空の大陸とエルフの宝玉2―ウィックロー騎士団―
八重崎 サクラの提案のもと、いくつかの分隊となった
ウィックロー騎士団は、それぞれの分隊ごとに木の内部へ進んでいく。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
複数の宝玉が必要とのことで、団内でも手分けすることを提案・採用された八重崎は、一時的な分隊長に任命され、共に捜索へ向かう
ジル・コーネリアスと一緒に、他の騎士団員へ声をかけた。
「苦しんでいる人達の為、頑張りましょう!」
ジルも八重崎の言葉に同意し、前衛についたドラグナーの後ろで二人は周りを警戒しながら捜索を開始した。
***
しばらく内部を道なりに進んでいくと、二手に分かれる道があった。片方はそのまま進める道、もう片方は進行を防ぐように枝が絡まり合っていた。
先頭のドラグナーが攻撃を与えてみるがその枝はびくともしない。ここが鍵の必要な場所なのだろうと八重崎は推測した。
「第一の鍵は『青き円環に従え』でしたね。
……水よ、我等に道を示せ……水輪」
八重崎は星素である水輪を唱える。すると、複雑にからまった枝葉がするするとほどけて進めるようになった。
「正解みたいですね! よかった」
ほっとした様子でジルが言うと、八重崎は頷き先を進む。
木の内部は静かだった。カレンの話では宝玉を守るためのゴーレムがいるとのことだったが、今のところそれらしいものに遭遇はしていない。
それでも万一のため、ジルは護身術をいつでも繰り出せるように八重崎の周りを警戒する。
「次は、『騎士の魂を捧げよ』ですか。恐らく騎士剣のことだと思うのですが……」
また道なりに進んで行くと、先ほどと同様分岐点があり、片方は閉ざされていた。
八重崎は第二の鍵をドラグナーの騎士剣であるとあたりをつけていたが、トルバトールである自身にその武器はない。
その為、勇気を具現化できる異地の力で《剣》を示してみせた。
「我が魂よ、剣となり道を切り開け!」
八重崎と道の間にロングソードが顕現する。しかし絡んだ枝葉は閉じられたままだった。
八重崎は少し考えた後、同行していたドラグナーの剣を借り、それを枝の前に掲げた。
「やっぱり。ドラグナーの剣で正解でしたね」
すると次は枝が開いていった。どうやら八重崎の予想は正解だったようだ。
「残りはあと一つですね」
宝玉までの距離は近い。ジルは八重崎を労いながら道を進んで行く。
第二の鍵からそれほど遠くなく、第三の鍵の道が現れた。
八重崎はジルと団員に合図を出すと、一歩前へ出て星詩:Dengrimme?lliを紡ぐ。
「お願い、私の詩よ届いて下さい……」
歌い終えた八重崎は祈るように手を合わせて阻まれた道を見るが、枝はほどけなかった。
その後も同行していたトルバトールも歌ってみたが、状況に変化はなかった。
「仕方ありません。ここは諦めてこちらに行きましょう」
八重崎はもう片方の道に行くことを決め、団員を率いて進む。
するとしばらくした後、やや開けた空間に出た。その奥には光を放つ宝玉があったが、それを守るようにゴーレムが鎮座している。
「やや遠回りですが、ここに繋がっていたのですね。
あとはゴーレムを倒すだけです。最後まで頑張りましょう!」
「下がって下さい!楔の一手、撃ち込みます!」
ジルが先制として鉄飛礫を降らせる。アースクリエイトロッドによって強化された礫はゴーレムを穿ち、初手から相手は膝をついた。
その隙に一斉にドラグナーが駆け向かうと、同時に八重崎もバーニングマイクの先から《剣》を発生させ、ジルの撃ち込んだ礫目掛けて切り込んで行く。
ゴーレムに撃ち込まれた礫が楔となり、八重崎の一撃で体にヒビが入っていく。そのヒビに侵入するよう、八重崎は火の鳥を行使しようとしたが、宝玉が鎮座している周りには細かな枝葉が茂っており、万一燃え移った時のことを考えると、一瞬攻撃の手を躊躇ってしまった。
「サクラ!」
ジルの言葉に八重崎が視線を上げると、ゴーレムの拳が頭上にあった。咄嗟に八重崎は身構えるが、それをジルが護身術【堅杖】で防ぐと、エスケープドレスをなびかせてその場から離脱する。
「大丈夫、見えてる! ありがとっっ!!」
八重崎の言葉に頷いたジルは、観察したゴーレムの動きを八重崎に伝えると、体勢を整えた八重崎が再び《剣》を携え接敵する。
「ごめんね! ここで止まってる訳にはいかないから!」
八重崎が跳ぶ。ゴーレムの肩口に撃ち込まれた楔に向かって《剣》を振り抜くと、袈裟切りのようにゴーレムの体が割れて地面に沈んだ。
騎士団たちから歓声が上がる。ゴーレムは崩れていき、ジルが宝玉を手にした。
「無事ゲットですね」
「はい。お疲れ様でした」
八重崎は率いる分隊に頭を下げると、団長への報告の為、一旦来た道を戻ったのだった。