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流れ行く世界の中心で

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流れ行く世界の中心で
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■サウスエリア~歌え! ノアの洪水から世界を守るために(1)

 芸能界“グロリア・チャンネル”に設置された特設ホール。
 そのサウスエリアでは――

「ここが今日の舞台か」
 客席を見回した世良 潤也が、はっと息を呑み眉をひそめた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
 潤也にならって客席を見た世良 延寿もまた、同じような表情になった。
 
 大きなホールの客席にはすでに世界じゅうの人々の魂の“写し”が着席している。
 誰もがどこかふわふわした輪郭をしており、そしてぼんやりと発光しているようにも見える。
 そんな見た目よりも目をひいたのは、彼らの表情だった。
「どうしてあんなにボーッとしてるのかな……魂だから?」
 不安そうに呟いた延寿の肩に、アリーチェ・ビブリオテカリオがポンと手を乗せる。
「あんたも聞いたでしょ? 洪水よ。ノアの洪水が、同時多発で世界を消し去ろうとしているの」
 二人のそばにいた狩屋 恋歌が、悲しそうに目をふせた。
「洪水が、皆さんのこころを侵食してるんですね」
 
 ここに集められた彼らの魂は“写し”だ。
 表情もなく弱々しい光を放つその姿は、世界の各地にいる彼らの本体が、自我を失いかけていることを示している。 
 すでにノアの不思議な洪水は始まっているのだ。
 
「文明や文化は、ヒトが、作り上げて存続してきた。
 もしもヒトが文明や文化を……そして自分自身を認識できなくなってしまったらこの世界は――」
 愛宕 燐はことの重大さを噛み締めながら、強い瞳で客席を見る。
「世界は、忘れ去られてしまいますね」
 藍屋 あみかが考えながら呟く。
 その横では、
「ってことは、みんなが“思いで”を、忘れなければいいんだね?」
 藍屋 むくが小さな体に決意をたっぷりチャージしている。
 あみかはむくに微笑みかけ、そしてキリリと客席を見回した。
「そして、私たちに出来ることはたった一つ……」
 7人は視線を交え、深くうなずく。
 ――今すぐライブを始めよう。
 気持ちを重ねながらそれぞれの口調でそう言うと、彼らは力強い足取りでステージへ向かった。
 
(みんなの“思いで”を、守るんだ!)
 むくが、十二使徒の至誠を放つ。
 12本の光の筋がステージ上に降り注ぎ、観客たちは覇気のない表情ながらステージの7人に注目する。
 光の筋を見つめながらむくは、この技(十二使徒の至誠)を習得した当時のことを思い出している。
 出来事や場所、その時の感情――思い出すだけで、自然と気持ちが奮い立つ。
「ほら……“思いで”って、とってもとっても大事だよ……」
 むくは胸をそっとおさえて微笑むと、てぃらんむくむく号に乗り込んだ。

「俺はアイドルの力を信じてる。みんなの思い、届けよう!」
 続いて潤也が高潔の夜霧を放つ。
 座席に座っていることすら忘れてしまうような圧倒的な夜闇が広がる中、あみかが祈りのような言葉を投げかける。
「この歌が、あなたの夜への架け橋になれますように……」
 それはあみかがアイドルとしてずっと大事にし続けてきた想いだ。

 ~♪
 そして音楽。
 むくが操縦するてぃらんむくむく号から伴奏が流れる。
 潤也は父なる樹のヴァイオリンで演奏に加わり、あみかは鍵盤楽器(宵架けオーロラコード)を奏でながら歌う。
 
「♪~
 星の光り 輝き始めれば
 街の明かり 灯るでしょう」
 
 歌に反応するように、夜闇に小さな星が灯り始める。
 あみかに共鳴しながら飛翔しているのは、夜色をしたトランペットイヌのウェスペルだ。
 
「♪~
 藍の時間 薄い影法師
 一人じゃないと つつめたなら

 空の光り 人の光り
 あなたの夜を 始めましょう」

「みんな、楽しんでね!」
 延寿はいつも通りありったけの笑顔を浮かべ、あみかの歌にコーラスを重ねる。
 ピッコロフェニックスもやって来て、あみかのウェスペルと共にウタを奏でた。
 全身全霊をこめている延寿の歌声に観客たちは耳をすましている様子だが、表情は一向に変わらない。

(魂がこんなだってことは、実際の身体のほうは……?)
 笑みを絶やさぬ延寿だが、内心は穏やかではなかった。 
(もしこのまま地球が、文化や文明もどころか、みんな自分が誰かもわからない世界になっちゃったら?)
 笑顔がこわばりそうになる延寿のマイクから、延寿に向けて厳しい声が飛んだ。
『ほら、あたしが力を貸してあげるんだから……みんなのために、しっかり歌いなさいよね』
 ユニゾン中のアリーチェだ。
「アリーチェ……このままだと、世界から歌もなくなっちゃうのかな」
 アリーチェは強気に延寿を叱咤する。
『バカなの? 世界が忘れてもあんたが忘れなきゃいいんでしょ?
 ほら! 大事な歌を忘れないように、全力で歌い続けなさい!』
 延寿はその声にはっと息を呑む。
「うん! 私、頑張って歌を守る! ありがとうアリーチェ」
『……ち、地球のために言っただけで、別にあんたのために言ったわけじゃないんだからね』
「えへへ」
 延寿は曇り一つない弾ける笑顔で、コーラスを続ける。
 
 観客たちは集中してライブを見てはいるが、まだ表情も動きも貧弱だ。
「チュ~?」
 恋歌の肩に乗っていた真っ白いオカリナネズミのマシュマロが声をあげた。
「そうだね。いつもとちょっと違うよね……でも、一緒に頑張ろう?」
 なんとなくマシュマロの気持ちを察した恋歌が、真っ白い背中を撫でてやる。
「チュ!」 
 マシュマロは白い翼を広げると恋歌の元から飛び立ち、ウェスペルとピッコロフェニックスに合流する。
「♪~」
 3匹がじゃれ合いながらひときわ大きくウタを奏でると、彼らを中心に幾筋もの光が放たれ、やがて夜闇を照らす輝くミーティアステージが組み立てられた。
 
 あみかと延寿と視線を交わした恋歌が、前へ歩み出てソロパートを歌う。
「♪~」
「チュッ」
 恋歌の歌が大好きなマシュマロが、ミーティアステージから戻って来る。
 真っ白い衣装(歩み出す少女の恍惚)を纏った恋歌が、真っ白いマシュマロを撫でる。
「一緒に歌おう?」
「チュチュッ!」
 マシュマロは、ひときわはりきってオカリナの音色でウタを奏でた。

 仲間と共に歌いながら、恋歌はしあわせに包まれている。
 信念に満ちたあみかの優しい歌声、むくのまっすぐさ、延寿の笑顔、かわいい星獣たち、アリーチェの真心、潤也の優しさと熱意、そしてこれから歌う燐の力強さ――どれもこの上なく素晴らしく、大好きだった。
 さらに恋歌は、いまここにいない愛する夫、家族、友達、ファンの人々、大好きな場所や大好きなコトにも思いを馳せる。
(思い出して! 皆さんにも“大好き”があったでしょう?
 誰かや、何かを、大切に想う気持ち、思い出して――)
 恋歌の気持ちがハルモニアとなって歌に乗り、観客たちに届く。
(忘れちゃだめです。皆さんの一人ひとりの”大好き!”を!!)
「~♪」
 いま胸を駆け巡ったたくさんの“大好き”を、恋歌はフワリ・ハートに変える。
 会場内がキュートなハートでいっぱいになった。
 観客たちの無表情だった瞳に、恋歌のフワリ・ハートが写る。
 その瞳には、それまでにないしっかりとした輝きが見て取れた――

 そしてあみかが再び歌う。
 あみかのメインボーカルは心地よく安心した雰囲気に満ちており、星獣たちのウタも優しく、まるで子守唄のようだ。
 ライブの冒頭はあんなに圧倒的だった夜闇も、今では心地よい空間へと変わっている。
 
「♪~
 人の光り 輝き始めれば
 夜の舞台 灯るでしょう

 光り巡り 踊る影法師
 心ひとつ 集えたなら

 人の光り 空の光り
 あなたの夜を 始めましょう」
 
 あみかの歌にあわせて、燐がイカロス・ソアの翼を広げ浮遊。
 カリスマが作り上げた巨大な翼は神々しい光を放ち、観客に圧倒的な存在感を示した。
 少しずつ“自分らしさ”を取り戻しつつある観客たちは、燐の動向を興味深そうに眺めている。
(燐お姉さん、お願いします)
 あみか閃光キラーチューンを施し、歌詞の”人の光り”を表現した金色の閃光がホールを駆け巡る。
 燐がイカロス・ソアの翼を消滅させ、ただの人の姿に戻ってステージに着地、魔剣(ミスティルティン)を振る。
 魔剣の魔力と熱意をもって、燐は想いを客席に届ける。
(文明や文化を作ったのは神様なんかじゃない。
 紛れもなく、ヒトの力が作り上げてきた。
 違うでしょう? 貴方たちの強さは。
 こんなところで終わらせちゃいけないのよ!)
 
「生きて! 絶対に生きることを諦めないで!」

 さらに燐はスピン・ザ・フレイムの炎を纏い、想いを込めて熱く剣舞する。
 あみかたちの歌唱は終わり、いま歌った歌がドラマティックなエンディング風のインストゥルメンタルとなって流れ出す。
 降り注ぐ紙吹雪の中、ホール内にいる世界中の魂たちの名前が、エンドロールのようにステージ上に流れていく。
(一つ一つの命が今そこにあるということが全て。
 その命が創り上げていく――未来を)
 スピン・ザ・フレイムの炎を散らしながら、最後に燐が魔剣を地に突き立てた。
「一人ひとりが大事な命だってこと……忘れないで」

「あ……」
「ああ」
 魂たちは、流れる名前を見てうめいている。
 自分の名前をみつけたものもいれば、「名前」という概念を思い出したものもいる。
 最初の段階では、ここまで認識できなかっただろう。
 このライブが、彼らをここまでに戻したのだ。

 7人は、客席の明らかな変化に気づいている。
「自分が生きているという事実を、少しは思い出せたようね」
「俺は、こうなるって信じてたぜ!」
「うん! 私もだよ!」
「あ~ら、泣きべそかきそうだったのは誰かしら?」
「良かった……マシュマロも、頑張ったね」
「みんなのおむねに、おうたが届いたんだね!」
「私の歌……架け橋になれたようですね」
 
 
 7人と笑顔を交わし合い、次のステージを引き受けたのはノーラ・レツェルティーネファル・ファリガミァンだった。
 
 客席の魂たちは相変わらず表情には乏しいが、しっかりとステージに注目している。
「うわぁ」
 ノーラは思わず瞳を輝かせた。
 魂たちは輪郭が曖昧でぼんやり発光しているものの、一人ひとりをしっかり認識できた。
 目の色、肌の色、髪の色。身につけている服やアクセサリーに、体格や顔のつくり――すべて千差万別だ。
 今はまだ喋ったり大きな動作はしていないが、おそらく声も言語も身振りも、国や文化や個性によって違うだろう。
(みんな違ってて、みんないいねぇ)
 ノーラはにこにこ笑いながら、ホール内に“どこまでも続く夢”をそっと手にのせる。
 片方に白、片方に黒の翼を生やした小さな光球は、ノーラの手を離れいきいきとホール内を飛び回った。
 この“どこまでも続く夢”は、ライブ中はいつまでもどこまでも飛んでいくものだ。
 逆に言えばライブが失敗に終わってしまえば、動きを止めてしまう。
 客席の魂たちには、いつもの観客のような好反応は見られない。
 しかしよくよく見ればライブへの期待が瞳や表情ににじみ出ている。
 だから“どこまでも続く夢”は、元気に飛び続けているのだろう。
(どこまでも、飛び続けて――) 
 ライブの成功を願いながら光を見送ったノーラは、パレードマーチフラッグを振る。
 小さなマーチングバンドの楽団(アンサンブル)が現れると、客席の魂たちの元へとくまなく飛び立ち演奏を開始。
 そしてノーラは『見守る月』を歌う。
 
「♪~
 私はいつも見守ってきた
 寝静まる人も動き出す人も
 光は満ちて欠け
 ひと所には留まらぬもの
 姿を変えて見せるもの」
 
 ノーラのカリスマは魂たちに強く働きかけ、誰もが歌に聞き入っている。
 そんな中、そばに控えていたティーネファルが模擬刀・薄明を振り、剣戟乱舞を繰り広げた。
「やっぱ、体を動かすのっていいな。性にあってるぜ」
 ティーファネルは絶え間なく熱烈に踊り続ける。
 体力が尽きるまで、全力でノーラのライブを盛り上げる覚悟があるのだろう。
 夢中で演舞するティーネファルの表情はいきいきとしており、身体を動かすことが本当に好きな様子が手に取るように伝わってくる。
 いっぽう、のびのびと歌うノーラからも、歌が大好きな様子が伝わってくる。
 好きなことを好きなように行う二人の表情を見た魂たちは、自分たちにも「好き」の感情があることを、ぼんやりと思い出していく。
 
「♪~
 月も満ち欠け
 食い食われ
 その時々で見た目変え
 変わらぬことは天に在るのみ
 そのただ一点が全てである」
 
 ノーラの歌は佳境を迎え、ティーファネルは激しい炎をほとばしらせながら剣を振り、アクロバティックなダンスへと移行。そこからさらに、神威カグツチを展開した。
 炎の巨人カグツチを身に纏い、火の粉を散らしながらの迫力ある舞踏に、客席の魂たちは目を見開いた。
「おお!」
 誰からともなく手を叩き、興奮や感動を拍手にかえて表現し始める。
 
 いまティーファネルが繰り広げてきた演舞は、どれもティーファネルが一人で作り上げたものではない。
(全部、技術を繋げてきた先人たちあってのものだぜ)
 めんめんと刀作りを受け継いできた先人たち、踊りや武道をきわめ、次の世代に伝え残してきた先人たち……数え上げればきりがない。
 ティーファネルの、いっしんに刀を振り舞踏を繰り広げる様子から、魂たちはそれぞれの故郷に伝わる踊りや武器、果ては戦争の歴史までをも想起した。
 どれも、ノアの洪水によって消されそうになっている歴史や文化だ。
 いま、魂たちが想起したことによって、世界はそれらを忘れずに踏みとどることができた。
 
(さぁ、俺の思いは見せた。
 あとはノーラの想いをぶつけろ
 炎のように燃え尽きんじゃねェぞ)
 全力で駆け抜けたティーファネルが、息をつきながらノーラを見つめ、合図する。
 ノーラは頷き、朧月夜の御神渡りを行った。
 ――ステージが鏡のような水面に変化し、そこに美しい月が写り込む。
 歌を終えたノーラは、客席の魂たちに語りかける。
「いつも同じようにある月……けれどもその見え方は国によって違うことを知っているかなぁ?
 日本では兎だけど、蟹やワニ、人に見える国もあるんだ。
 普遍的なものは何処にもない。
 だからこそ、識るということは楽しいに繋がるんだよねぇ」
 魂の写したちは、それぞれの脳裏に、見知っている月を思い浮かべる。
 微笑む者、苦い顔をする者、懐かしそうに目を閉じる者――
 その表情は実に個性豊かで、魂たちが徐々に自分を取り戻していることが見て取れる。
 それを示すように“どこまでも続く夢”が客席の頭上を飛んでいる。
 ふわふわした温かな光の粒を振り撒きながら、どこまでも、どこまでも、飛んでいる。
 
 そしてライブは続く。
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