第五幕
SiSi★MAi on stage!
夕凪の様なシルノのライブが終わり、微睡み心地の平穏に満たされた会場は、
維新の乱撃による花火で、目を覚ますように次の音を奏で始める。
神格のカリスマで客席の全視線をものにした
水谷 大和が、赤と黄色の花火の中に躍り出ると、
その火花を蹴散らすように、
リア・アトランティカのスフィリカルブリザードが発動する。
まるで嵐の様な激しく派手な演出に、観客のテンションも上がっていく。
そこへ
リク・ライニングが獅子の伝説を歌い重ねれば、SiSi★MAiの唯一無二なステージが誕生する――!
「人の可能性、文化……。
どんなことでも受け入れて前に進めるのが人間の可能性だ……!
いくぞ! ライブスタートだ!」
雄たけびの様な声と共に、水谷はリクの歌にブレイクアップサルテーションの激しいダンスを合わせる。
荒々しく、雄々しく、それでいて客席に現れるオーロラはただただ美しく揺れる。
それに負けじと、リクは曲に合わせた獅子をハルモニウムの光で描く。
命を持ったかのように動く獅子は、主役の座を奪うかの如く水谷と激しく踊り出す。
(文化や文明は人が灯して繋いできた煌めきの軌跡だ……それを消されて堪るかよ!
次にオレ達がこの煌めきを繋ぐためにもここは負けられない!!)
仲間を、客を、煽るように踊る水谷は、
SiSi★MAiの全力を魅せるように、その輝きをステージに振りまく。
その姿はリアのSSSビューイングによって、迫力ある映像となって客席の魂にも届けられる。
魂の写しがどこにどのように居ようとも、仲間のパフォーマンスをカッコ良く映し出す映像で、
このSiSi★MAiのステージから目が離せなくなる。
(知性や自我を消せる洪水……そんなの悲しいだけじゃないの、自分以外はただの人形になっちゃうんだし……。
だから、このライブは絶対に成功させないとね!
それに限られた条件の下で彼らを輝かせるのが私の仕事!
二人を限界まで輝かせてみせる!!)
リアやリクはこの特別なステージの制限を受ける。
様々な演出やパフォーマンスを繰り出せば、その分いつもより重い負荷がかかる。
それでも彼らはライブを止めない。止まらない。
最後まで三人で駆け抜けていくのだ。
水谷は勢いそのままに、ガンダルヴァで召喚したアンサンブルの演奏を響かせながら、
最後の仕上げにと、つわものの軍配団扇を振るう。
身の丈程ある大きな団扇を豪快に振り払えば、甲冑姿の小さなアンサンブルが現れ、自由に、思うがままに踊り出す。
リアもリクも水谷に続く。
リアは魑魅魍魎のグリモワールで小さな魔物たちを召喚し、リクはゴーストライターズで幽霊を召喚すると、
リアのおもちゃの大舞踏会で幽霊たちが踊り出し、魔物たちは大騒ぎしながらオーケストラの役目を務める。
そこへリクが言葉のコーラスで歌詞を綴れば、バックコーラスが響き、すべての演奏に深みが増した。
(文化が無くなる……?
つまり、アイドル文化を消し去ると……それどころか音楽が消える……。
許される訳が無いでゴザルよ!!
拙者の魂の拠り所を無くされて堪るものか!
ここはこの命尽きるまで演奏するでゴザル!!
音楽が人が繋いできた物がどれだけ凄いのか……ここに魅せてやる!)
水谷、リア、リク、それぞれが召喚したアンサンブルやオーケストラ……。
すべてがむちゃくちゃに歌い、踊り、奏でているようで、しかしそれは大和の踊るレイクアップサルテーションが
指揮者の様に、一つの音へ、一つの音楽へ、一つのステージに集約してしていく。
更に水谷のアレスの力が合わさって、ステージに閃光と電撃が走れば、
演者と共に観客のボルテージも最高潮になる。
「こんなことも知性や文明や文化が無いと出来ないことなんだし、ここは絶対に負けられない!!」
「限界があってもそれを突き破る! それが拙者達、アイドルでゴザル!!」
「何度でも言ってやる…人の煌めきは絶対に消させない!! 人を舐めるな!!」
SiSi★MAiの3つの拳が天に向かって突き上げられて、閃光と電撃が駆け巡る。
一体となった観客の雄たけびが会場中に響き渡り、ビリビリと空気を震わせたライブが終わりを告げる――。
■ ■ ■
慈愛のオペラ
まるで嵐のようなパフォーマンスが行われるステージの裏で、
このノースエリアのトリを飾ることとなった
数多彩 茉由良らは、最終打ち合わせを行っていた。
「ホライゾン他、他世界では交流も在るし、息が合わない訳ではないけれど……」
一応人数も増えた事だし、それに思い返せば今までライブなどをしてこなかった、と、
数多彩はステージ上でパフォーマンスを行う予定の三人を見やる。
「コーラスのメインボーカルが、わたくしでございますわね。判りましたわ」
「まゆら、ライブのスポットライトは私に当たるのよね?
テーマも聞いたし、パフォーマーの一人として、何とか表現してみるんだもん」
数多彩の言葉に
カラビンカ・ギーターが頷いて確認すると、
ベネディクティオ・アートマも続けて頷いた。
アシュトリィ・エィラスシードは自身の動きを確認しつつ、
このパフォーマンスでのテーマと自身の考えを反芻した。
「何ものにも縛られず、何ものをも束縛しない……。
そんな”自由”に、皆で在りたいものですわ。勿論、束縛されたい人に、それを解いて自由に成って、
なんて無粋は言いませんわよ?
ただ、其処に強制ではなく、その人の意思が決めた事……というのが、重要ですわ」
言いながら、アシュトリィは数多彩のパレードマーチフラッグにサックヴォミットを施す。
光を纏ったフラッグを受け取った数多彩は、ほとんど初となるライブに若干の緊張を見せながらも、
間もなく幕を開ける自分たちのステージに向けて移動する。
(文明・文化は、人々の営みが、長い時間をかけて築いて来たもの……。
文明は生活の礎で、文化はその地の人達を繋ぐ礎。
それを、気に食わないから……と、洗い流してしまおうなんて、理不尽過ぎ、ます……)
舞台袖までやってきた数多彩は、改めてこのライブにかける想いを黙考する。
時や所に左右されず、真理の理を追い求め、虐げられる人がいない幸せな社会を求むことが、私の自分らしさ。
そういった様々なひとの持つそれぞれの自分らしさが絡み合い、織り成すものが人間らしさであり、
それは、得手・不得手が在って、万能ではないからこそ、互いを支え合う。
そして人々の営みの中で、長い時間をかけ紡がれ来た、そして紡がれていくものが文明と文化だ。
自身の考える、自分らしさ、人間らしさ、文化や文明。
明確な答えのあるものではないけれど、それを仲間と共に伝えられたらいいと、
数多彩は本番前の3人に言葉をかける。
「みなさん、ライブ がんばって ください。わたしも、その うらで がんばりますから」
数多彩の言葉に3人が頷けば、ちょうど前のライブが終わったようで、
白熱したアイドルメンバーが裏へ下がっていった。
裏にいても会場がビリビリと震え、最高潮の雰囲気であることが伝わってくる。
観客の歓声は未だ止まず、アイドルを求める声が聞こえてくる。
数多彩はそんな会場の雰囲気を包み込むように、ヒロインズ・アフェクションを展開した。
ステージ奥から咲き広がるように光の花畑が映し出される。
同時にアシュトリィがフルフィルでステージに花を咲かせ、より美しく彩っていくと、
熱き血潮の滾ったステージが、慈愛の優しさに満ち満ちていった。
先ほどのテンションとはまた違った高揚感と多幸感に包まれた観客は、
花畑の出発点に、数多彩のスタイルによるアンサンブルの演奏と、演者3人の姿を見る。
観客の前に姿を現したカラビアンカは、目の前でライブに没頭する魂の写しに、
温かい仲間たちに支えられて来たことを思い出す。
彼女の「自分らしさ」は“好奇心”だ。
色々なことが識りたい、歌うことが好き、そういった人間らしさ……、
人の温かさや感謝を乗せて、アンサンブルのBGMに清澄の唄声のコーラスを重ねれば、
フワリ・ハートが現れて、ふよふよと浮遊した。
カラビアンカが好奇心を歌う一方で、アシュトリィの「自分らしさ」は“自由”だ。
何ものにも縛られず、何ものをも束縛しない―自由な状態であることを、とても大事にしている。
自分だけじゃない。皆に……多くの人に、心からそう在って欲しいと願うのが、彼女の”らしさ”だった。
アライブクリエイトで作り出した小道具と共に、カラビアンカにコーラスを重ね、そして時には互いにソロで“自由”を歌う。
彼女たちのコーラスに合わせてパフォーマンスするのはベネティクティオだ。
このステージに挑む4人の想いを背負って、持ち前の好奇心と元気さでこのステージに挑む彼女は“挑戦者”
それを体現するように、グロリアスマイウェイで舞台を自由に駆け回り、
激震ビートフュージョンでBGMやコーラスを的確につかみ取ったパフォーマンスは、
会場ごとベネティクティオの動きに共鳴する。
BGMとコーラス、パフォーマンス、そして観客と会場が一体となったその時、
数多彩は我が王国にて、それらをひとつにまとめ上げた舞台を創り上げた。
同時にベネティクティオがヒートウェーブで客席に光の波紋が放射される。
畳み掛ける様に、数多彩の導きのゼラニウムが舞い散り、
カラビアンカがブルームミュージックで自身の周りに更に花びらを舞わせると、
全てを集約するように、閃光キラーチューンでコーラスを終了させた。
それを合図に数多彩の使役するアンサンブルの演奏もフェードアウトし、
はらはらと花びらの舞う王国の中で、ベネディクティオとカラビアンカの閃光が吸収されるように散っていく。
静かに幕を下ろした数多彩らのライブ。
しかし、湧き上がった熱気は冷めることはなく、とめどなく続く歓声がそれを物語っていた――。
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すべてのパフォーマンスを終えた、ノースエリアでのライブ。
幾多のアイドルたちのライブに、魂の写しから歓声や声援、喝采と歓呼が湧き起こった。
それは全てを洗い流す洪水に、記憶や自我、知性を消失しゆく危うげな魂たちが、
自分自身を取り戻し、洪水へ立ち向かう心を再び掴んだことの実証となったのだった。