暴動の芽を摘み取れ・2
【デュエリスト】のいう名のチームを組み任務に臨んだ
星野 空兎は、解体後の資材が積まれた小さな一画に目をつけて待機していた。
ここにはいずれ、
八代 拓哉がミュータントを連れて戻ってくる手はずになっている。空兎はこの場でミュータントに決闘を挑み勝利することで、他にも市民が囚われている場所がないか、情報を得ようとしているのだった。強者に従うのがミュータントの性質というのなら、その強さを認めさせることができれば口を割ると考えたからだ。
(霧夜の使者ミス=アルテ、神の下僕としてあがかせて貰いましょうか!)
内に闘志を秘め、空兎はその時を待っていた。
その頃、セイヴァーΔこと拓哉は周囲をうろついていた1体のミュータントに目をつけ、ハンドカノンの引き金を引いていた。センサースコープで半追尾状態となっている弾丸は同じ個体を執拗に狙い続け、ミュータントは狙撃者を探そうと周囲を油断なく見回す。
やがて狙撃者である拓哉を見つけたミュータントは、逃げ出した後姿を追いかけるように走ってきた。拓哉はそれを確認するように何度か振り返り、時にわざと音を立てて見失わせないようにしながら、まっすぐに空兎の元まで向かって行く。
そしてミュータントが空兎の入る区画に入り込んだ瞬間、拓哉は出入り口に立ち塞がる。続けて
ドミネートガールが、障害物を置いて完全に封鎖してしまう。
そうする内に、急に姿が見えなくなったのを不審に思ったか、別のミュータントが追いついてきたので、拓哉は拳銃を乱射して牽制すると、いつでも隠れられるような廃材を背にしながらミュータントに話しかけた。
その先の区画では互いの仲間が決闘をしている、拓哉はそのように説明すると、
「決闘の邪魔なんて強者のやる事ちゃうし、オレも一緒に居てあげるから此処で待ってよ?」
言外に邪魔立てするなら容赦はしない旨を滲ませ、ミュータントの出方を伺う。拓哉の話を聞いたミュータントは、しかしそれを聞き入れるつもりはないようだ。同じく銃を構えると、拓哉へ容赦なく発砲する。それを廃材の影に入り込んで防いだ拓哉は、ミュータントが近づいてきた気配に合わせて廃材を蹴り上げると、さらに火の塊を生み出し空中へ飛ばす。
廃材の破片や火球でミュータントの目くらましをした拓哉は、ハンドカノンとは別にもう一つ銃を生み出し構えると、避ける余地を与えない銃撃を繰り返していく。火球を生み出したところから始まった『レッドゾーン』の鮮やかな連撃は、狭い場所での戦闘だったこともあり、ミュータントへ的確なダメージとなって消耗させた。
よろめきながら壁際に座り込むミュータントに、拓哉はまた声をかける。
「退いてくれへんやろか? 俺は、セイヴァーΔは、無駄に誰かが傷つくんは嫌やから……それと、すぐに帰ってオルグキングさんに伝えて欲しいねん。君らが正面切って喧嘩売ってくるんなら、俺らセイヴァーは逃げん! それだけは約束するからってな?」
そしてミュータントをガネーシャサージェントではなくオルグキングの元へ戻らせようとしたのだが、ミュータントにそのような説得は通じるはずもなかった。
ミュータントは即座にマシンガンを構えると、迂闊に近寄っていた拓哉を狙い撃つ。銃弾を受けた拓哉は深手を負い、これ以上の説得も無意味だと判断してミュータントを戦闘不能に追い込んだ。しかし拓哉自身も、もう戦いができそうにない。空兎が無事に決闘を終えられることを願いながら、拓哉もその場に倒れ込んだ。
一方の空兎にも、予想外の展開が待ち受けていた。
「スナイパーの位置、見つかりました?」
煽るような声をかけ、空兎はミュータントの注意を引く。ミュータントが入ってきた出入り口が障害物で塞がれていることを確認した空兎は、いざ正々堂々と決闘しようとジャマダハルの切っ先を向けたのだが、ミュータントはそれに応えることなく斧を振り下ろそうとしてきた。
「へえ、負けるのが怖いと? 所詮は只の人にビビってるんですか? 誇り高き戦士かと思ったら、臆病者とは笑えますね!」
空兎はそれを躱しながら、決闘に応じるよう挑発してみせるが、やはりミュータントにその意志はないようだ。斧が振り回される度、周囲の温度が上がるような感覚を受けた空兎は、このまま決闘にこだわっていては埒が明かないと悟る。
ついに決闘を諦めた空兎は武器を構え直すと、ミュータントの腕を狙った一撃を繰り出し、斧を落とさせようとする。だが、ミュータントは辛うじて武器を取り落とすことを堪えると、空兎へ同じ技で応戦する。それを防壁で凌いだ空兎は後方に飛び退いて深く息を吸い込んだ。
そして吐き出す息とともに、狂気とも取れる裂帛の気合を放出すると、全力の一撃をミュータントに叩き込む。堕落の意味を持つ『カデーレ』の一撃は、ミュータントをたちまち追い込み膝をつかせた。
それでもまだ戦う余力があるのか再び立ち上がろうとするため、空兎も油断なく武器を向ける。だが、外にいる拓哉の異変に気付いた空兎は、撤退を選択するしかなかった。
サドネス・レディに撤退の支援を頼んだ空兎は拓哉の体を抱きかかえると、安全圏への離脱へ向かった。
「イライラするので、叩き潰します」
自分たちの行為に誇りも何も持たないミュータントに我慢ならないというように、
響月 鈴華が呟いた。
そして、とうとう抑えが効かなくなったか、物陰から飛び出すと、
リリス・スクブスとともに真正面から挑みかかった。
だが、ミュータントの方でも鈴華とリリスの気配に気づいていたのか、突然立ちはだかられたにも関わらず平然と武器を構えてくる。それでも鈴華はそれを気にすることなく、剣の切っ先を向けながら走り込んでいく。
しかし、何の策もなしに挑みかかるには、ミュータントは手強すぎた。ひたすら正面から浴びせられる斬撃を、ミュータントは難なく躱して反撃の一手に繋げていく。鈴華もそれをギリギリで避けてはいるが、受け流せなかったダメージがみるみる蓄積していた。
そこにリリスが治療術での回復を施すが、回復しきれない傷がたちまち鈴華を蝕んでいった。そしてついに、リリスの支援を越えたダメージに屈してしまい、鈴華は剣を払い落される。それを庇うようにリリスが前に立ち塞がるが、共倒れになるのは時間の問題である。
だが、運は二人を見捨てなかったようだ。
「何をしとるか! ほれ、飛び乗れ!」
それは『Dr.バベル』と名乗るセイヴァー、
ゲルハルト・ライガーの声だった。
ゲルハルトはセカンドスピナーに重傷を負った鈴華を乗せてミュータントたちから離れると、すぐに引き返しリリスの元へ走る。再び近づくゲルハルトに、マシンガンから銃弾が浴びせられるが、ゲルハルトは片輪を持ち上げ逃れると、狙いを絞らせないように蛇行を繰り返しながらリリスの元までたどり着く。
その勢いも保ったまま竜巻のような蹴り上げをしてミュータントを散らせると、リリスを鈴華の元まで届けるのだった。
鈴華とリリスはその場を離脱しようと走り出すが、その背に向かってミュータントが銃を構える。それを素早く見とがめたゲルハルトは、
「ふはははははは! そうはさせんぞ!」
チェーンウィップをマシンガンに伸ばし、その狙いを妨害する。その甲斐あってか、鈴華とリリスは追い打ちされることなく逃げ切ることに成功し、逃げられた怒りや不満がゲルハルトに向けられる。
「ふははははははは! そんな、へなちょこ玉には当たらんのだよ!」
だが、ゲルハルトは挑発めいた言葉をぶつけながら、セカンドスピナーで器用に鉄骨を渡り、銃撃を掻い潜っていく。一方のミュータントたちも、地面に着地する瞬間を狙うように銃を向け、確実に仕留めようと斧を振り下ろすが、ゲルハルトは目前に砂礫の柱を生み出し防御する。
そうしてミュータントを翻弄している間に、ゲルハルトに加勢するセイヴァーが現れた。
鈴華とリリスに協力を呼びかけられたか、その場に駆け付けた『デイブレイク』・
他方 優は、両腕に装備したクローシールドを前面に突き出しながらミュータントに迫っていく。二つの盾を破壊しようと、ミュータントが斧を幾度も振りかざすが、優はそれをしっかり見極め回避に転じる。そして斧を空振りしたことで生じた隙をつくように、顔面を狙った打撃を叩きこみ転倒させた。
その直後に、マシンガンが優を狙い撃とうとするが、優は咄嗟の判断で廃材の向こう側に滑り込んでいく。ミュータントはなおもそこへマシンガンを撃ちつけるが、そこへゲルハルトのチェーンウィップが飛んで照準をずらした。その隙に優は盾にしていた廃材を持ち上げると、豪快に振り回していく。その勢いで武器を落とさせることが狙いだったが、ミュータントは銃身で受け止め押し返そうとする。
だが、それで足が止まっている間に、ゲルハルトも仕掛けていた。『バベルズ・エンタングルハンド』で地面から土でできた掌を生み出したゲルハルトは、その手にミュータントの足を掴ませ動きを封じる。
「それ、今じゃ!」
それに頷いた優は、
「ファイヤーァァァ……」
気合を込めながら掌に力を集中させ、火球を作り出す。
「ドォーンッ!」
そして叫びとともに火球をミュータントにぶつけると、勢いよく炎が走る。炎に巻かれたミュータントはその場に力尽き、周りにいたミュータントにも大きな痛手を負わせたようだ。
だが、ここで深追いするような無理は禁物だろうと、優は体勢を立て直すことにした。周囲に炎を走らせ牽制した優は、ゲルハルトのセカンドスピナーに同乗し、ともにその場を離れるのだった。
諏訪部 楓は半透明の糸を放出し瓦礫をよじ登ると、その影でミュータントの待ち伏せをしていた。周囲の騒ぎに紛れるようにして仕掛けようという狙いがあったが、ミュータントはそれを敏感に察知したか、やにわに武器を構えだした。
楓もそれに気づくと、場所を特定される前に糸を使って瓦礫や廃材を伝っていき、呼吸法で高まった素早さを利用してミュータントたちの背後に回り込んだ。
初めに狙うのは、マシンガンを構えたミュータント。試製レーザーソードを構えた楓は、その肩に狙いをつけて斬りかかった。楓の攻撃にミュータントは肩を抑えよろめくが、すぐさま反撃しようとする。楓は糸を飛ばして即座にその場から離れると、照準を合わせさせないよう、低所から高所に移動するなど立体的な動きを意識し避けていく。そして上空に飛び上がり、落下時のエネルギーも乗せた攻撃をぶつけてみせた。
楓が近づくのを見計らい、斧を持つミュータントが攻撃を加えようとするが、楓は追い打ちすることなく離脱すると、また立体的に動いてはミュータントを翻弄していく。楓はそうしながら放った糸で廃材や瓦礫などを徐々に引き寄せており、ミュータントたちは知らず知らずのうちに動ける範囲を狭めていた。
やがて、戦闘の音を聞きつけたか、
ローザリア・フォルクングが姿を見せる。
(眼竜イルダーナハの化身にして、煌く正義の深淵の使徒、神龍姫ドラグーンローズは見逃しません!)
然るべきタイミングまでは抑えようと、名乗りは心の中だけに留めておいたローザリアは、楓がマシンガンを持つミュータントを引き付けている内に、斧を持ったミュータントに肉薄する。斧という一撃が重い武器を使うことから、力任せの攻撃が来るだろうと考えていたローザリアだったが、戦闘が仕事という種族だけあってそのセンスは抜群だ。逆にローザリアの動きを見極めて攻め込むような動きをされ、その考えを改めるべきと悟らされる。
後方に退きつつ、廃材で身を守って攻撃をやり過ごしたローザリアは、クレイヴ・ソリッシュを構え直して再び接近する。今度はミュータントの耐久力を考慮し、同じ部位を続けて攻撃することで致命傷へつなげる戦法に切り替えて相対する。危険な攻撃には一時的に高めた身体能力からの回避を見せ、ミュータントが自身の姿を見失った時を狙って追撃に出た。
その時、楓から合図が出たような気がして、ローザリアはその場を急いで離れる。
ローザリアと入れ替わりでミュータントたちに向かって走り出した楓は、自身のいる地点と逆側に向け糸を飛ばすと、糸が縮まろうとする力を利用してか体に回転をかける。その勢いのままミュータントたちに飛び込んでいくと、強烈な蹴りで蹴散らしてみせた。
「セイヴァーに……なりきるんじゃない……私がセイヴァーになるんだ!」
強い思いも力となったか、その一撃に銃を持っていたミュータントが倒れた。これで残ったのは、斧を持つミュータントのみ。
「アイディアルウェポン! 原始の炉よ、その火を灯し柱となれ!!」
楓の蹴りを受けてもまだ立ち上がるミュータントに、紅蓮の炎柱から精製された剣が殺到し、次々と貫いていく。『アイディアルウェポンピラー』から現れた剣はミュータントに致命的な傷を与え、ついに倒し切ってみせた。
「我が多々良の炉より生み出せし、深淵の鋼は貴方を逃しません!」
勝利を高らかに宣言したローザリアは、ごく自然な流れで決めポーズまで取る。その表情は、この瞬間が何より至福なのだと語っているようでもあった。
その間に楓はいつの間にか場所を移動していたようで、一連の行動に満足したローゼリアもまた移動することにした。
十文字 宵一はミュータントの動きに周囲しながら、別の場所に待機する
リイム・クローバーと連絡を取っていた。本当ならミュータントが集まる前に、張り込みに適した場所や隠れられそうな場所の下見を済ませたかったが、そこまでする時間は残っていなかったため、宵一とリイムは、最低限自身が隠れられそうな場所を見つけ潜んでいた。
と、そこへミュータントたちが姿を現した。宵一は隙を伺い奇襲をかけようとしたが、その気配を察したか、ミュータントの動きが不自然に止まる。
このまま待つのは時間の無駄だと考えた宵一は、すぐに物陰から飛び出して姿をさらす。それにミュータントの目が引き付けられた隙に、リイムがマジカルマッチロックで射撃を始めた。
リイムの援護を受けながらミュータントに迫った宵一は、己を奮い立たせるように咆哮しながら饕餮の大鉈を振り下ろす。振り下ろされた大鉈は強力な一撃となってミュータントにぶつかり、ミュータントはたまらず後方に弾かれる。
そこを別のミュータントが代わりに銃撃しようとするが、宵一は眼前に砂礫の柱を作り出して妨害する。ミュータントは柱を回り込むようにして狙い撃ちしようとするが、リイムの援護がそれを阻み、宵一はその間に物陰へ逃げ込んだ。
「そんな下手な銃の腕じゃあ、お前達の出世は当分先だな」
宵一はそう言ってミュータントを挑発しようとしたが、ミュータントは狙いをリイムに切り替え撃ち始める。リイムはそれに気づくと、
フォーリンエンジェルレディが自身とミュータントの間に炎を走らせながらレーザーガンで応戦する間に、幻影の蝶の鱗粉で視界を塞ぎその場を離れた。
そうして場所を移すと、ミュータントに再び見つかる前に星芒形の魔力の塊を放ち切り刻もうとする。ミュータントはその攻撃に傷つくも、視力を取り戻すと同時に素早く射撃を浴びせかける。そこに宵一も応戦を図るが、素早い射撃の合間に斧を振り下ろされる連携に、防戦一方となってしまった。
宵一を助けるため、リイムは銃を撃つミュータントに向かって『ヒヤシンス・ショット』を行う。水の力を込めた弓矢を形成したリイムが矢を放つと、着弾と同時に大量の水を飛び散らせた。その様はヒヤシンスにも似た美しさを見せつけるが、射抜かれたミュータントを確かに倒していた。
これで連携が取れなくなったミュータントに、宵一も一気に攻め込んでいく。再び気合を込めた宵一は、その手に砂礫を元にした斧と槍を形成し組み合わせる。それこそ『窮奇の砂塵槍斧・二式』――槍の長さを得た斧を一閃すれば、斧の鋭い斬りつけと同時に砂礫が襲い、ミュータントを倒すのだった。
「俺こそが、『四凶降魔録』の英雄アルザだ!」
勝者の雄たけびのように、宵一は力強く叫んだ。
(……なるほど。わざと騒ぎを起こして、野次馬を呼び寄せて……集まってきた人達を捕まえている、ということか)
ミュータントたちが起こす行動の裏にあった理由を知り、
遠近 千羽矢は納得する。しかし、目的自体は不透明なままだ。そこが気にならないわけでもないが、今は暴動を防ぐことが先決だとし周辺の下見に入ろうとしたのだが、そこまでの時間はなかったようだ。
周囲に避難させるべき相手もいないようなので、一人なら入り込めそうなスペースに身を置くと、センサースコープで周辺の物音を拾ってミュータントとの距離を割り出していく。その行動が功を奏したか、千羽矢はミュータントたちに気づかれることなく先制を打つことができた。
身を隠した状態から敵影を視界に収めた千羽矢は、マジカルボウから魔力の矢を放つ。その音でミュータントは襲撃に気づいたようだが、追尾能力を得た矢は、ミュータントが避けても軌道を変えて狙ってくる。とうとう矢に射抜かれたミュータントはその場で腕を抑え、その近くにいた個体が狙撃位置を特定しようと周囲に目を走らせる。
それを予想していた千羽矢は既に場所を移そうとしていたが、折よく
赤城 熱士が駆けつけたことで、気づかれることなく移動できた。
「ダークヒート、野性で燃えるぜ!」
そう名乗りを上げる熱士へ銃弾が飛ぶが、
「『鐵の双壁・緋炎』――君たちの相手は、俺だ」
千羽矢は攻撃を仕掛けたミュータントへ射撃して、援護する。その隙にミュータントに近づいた熱士は、打撃技を次々叩き込んで体力を削ろうとしていく。そこへ別のミュータントから斧の斬撃が向かうが、千羽矢が遠距離からの攻撃で妨害していく。
ミュータントは矢を叩き落そうと斧を振り回していくが、千羽矢は定期的に場所を移し狙撃することで、狙撃を察知させづらくしていた。
その内にすっかりペースを乱されたミュータントは、目に見えて傷を増やしていた。今がチャンスと考えた千羽矢は、
「……絆の炎よ、高く燃え上がれ!」
高らかに叫ぶと矢を放つ。『≪緋ノ型・壱≫気炎万丈』によって赤い光を帯びた矢は、ミュータントを貫くと火柱を上げ、ミュータントは炎の中で力尽きた。
その余韻に浸るより先に、千羽矢は熱士の戦いに注意を向けると、そちらでも熱士がミュータントを追い詰めているところだった。だが、わずかとはいえ力量差があるためか、ミュータントも粘り強く応戦するためとどめを刺し切れていないようだ。千羽矢はそれを援護しようと、腕や足を狙って矢を飛ばしていく。
それで怯んだのを見た熱士は気合を入れると、熱い火を宿した拳をミュータントに振るった。熱士の必殺パンチを受けたことでミュータントはついに膝をつき、身体を支えることなく倒れ込んだ。
これで、この一帯に敵はいなくなったようだと、千羽矢と熱士はそれぞれ別の敵を探すように移動を始めた。
(ビルの解体現場なんてめぼしいものがなさそうな場所にミュータントがたくさんいる。これで何も企んでません、なんてさすがによほどの馬鹿でも思わねえだろ)
内心での指摘通り、お世辞にもにぎわってると言い難い工事現場を、『晴天快晴ファンキーモンキー』・
葵 司は見ていた。そして、こんな場所で良からぬ企みを行おうとしているミュータントを倒すため、司は一芝居打つことにした。
同行者として
ノーネーム・ノーフェイスもいるのだが、彼女はそれに加担する気はないのか、矢面に立とうとしている司を黙って見守る位置に待機している。
だが司もそれを特に気にした様子を見せず、ミュータントたちを見つけると竜巻のような回転蹴りを仕掛け、単独で派手な突撃をお見舞いした。
ミュータントは仲間意識が薄いと考えた司は、先ほどの攻撃に反応した相手から順に倒そうという狙いがあったのか、その反撃に過剰なほど痛がる様子を見せると栄光の小瓶を取り出し、
「爆破してやる!」
と叫んで放り投げる。それに驚くか逆上するかで、ますます自身を追いかけてくるだろうと、司はいつでも逃げ出せる用意をしながら身構えていたが、
ミュータントは司が考えるほどには脳筋な相手ではなかった。
全く動じた様子のないミュータントたちは、栄光の小瓶を平然とやり過ごすと一斉に司を取り囲み、攻撃を仕掛けてくる。冷たく光る銃口や、赤々とした熱を宿す斧の切っ先を向けられ、その身に受ける司は、本気で戦わなければ後がないと悟らされる。
咄嗟の判断で、髪の毛分身から放った使い魔に適当な個体を攻撃させると、自身も素早さに特化した攻撃で活路を開こうとする。だが、数の上でも優位に立っているミュータントたちは、逃げる隙など与えぬように攻め込んできた。斧のスイングを避ける体力もなければ、その先には銃口が待ち構えており、既に中等傷の域を超え、重傷になりつつあった。
瞬く間に追い詰められ窮地に立った司だったが、ようやく司の戦い方が演技でないと気づいたノーネームが、助けに入ろうと突っ込んできた。ニードルガンの針をミュータントたちを縫いとめるように飛ばしたノーネームは、自身と司の間にいる相手に向かって捕縛を試みる。ノーネームの技はミュータントを完全に捕らえるまでにはならなかったが、それでも司が包囲を抜け出すには十分な隙を生み出した。正面の敵に渾身の一撃を振るった司は、その勢いのまま走り出して包囲を突破する。
そうして司とノーネームは、後ろを振り返ることなく逃げ出すのだった。
『ラカーミル』と名乗るセイヴァー、
宵街 美夜は無粋なものや美しくないものを嫌う。その点から言うならば、暴動を起こした挙句に無理やり誘拐するなど、その極みと感じられるのだろう。
そんな輩にはさっさと退場してもらい、暴動を防ぐことでファンを増やし女性人気を集めたいというのが美夜の願いだった。
現場はビルの解体作業の真っただ中。となれば、ロープの類は簡単に手に入る。美夜は手ごろな長さのロープを拝借すると、ロープの1本を耐久力の低そうな廃材に括り付け、もう1本を栄光の小瓶と結び付けて仕込みを済ませた。
そうして自身を覆い隠せるような大きさの廃材の影に身を寄せると、周囲で戦闘が始まった音を耳にしたタイミングでロープを引いて栄光の小瓶の蓋を開けた。
数秒後、小瓶からは眩い光とともに花火レベルの轟音が響き渡った。それに釣られてミュータントが近づくだろうと美夜は予想していたのだが、そんな子供だましに反応するような敵ではなかった。
目論見を外し、却ってミュータントに迂闊に居場所を教える羽目になった美夜は急いでその場を離脱すると、既に戦いを始めていた
風間 瑛心に加勢する形で戦闘を始めた。
深紅に染め上げられた鎧を身に纏う瑛心は、閑散とした風景の中ではより目を引きやすいのか、ミュータントの格好の的になっていた。しかし瑛心は近づく敵を冷静に見やると、呼吸法に高まった脚力で瞬時に接近し、強烈な回転蹴りをぶつけていく。
まとめて攻撃を受けたミュータントも反撃に出ようとするが、その1体に目をつけた瑛心はまた素早く接近すると、ハルバードで手や足を狙って突きを繰り出す。
背中に悪魔の翼を生やし追いついた美夜も、ミュータントの真上から渾身の一打をぶつけ地面に叩きつける。転がったミュータントはすぐに立ち上がって銃を向けようとするが、美夜はビーストセスタスから魔獣の牙を展開して間合いを見誤らせ、一気に至近へ迫った。
「さぁ、さぁ、本当の闇が。怖い吸血鬼が舞台の幕を降ろすわよ」
手元に斧を形成した美夜は怪しく笑うと、渾身の力で振り下ろす。『ジャック・ケッチ・ハチェット』と名付けられた技は、ミュータントの首を斬り落とすまでにはならなかったが、その手ごたえはミュータントがもう戦える状態でないと知るには十分だった。
その頃、瑛心に繰り返して足を狙われ続けていたミュータントは、痛みを堪えながらもまだ武器を握りしめていた。しかし、振るわれる一撃に力はなく、それを躱した瑛心はさらに刺突を与えていく。
そして、とうとう武器を握る力もなくなったミュータントに、瑛心の渾身の一撃が決まった。
それを脳天に受けたミュータントは無言で地面に倒れ込んだが、瑛心の攻撃は柄の部分によるものっだたため、命までは奪わなかったようだ。
ヒトは不殺が信条、瑛心はこの戦いにおいてもそれを貫いていたようだった。
【アマゾナイト】
シャーロット・フルールを狙うように放たれた攻撃に、『エルスナイト』――
エル・スワンが割り込んで盾で弾く。
「無駄だ。貴殿らの力がこの盾を貫くことは……有り得ない」
シャーロットが事前に整備したおかげか、盾の強度は通常よりも向上しているらしく、それもまたエルの力の源となっているようだ。
仲間同士で争うだけでは足りず、市民まで襲い日常を壊そうとするミュータントを放ってなどおけない。エルは全身から気迫を漂わせると、なおも攻撃してきたミュータントに常人な身体能力で立ち向かうと、盾で押し出すように突き上げた。
エルが押し返したミュータントを引き受けたのは、『ワンダー・ライアー』・
水野 愛須。
出し惜しみなく放つ『盗賊の砂塵投剣』で投げナイフを形成すると、風と土が生み出す砂ぼこりでミュータントの視界を塞ぐようにしながら斬りつけていく。それにミュータントは力負けしたように弾かれるが、別のミュータントが攻撃に加わり愛須を狙ってくる。
しかし、それを『宵天』・
奏梅 詩杏が形成した槍で受け、エルも一緒になって防御をする。その後ろからシャーロットも投げナイフを放ってミュータントを縫いとめようとし、動きを封じられなかった敵には詩杏が闇の塊をぶつけ視界を遮った。
「よぞらちゃーん、にゃはは♪ アイドルたるものどんな時も人の目を忘れてはいけないのだ☆」
攻撃した時にスカートが大きく翻っていたことをシャーロットが笑い声をあげながら指摘すると、詩杏は軽く裾を抑えつつも余計なお世話と言うように軽く睨みつける。
そうしながら詩杏は、近くでつまらなそうに拳を振るっている
クロード・ガロンに声をかけた。
「クロードさんもしかして、複数相手取るのは出来ないんですか? 1対1しか無理とか言いませんよね? 出来ますよね?」
あからさまな挑発を聞きつけ、クロードの怒りに火がついたようだ。先の戦いで相手したような大物でなければやる気は出ないと考えてはいたが、ここまで来たからには仕事を果たそうというつもりはあった。そこに詩杏からそのような挑発をされたまま、黙っているのも癪だと思い、その体に流れる鬼の血を覚醒させる。
「力は力でねじ伏せるまでだ……ミュータントとか言ったか? テメェらも好きだろ、こういうの……!」
クロードが獰猛に笑いながら叫ぶと、全身がみるみる巨大化する。そして腕を覆ったビーストセスタスに力を注ぎ込、うと、目の前に立っているミュータントを全て粉砕するかの如く腕を振るった。この一振りでも敵を倒そうという意思を込めた攻撃だったが、その身に修めた技のほとんどがこの世界と縁遠いものだったからか、期待していたほどの威力には届かなかったようだ。
しかし、そもそもの力量に差があったため、ミュータントが力負けしているのは明らかだった。
クロードの大振りに巻き込まれたミュータントは、たまらず後方へと弾き飛ばされる。その先がちょうど人気の少ない場所だったため、愛須もそこへ続けようと高速の回転蹴りを放ってミュータントを追い込んでいく。それを見た詩杏も、視界を塞いでいたミュータントの足を狙って魔剣で斬りつけると、竜巻のような蹴り上げで同じ個所へと飛ばしてみせた。
クロード、愛須、詩杏の攻撃で一箇所に纏められたミュータントの前に、エルに守られながら追いついたシャーロットも立ちはだかる。そこにミュータントが斧を振りかざして迫ってくるが、エルがそれを押しのけるように払うと力を溜めた一撃で返り討ちにした。
「言ったはずだ。貴殿らの拳がこの盾を貫くことは、あり得ないと」
エルが気迫を込めながらそう言うと、愛須も魔剣を振るって周囲を威圧する。ミュータントはそれでも武器を構え対抗していくが、囲まれている状況からは容易に抜け出せないようだ。
「てなわけで、ようこそ太陽神の祭壇に♪ 太陽の名に恥じないボクの必殺の炎を魅せたげる」
そこにシャーロットが元気よく声をかけると、周りの仲間が離れた場所に待機するのを見届けると同時に『サンシャイン☆フレアストーム♪』を発動した。
「自由を求める声あらば、勇気の心を燃やし巻き起これ」
地面を炎が走るとともに風柱が巻き起こると、炎が竜巻のように周囲を焼き尽くそうとする。勢いよく燃え盛る炎はミュータントを次々と飲み込んでいき、嵐の後には焼け焦げたミュータントたちが転がっていた。
その中にあって辛うじて致命傷を逃れた者もいたようだが、もはや脅威ではない。魔剣を構えた愛須が足元を狙うように斬撃を繰り返し機動力を削ぎ落すと、その動きに対応されそうになった瞬間に顔面の方に狙いを変え、不意を突く形で『盗賊の砂塵投剣』を放って昏倒させる。
クロードも巨体から薙ぎ払いような動きで腕を振るうと、斧を振りかざしていたミュータントはあっさり弾き飛ばされてしまった。
と、そこに若干の撃ち漏らしがあったか、クロードの背後をつくようにミュータントが回り込もうとする。それを目ざとく見つけたエルが、その間に割り込んで防ぐのを見ると、クロードもそれに気づいてもう一度拳を叩きつけた。
そうして互いに連携を取り合い残党を倒していく中、シャーロットも投げナイフでミュータントの体を縫いとめれば、すかさず詩杏が蹴り込んでいく。
その際に、、またスカートが大胆に翻ったのを見かけたシャーロットは、再びそれを指摘してみせる。
「……スカートの中とか余計なお世話です。一応気にしてますけれど、気にしすぎても仕方ありませんよ。というか、見たい人なんているわけないでしょう」
気心知れた者同士の応酬ができたことに満足したシャーロットは、今度こそ真剣な表情を覗かせてミュータントにナイフを放った。
こうしてミュータントをまとめて退けた【アマゾナイト】は、グループのリーダー役を務めている詩杏の指示の下、次の敵を探しに出た。