■グラ救出作戦――無人プラントでの戦い
背中から光を浴び、ソードに持ち替えたグラがゆっくりと向かってくるのを、
諏訪部 楓が待ち構える。
「どうしました、グラさん。その首輪、まるで飼い犬みたいじゃないですか」
楓の言葉に返す言葉は無い。どうやら意思を無くしているようだと判断した楓は、このような仕掛けを施した白衣姿の男性の不敵な笑みを思い出し、しかしそんな彼をあざ笑うように微笑んでから剣を構えた。
「あいつは一つ、思い違いをしていましたね。私たちは別の世界からこの世界を救いに来たアイドル。
そして、私達アイドルは人を傷つける存在ではない! 人を救うための存在なんです!」
楓の構え、そして手にしたソードを目にしたグラがピクリ、と身体を震わせた。そう、それは奇しくもフラグランドで放送されていたヒーローアニメ『ブレイドスクランブル』の主人公、ブレイブワンそのものであったから。
「貴女が人を襲うのであれば、私はヒーロとして貴女を討たねばなりません。
フェスタのアイドルにタダの力押しが通用すると思わないことですね!」
しばらくにらみ合いが続き――グラが武器をソードからガンに持ち替え、自ら遮蔽物の陰に隠れた。
(どこを狙うつもりですか? ……いえ、相手のリズムに引き込まれてはなりません。
今の私は諏訪部楓……と共に彼女の中にいるブレイブワン……彼女のヒーローに成らなければなりません)
ヒーローであるブレイブワンならば、たとえ搦め手であっても正面から受け切れる――未知の行動に対する不安を自信ではねのけ、構えた剣ですべてを打ち払わんと待ち構える。――なおも状況は硬直を続けた。
プラント内の部屋に飛び込んだ
剣堂 愛菜が扉を閉め、回収したOCMを利用した防壁を扉に重ねるように配置した後、壁に身を寄せて息を潜め周囲の気配を伺う。
(追ってきていない……大丈夫、かな)
静かに息を吐いて緊張を解く。この部屋に逃げ込む直前、接触したグラの様子を改めて振り返る。
(あたしが見たグラは、明らかに普通のグラじゃなかった。おそらくグラを変えてしまったのは、出発時には付けていなかった首輪のせい)
愛菜がひと目見て、グラにはめられた首輪が簡単に外せるものでないことは理解できた。加えて戦闘力も引き出されているのか生半可な攻撃ではかわされ、手痛い反撃を受ける未来しか見えなかった。
(仲間がグラをこの時間まで引き付けてくれた。もうそろそろ、フィフスシティから増援が来てくれるはず)
駆けつけつつあるフィフスシティからの仲間に、現在の状況を情報として伝える必要がある。
(この部屋……壁も床もOCMでできている。伝えようとする意思があればきっと、外まで届く)
頷き、まずはOCMの塊にオルガノレウムを循環させ、スピーカーを壁に向くようにして設置する。大きな声を出す必要はない、必要なのは大事な言葉を伝えようとする気持ち。
「外のチームの皆さん……あたしたちは無事です。
グラさんが首輪の影響で意思を無くしてしまい、皆さんを敵とみなして襲ってきます。
オルガノレウムを消耗させることで首輪の力を奪えるはずです。
お願いします……どうかグラさんを助けて下さい……!」
「ワンスはグラの救出、トワイスは脱出口の確保を主任務とする! サードはウィッシュコネクトを守り抜いてくれ!」
「ダルトン隊長、まもなくプラントに到着します!」
「よし、到着次第行動開始! この期に及んで怖気づくなよ!」
『ウィッシュコネクト』がMライン先のプラントに到着し、ダルトン始め救出メンバーが続々と行動を開始する。
「ここは任せろ! お前らの帰る場所、守ってやるから実力を発揮してこい!」
龍造寺 八玖斗が彼らを鼓舞しつつ送り出し、自身はまず『ウィッシュコネクト』の後方にオルガノレウムを変換した水の力で生成された盾を張り、それから前に出て陣を張りOCMをアサルトライフルの形に造成したものを構える。
「ウィッシュコネクトはアイドルらが住民と力を合わせて作った、オルガノレウムの塊みてぇな代物。どうしたってここにはエグズーダーが集まりやすい」
グラと住民を捕らえた首謀者がまだ潜んでいるなら、自分たちの到着に気づいてエグズーダーを差し向けてくるだろう。
「言ってるそばから来なすった」
言うが早いか、八玖斗は見えるか見えないかの距離に居るエグズーダー――おそらく【W】――に向けて弾丸を発射する。まさかこの距離から攻撃を受けるとは考えていなかったのか、【W】は無防備に弾丸の直撃を受けて地面を転がった。
「【W】と【B】はまだいい、問題は【S】だ」
防御力を犠牲に攻撃力に極振りしたようなスタイルの【S】に『ウィッシュコネクト』を攻撃されるような事態は絶対、避けなければならない。空中の【B】を上空に放ったオルガノレウムの星で撃ち落とし、地上は造成した中型犬サイズの動物を突っ込ませることで『ウィッシュコネクト』への防衛線とする。
「見つけたぜサメ野郎! カミナリを喰らえ!」
そして危険分子である【S】を発見するや否や、オルガノレウムを背中に吹き出し翼を造成して飛び上がり、水と風の力を合わせ雷撃をまとわせた弾丸で撃ち抜く。背びれから尾ひれを抜けるように弾丸が【S】を撃ち抜き、地面に倒れた【S】は地面に染み込むように消えていった。
「ウィッシュコネクトの右サイドは仲間が見てくれている。ノリ、かたり、俺たちは左サイドに回ってエグズーダーを迎え撃とう!」
「はい!」
「わかったの!」
麦倉 淳の声に
梨谷 倫紀と
栗村 かたりが了解の頷きを返す。淳が空中にディスプレイを展開し、遠くの敵や景色を大きく映し出した。
「あっ、なんか来たなの!」
「よし、来たか! ノリ、ユニゾン!」
「敵……よし、頑張ります――えっ、ユニゾンですか淳さん??」
かたりのエグズーダー接近を知らせる声に、気合を入れ直した倫紀は直後、淳のユニゾン要請を受けてマイクに吸い込まれるように消えていった。
「ほらノリ、動物苦手だろ? エグズーダーも今の所動物の形したやつばかりだし、この方がいいだろ」
「……それはそうですけど……」
淳の言っていることは確かだが、だからといって一人だけ安全な――淳やかたりが攻め込まれるような状況でない限りは――場所に居るのはなんとなく居心地の悪さを覚える倫紀であった。
「うーんと、あっ、サメみたいなのもいるの! じゃあ、サメが苦手な動物を呼んでみるの!」
そう言ってかたりが造成したのは、サメの天敵シャチ。かたりの意向を受けてややかわいめに造成されていた。
「わぁ、とってもかわいいなの! シャチさん、わたしたちをサメから守ってなの♪」
守りの力を与えられたシャチが一声鳴き、かたりの周囲を泳ぎながら守る。シャチは海洋生物の頂点に立ち、サメすらも捕食する実は獰猛な生物である。この場に倫紀が居たら悲鳴を上げて淳に泣きついていたかもしれないから、倫紀にとっては命拾いしたかもしれない。
「【S】はプラント内部には出てこないそうだ。つまり見えている分のを片付ければウィッシュコネクトの無事はある程度確保できる! 【S】を最優先に【W】と【B】を仕留めるぞ!」
「はいなの! まことおにーさん、【W】の群れが近づいてくるの!」
空中ディスプレイから【W】の接近を察知したかたりが淳に報告し、それを受けた淳が対策を講じる。
「呼び起これ、炎の帯!」
淳の握ったマイクをオルガノレウムが循環し、指定した箇所に炎の帯が生まれる。
『なるほど……この感覚ですね。ハルモニアをオルガノレウムに変換する……言葉で言われるだけではなんとなくの理解でしたが、今しっかりと理解しましたよ』
「よし、その調子だ! 観客を湧かせる勢いでエグズーダーをぶち上げる!」
【W】の進路を阻むように次々と炎の帯が生まれ、そのたびに【W】はつんのめって勢いを削がれるか、うかつに突っ込んでその身を炎で焼かれるかした。
「ねらいうち、なの!」
そしてそのどちらも足を止める結果となるため、かたりの撃ち込んだ矢に貫かれてオルガノレウムを奪われ、活動を停止して地面に染み込むように消えていった。
「【B】は撃ち落としてしまえさえすればいい。噴水で叩き落とす!」
循環したオルガノレウムが地面を伝い、指定したポイントに噴水を生み出す。ちょうど腹に攻撃を受ける形になった【B】は飛行を続けることができずに地面に墜落していった。
「叩き落とした後は凍らせて――」
「わたしがねらいうち、なの!」
【B】が再び羽ばたく前にオルガノレウムを通して氷結の力を与え、硬直させる。そこにかたりのカラフルな閃光が飛び交い、弾けるようにしてその身体は小さくバラけ、それぞれが地面に染み込むように消えていった。
『今のところはうまく撃退できていますね。できるだけウィッシュコネクトに敵を近づけないよう、ぼくをうまく使ってください。
必ず、全員でフィフスシティに戻りましょう』
「ああ、もちろんだ」
倫紀の声に淳が応え、オルガノレウムの輝きもひときわ強まった――。