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無人の浮遊大陸

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無人の浮遊大陸
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 模倣の騎士たち・7

 キルデア騎士団やオワリ武芸団に所属する外法の者たちや、独自の騎士団を立ち上げた仲間たちによって、ドラグーンアーマー型は負傷している。
 また、それを護衛するツインロングカノン型や、この場に呼び寄せられた増援も、仲間たちの活躍で足止めされている状態である。
 【エスパーダ騎士団】はその状況を見ると、まずは最も体力を保っているツインロングカノン型の対処に回ろうと考えた。
 団長を務める飛鷹 シンは、この戦いに駆けつけてくれた仲間たちの顔を見つめながら思う。
(バルバロイの正体がわかればわかるほど……どうにかしてやりたいと、救ってやりたいと思ってしまう。これは俺の悪癖でありながら俺が俺である為の夢でもあるから……やるなら一人のつもりだったが、うちの騎士団のやつらはどうにもこの考えを否定しないでくれて助かるな)
 だとしたら、この場は遠慮なく仲間の胸を借り、バルバロイという存在を深く知ることにしよう。そう、シンは決意する。
 そしてそれがアークを守り、この世界に生きるものすべてを救う道につながると信じ、団長として号令をかけた。
「力を貸してくれ。エスパーダ騎士団、行くぞ!」
 シンの夢を託されツインロングカノン型に向かうのは、飛鳥 玲人ニキティア・レリエーナの機体改造を受けたグッドリッチBCに、示翠 風を同乗させて目標を定める。
 その側にはトルバドールの納屋 タヱ子がいるが、玲人のガレオンの定員は2名。風を乗せた状態では、タヱ子を連れていくことはできない。
 しかし、タヱ子には独自の移動手段があるようだ。見ればその背には翼があり、畳まれた翼には飛び立つ直前の緊張感が感じられた。未覚醒のラグナ・ウイングで以上手段を確保したタヱ子は、ドラグーンアーマー型への思いを強く胸に抱く。
(人型バルバロイは人類のなれの果て……ショッキングなお話ですが、理想郷まで続く生存戦略の為に歩みを止める訳にはいきません。ドラグーンアーマー型の中に人型バルバロイが居るかどうかはわかりませんが、、倒すしかないのならせめて星詩を聞かせて人として意識を取り戻せたなら――その為に強行突破させていただきます!)
 【エスパーダ騎士団】でそれを実現させるためにも、タヱ子は初めから全力で挑もうと決めた。
「わたしの思いで、皆さんを送り届けます!」
 ウィンドマイクに命を吹き込まれた星詩、疾駆シャトルランが始まる。
「何て言われても駆けていくよキミの方へ 私の言葉聞いて貰う為に でもね片道切符にするつもりはないけどね!」
 タヱ子曰く強行突破のために紡がれた星詩が、仲間に吹く追い風としてドラグーンアーマー型までの道筋を指し示す。
「玲人さん、風さん、ついてきて下さいね!」
 それからタヱ子は自身もまた道しるべとなるように大きな翼を広げると、アシストユニット2.0の補助を得て誰より先に疾走する。玲人と風もその後を追いかけるように続くと、ツインロングカノン型に近づいていった。
(人型のバルバロイの正体は大体把握した……が、些か不味いな。騎士団の面々やそれ以外の仲間達も大なり小なり動揺しているようだ。気持ちはわかるが、だからこそ冷静になってバルバロイに対処しなければなるまい。でなければアークにしろバルバロイにしろ救えるものも救えなくなってしまう)
 玲人が内心に現状への危惧を抱えながら操縦していると、まるでそれを読み取ったかのように風が話しかける。
「いやはや、正体がわかってきて難しいことになってきましたねぇ。バルバロイに対して、私達はどう向き合って行動していくか……敵か、救うべきか。ま、少なくとも救うという事を考えるなら、私もとことんまで見守りますよ」
「なるほど、見守る……か」
 風の一言に、玲人の心がふと軽くなった。そして、改めてこう考えることにした。
(先ずは目の前の状況に対処して、それからじっくりと考えようか。どうすれば助けれる者を助けれるかを)
 近づくほどに激しくなる砲撃に、操縦技術を駆使した回避で対抗する玲人は、【使徒AD】エクスカベーターにレーザービーム状の攻撃を加えさせてより注意を引き付けていく。
 ステージに立つ風はタオシーローブの加護で攻撃から身を守ると、黒炎の杖を両手で掴む。
「相変わらずタヱ子さんは無茶していきますねぇ。無茶はおかげで慣れましたがね」
 視界に入ったタヱ子は、先ほどよりも仲間との距離を意識した立ち回りだが、その勢いが衰えたわけではないようだ。光の屈折を利用して位置を誤認させると、舞い散る翼の向こう側から光の刃を振りかざしていた。
 タヱ子の攻撃と星詩を援護すべく、風も【演目】銀乱の絶風を開始する。
「銀の霧の中で、恐怖と狂気の風は吹く
誰もいないならば、誰かの為の時を稼ぐならば、こうした混乱は、敵対するものにだけ降り注がせるべきなのだから」
 囁く言葉が、強い風を生み出す。それは敵に銀の霧を流すとともに、その体さえも巻き上げようとするが、長距離射程を持つ体は、その大きさと重量で風を阻んでしまう。だが、霧に包まれた視界の向こう側からは礫が雨のように降り、砲身や支える体に傷を生み出していた。
 風はツインロングカノン型が攻撃をためらっている内にステージの上空へ飛翔すると、周囲に目を走らせる。
「護衛はドラグーンアーマー型をすっかり見失っているようです。砲塔が向かない内に、ドラグナーの皆さんは先へ!」
 風の言葉を合図にシン、信道 正義クラン・イノセンテが先へ向かうと、玲人は冷気を乗せた突風を起こしてツインロングカノン型に向ける。
「俺たちのことは気にしないで良い。この通り攻撃手段もあることだし、いざとなれば機体の応急処置程度なら可能だからな」
 玲人が突き付けた突風は含んでいた雹ごと敵にぶつかると、その凄まじい冷気で動きを鈍らせていた。
「アーヴェントさん、この先はお願いします!」
 タヱ子は未覚醒のラグナ・ウイングで羽を飛ばしててツインロングカノン型にぶつけると、アーヴェント・ゾネンウンターガングにドラグーンアーマー型との戦いを託した。
 アーヴェントはニキティアの操縦するエイヴォンMVのステージ上から手を振って応じると、アウロラ・メタモルフォーゼスに視線を向ける。
 その手は既にチェーンサークルを握りしめていて、アウロラが以前に何らかの恐怖体験をしたことを彷彿とさせた。
 アーヴェントはガレオンがどれだけ揺れようが対応できる心得を身につけていたので、その過酷さは今ひとつわからない。しかし、あまりの警戒ぶりが妙におかしくてわずか苦笑したが、すぐ表情には影を帯びてしまった。
(バルバロイは寄生生物で、元々は別の生物だった、か……あまり嬉しくはない情報だな。元には戻せずとも、せめて争いあうのをやめられないかとはどうしても思ってしまうが、そう簡単な事ではないのは間違いない。だが今後はほんの少し、気に掛けるだけでもしよう、せめて本来持っていた心が、その魂が、この詩で癒される様にと)
 その憂いが伝わったか、アウロラがこっそり息を吐く。
(バルバロイの正体がわかり、ゆーしゃは悩んでおる様であるな。であるが、あ奴はそれで止まる男でもあるまい、放っておくのが一番なのだ)
 と思いつつも心配が勝ってしまったのか、急に明るい声で話しかけた。
「それにしても、なんとでっかい木であるか! 奴らを退治したら登っても……う、駄目であるか」
 いかにもお調子者という感じの言葉に、アーヴェントは静かに首を振る。ただ、それがアウロラなりの励ましだったことは伝わったようで、先ほどまであった陰りは消えていた。
「……さて、最優先はアークの人々の安全だ。騎士団の皆と共に、バルバロイを迎え撃つぞ!」
 その頃、操縦席のニキティアは自分を鼓舞しようとしていた。
「ふぅー……なんとまぁ。ちょっと大分調子でないけどっ。皆も大概みたいだし、そうなるとこうー……逆に元気出さなきゃいけなくね? って感じ! 逆境こそヒーローの輝く時でしてねっ!」
 操縦席には自分だけだから、どうせ誰にも聞こえない。そう思ってわざと大声で独り言を言ってみれば、少しだけ気持ちが浮上したような、そんな気がした。
(……だいじょーぶ。やんなきゃいけない事も、そしてそれが間違いじゃないって事も。きっとなんら変わっちゃいないんだから)
 タヱ子に後を託されたアーヴェントを目的地に向かわせられるのは、何といっても自分だけなのだ。ニキティアは迷いを吹っ切るように操縦桿を握ると、ステージに無線を送った。
「やーアウロラ君はごめーんね? まー極力安全運転でいきますとも! 極力!」
 もちろん、わかりやすく盛大な振りだった。
 狙われづらく支援しやすい場所を探しながら機体を進ませていても、接近すれば敵には気づかれる。ドラグーンアーマー型からの先制を躱すため、ニキティアは急旋回を繰り返し機体を容赦なくふらつかせた。
「ニキティア、いやツインテ小娘! 前はかっ飛ばしおって! 幾らチェーンサークルがあるとはいえ、大変だったのであるからな! まあ、命には代えられぬが……今度はやるのではないぞ、本当にだぞ! ……と言おうとした矢先に貴様という奴は!」
 チェーンサークルを固く握りしめていたので体は無事だったが、心に深い傷を負ったアウロラが吠える。
「極力っていう話だったから……許してほしいなっ」
 それにニキティアが笑いながら謝ってくるので、アウロラはますます怒りに震えた。アーヴェントはそれについ笑い声をあげてしまったが、
「アウロラ、準備はできているな」
 急に真剣な声になると、眼前の敵を見据える。アウロラはそれに何も答えず、代わりにアースクリエイトロッドを振って応じ、ステージの真ん中に花園を咲き誇らせた。
 それは石花咲ク宴の始まり。
 華々しさを感じさせる曲を背にアーヴェントが花園に向かって踏み出すと、その足元から石柱がせり上がってあらなステージを作り上げる。ひと際高い場所に向かおうとするアーヴェントからは、K:Schmetterlingに施された蝶の羽の金色の鱗粉が舞い、その身の守りとなった。
 虹晶の髪飾り【セピアナ】で透明感のある乳白色の皮膚と虹色の目、尖った耳を手に入れたアーヴェントは、今一度周囲に目を向けドラグーンアーマー型以外から襲撃される恐れのないことを確認すると、M:FrühlingでL:春唱を歌い出した。
 マイクを通して春の麗らかな空気のような爽やかな発声を用いた癒しの歌が響くと、敵のテリトリーがたちまち中和されていく。
 そこに続くのは、正義のツヴァイハンダー。
「バルバロイの正体がわかったとはいえ、今はどうすることも出来ない。勿論、救う方法を模索するのも大事なことだが……目の前の戦いから目を逸らすことだけはするなよ。仮に何かしらの反応があった時に、もしも迷う隙を突かれるような事態があれば。俺は躊躇わずバルバロイを討ち仲間と世界の命や安全を最優先で選ぶ、それだけは伝えておくぞ」
 先ほどはシンの言葉を否定せずにいたが、戦いにおいてはその心情が命取りになりかねないと感じるから、正義はこの場であえて思いを口にする。
「……なんて、どこかのマンスター公爵みたいなこと言っちまったけど。優しさを忘れないのもまた必要なことだ、俺にはもう出来ないことだからその辺は他の連中に任せるさ」
 しかし、すぐに砕けた調子になると、バトルサポートユニットを補助にドラグーンアーマー型に挑みかかる。ただし、カメレオンブレードで切り結んだ瞬間に砕けた調子は消え失せ、本気のぶつかり合いとショルダーSシールドの受け流しで応じていた。
 途中に【使徒AI】シースによる急回避を挟みながらも、周辺の枝に飛び移って攻撃に転じたり、またはしなる枝をバネにして跳ねたりする姿は、跳流駆の鍛錬を受けた者ならではの読ませない動き。
 その模倣は一朝一夕にはできなかったか、ドラグーンアーマー型は直線的な動きで対抗し続けている。それ故に正義にとってその動きは読みやすく、カメレオンブレードの刀身を周りの景色に溶け込ませると、素早く走り込んだ居合い斬りを仕掛けた。
 間合いを見誤った敵はシールドでの防御が叶わず腕に損傷を受けるが、まだ十分に持ちこたえられるらしい。それを見た正義は彼我のダメージ量をざっと読むと、自らはダメージの回復に入ろうと仲間にその場を委ねることにした。
 後方に下がった正義を出迎えるように近づいたニキティアは、簡易点検の技術で異常個所を調べ上げると応急修理を始める。その間にアーヴェントもバラード調の星詩を響かせることで、正義の精神的疲労と体の傷を癒していった。
 正義に代わって接近したクランは、【使徒AI】シースからの情報で自身の立ち位置を把握すると、シンが正面に回り込みやすいようにスラスターや脚部を狙った攻撃で機動力を落とそうとする。
「人と戦うよかずっと楽だ、なんて思ってたけど……。くそっ、こっちだって余程酷じゃねぇか……! 何とかしてやりたいけど……今元に戻す方法も分からない以上、俺達に出来る事って言えば、今まで通り戦いながら情報を探るくらいだ」
 クランが思わず毒づいたのは、ドラグーンアーマー型の動きが思った以上に人らしかったからか。だからと言って手を抜くわけにはいかないと、ソードアシストユニットで戦い方の最適化を図ると、クレイモアで押し斬ろうとする。
「そうだ……救えるかもしれない相手に剣を向けるのは嫌でも、戦うのを止めるのは……駄目だ。それじゃあ今守るべきものまで守れなくなる。シンさんや団の皆だって、俺と同じように救いたいと思ってる。なら今は、皆と一緒にやるべきことを……!」
 仲間の次の一手を引き出すため、刀身を盾代わりに防御に専念すれば、クランを模倣したかのように重い斬撃が二度三度と打ち込まれる。その最後の一撃を使徒AIのサポートで避けたクランは、クレイモアからショットガンを思わせるような突き技を放って反撃に出た。
 その衝撃がついにシールドを打ち砕くと、クランと入れ替わるようにシンが向かう。それを援護しようとアーヴェントが光のマーカーを撃ち込み、被弾箇所が仲間への道しるべとなった。
 シンはクォルコネリアの穂先から銀色の光弾を発射すると、それが追尾している間にさらに距離を詰めようとする。そして、そこに回り込んだクランが3つの連続斬りで追い打ちをかけると、ドラグーンアーマー型が防御の姿勢となった。
 だが、すぐに同じ連撃で対抗すると、近づく者を追い払おうとする。
 その内の一撃がシンとクランを抜けてガレオンに近づいたが、アウロラは斬撃に滲んだ殺気でそれを察すると、簡易のシールドで身を守り、石柱で次に来る攻撃への守りを固めた。
 ガレオンを守ろうとしていた正義だったが、その必要はなさそうだ。修理と治療に礼を告げると、シンとクランの元へ一直線に向かって行く。
 そしてシンが武器の受け流しで引き付けている隙に、アーヴェントの撃ち込んだマーカー目がけて再び居合い斬りで挑みかかれば、ドラグーンアーマー型の攻勢が押し返された。
「シンさん!」
「ああ、行くぜ!」
 クランの呼びかけにシンが答えると、二人は別方向から同時に3連斬りを仕掛ける。それをドラグーンアーマー型も受け流そうとしたが、全てを流すことはできずに脚や肩に傷を増やし、一気に追い込まれていた。
 そこにシンが、上段に振りかぶった槍を振り下ろす。切っ先はドラグーンアーマー型を直撃し、その衝撃に周囲の枝葉が大きく揺れた。
 そしてドラグーンアーマー型の体は、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
 
 こうして、3体のドラグーンアーマー型バルバロイは全て倒された。
 また、戦いに参加した者の幾人かが、引き上げる際にそのパーツの一部を持ち帰ることにしたようだ。
 それを調べると、装甲もまた生体組織に近いものだと判明した。
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