方舟の行方2
アイドルたちが必死になって止めようとするのを知ってか知らずか、
方舟は悠々と夜の東京を進んでいく。
その行き先は誰も知らない。
「どんな大層な理由があるにしたって、止めなきゃいけない事って……あるんだよ!」
「だからこそ全力で、行きますよっ!」
八重崎 サクラと
ジル・コーネリアスが、方舟にほど近いビルの屋上で
それを撃墜するための準備を整えて言った。
「さーて、相棒……サーカスの準備は上々?」
「任せてください! いつだって開演上等です!」
寵剣イザナミにユニゾンしたジルと共に、八重崎はグラップリングフックを射出。
付近の建物の柵や配管などに引っ掛けながら、浮遊する舟に接近する。
しかし彼女らの前には、舟に手だしさせないとばかりに水龍が立ちふさがる。
八重崎は直剣モードにしたイザナミを手に、牙を剥く龍からの攻撃をウェイクフレーズやアームディフェンスで回避。
加えて、グラップリングフックによる多角的な動きで龍にその的を絞らせないようにしながらも、
周囲の建物に被害が及ばないよう、龍が常に方舟を背にするように、
つまり、自身の攻撃が逸れたり、勢いの強い物でも、方舟が遮蔽板となる角度になるよう思考して攻めを続ける。
八重崎の起動戦術に攻めあぐねる水龍は、次は口を大きく開くとビーム砲のような凍てつく波動を繰り出した。
速度、威力共に強烈なそれを避けるべく、八重崎はフックを飛ばすが、それが間に合わないと悟ると、
ジェットパックを起動して緊急回避する。
しかし、直撃は避けられたもののミリタリーコートの一部がそれに被弾し動きを阻害するため迷わずそれをパージした。
露出の高い踊り巫女装束・レプリカが露わとなり、付近のビルへ受け身を取るよう転がり落ちると、その周囲に水飛沫が舞う。
夜風がいささか身に沁みるが、そんなことを言っている場合ではない。
八重崎は攻撃の反動で一拍の隙ができた水龍を見逃さず、野外看板にフックをかけるとその推進力で柵を蹴り上げ、
構えたカグツチを横一線に振り抜いた。
「猛れ轟焔! ”神威カグツチ”!」
「ぶちかましますよー!」
二人の声が重なれば、炎渦巻く一閃が龍に襲い掛かる。
龍は凍てつく波動で相殺しようと再び大口を開けるが、八重崎の方が一拍早かった。
キィィンと不快な龍の高音をイザナミの笛の様な音がかき消し、水龍は炎に飲み込まれてしまった。
そればかりか、神威カグツチの勢いはとどまらず、
水龍を巻き込みそのまま方舟へ向かって飛んでいく。
しかし、その一撃は水のコーティングに阻まれ蒸発して消えた。
「さすがにそこまで上手くはいかないか。
でも、下で待ってるみんながいるんだ、だから……」
八重崎はカグツチを繰り出した後に射出したフックで引っ掛けた商業ビルの柵にぶら下がりながら、
消えた龍と漂う舟を見る。
「舟の進行方向には大きな一級河川があります。あそこに墜とせば被害は少なくて済みます……。
大人しく堕ちてくれると……いいんですけどね」
ユニゾンしたジルが舟の進行方向を見つめると、高層の建物がなく、ぽっかりと空間の開いた場所があった。
周りは木々に囲まれ、護岸には屋形船がちらほらと停泊している。
春には桜が咲き誇り、観光地にもなっている大きな河川だ。
二人は方舟が墜落した際の被害が最小限になるよう、その水上に舟を墜とすべく再び舟に接近する。
「さて、普通の水じゃないって話だけど……」
「とりあえずやってみましょう!」
舟の周りにはまだ数匹水龍がいたが、幸い他のアイドルが交戦中だった。
先に水龍対策を打てていたのが功を奏し、2人は物言わぬ舟に向かっていく。
『いっけぇぇぇぇぇ!!!』
グラップリングフックで立体的に移動し、ジェットパックの推進力で舟に肉薄すると、
トレイルウォーターによるディーヴァの幻と共に、舷側底部に向けて全力のキックを見舞った。
水を纏ったその打撃は、コーティングの水と混ざりあい、水飛沫が上がる。
間髪入れず氷結効果を発動させると、打撃した箇所のコーティングが一部凍る。
凍った部分はそのまま自由落下するが、落ちたのは薄氷でコーティング自体に損傷はなかった。
「中々にしぶといっ! ご褒美に機雷のプレゼントだっ!」
「堕ちるまで続けますからね!」
八重崎はディヴィニティヘイズで幻たちを生み出すと、先ほどと同じ個所に向けて突進させる。
幻たちはぶつかるたびに消えていくが、ユニゾンした効果もありその数は多い。
それでも、水のコーティングは厚く、その攻撃が舟本体に届くことはなかった。
もちろん一撃で墜ちるとは思っていない二人だったが、
消えていく幻たちを見て、これを剥がすのには骨折りするだろうと歯噛みする。
しかし、2人の攻撃が全く効果がないわけではない。
幻たちが突進し消えるたびに、その箇所からは漏れだすように水がしたたり落ちる。
コーティングが剥がれたわけではないが、その総量は少しずつでも確実に減っているだろう。
一度消耗した力を回復するため、輝きのガラナを摂った二人は、
進みゆく方舟を見据え、再びそれに立ち向かって行く。