■アイドル
「そうだあるじ様。ぼくのちからを、見てください」
バス=テトにほほえみかけたノアは、水柱を高く高くそびえ立たせる。
「どうせ消しちゃう世界だから、思う存分やっちゃおう」
ノアはくすくす笑いながら、川沿いの街並みを眺めまわす。
「そんなことは――」
「させません!」
ドン!
強力なハルモニアが放たれ、ハーモナイズクエイクによって地形が変わり、ノアの周囲360度に壁がそびえ立った。
“PairHeroins”の
優・コーデュロイと
ルージュ・コーデュロイが躍り出る。
「私もお姉様方のお力にならせていただきます!」
さらに
アイリス・フェリオが後に続き、信念の光刃を展開する。
周囲に現れた複数の光の刃は、ノアからの攻撃をできるだけカバーしようと備えながら輝いている。
さらにこの刃は、“PairHeroins”のパフォーマンスに合わせ、ひときわ輝きを増していくこととなる。
優の手には、漆黒の魔剣ミスティルテイン。
魔剣の魔力でノアの気持ちを揺さぶっていく。
ルージュが奏でるクォーツボウギターには、
レジェヴァロニーエ・レクラムがユニゾンしており、慎重かつ冷静に“PairHeroins”を支え、ライブの魅力を底上げする。
『バベルの塔で伝えきれなかった想い、今度こそ伝えて届かせて来い』
「ええ。頑張るわ、レジェ!」
前奏を高らかに奏でながら、ルージュが癒やしと慈愛に満ちた光で周囲を包む。
バルトルの慈愛――そのルージュの慈愛の光は、ノイズにおかされているノアにも到達する。
「なに、この光……」
光に包まれたノアは、ふと、不思議に思う。
その光は優しくあたたかく、心地よい。
拒絶する理由など、どこにあるのだろうか、と。
このまま包まれていてもいいのではないか、と。
「これが、アイドルのちから――」
思わず出たその言葉に、内に巣食っているノイズが反応する。
「こうやって人々の心を悪い方向に蝕んでいくから……アイドルのライブは、だめなんだ!」
ドン!
水柱が一気に弾け、周囲を囲んでいた壁が、ハルモニアの光の粒となって消える。
♪♪♪♪♪~
溢れ出た水に三人が流されぬよう、バス=テトが光の音符を連ね、水面に立つノアへと伸びる橋を作った。
優とルージュは、ノアに向かって歩きながら歌う。
歌うのは、二人がノアのために作ってきたゴスペル
ティアーズ
ストーリー仕立てになっており、歌詞と演出の相乗効果で、臨場感たっぷりにノアのこれまでを歌い上げる作品だ。
「♪~」
二人は、喜び、親愛、渇望、悲しみ、絶望、その時々のノアの気持ちを慮りながら踊り、歌い、奏でた。
アイリスの働きも加わり、歌は深みと広がりを生み、鮮烈にノアに届いた。
「またそんなものをぼくに聞かせるのか、アイドルめ」
強力な魅力をもった二人の歌から、ノアは逃れることができない。
「ノアさん?」
ノアに接近した優がそっと手を伸ばし、怒りのため無防備になっていたノアの肩にふれる。
優はプルートのちからでノイズを纏い、ノアの中の“不安”を吸い取った。
「くっ……」
わずかに優は、表情を歪ませる。
吸い取った不安は、そのままプルートが肩代わりすることになるのだ。
ノアのこころの中はわからなくても、抱いている不安がいかばかりのものか――その感覚を優は感じ取れた。
「まだ……ぼくに手を差しのべるの?」
優とルージュはにっこり微笑む。
「私たちは、アイドルですから」
「それに、私たちはあなたの気持ちが少しわかるの。ね、ルージュ?」
「ええ、優」
おそらく同じ思い出がよぎっているのだろう、二人は視線を交えて微笑みあう。
「私たちの慈愛、まだまだ味わってもらいましょう!」
「さあ、いくわよ!」
手を取り合った優とルージュから、慈愛が湧き上がる。その慈愛はカリスマを宿し、二人を起点に光の花畑が広がっていった。
ノアの立つ川にも光の花が咲き乱れ、周囲には“#うちで歌おう”に応じてくれた大勢のファンが現れ、賑やかに二人を応援する。
アイリスの放ったライムシャワーのシャボン玉が飛びかい、アイリス・優・ルージュが散らした数え切れないほどの花が景色を彩る。
そしてルージュのハルモニアが、その場のすべての賑わいを一つの音色にまとめ上げ、響かせる。
その音色は、ノアにまっすぐ届いた。
「これが、アイドル……」
再び出たその言葉に、いま、ノイズは反応しない。
慈愛に満ちたクライマックスの景色の中、優とルージュはバス=テトを見つめる。
(ノアさんの過ちを受け入れて――その上で彼の孤独と頑張りを、褒めてあげてください)
二人はこころからそう祈り、願っている。
バス=テトはすべて聞こえているような顔つきで神妙に目を伏せたあと、うなずきも首を振りもせず、ただただ二人に笑みを返した。