暴動の芽を摘み取れ・3
せっかく暴動の予兆を嗅ぎつけることができたのだ、その前にミュータントを倒しておきたい。
「また暴動が起きないように、ここで悪いミュータント達をたくさんやっつける!」
意気込み強くミュータントを探していた、『魔砲天使ハッピー☆カノン』・
ミレル・ウルフベル。セイヴァーとしての名前が語る通り、マジカル☆カノンと名付けた銃を手にミュータントを狙い撃つ。
幸いなことに周囲に味方はいないため、誤射を懸念する必要もない。色とりどりの魔力弾に当たり、ミュータントがダメージを負ったのを見届けると、ミレルは反撃が来る前にビルの柱の陰に駆け込む。
その直後、ミレルがいた場所に銃弾が撃ち込まれるのを見てひやりとした思いを味わうが、ミレルは柱からわずかに顔を出すと同時にまた銃撃を行う。
そうしながら周囲を見渡していたミレルは、敵の銃撃が止んだと同時に物陰から走り出す。それを追いかけるように斧を持ったミュータントが接近するのに気づいたミレルは、壁に立てかけられていた廃材に狙いを定めると、ミュータントへ向かうように弾を撃ちこみ、倒壊に巻き込ませた。
その下敷きになって動けなくなったミュータントもいるが、どうやらまだ接近してこようとする者もいるようだ。そこでミレルは『まじかる☆ビッグウェーブ』を発動。
ミレルの目の前に水柱が発生すると、それが鉄砲水となってミュータントを襲う。水流の勢いは踏みとどまろうとしていたミュータントの足を浚い、壁際へと押し流した。そして水が引いたため立ち上がろうとしたミュータントに、ミレルはマジカル☆カノンを向ける。射撃はその急所を狙い撃ちし、ミュータントは痙攣したままその場に倒れ込んだ。
まだ動こうとするミュータントもいるようだったが、単独で戦うならここが引き際だろう。ミレルは銃口を向けたまま後退すると、素早い撤退を図った。
(暴動を止めるのなら、さっさと鎮圧させないと厄介なことになりそうだからな……)
数人で行動しているミュータントを見つけた
水谷 大和は、物陰からセンサースコープ越しに狙いを定めると、先制の『ブレイズバースト』を放った。
その発射音に気づいたミュータントは回避行動を取ろうとしたが、火の力を込めた弾丸は、狙いをつけていた1体を追尾しながら着弾すると火柱を生み出した。荒れ狂う火は狙った1体をその内側に取り込むと、周りも巻き込み焼き尽くそうとする。
先制に大技を受けたミュータントたちは体勢を立て直そうと立ち上がるが、大和はソレノイドソードを手に突撃していく。大和が斬りつけると、電磁力を帯びている刀身から放電が起こり、ミュータントの体を痺れさせていく。
中にはその威力に耐えて反撃を仕掛けるミュータントもいたが、大和も闇雲に突撃しているわけではない。クローシールドで攻撃を受け止めると盾の先端にある鉤爪で反撃し、怯んだところへ連続攻撃を繰り出していく。
先ほどのブレイブアタックに傷ついた身では耐えきれなかったか、大和の連続斬りでミュータントは力尽きた。
だが、まだ残るミュータントが、砂礫を生み出し大和を追い込もうとする。大和はそれに火柱を生み出して対抗すると、掌に拳銃を生み出して牽制した。
そしてその隙に自身へ攻撃してきた個体に迫ると、再び連続斬りを仕掛け倒してみせた。
運命への反逆者『ゲーデ』、それを力の源にしている大和は、暴動という運命に逆らうかのように戦い続けていた。
(暴動を起こす、これ自体は目的じゃなく手段のようだけど……)
その裏にどんな目的があるのか、それを気にしつつも、
壬生 杏樹は暴動を未然に防ぐため立ち上がった。
いつでも交戦できるようにと、既にセイヴァー『魔弓手ロビン』に変身していた杏樹は、
「アカツキ、マルキオ、お願い」
水瀬 茜と
シルヴィア・ベルンシュタインに声をかける。茜はそれに頷くと、悪魔の翼で飛び上がり敵影を探していたシルヴィアを追いかけるようにして、一足先にミュータントとの交戦を始めた。
ヒートヘイズを構えて走り込んできた茜をマシンガンの銃口が狙い撃とうとするが、茜は周囲の遮蔽物を利用しながら防ぎ、その眼前に躍り出る。そしてマシンガンの銃身を掴むと、その側にいたミュータントに銃口が向くよう無理やり動かす。銃を掴まれたミュータントは、ギリギリ発砲することは避けたようだが、味方に狙いを定めさせられているため何も手出しができない。
代わりに銃口を向けられていたミュータントが斧を振りかざして茜を遠ざけようとするが、茜はクローシールドでそれを受け止めると、熱で焼き切られる前に押し返そうとする。
間に味方がいたことで力を発揮しきれなかったこともあり、ミュータントは容易く茜に弾かれたようだ。そこへシルヴィアが駆け込むと、狼牙手甲で背中を切り裂こうとする。
茜が一時的に斧持ちを相手取ったことで自由になったミュータントは、すぐに距離を取って茜に反撃しようとするが、そこにドラクル・
ヴァン・ジルニトラの銃が待ち構えていた。リュウノアギトから放たれた散弾は、事前に行われたメンテナンスの効果もあって威力が向上している。その威力に思わず怯んだミュータントを、茜が追い打ちの斬撃で捉えた。
一方、シルヴィアに背中を切り裂かれたミュータントは、斧に込められた熱も武器にして襲いかかろうとする。シルヴィアはそこへ積極的に近づいて防御や迎撃を試み、周りに注意が向かないよう立ち回っていく。
その間に気配を潜めながら回り込んだ杏樹は、魔導短弓で曲射の構えを見せる。射撃支援ユニットの補正が効いていたこともあり、放たれた一条は放物線を描いた先にいたミュータントを直撃した。見えない敵の存在に気づいたミュータントは狙撃のあった方向を探ろうとするが、杏樹は既に気配を抑えながら再び移動しており、シルヴィアも杏樹の居場所を悟らせまいとミュータントに仕掛けていく。そして今度は、ヴァンがシルヴィアの助けとなるように散弾をばら撒いてみせると、それが背中に受けた傷をさらに抉りミュータントを弱らせる。これで勝ち目を見出したシルヴィアはミュータントの背に回り込むと、手甲の鉤を深々と突き刺し仕留めた。
仲間が戦っている気配を感じながら、杏樹はなおも素早く移動している。ヴァンからブレイブコンバーターでミュータントの位置を伝えられた杏樹は、指定された位置に刺さるように魔導短弓から矢を放ち、その結果を見届ける間も惜しむように再び移動していく。
ヴァンもそのサポートのため、引き続き杏樹に敵の居場所を知らせながら散弾銃で応戦していたが、わずかに集中が乱れた瞬間にミュータントの接近を許してしまう。それを危ういところで避けたヴァンは、なおも迫ってくる敵から回避すると同時に、廃材の集まる場所に近づいていく。その影にヴァンが消えたのを見たミュータントは勢いよく斧を振り下ろしたが、そこにヴァンの姿はなく、切り裂かれたミリタリーコートが廃材に引っ掛かっているだけだった。
ヴァンからの通信が途切れたことを不安に思た杏樹だったが、ヴァンは無事だったようだ。安心しつつも移動と攻撃を継続させていたが、ついにミュータントも気づいたようで包囲しようと迫ってくる。
それに一人で立ち向かう杏樹だったが、一人で捌くのは無理だろうことは明白。だが、その中にあって杏樹は全く動じていなかった。
「今が一斉攻撃のチャンスだ!」
杏樹がそう叫ぶと、まずはヴァンが投げナイフでミュータントの動きを封じにかかる。それに乗じてシルヴィアが高速回転しながら蹴りを放つと、雄たけびを上げながら茜が剣を振り下ろした。内に秘められた闘志が具現化したような炎を纏った剣は、斬りつけた敵をみるみる炎上させていった。
茜の『ファイアブランド・インフェルノ』が包囲の一画を切り崩すも、ミュータントはまだ残っている。
そこにシルヴィアが仕掛けようとする気配を感じたヴァンは、
「我が“竜ノ子”の名において、汝に加護を与えん」
『竜ノ加護』でシルヴィアを鼓舞する。それに力を得たシルヴィアは狼の咆哮のような声を上げると、
「遠慮はいらねぇ、存分に味わいな!」
拳に込めた力を一気に開放した一撃を見舞った。
杏樹たちの連携に、どうやら包囲されたのは自分たちの側らしいことに気づいたミュータントは、突破口を開こうと銃や斧で反撃しようとする。
だが、そこを目がけて矢が飛ぶと、風の柱が巻き起こって行く手を阻んだ。『狂風の矢』で退路を塞いだ杏樹は、
「お前達は狩る側じゃない、狩られる側だ……市民のこれまでの恐怖、その報いを受けさせてやる!」
弓を構えてそう叫び、ミュータントの体を穿っていく。そこに茜、シルヴィア、ヴァンも力も加わると、眼前の敵は全て倒されるのだった。
「行くよ、ラディカルキャリバー!!」
シレーネ・アーカムハイトがラディカルキャリバーへ叫ぶと、靴底に収納されていたローラーが展開し、バイク並みの速度での走行を可能にさせた。
正体を知られないようにという観点からか、いつもより短くさっぱりとした髪が印象的な姿は、セイヴァーネームを『ラディカルフィスト』と言う。
事前のメンテナンスの効果もあって、さらなる速度を得たラディカルキャリバーでミュータントたちに迫ったシレーネは、群れているところを一気に巻き込むつもりで星芒形の魔力の塊を放った。魔力に斬り刻まれたミュータントは、傷を受けながらも銃を構え、土柱を生み出して足止めを図ろうとするが、シレーネは平らな土地と変わらぬような滑らかさで壁を走り、再びミュータントのいる場所まで急接近する。
自慢の拳を握りしめ繰り出したのは、渾身の一撃。拳が胴体にめり込んだミュータントは、内部から鈍い音を鳴らして蹲る。そこから追撃に繋げるようなことをせず、一度距離を置いたシレーネは、またラディカルキャリバーで急接近しては拳を打ち込んでいった。
そこへ向かってくる敵は1体。飛んできた銃弾を軽やかに躱したシレーネは、その目前までぐんぐんと迫る。そして、
「一・撃・必・倒っっ!!」
気迫のこもった声で『セイクリッドバスター』を放つ。右の拳に圧縮し収束していた力を一気に打ちつければ、受け止めようとしていた銃身を砕きながら、ミュータントの胴体を突き破った。
その直後に起こった静けさに一息ついたシレーネは、ラディカルキャリバーを駆って静かにその場を去った。
セイヴァー『煉馬』に変身した
千波 焔村丸は、廃材の影に身を潜ませ、ミュータントが現れる時を待っていた。
それを見下ろす形でビルの適当な階まで上っていた
斉田 琴音も、セイヴァー『鈴音』に変身し、視力に強化を施して戦いに備えた。
やがて近づいてきたミュータントたちは、すぐに焔村丸の気配に気づいたようで警戒し始める。そこに姿を現した焔村丸は、
「何の目的があってこんな事をしているか、話してもらおう」
纏火の薙刀を握りしめながら、問い詰める。だが、それを素直に話すような相手ではなかった。ミュータントは一斉に武器を構え、焔村丸に襲いかかる。それを承知していた焔村丸は一時的に身体能力を引き上げ攻撃を受け流すと、続く攻撃を廃材の裏に回って躱していく。
焔村丸の武器を見て遠距離から攻撃が来ることはないと判断したミュータントたちは、マシンガンを持つ者が取り囲むように警戒しつつ、斧を持った者で焔村丸をあぶり出そうとする。
だが、マシンガンを持ったミュータントを狙うようにして矢が飛来する。狙われたミュータントは次に来た矢に回避を試みるが、矢はそれを追尾するように軌道を変えて突き刺さる。
(これまでのロディニアでは好き勝手に市民を食い物に出来ていたんでしょうけど、イマジンレガリアが結成されたからには、そんな常識は罷り通させない。弱肉強食を謳うなら、食われる側に回ってその痛みも思い知って頂くわ)
琴音の思いに応えるように霊弓からは矢が次々生まれ、ミュータントを翻弄していった。
琴音の行動を阻もうと、ミュータントが琴音の居場所まで上昇しようとするが、
ダークレオパードマンが琴音を守るように周囲を炎上させ近づくことができないようだ。
再び地上に戻ったミュータントに、今度は焔村丸の起こした炎が襲いかかり、かえって自身の行動が妨害される。
琴音がそこに向けて冷静に矢を放っていくと、焔村丸は琴音の援護射撃の間に鋭い斬り込みを仕掛けていく。一時的に高まった身体能力をも武器に気合いの一閃が繰り出されると、焔村丸の周囲に炎が立ち上りミュータントを燃やそうとする。
『金剛陽炎』は見るものにも脅威を与え、その隙をつくように琴音も弓を構える。『光燕一閃』――直前の瞑想に魔力を高めた一射はミュータントを間違いなく射抜き、その身に致命傷を与えるのだった。
炎が収まると、立ち上がれるミュータントはわずかだけとなっていた。
(この世界の人々は、これまでどれ程ヴィランに苦しめられ続けて来たのか……。これから俺達セイヴァーズは、彼らの希望の灯火にならねばならない。負けることは許されない。何としてもミュータントの企みを挫き、市民を救い出してみせよう)
胸中に強い覚悟を宿した焔村丸は、琴音とともに冷静に後始末をつけていた。
銃弾の飛び交う中に、『タイニー・マッチ』・
人見 三美と
アナベル・アンダースの姿があった。
(戦況を読むのはアナベル様の方が得意です)
三美は隣で戦う姿に抜群の信頼を寄せるように、アナベルに視線を向ける。それに応えるかのごとく、周囲を見渡していたアナベルの眼光が、一層鋭さを増したように感じられた。
遮蔽物に身を寄せ観察を続けていたアナベルは、乱戦の最中に突出した1体を見極めると、勇気の力で生み出したナイフを投げつけた。そしてナイフを腕に受け怯んだところに、シリンダーブローの腕を伸ばしてパンチを繰り出す。事前のメンテナンスの効果もあってか、回転の勢いをつけたパンチはより威力を上げた状態でミュータントに当たり、地面に押し潰すようにしてめり込んだ。
だが、この攻撃は連続して使えるようにはできていない。三美はアナベルの隙を埋めるように魔力の塊を作り出すと、ミュータントを切り刻もうとする。
その間に接近を企むミュータントもいたが、三美はそれを阻むように地面を炎上させ、その間にアナベルが再びパンチを叩き込んだ。
だが、ミュータントの数の優位性は揺るぎないようで、両者の距離は徐々に近づいていく。アナベルの観察眼と分析力で戦線は維持できていたが、三美は不意に飛んできた銃弾に対応できず、それを守るように三美の周囲を回っていた1輪の花を模したの盾が、花火のように散った。
だが、そこ新たなセイヴァーが駆けつけた。三美とアナベルとの戦いにミュータントが集中している隙を縫ってやってきた
泡瀬 鈴蘭は、星芒形の魔力の塊を密集している箇所にぶつけていく。
ミュータントたちが不意打ちに動揺する間に『まじかる☆カブト』・
取間 小鈴も応援に駆け付けると、三美が受けた傷に手を触れ癒しを与えた。
「筋肉の暗黒面に堕ちたミュータントの皆様よー筋トレの素晴らしさをもう一度思い出してくださいませーですー」
そして筋肉は善なりという独自の理念をミュータントに語りかけると、小鈴は色とりどりの魔力弾を周囲にばら撒いていく。先の言葉は小鈴なりの説得力を持った一言だったのだが、残念ながらミュータントの心に届いた様子はなかった。だが、届かなかったのはあくまで説得だけのようで、四方八方に広がる魔力弾の雨を浴びて、ミュータントは防御に専念させられている。その点では良かったのだが、その一部が運悪く三美や鈴蘭に向かってしまった。しかし、アナベルが魔弾の動きを読んで注意を促していたようで、辛うじてフレンドリーファイアは免れていた。
小鈴はそれを申し訳なさそうに謝ると、『マジカル気合いを入れる』で仲間の活力を取り戻そうとした。
「フィジカル・まじかる・ボディビル──肩にちっちゃいライトスピナー乗せてんのかーい」
不思議な掛け声、もとい詠唱の後に平手打ちが入ると、これまた不思議と力がみなぎってくる。
元気を取り戻した三美は手元に槍を生み出すと、その穂先に炎を灯して突き出していく。『灯火の槍』と名付けられた技は、一見するとマッチの火のように儚げな印象であったが、ミュータントが近づく瞬間を狙ってわずかに間合いが伸びると、炎がその体を取り囲む。そして炎を身に受け膝をついたミュータントを、アナベルのシリンダーブローがとどめ一打として襲った。
その頃、小鈴に力を回復してもらった鈴蘭も、ミュータントと渡り合っていた。斧を避けながら、光の塊を眼前にぶつけ目くらましすると、すかさず廃材の影に飛び込んで銃弾を遮る。
一時的に自身の姿を見失ったと見て取ると、
「勇気の力を、光に変えて! この一射で、悪を討つっ!!」
叫びとともに、『ライトアロー』を発動した。
光を纏った弓矢を握りしめた鈴蘭は、暴動を起こし市民を脅かそうとしたミュータントを、そうした悪を討つための一射を見舞う。輝く矢は、鈴蘭のまっすぐな気持ちを象徴するかのように胸を正確に射抜き、致命傷を与えるのだった。
三美、アナベル、鈴蘭、小鈴はその後もミュータントと戦いを続けていたが、ようやく周囲の全てを倒し切った。持久戦を覚悟していた三美は、アセイミーナイフで魔力の消費を抑えていたため、多少余力があるらしい。戦い終わると仲間が受けた傷に触れ、回復を促していった。
それに助けられた鈴蘭ではあったが、礼を告げながらも全く気を抜く様子はない。それはこの戦場にいる最後のミュータントが倒れなければ、本当に戦いが終わったとは言えないと考えているからだろうか。加えて万が一にでも増援が来る可能性まで考えているからか、ガネーシャサージェントの元に向かったセイヴァーズがを目的を果たすまで、警戒を解かないのだと語った。
周囲を油断なく見つめる様子を見て、小鈴もそれに倣いつつ別の場所を探しに立ち去る。
三美もそれを手助けしようと考えたのか、アナベルが周囲を見渡していたところに口添えすると、彼女の観察と分析術で得た情報を提供し、自分たちは他所への警戒に向かって行った。
暴動を起こすばかりでなく、一般市民を誘拐するなんて所業を許すわけにはいかない。
【炎兎の渡り鳥】の
長月 由鶴は、セイヴァー・ユーリとして、暴動を阻止してみせると決意した。
「なんの罪もない人たちに悪いことをするなんて許せないよ! 僕達がやっつけるんだからねっ! 行こう!」
「はーっはっはっは! 俺様が来たからには貴様らの企みは終わりであるぞ!!」
そして、相方であるクロヒトこと
赤井 黒灯兎が攻撃する隙を生み出すため、廃材の裏からミュータントたちの様子を伺いだす。
ミュータントの持ち味は、耐久力と膂力。何より数が多いことを考えると、長期戦は必至。戦い抜くためには集団をまとめて相手するより、個別に倒すのが理想だと考えた由鶴は、狙いやすそうな1体に目をつけると勇気の剣を構えた。
「僕が隙を作るよ、クロ、お願い!!」
そして、ミュータントが由鶴のいる場所と別の方向を向いた瞬間を見計らい、一気に飛びかかった。由鶴の斬撃は鋭さを保ったままミュータントを狙ったが、その気配に振り返ったミュータントは体を逸らしてダメージを軽減する。その体勢から反撃しようと斧を振り回すが、由鶴は連続攻撃をぶつけ攻撃を相殺すると、間合いを取るように飛び退いた。
由鶴の戦いに周りのミュータントも反応し、その背後や側面から攻撃しようとするが、さらにその背後を取るように
クレア・ロングストリートが近づく気配を感じて足を止める。
クレアの鋭い一撃は致命打を与えることはできなかったが、奇襲に近い攻撃を受けミュータントがうめく。そこへ反撃の隙を与えぬように、接近しては拳や蹴りを当て、距離が開けば掌から火や水の塊を生み出しぶつけていくと、圧され始めたミュータントが焦りを顔に浮かべる。
一方でクレアは技を小出しにすることで消耗を抑えていたため、余裕の表情だ。苦し紛れに撃ちだされた弾丸を軽い身のこなしで防いだクレアは、
「辞世の句を詠みなさい……聞く時間くらいは取ってあげるわ」
と、奇妙な言葉をミュータントにぶつける。その瞬間、剣から再び鋭い斬撃が生まれ、ミュータントを切り裂いていた。
「カディヤックヒルの平和を守るセイヴァー、ワンダー・ジェーン見参!」
最後に決め台詞を残したクレアは、素早く次の敵へ向かって行った。
味方の加勢を得て窮地を逃れた由鶴は、戦いの中で違和感のないように体の向きを変え、連携のチャンスを生み出す。それに合わせるように動き出した黒灯兎は、背後からミュータントを襲撃すると、衝撃でよろめいている間に懐まで潜り込んで拳を打ちつけた。
それをフォローするかのように新手が由鶴と黒灯兎に向かってきたが、黒灯兎が高速回転の蹴りで退けていく。先ほどまで戦っていたミュータントは、かなり消耗しているようだ。黒灯兎は今が最大のチャンスと考え、由鶴に叫んだ。
「ここが見せ場であるな! 行くぞユーリ!」
「僕も、やる時はやるんだからねっ! 集え灼熱の炎、これが、僕のとっておき! <焦熱の槍>……燃えちゃえーーーーーっ!!!」
由鶴の熱意が形となったように、その手に槍が形成される。炎を宿した槍で刺突を振る舞えば、ミュータントがたまらず弾き飛ばされた。
それを追いかけるように走り出した黒灯兎が放つのは、『硬い一撃』。
自らの拳を砂礫で高質化させ殴るというシンプルな技だが、それ故に混じり気のない強打がミュータントを貫いた。
地面に倒れ動かなくなったミュータントを見て、由鶴と黒灯兎は頷き合うと、次の戦いに備えてチョコバーとカーボネイテッドウォーターで回復した。
(誘拐された人々がどんなに恐怖や絶望を感じているか……)
【エンジェル・ブーケ】の
天峰 ロッカは暴動と、これ以上の誘拐を防ぐため事件に立ち向かおうとしていた。
仲間と考えた作戦の、導入を引き受けるのは
風間 玲華と
桜・アライラー。
別の場所で罠を張り待機しているロッカの元までミュータントを誘導しようと、玲華は地上から、桜は上空から注意を引き付けようとしていた。
地上の玲華は柱や壁、果ては重機など大きな物の影を利用して移動しながら、ミュータントたちとの距離を見極め接近していく。桜も同じくミュータントに近づこうと、縮天翻地で重力の方向を操作して、ビルの外壁を駆け上がる。
そしてほぼ同時に接近を果たした玲華と桜は、一斉にミュータントに攻撃を加えた。上にいた桜が水柱を生み出しぶつけると、地上の玲華は弓矢を生み出し射かけていく。
別方向から奇襲されたミュータントたちは、すぐさま攻撃をの方向を探り出したが、隠密性の高さが関係したか、先に見つかったのは桜だった。
ビルの外壁にいる桜を落とそうと、斧を構えたミュータントが翼で上昇し、地上からもマシンガンが狙いを定めようとする。桜はヴァルキュリアの翼で光を屈折させ、斧の命中を避けると、縮天翻地を利用した高速移動で銃弾をすり抜けていく。そうしながら水柱で足止めすると、地上からは玲華の矢が飛んで援護に出る。
だが、それで玲華も居場所を見破られたようだ。飛んできた銃弾を物陰に身を寄せ避けた玲華は、
「あら、気付かれましたか?」
見つかることなど想定内だったかのような、落ち着いた態度と満面の笑みを見せる。その手元にはルナクロックが用意されており、周囲の速度を落とすことで万全の回避ができたようだ。玲華は再び攻撃される前に幻影の蝶の鱗粉で視力を封じると、その隙に廃材に身を潜ませる。そうして弓矢で応戦していると、桜が力負けを装って後退し始めたのが見えたので、玲華もそれに倣って後退し、ロッカの待つ場所まで誘導していった。
「ウシャス、お待たせしましたー!」
その声にロッカが振り向くと、玲華と桜を追いかけるようにミュータントが近づいて来ていた。ロッカはミュータントたちをギリギリまで引き付けると、そこで罠を発動した。
元が解体中に出た廃材を置くために取ったスペースだったのか、それなりに広い空間にミュータントたちが入り込むと、鉄筋につるされた鉄骨が振り子のように次々と襲いかかる。それも一定の方向からではないため、ミュータントたちは回避と防御を交えながら我先にと離脱しようとする。
「トルヴェ、お願い!」
それを見ながら、玲華は罠に巻き込まれない位置につくと、
「逃げちゃだめですよ? まだお仕置きは終わってないんですから」
なおも笑みを湛えながら『フローイングアロー』を発動した。黄昏のような色に染まった矢を放つと、突き刺さった矢を起点として水流が巻き起こる。アセイミーナイフの補助もあってか、強烈な勢いを得た流れに巻き込まれ、ミュータントたちは再び空間に放り込まれた。
「今ですっ! いーきまーすよーっ!」
ロッカの張った罠に巻き込まれないよう回避していた桜もアセイミーナイフの加護を得ると、玲華の攻撃に続くように星芒形の魔力の塊でミュータントを切り刻もうと放ち、ロッカに目配せする。
「まかせて、オーカ!」
そしてロッカも罠に使った鉄骨を渡り歩き、桜と別方向から魔力の塊をぶつけていくと、野ばらの杖が高まった魔力はミュータントを押し潰すように切り刻んだ。
罠を利用した作戦はミュータントをまとめて倒し、ロッカは早くから戦っていた桜の傷を癒そうと手当てする。それを終えると次は玲華の手当てをしようとするが、玲華はロッカと桜がとどめを刺している間に移動してしまったようだ。
その背を追いかけるようにして、二人も走り出した。
こうして暴動を企んでいたミュータントたちは、ことごとく倒された。
セイヴァーたちの活躍は暴動を未然に防ぐと同時に、ガネーシャサージェントへの増援を食い止める結果にもつながった。