模倣の騎士たち・5
(敵であったバルバロイの真実、寄生生物か……)
アルヤァーガ・アベリアは判明した真相を思い瞳を伏せたが、それはこれまでの戦い振り返ったことから来る感傷によるものではなかった。
(そこに彼らも意思があったとしても、寄生し、奪うという行為そのものが俺には認められないからな)
再び開かれた瞳には、揺るぎない意志が宿っていて、
「否だと断じ否定しましょう。是としたい、この世界の未来の為にも」
今のアルヤァーガが見つめるのは、ひたすらに未来だけだった。
「その意気や良し、頼りにしているでゴザル」
不意に聞こえたのは、カオルコの声。自身の所属する武芸団の団長の姿を認めたアルヤァーガは、それに黙礼すると、彼女に続いて戦場に向かった。
カオルコがドラグーンアーマー型の前に姿を見せると、敵はまっすぐに狙いを向けてくる。それを堂々と待ち受けるカオルコはさすがの貫禄と言ったところだが、状況は果たして純粋な一騎打ちを許してくれるだろうか。
アルヤァーガはライケンTTの操縦を
【使徒AI】グランドウィッチに支援してもらうと、ドラグーンアーマー型の挙動に意識を集中させていく。
敵はドラグナーの動きを模倣するという触れ込みだから、模倣の質がどれほどなのか探りたかったのだ。
(単に動きや技の型を模倣しているだけか、それとも……もっと本質的な部分にまで理解が及んでいるのか)
思考の末に見極めたのは、その模倣は表層部分をなぞるに過ぎないということだった。
それならば十分に勝ち目はあると、マギ・ロックオン・カノンを構えたアルヤァーガだったが、カオルコが砲撃される様子を見て周囲に目を向ける。
「ツインロングカノン型は全て健在ですか……オワリ武芸団で抑えにいっては?」
通信機からカオルコに進言すれば、
「オヌシの判断を信じるでゴザル」
という返信。アルヤァーガは了解の意を伝えると、トルバドールの仲間に支援を求める。そして、マギ・ロックオン・カノンを構え直してツインロングカノン型に狙いを定めると、それらとの戦いに意識を集中させた。
「ドラグーンアーマー型……ねぇ。こりゃ、ちと厄介かな」
九十九 龍之介は、オワリ武芸団の仲間と敵影を探しながら呟いていた。
「先ずは味方が戦いやすいように、護衛を叩きますかね」
初めの目標は、ツインロングカノン型。やがて先行する仲間の偵察で発見したそれを叩こうと、フォトンシューターを構える。
龍之介の乗るフランベルジュはこの武器との相性が良いため、射程と発射速度が向上している。そのため、普段なら狙えないような距離からでも攻撃が届くと判断した龍之介は、仲間に注意を促すと炸裂弾頭を撃ち放った。
弾頭はツインロングカノン型をほぼ正面から狙い撃つような形で飛来したが、わずかに狙いが外れて側面の枝葉に着弾したようだ。しかし、この弾頭は着弾した際の爆発にこそ持ち味がある。その余波はツインロングカノン型の体躯を揺らし、攻撃が一時的に止まった。
「カオルコ団長! 武芸団の皆! 俺があのドラグーンアーマー型の気を引く。その隙にあんたらの渾身の一撃を叩き込んでくれ!」 あの敵はもう動けないと判断した龍之介は、ドラグーンアーマー型に接触するために援護を求める。それに仲間が続こうとした時、カオルコから鋭い制止が飛んだ。
「まだでゴザル!」
その声の直後、倒したと思われた敵から再び砲弾が撃ち込まれた。なるほど、龍之介の感じていた厄介さは、本当にその通りだったようだ。
自身の目論見の甘さを痛感した龍之介は、カオルコに先へ先に行くよう伝えると、再び厄介な敵に取り組むことにした。
キルデア騎士団所属の
有間 時雨は、同騎士団の仲間の援護を受けながらドラグーンアーマー型に挑もうとしていた
「エルフの協力をとりつけるためにも、そして眼前の脅威を排除するためにもドラグーンアーマー型バルバロイを撃破するとしよう。逃がすと面倒になりそうだからな、確実に仕留めておきたいところだ」
操縦するフランベルジュに装備したのはマギ・マッチロックライフル。機体に命中補正が加えられており、ライフル自体にもロックオン機能が搭載されている。
これならば狙いを外すことはまずないと思いながらも、沈着冷静な態度が緩むことはなく、時雨は周りの団員の動きにを目を配る。そうしながら進んでいけば、ドラグーンアーマー型の姿を発見した。既に戦う者がいるようだが、それはどうやら団長のクローヴィスのようだ。
星詩の用意は整っており、いつでも援護に出られる状態の時雨はまず1発目を撃ち放つ。それからすぐ仲間に声をかけて移動すると、ショットアシストユニットでリロードを終えたライフルをもう一度構えた。
しかし、その時雨を襲うようにどこからか狙撃が行われた。
「護衛が生きていたか……まずはそちらを優先すべきだったな」
幸いなとこに、自分を含めた仲間に大きな負傷はない。時雨は先ほどの狙撃から大まかな位置を推測すると、ドラグーンアーマー型を諦め転進することにした。
ジーン・シアラーは、この度所属することとなったキルデア騎士団の仲間とともにツヴァイハンダーを走らせていた。
自身を、若手というには少し年を食いすぎていると考えるジーンだったが、寄らば大樹ということわざもある。ここは大樹と言うべきクローヴィスを頼ることで、自分の戦いを有利に運ぼうとしていた。
アークは剣が中心の世界で、射撃を用いた戦術には未発達な部分が多い。それは恐らく砲撃支援型のバルバロイの取る戦術にも当てはまるだろうと考えたジーンは、ツインロングカノン型は固定砲台状態か、ドラグーンアーマー型に追従しながら適宜射撃支援を取る戦術だろうと考える。
それ以外の戦術、例えば十字砲火なんてことはまだ考えつかないだろうと予想したジーンは、戦場を迂回気味に走ってツインロングカノン型に接触することで、その連携を崩すことにした。
周囲で戦う仲間たちの声や音、気配に気をつけながら、遮蔽物を利用して標的を発見したジーンは、呼応式加速装置で距離を一気に詰めていく。
そして自分の間合いを手に入れたジーンはトルバドールに支援を依頼すると、一瞬の集中力を引き出してトライデントを射出した。
三叉槍はツインロングカノン型の足を狙うようにして刺さるが、その傷は浅いようだ。ジーンの攻撃に気づき砲塔が旋回するが、ジーンは一瞬先を予知して安全な場所に飛び込み、砲撃を躱した。
しかし、砲撃はジーンの予想を超えて何度も撃ち込まれ、次第に逃げ場が失われていく。これ以上粘るのは危険と感じたジーンは、騎士たちとともに急いで離脱した。