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ヒロイックソングス!

流れ行く世界の中心で

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流れ行く世界の中心で
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■にあ
 
「……あるじ様と暮らした時間が、懐かしいにゃ……ノアもそう思って泣いてるにゃ」
 ぐすんと鼻をすすったにあの背を、黒瀬 心美がドカンと叩く。
「ほらにあ、アンタの出番だよ」
「んにぃ!?」
「大丈夫! アタシらが支えてやっから」
 炎のように明るく熱く笑う心美の横では、黒瀬 心愛が静かに微笑んでいる。
 にあの出番を知ったバス=テトが、ハープを構えてみせた。
「あの子のことは、ワガハイに任せるニャ」
「あるじ様……うん! にあ、頑張るにゃ!」
 
 フライフォーゲルのライブの余韻は全て消失した。
 ノアは一人暗い川面に立ち、その表情は沈んでいる。
「ああ……また流されそうになった。
 僕だけはこの世でただ一人、聖人でいなきゃいけないってあるじ様にも言われてたのに。
 ……ぼくはなんて、だめな子なんだろう。もっと……認めてもらわなくちゃ」
 ノアの足元の黒い川面がざぶざぶと隆起する。
「もっと、もっと!」
 ザアァァッ!
 夜を映した川の水は、ノアの手によって大きな船になった。
 だがその姿は、方舟とはまるで違う。
「あっ!」
 バス=テトとにあが目を見開く。
「あの船、知っているにゃ!
 あるじ様におねだりして、寝る前に読んでもらった絵本に出てきた――」

「「海賊船!!」」

「ありがとう、アイドルたち。
 ライブのおかげで、たくさん回復できちゃったよ」 
 ドドドドド!
 水とは思えない重低音を響かせて、海賊船から無数の弾丸が発射される。
 ドン!
 その合間には、地響きと共に大砲が打ち込まれる。

「今のノアの言い方は少しかっこよすぎるにゃ。
 回復を狙って時間稼ぎにライブを見てたわけじゃなくて、
 ライブを見てたらいつの間にか回復しちゃってた、ってだけの話にゃ」
「なるほどね。素直じゃないなぁ」 
 バス=テトの光の音符に守られながら、三人はノアの海賊船に接近した。
「ノア……ずいぶん険しい道を選んだもんだ。
 アンタがこれまでどんな気持ちで、その力を揮ってきたのか、アタシらには想像もつかない。
 地球上の文化や文明を、全て白紙にすることが本当に正しい事なのかどうか、考えなかったワケじゃないだろうに」
 心美が声をかけるが、
「アイドルたちのバカ! あるじ様を返せ!」
 ノアは応じず、ただ子どものように叫び、走りながら船体を撫でる。
 触れた場所からぞくぞくと、水で形成された海賊たちが現れ、同じく水でできたナイフや樽や銃弾を打ち込んできた。
「ノア!」
「聞こえてないみたい。たぶん、ノイズが暴走しているにゃ!」
 プルートの心美にもそれが感じ取れた。
 心美は話しかけるのをやめ、ノアの海賊船を睨め上げる。

 にあの気持ちもノアの気持ちも、どちらも想像できる心美は、どちらとも受け止めたいと強く思っている。
 そのためにどうすればいいか――心美は即決する。
 
 激しさを増す水の攻撃はバス=テトの守りでやり過ごせてはいるが、物理的な揺れや衝撃は完全には避けきれていない。
「こんな中でもいけるかい、心愛、にあ」
「もちろんにゃ!」
「姉さん、いきましょう」
 
(ノア。アタシには聞こえるよ。アンタの叫び声が……)
 熱い気持ちを抱きながら心美がクリムゾン・ブレイズを構えると、愛器はその熱に応えるようにぶわっと炎を纏う。
「ノア。アンタ、身も心も燃え尽きる覚悟はあるかい?
 にあ、心愛、さぁいくよ……ついておいで!」
 
 神格のカリスマを放ちながら、心美は炎を纏ったクリムゾン・ブレイズをかき鳴らす。
 歌うのは十八番の紅の誓い
 激しいロック調のその歌には、心美の『憧れ』に対する焦がれるほどの想いが込められているという。
 維新の乱撃が、炎と雷を思わせる黄色と赤の花火で夜の川岸を彩り、歌の世界観を演出する。
 
 姉と同じくカリスマを放ちながら、心愛はパレードマーチフラッグをふるいマーチングバンドのアンサンブルを呼ぶ。
 さらに八百万の重奏。
 アンサンブルたちはノアの海賊船へと飛んでいくと、賑やかに演奏やコーラスを開始する。

 ♪~
 始まりは突然 初めて見る空
 アタシの日常は終わりを告げた
 出会いは必然 同じ目と同じ髪
 アタシの心が熱く焦がれた

 必ず辿り着くと
 赤く染まる空に手を伸ばした
 ~♪
 
「ちっ……また歌か」
 口とは裏腹に、ノアはライブに注目せずにはいられない。
 
「にあ、歌、うまくなったじゃん」
 心美がにあにウィンクする。
「ほんと!?」
 にあは嬉しそうに飛び上がり、ますます張り切って歌う。
 心愛は3対の白い翼(翼を託す者)を表し、飛翔する。
 夜の川辺には神々しい陽の光が差し込んで、にあの背にも1対の翼が現れた。
 ふわり……
「んにぃ!?」
 ほんの少しながら自分も浮遊したことに、にあは大喜びだ。

 ♪~
 言葉もなく剣戟で交わす紅の誓い
 約束を刻んだ瞳(め)で運命(さだめ)を見つめ
 稲妻と業火が交錯する紅の誓い
 熱く猛る心と絆を胸に抱く
 ~♪
 
 心愛は俊敏に羽ばたき、ノアの海賊船の上を飛翔する。
 そのすぐそばを、蹂躙するダークロードを足場にしながら心美が駆けている。

「にあも、飛びたいにゃ!」
 ちょっとだけ浮遊しながら歌い踊っていたにあが、背中にぎゅうっとちからをこめる。
「ん・にゅううぅぅ!」
 ポン!
 1対の翼は一人乗りの雲へと姿を変え、にあはそれに乗って心美と心愛を追いかける。
 
 いつの間にか、バス=テトの光の音符は消えている。
 ノアの攻撃が止まっているのだ。
 3人はらくらく川面の海賊船まで到達し、心美と心愛は最後のフレーズをにあに託す。
 にあはノアに向かって大きく元気に歌う。
 
「♪希望の欠片を拾い集め
 ♪行こう 明日が待ってる」

 ノアに向かって手を伸ばしながら。

(ノア?
 ライブが楽しくて、攻撃するの忘れちゃった?
 センパイたちのライブ、すごいでしょ)

 これだけそばにいると、ノアにもにあのこころが聞こえるようだ。
 
「べっ別に、みとれてたわけじゃない!」
「ノア……胸の高鳴りに、正直になるにゃ」
「そんなことは、絶対に、ゆるされない!」
 
 パン!
 水風船が弾けるように、ノアの海賊船が一瞬で弾けた。
 
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