第二幕
マジックSHOW
二人のアイドルに彩られたステージに、客席の魂はにわかに熱気を帯びだしていた。
浮足立っていた雰囲気が、何かを期待するかのように、次を求める様にその雰囲気を変えていく。
次にステージに立ったのは
空莉・ヴィルトール。
神格のカリスマが放たれた姿に、観客は待ってましたとばかりに惹きつけられる。
空莉はにこっと笑うと、マジシャンズ☆ローリィクラウンでシルクハットを取り出すと、
そのシルクハットが何でもないものだとくるくると回して客席に見せる。
王道こそ丁寧に。と、どこからともなくドラムロールが流れ、
赤と青のスポットライトが縦横無尽にステージを照らし、観客の期待感と緊張感が高まっていく。
ドンッ、とドラムロールが響き、会場が静寂に包まれた刹那。
くるりとハットを回した空莉の手元に、真白な鳩が現れた。
手に乗せた鳩をすいっと飛ばせば、鳩は空へ向かって羽ばたき消える。
空莉は恭しくお辞儀をすると、次はマジックBOXを召喚した。
マジックは彼女にとって可視化された「私の魂魄」
不安に心を侵食される人々に受け止めて欲しい、この軌跡に奇跡を見せてあげたい。
その思いを届けるために、彼女は彼女のマジックSHOWを続ける。
出現したマジックBOXの蓋を開けた空莉は、先ほどとは一転、不安そうな表情でその中へ入る。
蓋を閉めると同時に、BOXの周りには鋭い切っ先の刃が浮遊し、煽るように箱の周りをまわると、容赦なくBOXを貫いた。
グサッと突き刺さるダークなエフェクトに、客席には息を飲むような緊張感が走る。
数秒後。静かに蓋が開くと、無傷の空莉が現れる。
箱の周りに散らばったエフェクトがハートマークに変わり、彼女の周りに弾け跳ぶ。
「生・還~!!!」
笑顔で箱から飛び出る空莉に、観客は歓声をあげた。
空莉はそのままステージ前方へ歩き出ると、歩みに合わせてブルームミュージックの花びらで道ができる。
マジックの余韻を残しながら、それでいて落ち着けるようなバラードをチョイスした空莉の歌に、
マジックでの興奮が徐々に落ち着いていく。
気分が落ち着くような香りがステージに充満し、まるで夢見心地な空気が立ち込める。
しかし幕間のバラードは、次第にボルテージを上げていく。
空莉のダンスが情熱性を帯び、最後のマジックへ向けて期待感を高めていく。
再び空莉がマジシャンズ☆ローリィクラウンを展開し、大きなリングがいくつか現れると、
それはステージを最大限に活用するよう不規則に配置され、色とりどりに輝やきながら観客の目を楽しませた。
ステージを駆けるように、飛び跳ねる様に、美しく羽ばたくように。
時には、空莉自身がそのマジックを楽しむ姿が、ズームアップで観客に届けられ、その姿に観客は釘付けだ。
空莉が潜り抜けた後、小さく折り畳まれるリングは、
まるで一瞬にして消えたように観客は錯覚し、所々で歓声があがった。
そうして最後のリングを潜り抜け、まるで虹の様なリングが全て掻き消えた後、
空莉は再びステージ真ん中に舞い戻り、観客へ向けて両手を広げる。
「皆の心に架かった虹は決して消えないよっ♪」
空莉の言葉に、観客席から拍手や歓声が送られる。
それに応えるよう大きく手を振った空莉は、一礼してステージを後にした。
■ ■ ■
愛と正義の物語
「ヒーローでアイドル! そんな感じ!」
そんな口上と共に高く掲げられた赤と黒のコントラストが美しい剣に、観客達の注目が集まった。
次にステージに上がった
諏訪部 楓が溌溂とした笑みを向けると、
その聖剣はたちまちインカムマイクにへと姿を変える。
「自分らしさって、子供のころにみんな身に付くとおもうんです。
それが大人になって大事な物と一緒に色々な物を捨ててしまって……あの頃思ってた、なりたくない大人になっていく」
楓の言葉が様々な国籍の大人達へ届き、その心を揺らすのを愛憎の聖剣にユニゾンした
諏訪部 凛もしっかりと見届ける。
魂の写したちがざわめくように顔を見合わせる素振りをするのを見て、楓は会場に温かな光の帳を下した。
「忘れないでください、あの頃の憧れ……思い出してください! ホントの自分を!」
だからこの歌を聴いてください、と楓は声を張り上げた。
「打ち抜け! 絶望! 貫け正義!」
強烈な想いが込められた力強い歌声とヒーローを思わせるような振り付けに観客達の目が奪われる。
ロック調の激しくキャッチ―な歌によって、彼らの心に“ヒーロー”の在り方――その存在への憧れが少しずつ形作られていく。
(ステージは私の理想です。好きに歌えばみんなが助かる……最高じゃないですか……)
何より、楽しそうに歌う楓の表情に観客は惹き付けられた。
君臨のスター・グノーシス彼女の世界であると再定義されたこの空間では、
誰もが楓が思い切りライブを楽しんでいる姿を間近で見ることができるのだ。
「不安を勇気に」
いつの間にか、人々の心にあった不安はプルートの力を使いこなす楓の歌声を聞くほどに薄れていく。
「絶望を希望に」
パン、と空に弾けた黒い花火は彼らの絶望を打ち消す合図のようであった。
「皆の不安も焦りも絶望もまとめて私が背負います! そんなアイドルが居てもいいじゃないですか」
U.ハルモニアデリュージにより、会場の全ての音が、躍動が、いっそう観客の心を掴んでいった。
と、その時ステージ上に津波を思わせるような水柱が複数立ち昇った。
(全てが水に飲まれる……すべてが溶けて消える)
聖剣――今はマイクとして楓と共に在る凛は、水飛沫を見上げて小さく笑みを零した。
(それを正義の味方が助ける、「ありふれた愛と正義の物語」。
そんな終わり方でもいいじゃないですか?)
ユニゾンしている凛の力に加え、愛憎の聖剣はマナPの力を借り受けたものでもある。
つまり三人の力が一つに束ねられ、楓の歌に込められているとも言えよう。
このステージを、楓の姿をマナPはどんな風に見るのだろうかと凛はその剣の中で背筋を伸ばした。
(私たちの気持ちも当然強いですが…それに加えて愛の芸能神の力は世界を救うんです。
彼女の為にもここは譲れません)
楓と凛の想いが重なった時、巨大な水柱は一気に凍結されて氷に変わった。
それを打ち砕いたのは楓のありったけの力を込めた拳だ。
「行くぜ必殺! メガスマッシュ!」
脅威の象徴であった水の柱が曲のサビと共に粉砕され、観客席は一気に沸き立った。
氷片が帳の光に反射してキラキラとステージへ輝きを落とす中、楓はやりきった笑顔を人々へ振り撒いた。
「所詮エゴだと言われてもいい、私は私……ヒーローとしての思いを貫きます!」
楓の真っ直ぐな熱い想いに胸を打たれた観客達は、
歓声と共にヒーローへと夢中で手を振りながらその心へしっかりと強い憧れを焼き付けたのだった。