方舟の行方1
高層ビルが立ち並び、スカイタワーが煌々と輝く。
いつもと変わらぬ不夜の東京。
――違うのは、アイドルにしか見えぬ、夜空を膜の様に覆ったおかしな雨雲と、ノアの方舟。
「災厄を運ぶ方舟に、それを守る龍か……」
地上からその大きな舟を見上げるのは、
柳波 響。
舟の周囲にはまるで騎士の様に水龍が浮遊している。
柳波は、視線を携えた龍殺しの大剣に移すと、それを撫でて目を細める。
「三流アイドルにはキツイかもしれないけど
この龍殺しの剣に掛けて、龍も方舟も叩き斬って
いっそ世界でも救っちゃおうか?」
再び舟と龍に目標を据えると、柳波は舟の進行に合わせ移動し、その動きや龍を観察する。
そして装着したグラップリングフックを建物に引っ掛け、マイティパフォーマーの軽やかさで夜のビルを駆けていく。
柳波と共に舟の撃破に挑む
ベリル・シルバーハーツは、
舟の船主側にある高層ビルの屋上へ先行していた。
屋上では、ビル内で働く人々だろうか、煙草をくゆらせ休憩している人、
雑談する人、遠景を眺める人と少数ながら一般人がいた。
「此処はボクたちのステージになるんだ。
申し訳ないけどチケットを持たない人たちには退場願おうか」
ベリルは屋上の人々に向かってリトルレインの雨を降らせると、
人々は慌てて屋内へと戻っていく。
「今度は、普通のステージを見に来てよ?」
彼らの背中に呟いたベリルの元へ、柳波が到着した。
観客はいないの? と柳波がいたずらっぽく聞けば、ベリルは青空ライブの方がしっくり来るだろう? と笑う。
「確かに。これ位の方が落ち着けるね」
微笑の後にベリルが閃光キラーチューンで柳波を回復し、戦闘意欲を高める。
「さぁ、此処からは君のステージだよ。響?
あの大空のステージを堪能する主役様を引き摺り落として、主役の座をいただこうじゃないか」
言葉と同時にベリルはドラゴンチョッパーにユニゾン。
柳波がそれを引き抜いて一振りすれば、あいさつ代わりのサンダルフォンの洗礼が展開され、
パイプオルガンから舟と龍に向かって光の砲弾が一斉射出された。
対面から向かい来る砲弾から舟を守るように、水龍がその前に立ちはだかり、
その口から氷の礫を発射してそれを相殺する。
そのまま龍は水の体を回転させうねり、柳波たちを威嚇するように甲高く不快な咆哮をあげた。
「向こうもやる気十分ってことかな。
さぁ、死にたい子だけ掛かって来ると良いよぉ?」
柳波は言うが否や、再びグラップリングフックに自身の身のこなしを相乗させ、ビルからビルへと渡り移る。
龍は受けて立つとばかりに幾度となく氷の礫を吐き出すが、
ウェイクフレーズでそれを払い捨てる。
柳波はどんどん龍に接近し、相手の攻撃のタイミングでブルー・ゴーストからのレイジオブビーストを繰り出した。
「なんて、言葉は通じなくても、コレなら通じるよね?」
フックの推進力と共に飛びだした柳波は、剣を振りぬき、神獣の怒りを宿した一撃を龍に浴びせる。
龍はブルー・ゴーストによる不意の攻撃に成す術なく、それをまともに受けて弾けた。
そしてその一筋は勢い衰えることなく、龍を飲み込み舟へ届く。
舟はその衝撃に動きを止め、水のコーティングに波紋が広がった。
しかし、舟についたその剣筋を覆いかぶせるように、水のコーティングが不規則な動きで傷を修復する。
それはほんの数秒の出来事で、舟は再び動き出した。
それでもコーティングを傷つけることができると確信した柳波は、フックを方舟に向けて射出する。
しかし、舟を覆う水の膜は相当に厚く、また、流動性のある水にフックをひっかけることはできなかった。
柳波はフックを戻すと、体勢を立て直すべく再び舟の動向を観察するのだった。
■ ■ ■
柳波によるサンダルフォンの洗礼が射出され、光弾が舟と龍を襲うのを地上から
佐丹 舞桜が見ていた。
「始まったな……。
さぁて、俺達も行くか!」
ビル群を縫うように進んでいく方舟を防衛するかの如く、そのそばを浮遊する龍に照準を合わせた佐丹は
叫ぶように名乗りを上げる。
「黄昏解き放たれし邪女神マオ! ここに降臨だぜ!」
「大地に舞い降りた戦女神、向有ガイア! ここに降臨だよ♪」
同時に上空から、白銀の衣で翼を広げた
向有 ガイアが十二使徒の至誠を展開した。
二人を舟に仇なす者だと認識した龍たちが、牙を剥いて空を泳ぐ。
それを向有の輝く剣が舞いながら牽制。加えて向有自身も俊足のルーンで攪乱するように空を駆る。
地上からは、佐丹がライティング指示で距離を詰められないよう牽制し、そしてこれからの攻撃が周囲に害を及ぼさぬよう、
龍の進行方向を阻害、こちらの思惑通りの方向へ誘導していく。
思ったように佐丹や向有との距離を詰めれず、攻めあぐねる龍は、
その体を大きく旋回させ、力を溜めたかのように凍てつく波動を放った。
「おっと、そんなヤバそうな攻撃食らってたまるかよ! そう簡単に捉えられると思うな!」
広範囲に波及するその波動を佐丹は危機回避で察知、受け身を取るように地面へダイブすると、
勢いのままに建物の壁裏に転がり込み、盾にするように回避する。
向有は引き抜いた鍵守の守護刀による盾で衝撃波を無効化すると、龍に急接近しそのまま切りつけた。
(歪んで悲しみや絶望に溢れたこともあるかもしれない……。
だけど、それでも皆の真っ直ぐな努力や希望で嬉しいことも楽しいことも溢れているんだ!
だから、僕はこの世界を護りたい!)
「見せてあげるよ! これが僕の舞い踊る剣技だ!」
斬り付けられた龍はそのまま真っ二つに割れた。切口からはぼたりと水滴が漏れ、ただの水となって地上に落ちる。
向有はそのまま広角視野で別の龍からの攻撃を察知すると、体勢がおぼつかないながらも、
周囲にあった十二使途の至誠を手に取り、迫りくる牙を返す刀で打ち留めた。
体ごと龍を押し退け、何とか間合いを取った向有が振り返れば、
先ほど切り伏せた龍は、その体を融合させて再び元の形を取り戻していた。
しかし、その体は一回り小さくなっている。
「効いてんじゃねえか! さぁまだまだいくぜ!」
地上から佐丹がFF外――すなわち死角から電磁波の球体を投げつける。
佐丹と向有、地上と上空で分かれていはいるが、互いの動きに気を付けながら
龍を少しづつ開けた場所、建物の少ない場所へ誘導するよう、攻撃の範囲をコントロールし、
ついに大きな川に通じる支流の近くへやってきた。
「ここまで来たらもう大丈夫だ。ガイア! 頼んだぜぇ!」
「了解だよ!」
佐丹はこの場所で一発勝負に出るつもりだ。
その為には発動までの準備時間が必要だった。
佐丹はその時間稼ぎを託すと、向有が呼応して誘導した二匹の龍の前に立ちはだかる。
(消させない! 僕達の世界を、今を、そして未来を、消させはしないよ!)
向有が揺るがぬ信念を乗せて龍を睨みつけると、
龍たちは牙を剥き、蛇のように体をくねらせながら突っ込んできた。
「集え煌めく星々よ! そして僕に力を!
この輝きは、未来を切り開くための力だ!
たぁぁぁぁーーーーーっ!!!」
向有は展開された十二使徒の至誠の光剣で牽制しつつ、
その内の一本取ると、向かい来る片方に向かってそれを突き刺した。
しかし龍の勢いは衰えず、向有の腕にその歯牙をかける。
向有の腕には激痛が走り、掴んでいた光剣から手が離れてしまう。
向有は顔を歪めながら、それでも振り絞った力でスターダストフィルを繰り出そうとするが、
噛みついた龍を振りほどくのが精いっぱいだった。
「ガイア! あとは任せろ!」
向有のピンチに佐丹が叫ぶ。
彼女の言葉に向有は言葉なく頷くと、そのまま戦線離脱。しかし立ち替わって佐丹がシューティングスターを発動させた。
(相応しいとか相応しくないとか……勝手に決めつけて、勝手に消そうとするんじゃねぇ!
文化ってのは誰か一人で出来るものじゃなくて、皆で紡いでいくものだ。
迷ったり間違ったりぶつかったり、それでも歩いてきた皆の証だ。
それをテメェ等の勝手で消すとかザケるんじゃねぇよ!
神とか聖人とか関係ねぇ、俺達が止めてやるぜ!)
「集え流れる星々よ! そして俺に力を! この気炎は、終焉を打ち砕くための力だ!
いっけぇぇぇーーーーっ!!!」
佐丹の雄たけびと共に空中に七つの火球が現れる。
不穏な空気と共にそれが一斉に落下すれば、龍は押し潰されて川の中へ沈んでいった。
佐丹は龍が沈められたのを確認すると、向有の元へ向かい、
手当てを先に行うべく、その場を一旦後にした。