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第四幕

幻想演武―それでも私はウタを歌う


 客席に散りばめられたシューティングスターの光がまばらになり始めた頃、
 睡蓮寺 小夜が星獣:奏と共にステージ中央へ歩み出た。
 漂う光に意識を向けていた観客たちも、小夜から迸る神格のカリスマによって吸い込まれるようにステージを見やる。
 
 小夜の周りをやんちゃに飛び回る奏は、その美しい歌声で「歌おう」とばかりに前奏を奏でる。
 小夜もそれに応えるように、すぅっと息を吸うと、セレナータの歌声を響かせた。
 
 彼女は歌声と共に、ここに集う魂の想いを感じ取る。
 恐怖、不安、緊張、憂慮、苦悩――。
 様々な想いがない交ぜとなったこのステージで、小夜は幻想―ユメ―を紡ぐ。
 
 聞いてくれる人達が、少しでも笑顔であるように。抱いたユメを、形にする為に。
 自分たちが紡ぎ記してきた想いを以てウタを歌い、想いの演武でみんなの心を守るために。
 
 自身の想いと祈りを届けるよう「それでも私はウタを歌う」が始まると、
 舞台袖から堀田 小十郎睡蓮寺 陽介が登場する。
 
 同時に、暗転したかのように舞台の床に闇が這い、みるみるうちに妖しい雰囲気が立ち込めた。
 舞台の隅でゲシュタルトダークネスを展開させた小山田 小太郎の演出だ。
 専心の錫杖を打ち鳴らし、拡大・波及させた闇を練り上げて人の形とし、堀田の相手として操る。
 
「己が推しを、支え彩る事に他ならない……。
 ふざけてなどいませんよ。 自分はそう信じているのです」
 
 小夜の歌と重なり合うように演武を始める二人に、小山田はその想いを祈る。
 人が紡いできた歴史、想い、縁……それらを全て洗い流す洪水から皆の心を守るために為すべきことはこれだと。

 特別な力の働くこのステージでも、小山田は幻想の防人で力を十分に発揮できる。
 加えて纏ったレイヤーオブアバターズで、彼自身の心も不安や狂気に押し流されることはない。
 
(小十郎君、陽介君、小夜さん……自分達は確かに君達にユメを、憧れを、笑顔を貰いました。
 どうか、溺れ消えようとしている人々をこれでもかという程に魅せて……その願いを、心を、護ってあげてください)
 
 彼らの全霊の演武ならば、人々の心を護り繋ぎ止め、
 ニアたちがノアに想いを届ける間を稼ぐことに繋がると信じて、小山田は演武を支え彩る。
 
 そんな小山田に応えるよう、堀田が流浪剣フカブチを構え、闇の人形と相対し、
 武術経験に裏打ちされたその動きで、大殺陣回しの演武を繰り広げる。
 
(私達が積み上げ高めてきた幻想を以て武を示し、全霊の演武にて人々の心を護ろう)

 にあやノアへ聞きたいこと、伝えたいこともあったが、それは多くの友や仲間に託した。
 にあやノア、そして友を信じ、自分には自分が成すべきことを成そう。
 
「即ち、今日も今日とて演武を成す……。人々の心を魅せ、護る為に。その幻想を届ける為に」
 
 堀田が言葉を発せば、フカブチが人形の闇と大きくぶつかり、交わって弾ける。
 小山田の操る闇が太刀を受けるたび、はらはらと散っては床に溶け、再び人の形を成す。
 そしてその闇と相反するように小山田の周囲を飛び回る信念の光刃は、殺陣に煌めきのアクセントを加え、
 小夜のウタと一体となりゆく演武は、更に迫力と臨場感を増していく。
 
 今ここに成ろうとする『幻想演武』を、観客は固唾を飲んで魅入っていく。
 
 そこへ激震ビートフュージョンによる陽介の激しいパフォーマンスが重なる。
 奇術師の貪欲杖が観客に向かって振りかざされれば、まるで自分もステージに立っているかのように錯覚した。
 
「俺達『幻想演武』……信じる芸能を以て人を魅せ、俯く人々に前を向かせようってな!」

 次は杖をつき上げる。同時に堀田の一太刀が、天津剣士の魂籠る剣閃となってを闇を切り裂き、2人の八百万の重奏が展開される。
 召喚されたアンサンブルは客席へ飛び立ち、小夜のウタと一体になってコーラスや演奏を行えば、
 魂も自然とウタを口ずさみ、手拍子やコールが巻き起こる。
 
「ええ、貴方達の信念(イノチ)を信じ、示してください……。
 その光こそが、皆を照らし魅せるのだから」
 
 観客の盛り上がりを感じ取り、堀田の殺陣が佳境を迎えた時、
 小山田は無風境地を発した。
 
 瞬間、観客も演者も、すべての無駄がそぎ落とされ、
 まるでここがたった一つの世界のように、『幻想演武』という世界に閉じ込められたような感覚に陥る。
 
 それはとても僅かな時間だったが、圧倒的な没入感によってとても長く感じられた。
 観客が悠久の時に酔いしれるその時を、陽介はフォルテで問答無用に現実へ引っ張り戻す。
 
「込める想いと情熱は皆同じ。
 それが人々の心を護る為ってんなら……、俺達は進んでその幻想を紡ぎ、合わせ、演武と成して皆に届けるぜ!」
「矛を持ち歩むのが武であり、人の紡ぎし歴史……だがそこに込められた想いは、移ろい変わるものだ」

 叫びの様な陽介の言葉が響き、堀田が全ての闇を振り払ってフカブチを天高く掲げれば、
 神威ミズヤレハナのオーラが彼を包み、堀田を起点に花々が咲き乱れた。
 
 傷つけ壊す術こそ武の本懐なれど……そこに神威が宿り、祈りを込めて人を魅せる演武であれば、
 それは破壊でなく、護り育む武へと至る――。
 闇を侵食し、新たな道を作るかの如く咲く花々は、まさに堀田の『武道』の理を証明していた。
 
 これでもかという程、幻想演武に魅入られた観客は、
 声をあげることすら忘れ、高揚感と多幸感に包まれたこの暖かな陽気に身を委ねている。

「今回だって、そう……想いが、願いが、今まで紡いできた祈りや夢が無くなってしまうのは悲しいから……」

 最後に小夜の一番星が、ステージの上で光を放ち、演武の終わりを告げた。
 自然とステージ中央に横並びとなった4人は、観客に向かって静かに礼をし、そこを後にする。
 
 星に照らされ、穏やかな時を刻む会場からは、ぽつり、ぽつりと拍手が鳴り、
 やがて大きな喝采となって、誰もいなくなったステージを賞賛していた。


■ ■ ■


始まりのクレセント


 小山田たちへの拍手が未だ鳴りやまぬ中、先ほどの一番星と取って代わったように、
 パラノイアノクターンによる巨大な黒翼の幻影で静かに羽ばたくシルノ・アルフェリエが登場する。
 
(目にしてきた人々の友情や絆、親愛、そういったものがとても綺麗だった。
 それは心があるからこそに違いないと思うのです。
 
 もっとその心が創る素敵な世界を私にも見せて欲しい。
 だから……失わせたりなんかさせません)
 
 シルノが纏った風の謡が優しくそよぐ。
 友人から贈られた衣装から、彼の気持ちも自身の力にして、
 「自分らしさ」をテーマにした静かなバラード、“始まりのクレセント”を歌う。
 
「他の誰でもないあなたは
 この世界で何を謳う?

 恐れてる孤独に膝を抱えてる

 好きなものを好きと言えますか?
 本当のところ自分らしくありたいよね

 私にもわかるから顔をあげてみて」
 
 歌いながら、ヘルメスのスタイルで観客の心の機微を感じ取ったシルノは、
 彼らの気持ちを穿つように、弓矢にしたミスティルテインの矢を放つ。
 
 自分らしさを忘れかけていたり、思い出すことに抵抗があるかもしれない。
 どんな私でも好きだと言ってくれた人を思い出して、今度は私がそれを伝える番だと、その心託して。
 
 観客がその矢の行く末を見つめる中で、次はちらちらと淡い光が会場に舞った。
 シルノの柔らかな歌声と共に、導きのゼラニウムが観客の不安やマイナスの感情を薄めていく。
 
「夢が遠く離れてても ささやかな想いだって
 聞いているよ 始まりのクレセント

 受け入れられた時どんなに嬉しいことか
 あなたはあなたでいいの」
 
 シルノの歌が佳境に入る。
 夢心地のようなうっとりとした空間と、歌声の安心感に身を委ね、
 魂たちは、ステージで輝き浮かぶシルノの姿に、憧れやときめきを覚える。
 その反応を確認したシルノは、ラストの演出に許容のクラリティクライマックスを発動した。
 
 客席から伸びる憧れやドキドキとした感情の光を束ね、三日月の浮かぶ光の幕が会場を包む。
 
「私の歌を聞いてくれてありがとうございます」

 淑やかに歌い終えたシルノは、観客に向けてお辞儀をする。
 落ち着き凪いだライブに、しばしの静けさが漂うが、ひとつ、またひとつと拍手が起こった。

(満ちていく月が一歩を踏み出す人々と共にありますように……)

 シルノの祈りのように、観客からの拍手は会場に浸透して、いつまでも止むことはなかった。



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