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方舟の行方6


 スカイメイデンの面々が方舟のコーティングに亀裂を入れた。
 そこから水が零れ落ちて地上を濡らす。
 それでも舟は、オイル漏れした車の様に走る。
 
 
「あれほどの攻撃でも舟は斬れないのか……。
 でもあの傷は大きい。あそこを攻めていけばあるいは――」
 
 目の前で繰り広げられた強大な一発に巻き込まれないよう避難していた暁 紫音は、
 ビルの屋上から方舟を見上げて呟く。

 大きくひび割れた水のコーティングは、水を移動させるように動いての傷を塞ごうとするが、
 亀裂からはちょろちょろと水が流れ落ち、修復に間に合っていないように見えた。
 そこへ修復の時間を稼ごうとするように水龍が現れる。
 
「とにかく、方舟に近づく必要があるな」

 暁は方舟を止めようと動くアイドルの助けになるよう、自身は水龍の対策に専念するため、
 ゲート・レベルEにて方舟により近い建物の屋上へとゲートを通す。
 そこをくぐって方舟に近づいた暁は、オディールの呪いで黒翼を得、空へ飛び立った。
 
「さあ来い、俺と勝負だ。浄化できるならしてみるがいい」

 龍の前に躍り出てて神格のカリスマと共に挑発すれば、
 オーバージャスティスの効力も手伝い、思惑通り龍は暁に視線を合わせた。
 
 そのまま龍は暁目掛けて牙を剥き、暁はconstellationに彩られたその脚で
 周りの建物を使いながらの跳躍でそれを避けていく。
 プルートのスタイルで自身の周りにノイズを纏い、呪いを受けた黒翼で空を駆る姿は、まるで烏天狗のようだ。
 
「鴉天狗の将軍はしつこいぞ!」

 不敵な笑みで攻撃を躱す暁に、龍は天へ咆哮すると凍てつく波動を繰り出した。
 暁は繰り出す瞬間、一瞬の溜めの間に大きく舞い上がりそれを回避。
 攻撃の反動で一拍動きが遅れた龍に向けて、回転しながら急降下し、
 その勢いを乗せたトレイルウォーターの蹴りを見舞った。
 
 龍の体か、それとも暁のトレイルウォーターか、どちらとも分からぬ飛沫があがり、
 constellationから零れる光を反射して、キラキラと輝く。
 即時、暁は打撃した先を氷結させる。そこがパキパキと音を鳴らして凍っていく。

 暁は流れる様に拒絶のシクレシィエンブレイスを展開すると、氷結させた部分に向けて闇を鞭のように振るった。
 
「俺は理不尽に逆らう!」

 長く伸びた闇がその氷を砕いた。
 龍の体に亀裂が入りその姿を両断すると、龍は融けるように消え去った。
 
 暁は舞うように飛行しながら近くの建物に降り立つと、その背中から黒翼が消えた。
 
(俺は力あるものが自分のためだけに力なきものを犠牲にするような奴が許せない。
 今のノアは、良かれと思ってあるじ様と慕っていた者の心を踏みにじってしまっている)
 
 暁にとって、ノアの暴走は許しがたい行為だった。
 それ故に、ノアと直接会うことを選択していれば、きっと自分は怒りに任せて怒鳴り散らしてしまうだろう。
 ノアを止めるための選択肢として、龍の対処を選択した暁。
 そしてそれを成し得た暁は、ぽつりとつぶやいた。

「彼には救いが必要なのに」
 
 願わくば、彼に皆の気持ちが届くように。
 暁は未だ動き続ける方舟を見つめる。
 
 
■ ■ ■


 アイドル達が水龍と交戦している裏で、秘密裏に方舟の動力部分を破壊しようと動く者――松永 焔子がいた。
 彼女の乗ったホライゾンバイプレーンは破壊欲望によりその駆動音が破壊されて無音で飛び、
 ハイドアンドシークで気配を消して、ビル陰に隠れながら方舟と距離を詰めていた。

「この辺り……なら狙えますわね」

 方舟の行方を追いながら、コーティングが大きく傷ついた船底部分へ射線の通る位置についた松永は
 ホライゾンバイプレーンをホバリングさせながらしばらく舟と水龍の動向を観察した。

「なるほど。河川側に誘導すれば自ずと高い建物もなくなっていくし、
 向こう側にもある程度の距離までは低い建物が多いもんねえ。いやーアイドルのみんなはよく考えるね」
「ありがたい限りです。……が」
「あの水龍が邪魔だね。僕が行こうか?」
「……いえ、誰か向かったようですわ」

 高層ビルが立ち並ぶ東京の街で、その隙間を縫って動力部分に射線の通る位置はなかなか見つけにくい。
 方舟が河川方面に向かっているとはいえ、時間もない中、条件の揃った場所を再度捜索するのは避けたい。
 そのためできればこのままこの位置で機を伺いたい松永にとって、水龍は邪魔な存在だった。
 †タナトス†は自身が水龍の対処に向かおうかと提案するが、幸いなことに水龍に相対するアイドルが現れた。
 
 松永はその場に留まり、彼らの様子を注視する。
 
「でもさあ、なんでホムラコちゃんは方舟をそんなに頑張って止めようと思うの?
 そりゃあ僕だって世界を消されちゃ困るけどさ。しょーじきダルくない?」
 
 緊迫感張りつめるこの状況で、†タナトス†が間の抜けた声で聞く。
 
「私は人の営みから生まれた文化を愛しているからですわ」
「うーん、どういう事? 抽象的だな~」

 言葉の途中で†タナトス†が茶々を入れると、松永はため息をつく。
 しかし、気まぐれな†タナトス†のことだ。
 下手に機嫌を損ねればへそを曲げてネヴァーランドに帰ってしまうかもしれない。
 松永は戦況から目を離すことなく話を続けた。

「いいですか、水は生命の源であると同時に文化の源、地球の文明は全て大河付近から生まれています。
 即ち文化は、水の傍で人の営みから生まれているのです」
「うんうん。それでそれで?」
「ノアの洪水は文化すら流し去ろうとしている……それほど清廉ということですわ」
「なるほど?」
「だから、下品でも猥雑でもいい。そんな文化を愛しているから方舟を止めるのです」

 松永がそう言い切った時、邪魔だった水龍が両断され、空に消えた。
 戦っていたアイドルも近くの建物に着地したようだった。
 
「ナイスですわ。動力部を狙うにはあの水龍が邪魔でしたの!
 さぁいきますわよ!」
 
 ついに時が来たと、松永はインドラの矢で威力を倍増させた破壊欲望を展開する。
 動力部分があると思われる船底、コーティングがひび割れた箇所を指差し、力を集中させた。
 
「うーん、いまいち分かんないなあ。つまりどういうこと?」
「ああもう! つまり、サメ映画最高ってことですわ、ロックユー!」
「なるほど! そりゃサイコーだ!」

 今まさにというタイミングで茶々を入れられた松永は、半ばやけくそで返答を返す。
 しかし、それが案外†タナトス†のお気に召したのかやる気になった†タナトス†も、
 松永の攻撃を後押しするように、同じ方向へ手をかざした。
 
 †タナトス†のかざした手から、サメのような形をした黒い霧が生み出されると、
 それは高速回転しながら方舟へ突進し、ひび割れたコーティングを引きはがすように噛みついた。
 
 そこから一拍置いて、方舟の内部からけたたましい爆発音がする。
 松永の破壊欲望が内部から爆発した音だった。
 
「私がシヴァ様から継いだこの力は、今この時のためだったのかもしれませんわ! デストロイ!!」

 インドラの矢によって飛躍的に上昇した威力はすさまじく、方舟はその場に停止する。
 ついに方舟を沈める時が来たか、と松永は声をあげるが、同時に何か不穏な空気を感じる。
 不気味な沈黙の時間があった後、ごぽり、と水が空気を含むような音がしたかと思うと、方舟は再び動き出した。
 
 松永の攻撃はコーティングに干渉しないものだったが、動力部分を視認しているわけではなかった。
 そのためどんぴしゃで当てることができなかったのだ。
 それでもその威力は動力部分に影響を与え、方舟は動きはしたものの、明らかに失速していた。
 
「なっ……まだ動きますの。では次の手ですわ!
 シヴァ様に†タナトス†様、インドラ。私と縁のある神々の力を全てこの一矢に注ぎます!」
 
 松永は百火夜光でサメ型の炎の妖獣をその身に取り込むと、天変のアルター・アローを引き絞った。
 使途ナンバー『第B級使徒サメエル』の3本の矢を番え、妖獣に由来する剛力でその矢を放つ。
 ゴッドチャイルドのスタイルにより、それは標的に追尾する矢となって、方舟に一直線に飛んでいく。
 
 火の粉で軌跡を描く矢は方舟を食いちぎるかの如く、うねるようにコーティングの裂け目に飛び込んだ。
 修復途中だったコーティングは、その火勢に耐え切れず更に亀裂を大きく、深くさせた。
 
「これ意外と疲れるんだけど……、もう一発いくよ!」

 †タナトス†が柄にも似合わず、額に汗をかきながらもう片方の手も前方へ向けると、
 そこから再びサメが出現し、錐揉み式に射出された。
 先と同様、サメはコーティングに噛みつくと、体ごとじたばたと暴れてコーティングを剥がしていく。
 
 水のコーティングに入った亀裂はその範囲を更に広げ、もはや修復不可能な傷となっていた。
 それに加え、舟は動いたと思ったのも束の間、再び停止する。
 松永と猛攻と†タナトス†の追撃が、再び動力部分に影響を与えたのだった。
 
 しかし大規模な技を連発した松永はその場にへたり込んでしまう。
 †タナトス†も普段の飄々とした雰囲気とは一変、肩で息をしており、両者とも余力は残っていなかった。
 
「……ところで、何ですのさっきのサメは」
「はぁ、はぁ……地球のサメ映画、僕も結構好きだよ。
 あれは差し詰め、シャークトルネード……いや、版権的にグレーだから
 サメタイフーン、とでも名付けようかな?」
 
 †タナトス†は力なく笑うと、松永はそのセンスに失笑した。
 二人の頭上に、耐え切れなくなった水のコーティングが降ってくる。
 
 
 ようやく動きを止めたノアの方舟。
 しかし、大きな損傷を負ったものの、そのコーティングは完全には剥がれていない。
 
 幾多もの衝撃が方舟を襲う中、未だノアはその姿を見せない。
 この朽ち行く方舟の中で、ノアは一体何を思うのか――。
 
 
 
 
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