空の大陸とエルフの宝玉4―アルガス騎工団―
木の内部調査へ向かう前。それぞれの騎士団が調査への事前準備を行っているところに、
アルガス騎工団団長:
成神月 鈴奈が、捜索する上での特記事項を記載したメモ紙を各団長に渡していた。
「これは我々アルガス騎工団が捜索にあたり定めた諸ルールです。
我々はこちらに従って行動しますので、把握いただけると幸いです」
成神月は三つの事項を記載していた。
一、騎士団単位で複数方向から侵入を試みること。
二、は探索する部屋の扉や通路の壁に〇の記号を掘り、探索が終われば縦線を引き足すこと。
三、は手に入った情報は出会った際に共有すること。
メモ紙を受け取った団長たちはそれを了承すると、それぞれの騎士団を率いて木の内部へ調査に向かった。
成神月も自身の騎士団に戻ると、隊列を確認して内部への進行を開始する。
***
部隊の先頭には
ヒルデガルド・ガードナーが行く。
騎工団を先行し、隠形術やシャドウバニシュを組み合わせてバルバロイやゴーレムの襲来に備える。
先を確認し、安全が確保されれば後続の団員たちを呼び、騎工団は木の内部を進んで行った。
「ヒルデさん、あれは……」
「鍵の道……ね」
ヒルデガルドの後方についていた
水野 愛須が声をかける。
進んだ先には二股に分かれる道があり、片方は地表から木肌が壁のように隆起しており僅かな隙間はあっても、人が通れるほどではなかった。
それを見た
ノーン・スカイフラワーが成神月に問いかける。
「青い円環に従えって……水輪のことかな?」
「はい。私もそう思います」
他のメンバーもそれに同意すると、ノーンが最前に出て星素:水輪を発動した。
ノーンの周囲に出来た水の輪が広がっていき、道を阻む木肌に触れる。すると、隆起していたものは縮んで壁が消えた。
「良かった。正解だったね!」
ノーンが嬉しそうに言うと、団員もほっと胸を撫でおろす。
成神月は壁のあった通路の壁面に〇を彫ると、再びヒルデガルドを先頭にして次の鍵と宝玉の捜索を進めた。
***
しばらく道なりに進んだ後、いくつかの分岐点を経て、アルガス騎工団は再び木肌の隆起した壁――第二の鍵にたどり着いた。
道中の分岐点では、行き止まりの道に進んでしまったり、同じ道に戻ってきてしまったりと、それなりに迷路に翻弄される部分もあったが、成神月の定めたルールに則って目印をつけてきたお陰で、二度同じ間違いをすることはなかった。
先はまだまだ道だが、来た道の解明は上手くできているだろう。
「私の魂を捧げよ……ということかしら」
西村 由梨が壁を前に呟く。
ドラグナーである西村の考える騎士道――それは、“共同体の皆と共に生き、苦楽を分かち合い、その場所を守り抜く”ことだ。
何をしたかではなく、何を成し、守り、得ることができたか。それが彼女にとっての騎士道の魂であり、形のないものであるが、敢えて形にするならばアーケディア王国功績証ではないかと、懐からそれを取り出した。
しかし、壁に変化はなかった。
「違うみたいね。
功績証は騎士……ドラグナーに限定されない、ということかしら」
西村が下がると、入れ替わるように水野が壁に手を当てる。
「魂=精神と考えます。ドラグナーガッツではどうでしょうか」
水野はその場でドラグナーガッツで壁を開くことに集中するが、それでも変化は起きなかった。
「ふむ……これも違いますか。確かに捧げるものではないかもしれません。
騎士、であればドラグナーは間違いないと思いますが、精神的なものではないのかも……」
何かドラグナーとして特別な、ドラグナーを体現するようなものかもしれないですね」
「では、次は私が」
水野の言葉に次はヒルデガルドが前へ出て、壁の前にロングブレードを突き刺す。
『捧げよ』の言葉の通り、もしこの剣を手放して捧げる必要があるのなら、それも厭わないつもりだ。
たとえそうなっても、一番槍としての役目を全うする覚悟はできていたのだから。
ヒルデガルドの剣の前に、木の壁は地面へ沈んでいく。
騎工団の一行は、歓喜し、ヒルデガルドに拍手を送る。
ヒルデガルドは一息つくと、剣に手をかける。剣は難なく引き抜くことができた。
覚悟はできていたが、この剣と共に自分の役割を全うできることに、ヒルデガルドは安堵した。
「なるほど。ドラグナーの剣、ってことですね。
ヒルデさん、ありがとうございます」
「いいえ。みなさんの考察があってこそよ。先を急ぎましょう」
ぽん、と成神月に肩を叩かれたヒルデガルドは一礼し、ロングブレードを構えて道を進む。
***
第一、第二の鍵を順調に解除して進む一行は、内部構造にも慣れつつあったが、それでも数回ほど誤った道を進んでしまう。
その度に引き返したり、先行部隊が確認に行ったりして確実に前進していくが、先ほど選択した道はどうやら間違っていたようだ。
「ここも違う……」
ヒルデガルドが焦りをにじませながら言う。たどり着いた先は袋小路となっていた。
「大丈夫大丈夫! みんなで頑張ろーね!」
ノーンが明るくそう言うと、再び隊列を組みなおして来た道を戻ろうとした。その時。
「――っ、前方にゴーレムよ!」
「後ろにも!
袋小路におびき寄せる罠だったというの!?」
先頭のヒルデガルドが叫ぶ。来た道にはいなかったはずのゴーレムが立ちふさがっていた。
それに加え、最後尾の西村も声を上げる。先ほどの袋小路になっていた場所にもゴーレムが出現したのだ。
「後方は任せます――!
アルガス騎工団一番槍! 推して参る!」
瞬時にロングブレードを抜いたヒルデガルドが前方のゴーレムに特攻し、相手の構えた拳に向かってカウンター気味にアサルトスラッシュを繰り出す。
「お猫様は最強!」
合言葉を唱えた水野がヒルデガルドに連続するように出で、ダブルスライサーの一本を投げつける。
ヒルデガルドの一撃を食らった腕に鋭利なそれが刺さり、ゴーレムは引き抜こうともう片手を上げた。
「よそ見してるとケガするわよ?」
その間合いに入ったヒルデガルドが二本の腕に向けてショットガンスラストを放つ。
衝撃を受けたゴーレムは、ダブルスライサーを引き抜けないまま後方へバランスを崩す。
そこへ第二陣として、もう一本のスライサーを構えた水野の瞬間加速斬りがゴーレムの腕と胴を一刀両断した。
ゴーレムはそのまま体を砕き、動きを止めた。水野は落ちたスライサーを拾う。
一方後方では、インパクトソードを構えた西村がゴーレムに向かう。
高天原 壱与はノーンと身を寄せ、シルドミレーナロッドによる護身術でバリアを張る。レンスター流護身術はいつでも繰り出せるよう気を張るが、今は仲間を信じるしかない。
成神月やノーン、高天原を守るように構えた
邑垣 舞花は、西村の後方からマークスマンズドクトリンの射撃で援護する。
邑垣からの銃撃に怯んだゴーレムに、西村がフローズン・メイルの加速を利用して肉薄する。
【使徒AI】駆け出しアシスタントの戦局把握に従った邑垣の射撃に牽制されたゴーレムは、迫る西村に攻撃も繰り出せず、まともな防御態勢も取れずに、あっという間に接敵を許した。
戦場の観察眼を使うまでもない、と西村はインパクトソードのトリガーを引くと、横に構えた剣を一気に薙いでルミナスクリーブの一閃を浴びせた。
袋小路の道に光が瞬いて、ゴーレムの沈む音が響いた。
「伐採の必要はなかったですね。ありがとうございます。
さあ、先を急ぎましょう!」
成神月はメタルチェーンソーを振りながら、ゴーレムを撃破した仲間に頭を下げた。
そして来た道を戻り、宝玉の捜索を急ぐ。
***
先ほど間違えた道をチェックし、通らなかった方の道を行けば、意外とすぐに第三の鍵の道へ出た。
最後の鍵は『星を紡ぐ者の前に扉は現れん』。高天原はノーンと共に道を塞ぐ木の壁の前に立つと、二人の星楽を奏で始める。
歌姫の呼吸法で大きく息を吸い、大注目! で期待感を高める。
ウィンド・アンド・ウォーターの星詩が響くと、高天原の木扉による星音がそれに彩を添えた。
(【星詩】を紡ぐトルバドールと【星音】を奏でるジオマンサー。
【星詩】と【星音】が共演することで【星楽】が生まれる。
トルバドールだけでも、ジオマンサーだけでも星には届かない)
高天原の想いは、ノーンの清らかな風と水の詩に乗せ、木の壁に届いた。
道を塞ぐ壁が沈み、道ができる。
ノーンが歌い終えたのに合わせ、アルガス騎工団がその先へ進んで行けば、彼らを宝玉が出迎えたのだった。