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方舟の行方4


 避難誘導は着実に進められていたが、大都市東京では、まだまだ避難を終えていない人がいる。
 不安に駆られパニックになる人々は、避難しようとも見当違いに逃げ回る。
 
 そんな人々の様子を確認した白波 桃葉は、いいこと思いついた! と手を打つ。
 
「要するに安全な場所に移動させればいいんでしょ?
 だったら、ここが危険だから避難しろではなく、
 安全な場所に楽しい事があるから来てって誘導すればいいじゃん?」
「そうねぇ……たしかに訳も分からない状態で避難してと言うよりは
 ライブの宣伝の方が普通に聞いてくれそうだし、不審に思われないかも」
「でしょ? だからこれからアイドルのライブがあるから見に来てって言ってみるわ。
 アイドルが自分たちのライブの呼びかけをするのは自然だし、
 実際にパフォーマンスを魅せれば興味を持ってくれると思うの。
 避難もさせられてファンも増やせる! 一石二鳥ね!!」
 
 白波がドヤ顔でピースサインすると、麦倉 音羽もその意見に同調し、
 手にとまる星獣:ゆきみを指で優しく撫でる。
 藤崎 圭はやれやれといった表情ながらも、
 足元でじゃれる星獣:雫を抱き上げて、「雫も協力してくれよな?」とその喉元をくすぐった。
 
「はくまさんもよろしくお願いしますね」
「……ん、出来ることはやるつもりだよ」

 麦倉は協力を要請していた乃地 はくまに向き直ると、深々と頭を下げる。
 乃地もおずおずと頭を下げるが、どこか緊張しているのかやや素っ気ない素振りだ。
 しかしそれが乃地の性格だと知っている麦倉は、柔和な表情で笑う。
 
「じゃあ早速レッツゴー!」

 白波の元気な声と共に、4人は避難誘導のためのパフォーマンスに取り掛かる。
 
 *** *** ***
 
 通りに出た4人は、まず白波がバージンロードを敷き、その上を颯爽と歩く。
 その周りをメロウ・ショコラのチョコレートが彩り、甘く芳醇な香りに釣られた人々が集まってきた。
 
「初めましての人もご存じの人もこんにちはー☆
 フェイトスターアカデミー所属のアイドルユニットcat’s tailの白波桃葉だよっ!」

 白波は観客に手を振ると、チョコレートに興味のない人も思わず立ち止まる。
 掲げたフェスタ教員仮免許の効果もあるようだ。
 
 その後ろには、マドンナ・ゴンドラに乗った麦倉の姿もある。
 神格のカリスマも相まって、多くの人の注目が彼女たちに集まった。
 
「これから行うアイドルユニットcat’s tailのライブの宣伝にきました。
 皆で楽しく盛り上がれるようなライブをしますので見てくださいね」
 
 麦倉の言葉をきっかけに、藤崎がバンドマスターグローブで曲を奏で始める。
 曲目は『楽しいを伝えよう』。人々の不安を払拭するような、明るいポップだ。
 
 麦倉は歌いながら、頑張って、と手に乗ったゆきみを羽ばたかせる。
 それに合わせて、乃地もホワイトに「行っておいで」とゆきみの隣に送り出せば、
 そこに雫も加わって、楽しげに踊るように音楽を感じて美しいウタを響かせる。
 
 ノチウダッシュで飛びまわるみゆきの後ろには、天の川の様な残像が尾を引き、
 そのキラキラにじゃれつくようにホワイトと雫が駆け回る。
 そこへ藤崎がスターダストフィルをかけ合わせれば、日の沈んだ東京に星空の様な光が散らばった。
 
 じゃれ合うようにウタを奏でる星獣を、自身とグリッターリフレクションの幻影とで挟むように位置取った白波は、
 バックダンサーとして麦倉の歌、藤崎の曲を盛り上げる。
 白波が舞い、踊り、跳ねれば、歩み出す少女の恍惚がきれいな流線型を描いて揺れ動く。
 
「心が動くようなメロディ聴いて
 楽しいを伝えよう

 みんなが居る素敵な当たり前を
 幸せと感じよう」
 
 麦倉の歌声に、乃地の神聖な雰囲気を纏ったコーラスが重なれば、
 曲が盛り上がりを迎える。
 
 麦倉はここぞとばかりにミーティアステージを展開。
 光の線でくみ上げられた舞台に、星獣たちのウタが一層響き渡る。
 藤崎のリミックスアプローチでリミックスされた曲は、観客のテンションをあげ、より集まった人々を夢中にさせた。
 バックダンサーを務めていた白波も星獣と一緒に前方に出て、月に跳ぶ兎で愛らしく変身すれば、観客はその姿の虜になる。
 
「『楽しい』を伝えよう!!」
 
 最後は全員で歌い上げれば、藤崎のトライスターブルームが打ち上がり、
 白波たちのお試しライブは幕を下ろした。
 
 それでも集まった観客の熱気は冷めない。
 拍手や歓声、アンコールの声まで上がる現場に、白波は慌てて声をかける。
 
「楽しんでくれたみたいね!
 でも、もっと盛り上がるライブ、見たいでしょ?
 ここの場所だとできないないような演出も向こうでならできるし、
 ライブの続きをやるからぜひ来てほしいな~」
「続きのライブは向こうでやるよ。ぜひ他の人にも声をかけてくれ!」
 
 藤崎は避難先で今回の続きをすることを拡散希望する。
 白波はにこっとウインクをし、麦倉、乃地と協力しながら観客を誘導していくと、
 お試しながらライブで心を掴まれた人々は、彼女らの言うことを大人しく聞き、
 安全な場所まで避難することができたのだった。
 
 
■ ■ ■


 水龍や方舟への対応、避難誘導が進められる中、小鈴木 あえかは別の行動を取っていた。
 
(わたしはアイドルの皆さんを信じます。その手はきっとノアさんに届いて、
 不思議な水を世界中から引かせることでしょう。

 ですがそれだけではノアさんを救うには少し足りません)

 小鈴木はノアを救ったその先について考えていた。
 方舟やノア自身と戦うアイドル達を信じ、それらが達成できた後の話だ。
 
(ノアさん可哀想……だけでは話になりません。
 ここまで大きい騒動になってしまうと芸能界はノアさんを無罪放免にはしないでしょう。
 芸能界が面子重視な所は何度も見ていますからね)

 事実関係の整理と、それを元に芸能界にも落ち度があると示す。
 そしてみんながハッピーエンドになれる着地点を提案して、ノアの運命を善い方向へ変えるのが小鈴木の狙いだった。

 そのために小鈴木は初代ノアのこと、それから今に繋がる流れや、
 バス=テトから聞いた話をを分析し、メモにまとめると、それを持ってアンラの元へ急いだ。
 
「アンラさん、ノアさんを救うために聞いて欲しいことがあります」

 禍々しいオーラを纏い、人々を避難させるべくノイズを放つアンラを小鈴木は呼び止めるが、
 アンラはやや語気の強い口調で聞きとがめた。
 
「ええ? 今忙しいのが見えないの!?」
「邪魔をしてごめんなさい。それでも、聞いてください。
 ノアさんがこうなってしまった責任、芸能界にもあるんじゃないでしょうか?」

 小鈴木は良い子のオーラを醸し出しアンラに訴える。
 アンラも多少身に覚えがあるのか、一呼吸置くと小鈴木に向き合い話を聞こうとした。
 小鈴木はイドーラの鳥籠で影絵劇を展開しながら、自身の考えをアンラにぶつけた。
 
「ノアさんが起こしたこと……それはただノアさんが巻き込まれただけの悲劇ではないですか?

 人間よりあるじさまを取ったノアさんが次第に追い詰められたこと。

 ノアさんはあるじさまに褒めて貰うことで自分を保っていたのに、
 バステトさんは芸能神だからと一線を引いた褒め方しかできなかったこと。

 ビーストラリアを沈めた時も処罰ではなく能力返還を要求した意味が、
 芸能神としての立場で否定しつつもノアさんを庇おうとしていたことが、
 愛されていた事がノアさんには伝わらなかったこと。

 それら、本来なら芸能界が独自で解決すべきことでしょう」

 アンラは小鈴木の劇を、話を、神妙な顔で聞く。
 半分ほどは難しそうな顔で耳を傾けていたが、時折頷いたり、思うところがあるといった風な顔つきだった。
 
 そして小鈴木は続けてある提案をする。
 
「……そして、純粋な全き人には親身になれる人が必要なので、
 どんな対価でもと言ってくれたバステトさんを、ノアさんのお姉さんにして貰えないか、
 芸能界が処断を決める時に一緒に掛け合ってほしいんです」
 
 それが芸能界としても、
 ノアを見張りつつ、失態の汚名も返上できる着地点だと思う。と小鈴木は話を締めくくった。
 アンラは黙ったままだったが、しばらくして分かったわ、と小鈴木に答えた。
 
「貴方の言う事は分かったわ。もっともだとも思う。
 ……けど、今も昔も私はアングラの存在、芸能界のお偉方に影響力なんて持たないの。
 
 頭の固い秋太郎に伝えても無意味だし……」
 
 アンラは一定の理解を示しつつも、否定の言葉を口にする。
 その言葉に小鈴木の表情が陰った。しかしアンラは小悪魔的な笑みを浮かべると言葉を続けた。
 
「だけど……ここで汚い手で何とかしちゃうのがアンちゃんよね、まあ任せなさい」

 言葉と同時にイドーラの鳥籠をかき消したアンラは、避難誘導を手伝うよう小鈴木に告げる。
 アンラが一体どのようにするつもりか、現時点で小鈴木には分からなかったが、
 それでも彼女の言葉と想いが伝わったのは確かだ。
 
 小鈴木はアンラに頭を下げると、残った人々を誘導するべくアンラに協力したのだった。




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