、それっ☆」
シャーロットが出現させた光の輪をフープみたく回し、それが虹村を巻き込んで二人でくるくると回る。
「……シャロ、先行くぞ」
二人の戯れを見かねた
アレクス・エメロードが頭を抱えながら言う。
にひひ、ごめんね! と言いながらも、シャロはフープ遊びをしたまま道の先へ進んで行った。
アレクスはため息をつきながら、第一の鍵となった壁にマーキングペグを打ち込み、その後を追う。
***
無事第一の鍵を解除し、内部を進んで行く歌劇団だったが、進めば進むほど内部構造は複雑になってきていた。
案内役のエルフも道を間違えることが多くなり、その度アレクスやフレデリカがチェックしていく。
「ゴーレムの出現ポイントとかは分からないの?
この辺りに配置されてるとか……」
「ある程度自由に動くので、必ずいる……という場所は無いんです。
宝玉の近くには多く配置されていると思いますけど……」
デーヴィーの問いに、うーんと考えながらエルフが答える。
だったら鍵を突破するほどゴーレムとの遭遇率は高くなるのか……とデーヴィーが考えたところで、前方から声が聞こえた。
「足音がする。それも大きな……。
ゴーレムが来るよ!」
戦術集音装置で聴力を強化した
望月 いのりが音を拾った。
全員が足音の接近に身構える中、前方からゴーレムが現れる。
「バルバロイ対策の為に残したいところですが……やむを得ません」
人見 三美がハイスタンダードマイクを構える。
大和の指示で
草薙 コロナがアサルトスラッシュで前線へ出たところで、人見が火の鳥を飛ばそうとしたが、エルフに止められた。
「待ってください! 延焼してしまいます!」
「――っ」
人見が寸でのところで発動を取りやめる。代わりに
ウィリアム・ヘルツハフトが鉄飛礫を飛ばし、その間にコロナが初撃の勢いに任せてスプラッシュハーレーを放った。
礫で牽制されたゴーレムは、コロナの剣戟にあえなく撃沈する。
「すみません。怪我はありませんか」
「大丈夫です。私も大声を出してすみませんでした」
人見はエルフに駆け寄って頭を下げた。エルフもいえいえと頭を下げ合う。
「大した脅威ではなかったが、油断は禁物だな」
「はいです」
大和が他に接近してくるゴーレムはいないかと殺気察知してみるが、他に気配はなかった。
「あれ、次の鍵じゃないかな」
「本当だ。じゃあゴーレムはここの鍵を守っていたのかな」
少し先へ進んだ望月が、第一の鍵同様膜の張った道を見つける。
望月に続いたベネディクティオが言う。
「第二の鍵は『騎士の魂を捧げよ』……。
騎士ってドラグナーだよね?
ヤマコロちゃん、いのりちゃん、試してもらってもいいかな?」
塞がれた道の前に団長のシャーロットが立つと、歌劇団内のドラグナーを前へ集合させる。
道の前に、大和とコロナ、望月が出て整列した。
「ドラグナーは間違いないだろうが、魂は何だろうな。
ドラグナーガッツ……だと捧げよ、の部分が合わない気もするが……」
「捧げることのできる『騎士の魂』……ドラグナーの武器はどうですか?」
「そうだね。どっちもあり得ると思うけど、私は騎士の家の守り刀を納めてみよう」
三人がそれぞれの答えを出す中で、後方の
サヤカ・ムーンアイルが心配そうに呟く。
「魂を捧げよ……本当にドラグナーさんの命を失ったりしませんよね?」
彼女の声に、シャーロットは大丈夫だよ♪ と肩を抱く。
ぎゅうっと二人は抱き合う形で、ドラグナーたちの選択を見守る。
ドラグナーの三人は膜の張った道に向かって、三本の剣を掲げた。
三つの剣先が一点を差し、弾くように膜が消える。
「じゃぱにーずSAMURA―I!」
「……よかったぁ」
鍵の解除に喜ぶシャーロットにサヤカもつられて笑顔になり、一行は開いた道の先を進んでいった。